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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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更新に関するお知らせが後書きに書いてあります。

 ザッカーハーフェンの騎士たちと合流すると、彼らもあの魔導飛行船がエルフのものだとわかっていたようで、僕らを運んできたのだと知ると納得してくれた。


「できれば事前に連絡が欲しかったですが……」


 困り切った顔で言われてしまうと、ほんとすんません、という言葉しか出てこないけど。

 連絡したかったんですけど……こっちも大急ぎだったので……。

 僕とアーシャは騎士たちとともに町へと入った。

 朝早くだというのに港のほうはかなりの賑わいがあり、「『海坊主』がいなくなったもので、みんな喜んで漁に出てますよ」と言われるとやっぱりうれしい。

 ラルクがいるはずの宿の前で騎士たちと別れた。町長もきっと会いたいだろうからあとで来て欲しいと言われたけれど、そこはまあ「時間ができたら必ず」とふんわりかわしておいた。いやね、どうしても拒否ってわけじゃないんだけど、あんまりこう「英雄!」みたいに見られると居心地が悪いんですよ……。

 僕とアーシャが入口から入ると——ちょうど宿の人たちが朝食の支度をしていたところだった。


「あ……ちょっと、クックさん! クックさーん! 帰ってきたよ! 男の子と、信じられない美少女!」


 女性の従業員が大声で2階に上がっていく——いや、その見分け方よ。「信じられない美少女」はわかるけど、僕はだいぶざっくり「男の子」ときましたか。

 すると2階からどたどたと音が聞こえ、「うわあっ」という声のあとにドシンッと響いた。「なにやってんのよ、もう!」「す、すまねえ」なんてやりとりがあって、腰をさすりながら女性に付き添われて降りてきたのはクックさんだった。


「だ、大丈夫ですか」

「面目ねえ。俺がケガ人になっちまうところだった」

「ケガするのはいいけど、建物に傷でもつけたら承知しないよ」


 ぷりぷりしながら宿の女性は去って行った。


「おー、怖い怖い」

「クックさん。それでラルクは」

「おう、そうだな。お嬢は今は寝てるよ。つうか、ここんとこほとんどずっと寝てる」

「容態は安定しているってことですか?」

「そういうことだ。お嬢も、ちゃんと身体を治そうとしてくれてよ……ノンさんと師匠さんが毎日来てくれてる。手が掛からなくていいが、だいぶ聞き分けがよくなっちまってそれはそれで悲しいような——」

「……ちょっと、待ってください。ダンテスさんとミミノさんは? あ、あとゼリィさんも。『薬理の賢者』様に会いに行きましたよね?」


 シルヴィス王国から戻ってくるのはあっという間だったけれど、それでも行きは、船に乗って馬車に乗ってと日にちが掛かってる。「薬理の賢者」様がいるという沖の群島は、さすがに見える範囲にはないとは言っても、往復で数日あれば事足りるはずだ。

 クックさんは、眉間にシワを寄せた。


「実は、まだ帰ってきてねえんだ。港のほうじゃ、捜索隊を出すかって話になってる」




 ベッドで眠っているラルクの顔は安らかだった。心なしか血色もよくなったように感じられる——【森羅万象】で見ても、前回より生命力が回復しているらしい。ノンさんの【回復魔法】は上手くいってるんだ。師匠さんの魔法でも難しいと言っていたのに。


「……ラルク」


 この部屋で、「返せ」と言われた天賦珠玉。僕がラルクから【影王魔剣術】を勝手に抜いたことをラルクは怒っていた。

 あのとき以来だ、ラルクの顔を見るのは。


(僕だって【森羅万象】を勝手に取り上げられたら怒るだろう。しかもそれが、理解のできない理不尽な強さを持った相手によるものだったら……)


 そこまで考えが至らなかったのは事実だ。

 だから、ラルクの治療のめどがついたらちゃんと話し合わなきゃ。

 僕らは——たったふたりの姉弟なんだから。


「……行きましょう、アーシャ」

「いいのですか? 起きるのを待たなくて」

「はい」


 僕はクックさんに、引き続きラルクをお願いした。クックさんや仲間たちはラルクが治るまでそばにいてやると言ってくれた。


(天賦がなくてもラルクにはすばらしい仲間がいる。僕もできることをしなくちゃ)


 僕とアーシャが次に向かったのは教会だった。ダンテスさんたちのことも気がかりだったけど、情報を集めるにはまずノンさんに聞いたほうがいいだろうと思ったのだ。

 ザッカーハーフェンの教会はこざっぱりとした清潔な白い壁の建物で、朝だというのに多くの人たちが訪れ、祈りを捧げては出ていった。光天騎士王国は教会との結びつきが深く、敬虔な国民も多いのだろう。


「——おお、なんとためになる……」

「——他にはどのようなお話があるのでしょうか」

「——我ら迷える若輩に教えを……」


 礼拝堂に入って、気がついた。隅のほうにテーブルが出ていると思うと、朝から葡萄酒の入った瓶が置かれ、銅製のゴブレットでそれを飲む女性がいる。そして5人ほどの男たちが——年齢も見た目もバラバラの男たちが女性に群がって、葡萄酒を注いだり、床に膝をついてなにかを懇願したりしている。


「あぁら? もうたっぷりお話はしたと思うけど?」


 その女性は——確かに、修道服を着ていた。ノンさんが着ているそれとほとんど同じ——刺繍に紫色の飾りが入っている以外は同じ——だというのに、まったくそうとは見えなかった。

 裾がはだけてムッチリとした太ももが見えている。ゴブレットを持つ右手の指はなまめかしく動き、左腕で支えているはずの胸はこぼれ落ちそうだ。

 ストロベリーブロンドの長い髪はきらきらしていて右目を隠している。アメシストのような紫色の左目の下には泣きぼくろがあり——修道女らしからぬ化粧を施した顔の中でも色気を放っていた。

 色気、そう、色気だ。色気の塊。色気お化けなのである。


「——そこをなんとか。もう少し」

「——先っちょだけでも」

「——この時間のために生きておるのです」


 男たちは彼女のご機嫌を取るのに忙しいらしい。


「ふわぁ……」


 アーシャから思わず変な声と火の粉が噴き出すほどには色気である。


「見てはいけません」

「あう」


 僕はアーシャの顔をつかんで正面を向けた。なんだか見てはいけないものを見てしまった気分だし、僕らには関係のないことなので無視するに限る。

 不思議なことに他の来訪者は、異様な空間となっているそのスペースには気づかないようで——思い思いのイスに座って祈りを捧げている。


(あの人たちはザッカーハーフェンの日常の1ページなんだろうか……怖)


 僕は礼拝堂のいちばん奥、神像が5体直立している下にある講壇へと向かった。そこに立って講釈を垂れているような者はいなかったけれど、その脇で掃除をしている人物が誰なのかは分かっていた。


「?」


 その人は僕らの足音に気づいて顔を上げた。


「——レイジくん」

「ただいま戻りました。ノンさん」


 ホウキを手から取り落とし、走り出したノンさんは、


「ちょ、え? ノンさん、どうしました?」


 僕にがばりと抱きついたのだった。

 突然のことにどうしていいかわからなくなる。彼女の柔らかな身体と温かな体温が伝わってくる。


「よく無事で帰ってきて……くれましたね……。お父さんたちが、戻らなくて——私、レイジくんまで帰って来なかったらどうしようかって……」

「ノンさん……」


 そうか。そうだよな。いくらダンテスさんが異常なまでに強くても、海に出て消息不明になったら心配するに決まってる。

 僕はノンさんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫です。僕が捜しにいきますから」


 やるべきことはやっぱり捜索だ。船を借りて海に出る。こうなることがわかっていたら無理を言ってマトヴェイさんに魔導飛行船を出してもらえばよかったかもしれない——とは思うものの、燃料がないと難しいか。


「だからまずは、わかっている情報を教えてください……ね?」

「はい……はい、わかりまし——」


 と言いかけたノンさんが僕の後方を見て固まった。


「へぇ〜……それがノンの言ってたレイジって子ぉ?」


 色気お化けがそこには立っていた。


「はい、師匠」


 そしてノンさんが答える——師匠、って、え? この人が?

師匠だって知ってた(知ってた)。


というわけで前書きにありますとおり、更新頻度については毎日から週1回、日曜更新にしたいと思っております。

そのぶん文字数は増やして読み応えを上げ、前書きに前話のあらすじを少しいれる形です。


理由はいろいろありまして、

(1)5章、というか物語の終着点がそろそろ見えてきたので、もう少し構成を練りながら進めないと破綻する(長かった5章……)

(2)他の原稿や書籍関連作業が渋滞している(ようやくルルブレ8巻の初稿が終わりそう)

(3)年末でいろいろ忙しい(コロナのせいで例年よりはマシですね)

(4)新作も書きたい(書きたい)

と言ったところでしょうか。


(1)の理由が大きいですね。日々、本作の更新にすさまじいエネルギーと時間を消費していて、設定がガバるところも多く、個人的にその辺は大きなストレスになっていました。

いい形で物語を終わらせたいなと。もうすぐ100万字ですし。

毎日18時の更新を待っていただいている皆様には感謝の言葉しかありません。ほんとにありがとうございます。

終着点までお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一話あたりの字数は今くらいがちょうど良いと感じるので、2話ごと投稿だとまずいですかね?
[一言] アーシャが可愛い(迫真)
[一言] えっ、まだ中盤くらいかと思ってた >終着点
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