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「——ヨーゼフだ」
「——ヨーゼフって『消えぬ光剣』のか!?」
「——知らないのかよ、ここの訓練官だぞ」
「——ヨーゼフと話してるあのデカイのは何者だ?」
ギルド内がざわついている。それくらいヨーゼフさんの名前は知られているようだ。そのヨーゼフさんは僕に近づくと頭をくしゃっとなでてくれた——「お前の作ったっていう酔い覚ましもらったぜ? レイコンっていったか。ありゃ効いたわ」——ってウコンモドキ汁飲んだんですか!?
「おいサブマス。この坊主の話を聞く限り、鉱山に出現したのは竜で確定だろう。領都の防衛は陸上モンスターには強いが、飛行モンスターにゃ弱い。ましてや相手は竜だ。住民を避難させるのが先だ。早く冒険者たちに指示を出せ」
「……城壁で防衛ラインを築いて撃退すればいいのではありませんか?」
「バカ言え。竜なんてのは最低サイズでもこのギルドの建物並にデカイんだぞ。弓を撃ち込んだところで弾かれるだけだ。——ここにいるヤツの中で、星4つ以上の天賦持ちはいねえか?」
すると3人ほど手が挙がった。しかし1点に特化した星4つではなく、複数の魔法や術が使えるものだった。ひとりは【四元魔法】で、鉱山で食堂のおばちゃんが使ったヤツだ……おばちゃんは今も逃げているんだろうか。
【四元魔法】は火・土・風・水の4種の魔法を使えるようになる天賦のことで、それぞれの威力は星2つの【火魔法★★】と変わらないらしい。
「というわけだ。サブマス、冒険者に防衛戦術を期待するな。むしろ俺たちは領民の避難誘導に当たったほうがいい。こういうときに悪知恵を働かせる火事場泥棒が絶対に出るからな。防衛については本職の領兵に頼むべきだろう」
「……領兵は当てになりません」
「なんでだ?」
「六天鉱山奪還に向けてすでに本隊が動いています。今、領都に残っているのは最低限の警備兵しかいませんよ」
「おいおい……そいつぁ」
さすがにこれはヨーゼフさんも予想していなかったらしい。ぽりぽりと後頭部をかきながら天井を見上げる。
「……まいったな。俺たちが気張って戦うしか、ねえみてえだな」
すると冒険者たちから「無理だ」やら「竜なんて見たこともないぞ」やらの声が上がる。
戦力が、もはや冒険者にしか期待できないのであればここにいる人間で命を懸けなければならないということだ。
ランクの低い冒険者の腰が引けるのは当然のことだろう。
「まあ、待て、待て」
とそこへ、いちばん上等そうな赤い金属鎧を着た男が両手でジェスチャーしながら立ち上がった。
「アンタ、かつて純金級だった『消えぬ光剣』ヨーゼフだな? ここで訓練官をやってるとは知らなかった」
「お前は?」
「俺はパーティー『永久の一番星』のリーダーをやっているオスカーだ。ま、巷じゃ俺のことを『赤の彗星』なんて呼ぶヤツもいるがな? 俺たちは全員、先月灰銀級に上がった」
オスカー、と名乗った男は白い歯を見せてうさんくさく笑う。髪の色は鎧と同じ赤で、やけに日に焼けていた。そして懐からギルド証をチラッ、チラッ、と見せる。「灰銀級」というだけあってそのプレートは銀色である。【森羅万象】によると「銀製」らしい。
それにしても「永久の一番星」って。小学生並のネーミングセンスじゃない?
そんな彼でも仲間たちとともに全員灰銀級……なんだからすごいよな。パーティーメンバーは6人ほどいて、その中に【四元魔法】の人も含まれていた。ネーミングセンスと実力は関係ないのだ。
「——『赤の彗星』ってなんだ?」
「——知らん。オスカーが名乗ってる」
「——星なんか小さいのに、太陽じゃダメなのか?」
冒険者たちがこそこそツッコんでいるが、オスカーはそれが聞こえているらしく頬がひくひくしている。これは「定着してないのに勝手に二つ名を自分でつけちゃった」感じか。ひたすらに痛い。
「実力ある、現役の冒険者パーティーがいるのならば心強い」
だけれどダンテスさんは純粋に感謝の念を表していた。ダンテスさんを見ると、僕の心はなんて曇り、腐ってしまったんだろうと思っちゃうよね……。ライキラさん、あなたも反省して。「永久の一番星」って聞いた瞬間「ぶふっ」て笑ってたでしょ?
「そういうアンタは? ヨーゼフと親しいみたいだけど」
「……俺は、身体が満足に動かんからな。頭数に入れないでくれ」
「なにを言ってる!『硬銀の大盾』がいてくれれば鬼に金棒だぞ。昨日の訓練場での動きも見たが、お前はまだまだ第一線で戦える」
ヨーゼフさんがダンテスさんを持ち上げるが、オスカーは二つ名がついているダンテスさんが気にくわないようで露骨に顔をしかめる。
「まあ、いいさ。身体が動かないのは事実なんだろ? それじゃあ、どこに来るかもわからない竜とどう戦うってんだ。アンタは戦力外だ」
オスカーの質問はもっともだった。領都は広い。冒険者が散ってしまうと戦力が薄くなってしまう。
「それが難点だな……。坊主の言葉を信じるなら、竜は空から攻撃もできるわけだ」
「だろう? 俺が言いたいのはな、命を捨てるなんてのは簡単に言えるが、無駄死にするのはまっぴらゴメンだということだ」
オスカーの言葉に冒険者たちは「そうだそうだ」と同調する。
だけど僕は——ヨーゼフさんの言葉にふと違和感を覚えた。そうだ。僕はなにかを見落としているんじゃ……?
「サブマス。ギルドマスターはなんて言ってる? どうしてここにいない?」
「それが朝から新公爵閣下からのお呼び出しがありまして……」
「新公爵って、なあ。まだ公爵閣下の亡骸さえ回収できていないんだろうが」
「順序はともかく、お呼び出しがあればうかがわねばなりません。すでにこの通信内容については新公爵閣下へと連絡してあります」
僕が見た竜は、夜だった。あまりに遠くて姿はシルエットしかわからなかった……。きっと竜もまた僕なんて見えなかっただろう。
今から思い返すと、鉱山で感じていた謎の地響きは竜の仕業だったのかもしれない。
「……そうだ」
竜が放った攻撃は鉱山の周辺に落ちているようだった。少なくとも、僕がその後見かけた街では竜の攻撃の爪痕なんてものはなかったわけだ。森にも落ちてはいない。
それなのに——どうして竜は領都を目指すんだ?
「……ダンテスさん、おかしいですよ」
「どうした、レイジ?」
「竜は領都方面に飛んだ、ってことですけど、その連絡が正しいとしても竜はどうやって領都の方角を——人間にとって攻撃を受けたらもっとも被害が出る場所を、領都だと考えて、領都の場所を把握し、こちらへと向かってくるんですか?」
「……む。どういう意味だ?」
「簡単に言えば、竜は『どうやって』領都の場所を見つけ出したんでしょうか? 少なくとも過去に竜が、この辺りで発見されたなんて記録もないわけでしょう? 鉱山の地下に眠っていた竜が空へ飛びだして、いきなり領都を発見することはできないんじゃないですか?」
「…………」
ダンテスさんは考え込む。
鉱山からここ、領都まではかなりの距離がある。魔導通信というのがどういうのかはわからないけれど、仮にそれがメールやモールス信号的なものだとして、鉱山から連絡したのなら——連絡してきた人は「竜が領都に向かった」と信じるなにかがあったんだ。
つまり、竜には知性があると考えたほうがいい。
「レイジ。つまりお前が言いたいのは……竜にはなんらかの感覚器があって、人間が密集している場所を探し出す能力を持っているということだな?」
「はい」
僕はうなずいた。
「おそらく、ですけど、竜はここにいる領民が鉱山にゆかりのある人間たちだからこそ見つけられるんだと思います」
「ゆかり?」
「領都にいる人たちは、鉱山のものを身につけているじゃないですか」
あっ、とダンテスさんだけじゃなく、冒険者たちも声を上げた。
「竜は、鉱山から出土した天賦珠玉を感知する能力があるんじゃないですか?」
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