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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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アーシャとともに、シルヴィス王国から港町ザッカーハーフェンに戻ってきたレイジたち。

「銀の天秤」が「薬理の賢者」に会いに行ったまま帰ってきていないと聞いて、ノンがいる教会へ。

教会では色気お化けことノンの「師匠」がいた。

 ノンさんの師匠である色気お化け——もとい、リビエラさんは正真正銘ノンさんの師匠であり、正真正銘教会組織の偉い人で、


「びっくりしたぁ? 私が教会の人間だって言うと驚く人多いんだけどぉ、神様は別にエッチなこと禁止してないじゃない〜」


 正真正銘色気お化けだった。

 場所を移して教会内の事務室。僕とノンさんとアーシャ、それにリビエラさんは4人でテーブルを前に座っていて、リビエラさんが僕の横に座ろうとしたのをノンさんが阻止して対角に置いてくれた。心臓に悪いので離していただけるとほんとうにありがたいです。


「…………」


 アーシャは僕の横で、警戒心たっぷりといった感じの目をリビエラさんに向けているけど間違ってもリビエラさんのようには育たないと思います。反面教師も大事。


「ノンさん、ダンテスさんのことですが——」

「レイジくん、ハイエルフのお姫様がここにいるということは——」

「あの、私の持ってきた薬がありまして——」

「この部屋殺風景よねぇ。お花くらい飾りましょうよぉ」


 一斉に口を開いて情報が交通渋滞を起こした。ひとり、しゃべらなくてもいいことを言っている人もいるけれど。


「ええと……じゃあ、とりあえず僕から」


 僕はこれまでの顛末を話すことにした。アーシャを連れ戻せたこと。彼女がエルフの秘薬を持ってきたので治療に活かせないかということ。それに、ラルクを治療してくれたお礼を。


「ラルクの様子、少し回復しているようでした。ほんとうにありがとうございます」

「…………」

「……ノンさん?」


 お礼を言うと、ノンさんの表情が曇る。


「——全ッ然、うまくいってないのよぉ」


 それまでほわわんと室内を見回していたリビエラさんが不機嫌そうに頬杖をつきながら言った。


「そ、そうなんですか?」

「私と、不肖のこの弟子が最大級の魔力をぶち込んでるのよぉ? 死ぬ間際のおじいちゃんだって勃起するってのに、ラルクって子はぴくりともしない」


 勃起とか言わないでください。ノンさんの顔が真っ赤になって、アーシャはきょとんとしてるじゃないですか。

 ツッコミを入れたらやぶ蛇くさいから言わないでおくけども。


「逆に聞くけどぉ、プロの私たちがようやくわかるレベルの『回復』具合をどうしてあなたがわかるのぉ?『レッドゲート戦役』の『英雄』さん?」

「…………」


 これは……難しい質問だった。

 うっすら微笑んではいるけれど、この人は僕を信用していない。もちろん、会ったばかりだから当然なのだろうけれど、信用どころか最初から疑っているような感じすらあった。

 僕のことはなにかしら聞いているんだと思う。この街の町長さんだって知っていたし。

 でもどうして僕を疑うのか——。


「ちょ、ちょっと師匠。どうしたんですか? いつもは男の子と見るとヨダレを垂らして頭をなでようとするのに」

「ノンは黙ってなさい。ほんと黙って」

「——ラルクは僕の姉ですよ? 顔色を見ればどうなったかくらいわかります」


 ここで【森羅万象】の話なんてするわけもなく、僕は当たり障りのないところで答えた。


「ふうん……そ。それなら別にいいけど」

「師匠……」


 なんとなく納得したのか、そうではないのか。


「だけどねぇ、あの子の状態は異常よ。私だって今まで見たことがない——傷を負ったのでもなく、病気に罹ったわけでもなく、ただ衰えている。老人みたいにね。このまま放っておいたらあの子、蛇の抜け殻みたいになったと思うわ」

「…………」

「このタイミングで私を呼んだのは英断ね」


 やっぱり、かなり危ないところまで行っていたんだ。


「そう、だったんですね……ノンさん、リビエラさんを呼んでくださってありがとうございます」

「い、いいんです。私にできることなんてあまりありませんし」


 ノンさんがあわてて首を横に振るが、リビエラさんは、


「そお? ノンは、パパの石化だって治したんでしょぉ? 私だって病状が進んだら治せるかどうかわからないってのに……あなたは相当『できる』子よ」

「!」

「まあ、どうやって治したのか、なかなか教えてくれないんだけどねぇ……『英雄』さんはなにか知ってるぅ?」


 ノンさんが冷や汗を噴き出して青い顔をしている。

 あ〜、そう言えばノンさんはダンテスさんの石化毒を治すために光天騎士王国に向かってたんだったな……。


「……ノンさんは僕をかばってくれているんです」

「へぇ? どういうことぉ?」

「石化毒を治したのは、一般的には使うことが許されない材料を利用したからです。これがバレると僕が裁かれますから」

「なにを使ったのぉ?」


 僕はにっこり笑って首を横に振った。言わない、という意思表示だ。


「……あらぁ? 私が教会の人間だから訴え出るとでも思っているのかしら? 言わないわよ。ただの好奇心、こ・う・き・し・ん」


 最後にハートでもつきそうな声で言われたけど、僕だって言う気はない。


「……むう。これでなびかない男はいないんだけどなぁ〜。それじゃあ、しょうがない。今の私は教会の人間じゃなくただのイイ女。それを証明すればいいわけねぇ?」


 おもむろに帽子を放り捨て、修道服をがばりと脱ぎ出そうとしたリビエラさんを、


「師匠!? ダメダメダメですから!!」


 ノンさんがすごい勢いで止めに入った。


「見ちゃダメです、レイジさん!」


 アーシャも僕の目を手で覆ってきたけれど——思いっきり裾をまくり上げたので、むっちりした太ももの上にある、下着がちらりと見えてしまった。


「大丈夫ですか、レイジくん。師匠のお見苦しいものをお見せしました……!」

「なによぉ、見せられて喜ばない男はいな——」

「露出狂ですか?」

「ひどくなぁい!?」


 ひどくないです。ラルクを助けてもらってるから強くは言えないけど、それがなければマトモに相手しませんよ。

 師匠を落ち着かせたノンさんが着座したところで、


「ノンさん、それでラルクは、このまま治療を続けても難しいということでしょうか?」

「はい……。現状をなんとか食い止めているだけです。それで——エルフの秘薬というのは」

「こちらです」


 アーシャが言って、テーブルにビンを置いた。

 ノンさんが手に取るよりも先にリビエラさんがビンのフタを開けて中身を確認する。


「……すごいわね。これがエルフの秘薬……」

「師匠、知ってるんですか」

「一度だけ過去に見たことがあってねぇ。私の師匠の師匠が『教皇聖下になにかあったときに使う』と言って保存していたのよぉ。使っちゃったけど」

「どんな効果があるんですか」

「わからないわぁ」

「……わからない?」

「病気でも傷でも何でも治すらしいけどねぇ、そんなの、この世界にあるのっていうね。ただ、エルフがとてもとても大切にしている生命樹の葉を利用しているから、なかなか出回らないのよぉ。よく手に入れられたわね?」


 アーシャは小さく微笑んだ。きっとユーリーさんのことを思い出しているのだろう。


「とにかく、これは使ってみましょぉ。いいんでしょ? 教会に差し出せば死ぬまで使い切れないくらいのお金をくれるとは思うけど」


 げっ、高価だろうとは思っていたけど、それほどだったのか。


「もちろんです」


 だけどアーシャは即答だった。


「ふぅ〜ん、いいわねぇ。恋する女の子は強いのねぇ、ノン?」

「? そうですね、師匠」

「……はぁ、うちの弟子は色恋沙汰に淡泊すぎるのよねぇ」

「師匠が奔放すぎるせいですね」


 それを言われるとなにも言えないのか、梅干しでも口に突っ込まれたかのようにリビエラさんは黙ってしまった。


「それで——ノンさん。ダンテスさんは……」

「はい。実は、どうして戻ってこないのか私にもわからなくて」


 さっき礼拝堂で再会したときよりもずっと落ち着いた感じでノンさんは話してくれた。リビエラさん、もしかしてノンさんを落ち着かせるためにふざけたことを言ったりやったりしたのかなぁ……。

 ノンさんが語ったところによると、僕の持っている情報とほぼ同じだった。捜索船を派遣するべきかという議論が出たのは、ダンテスさんたちを捜すのではなく、ダンテスさんたちを乗せていった船に町長のお兄さんも乗っていて、彼もまだ戻っていないからのようだ。


「——わかりました。それじゃ、今から僕は町長さんのところに行ってきます。船を出してもらって確認してきます」

「私も——」

「ノンさん。できればノンさんにはラルクをお願いしたいのですがいいでしょうか……?」

「……わかりました」


 ほんとうは誰よりも行きたいだろうに、ノンさんはうなずいてくれた。


「ま、しょうがないわよねぇ。ノンが行っても足手まといになるだけだしぃ」

「そ、そんなこと私が誰よりもわかってます」


 目尻に涙を浮かべてにらむノンさんに、リビエラさんは笑った——それは姉が妹に向けるような親密な笑顔だった。


「——そうだとわかっていても行きたいんならさぁ、お願いしますって言えばいいのよ。患者さんは私が診てればいいんだしぃ」

「!!」


 ハッ、として固まったノンさんは、リビエラさんの言葉の真意に気づいたのだろう。

 ここは私に任せて行ってきなさい、っていう。


「……いいんですか、師匠」

「いいのよぉ。こういうときに頼るのが弟子の仕事よ」


 立ち上がったノンさんは深々とリビエラさんに頭を下げた。

 それから僕へと顔を向けた。

 その表情を見れば次に出てくる言葉がなにかくらいわかるし、この流れで僕が断ることなんてできはしない。

 だけどまあ、少し心配なのは、ノンさんというストッパーがいないリビエラさんにラルクを任せて大丈夫なのかなぁということで。この人、女の子には手を出したりしないよね……?



     ☆



 ノンさんは出かける準備をするというのであとから合流することになり、僕とアーシャのふたりは町長邸に向かった。


「レイジさん……あの、こんなことを聞く女は嫌がられるかもしれないのですが……」

「な、なんですか。ていうかなに聞かれてもアーシャを嫌いになったりしないですよ」


 怖い前置き来た。


「先ほど、なにをリビエラさんと話していらっしゃったのですか?」

「あぁ……」


 僕は教会を出るときに、リビエラさんに呼び止められたのだ。ノンさんも部屋に戻っていて、アーシャにも声が聞こえないところだったのでふたりきりの会話だった。


 ——思っていたような危険人物じゃなくて安心したよぉ。お姉ちゃんのことは任せてね。


 ということだった。

 それを聞いて僕が気がついたのは、リビエラさんからすれば、僕は、弟子のすぐそばにいる異常な存在に見えていたのではないかと。

 高位の聖職者でも治せなかった石化を治し、さらには「レッドゲート戦役」で戦果を上げるほどの戦闘能力もある。しかも年齢は14歳……。

 客観的に見たら気持ち悪いよな。


「……リビエラさん、ノンさんのことを心配していたんです。だから気をつけてあげてくれって」


 教会内部でも結構高い地位にいるらしいリビエラさんは、素行はともかく、【回復魔法】の腕は超一流なのだとか。そんな彼女が光天騎士王国内でも外れにある港町ザッカーハーフェンにまで来てくれたのは弟子であるノンさんを心配してのこと。

 ノンさんに対しては、素直にそうは言ってないっぽいけどね。


「……弟子思いのいい方、なんでしょうか?」

「そういうことにしときましょう」


 僕らが町長邸に着くと、僕の帰還がすでに知らされていたらしく、町長はすぐに会ってくれた。そして町長のお兄さんを捜しに行く船をすぐに出してくれると約束してくれた。


「兄はズルいのです! 私を差し置いて、すばらしい冒険者とともに冒険を経験しているなどッ……!」


 どうやら、兄が心配というより、それにかこつけて町長自身も船に乗りたいだけらしい。

 それは止めてください、勘弁してください、これ以上面倒ごとを増やさないでください——と騎士たちに説得されるものの、ヤダヤダ絶対行くと駄々をこね続ける町長。

 見かねた警備隊長の騎士さんが、


「レイジ殿、港に行きましょう……」

「い、いいんですか」

「許可は出たので、ここにいても時間の無駄です」

「…………」


 町長のワガママは「無駄」扱いされてしまった。かわいそうに……と思いつつも、僕も少しだけ「早く終わらないかな」と思ってた。


「ノンさん!」


 港で先に待っていたノンさんは、背中にリュックを背負っていた。冒険に必要な道具をいつも入れているリュックだ。

 僕らが使っていい船は、海坊主との戦いでも使った軍船だ。

 船の速度も十分。戦闘に耐えうるほどに頑丈。


「行きましょう」


 僕らは船に乗り込んだ。

 さあ、ダンテスさん、ミミノさん、ゼリィさん——待っててください。迎えに行きますから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミミノさん… ここはぜリィさんが抜けているのが良いオチだった
[気になる点] ミミノさんが最後のとこにいなかったな… ママン…(´;ω;`) [一言] 書籍の絵がまじでふつくしい
[気になる点] 港で先に待っていたノンさん … さあ、ダンテスさん、ノンさん、ゼリィさん——待っててください。迎えに行きますから。 ミミノさんはいずこ
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