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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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本日も朝夕の2回更新です。

 ギルドに入ると——昨日よりも多くの冒険者がいた。しかし彼らはライキラさんに嫌悪の視線を向けることもなく、仲間内での話に夢中になっていた。


 ——俺も見たぞ、マジでかかった。

 ——だいぶ朝早くだったんだろ?

 ——一度乗ってみてえよなあ。


 僕はカウンターへ向かい、女性の職員さんに訓練場を見学していいかとたずねた。すると、


「それは構いませんが、今日は誰も使ってませんね」

「そうなんですか?」

「はい。訓練官のヨーゼフさんは午前は休むとご自宅から連絡があり——」


 二日酔いですね、わかります。


「——他の冒険者たちは朝からあの調子ですからねえ。見ました? 魔導飛行船が来たらしいんですよ。日の出のすぐ後くらいだったみたいで、私は寝てて見られませんでした。今は公爵閣下のお城に置いてあるそうです」

「ひ、飛行船!?」


 そんなもの、あるの!? 全然知らなかった。見たこともないし。


「そうなんですよ。キースグラン連邦でも五指に余るほどしかないらしいんですけれど、ゲッフェルト陛下が所有されている『天姫の居城』がこの領都に来ているんです」

「へえー。王様が乗っているんですか?」

「いえいえ、違いますよ。なんでも冒険者ギルドも関係しているみたいで、ギルドマスターが朝から呼ばれて……」

「君」


 ムスッとした顔のサブマスターが現れた。


「無駄口を叩いているヒマはあるのかね?」

「あ、す、すみません……というわけで、訓練場の見学はご自由にどうぞ」

「ありがとうございます」


 もうちょっと聞いてみたかったけれど、いまだににらみを利かしているサブマスターがいるので僕はおとなしく退散することにした。するとサブマスターは奥から別の職員に呼ばれて、いそいそと入っていく。最初から出てこなければよかったのに、まったくもう。


「ずいぶん話し込んでたじゃねーか」

「あ、はい。そうなんですよ……サブマスターが来なければもっと聞けたのに」

「ああ、あのいけ好かねークソ野郎か」


 うわあ、直球。


「お? レイジ、訓練場に行くんじゃねーのか?」

「それがどうも今日は誰も使ってないみたいで……」


 本気で残念すぎる。天賦を学べるチャンスなんだけどなぁ……仕方ない、ここではもうあきらめて、実践する方向でがんばっていこう。天賦を身につけるのだ!


「んじゃとりあえず、ダンテスのオッサンがこっちに来るのを待つか」

「はい」

「俺のほうも面白い話を聞けたぜ」


 ギルド内の隅っこに移動しながらライキラさんが話してくれる。目立たないところで待ちながらも聞き耳を立ててたみたいだ。


「魔導飛行船のことですか?」

「ん? いや、そうじゃねー」


 あれ、違うんだ。


「なんでも、街道でモンスターに襲われてた商隊をふらっと現れた子どもが助けたらしいんだ」

「助けた? 子どもが?」

「それがよ、今まで誰も見たことがないような魔法だって話さ。八道魔法は知ってるな?」

「天賦珠玉『魔法特性』に分類される、8種類の魔法ですよね。ミミノさんの花魔法とか」

「そうそう。レアな2つが【光魔法】と【闇魔法】だろ? 俺はどっちも見たことがねーんだが……」


 なんだかライキラさんが機嫌良く話してくれる。細マッチョツンデレ獣人がついにデレ期に入ったのだろうか?


「どうも闇系統っぽいスキルだったそうだ。商隊を襲っていたのは上半身が竜人、下半身が馬っつうリザードケンタウルスだったんだが……その竜の硬い鱗も一撃でスパッだよ」

「……ちょっと、待ってください」


 僕はその話を聞いて、うなじがぞわりとするような感じを覚えた。


「もしかしてそれは、剣のような黒い斬撃が……モンスターを斬ったということですか?」

「おお、そのとおり。なんだよ、お前もギルド職員からその話聞いてたのかよ」

「————」


 僕は知っている。その黒い斬撃を。

 ラルクだ。

 それは、ラルクだ!


「ライキラさん! 誰が言ってました、それ!? 詳しい人を教えてください!」

「お、おい、どうしたんだよ、急に——」


 僕がライキラさんに詰め寄ったときだ。


「——冒険者たちよ、聞け!」


 サブマスターがいつの間にか奥からまたこちら側へと現れていた。

 その顔は真っ青に青ざめ、手にした紙がぶるぶると震えている。あまりに異常を感じさせるその様子に冒険者たちは会話を止め、サブマスターの言葉を聞き漏らすまいとする。


「六天鉱山より緊急の通信が入った!『竜』が領都へ向けて飛来しておる! 今よりギルドは非常召集を掛け、全冒険者に、『竜』に対抗するための防衛出動を要請する!」




 冒険者ギルド内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。こっそりギルドから出ていく人、サブマスターや他の職員に詰め寄る人(あまりに情報が足りなさすぎて)、仲間内で憶測を話し合う人、泰然自若として構えている人(そういう人たちは上等でピカピカの鎧を着た上級冒険者だ)。

 ライキラさんに、ラルクのことを聞くどころじゃなくなってしまった……。


「おいおい、こりゃなんの騒ぎだ?」


 とそこへやってきたのがダンテスさんだ。出国許可証の発行は昨日すでにお願いしていたものを受け取っただけらしく、すぐにギルドへとやってきたようだ。


「『竜』……?」


 話を聞いたダンテスさんが眉をひそめる。


「ああ。どう思うよ、オッサン」

「六天鉱山で奴隷が暴動を起こしたという話は耳にしていたが、竜という話は聞いていないな。だが魔導通信があったのならばほんとうのこと、だとは思うが……明らかに情報が足りない」


 ダンテスさんは腕組みして考え込むようにし、それから僕と視線が合うと気まずそうに逸らした。


「……ダンテスさん、僕は」

「レイジ、言わなくていい」


 即座にそう言ってくれる。ああ、こんな浮き足立つような場面になってもこの人たちはなんて優しいんだろう。ライキラさんだって「鉱山」「竜」と聞いて僕にたずねることだってできたはずだ。だけれどなにも言わなかった。ノンさんは僕の後ろに立ってその両手で僕をそっと抱きしめてくれる。

 鉱山からそう離れていない森の中にいた僕。手には奴隷を示す入れ墨。

 僕が鉱山から逃げてきたことは——明らかなのに。


「いえ、話します。僕は『竜』らしきものを見ました」


 だから、今、危険が迫っているのならここで話さなければいけない。

 サブマスターは「竜」だと言った。僕は「巨大な鳥」のように感じたけれど。

 僕は夢中で、鉱山上空に出現した「竜」らしきものについて話した。最初こそ気遣わしげな顔をしていたダンテスさんたちだったけれど、話の内容が、のっぴきならないものだとわかると真剣な顔で聞いていてくれた。


「——というわけです。光の雨のようなものが降った後にはまったく姿を見ていません」


 しん、と静まり返っていた。

 気がつけばダンテスさんだけでなく他の冒険者たちも僕の話に聞き耳を立てていた。

 最初に反応したのはサブマスターだった。


「君。今の話がほんとうだったら、君は鉱山から逃亡してきた奴隷だという……」

「おいおい、こりゃとんでもねえことになったじゃねえか」


 サブマスターの言葉を遮って入ってきたのは、


「ヨーゼフ!」


 スキンヘッドに筋骨隆々の訓練官、その人だった。ダンテスさんを見るとにやりと口の端をゆがめて片手を挙げる。ダンテスさんも片手を挙げて「昨日はごちそうになったな」「バカ。俺が誘ったんだから当然だろう」と軽口を交わしながら手と手をパシンと合わせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 薬の材料は見たこともないのに色や形まで分かるのに、実際に見た竜を「巨大な鳥」としか判断できないスキルってなんなんだよ 竜じゃなくて鳥だと知ってると簡単に対処できるというオチなのかな?
[気になる点] え!?竜の話をするのにしてもこんな大勢の前でそれも他の人にも聞こえる声で喋ってたの!?自分が逃亡奴隷だってバレるの分かってるよね!?馬鹿なの!?馬鹿なの!?今までスキルのこととか奴隷の…
[一言] 仲間内で話すならまだしも、なんでそんなところで!
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