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活動報告では書きましたが、腰をやってしまって2日ほどじっとしていました。お待たせしました。
だいぶ回復して、調べたところ「日常生活を送りながら直すのがいい」みたいな記事を見つけたので、とりあえずは休み休み無理しない程度で更新も再開していきたいと思います。
最初は立って歩くことすらできなかったからね……。
安静にしすぎるのもよくないようなので。ていうか2日じっとしてるだけで足がふにゃふにゃになった気がします。
なんだかもやもやしたものが残ったにせよ——レフ魔導帝国上空に現れたレッドゲートの問題は解決した。
亀裂の向こうには時折なんらかの影が見えるものの、こちらの世界に干渉することはいっさいできなくなった。
最後に残った調停者はグレンジード様と、光天騎士王国の長身の騎士——なんと総大将だったらしい——が倒し、なにか恨み言をいうでもなく調停者は消滅し、その場にはミスリルを使った鎧だけが残った。
終焉牙は、ひっそりと息を引き取っていた。
その巨体を後に調べてみると、筋肉のあちこちが断裂し、血管は破裂、内臓はぼろぼろだったという——調停者がむちゃくちゃをやらかしたからだ。
それで、僕はと言うと——戦闘から一夜明け、
「——まあ、これで手打ちってことだろうな」
難しい顔でダンテスさんが言った。
僕は今、ダンテスさんたちが寝起きしていた場所、ルルシャさんの天幕にいる。
「ああ。なんにせよ私は助かったけれどね」
「英雄武装」を発見したと「虚偽の報告」をした罪で捕まっていたルルシャさんは釈放されていた。
今回の終焉牙戦ではダンテスさんたち「銀の天秤」が「英雄武装」を活用したことで被害を大幅に押さえることができたのは明らかで、それがルルシャさんたちの発見したものであることもまた同様だった。
ダンテスさんたちは「英雄武装」を迷宮攻略第1課の管理する施設で発見したと報告し、そこでとっちめたごろつきを縛り上げておいたことから、ロロロ商会が「英雄武装」を盗み出すことを指示したことも発覚、第1課長とロロロ商会番頭は逮捕され取り調べを受けている。
「いや〜、寝込んでる間に終わっちゃいましたねえ」
頭をかいているのはムゲさんだ。「英雄武装」盗難の際に殴られて気を失い、それから帝国の監視の下、療養中だったけれどようやく回復したのだった。
「『英雄武装』はどうなるんですか?」
僕がたずねると、ルルシャさんが、
「私が提言したとおり、今回の遠征に協力してくれたクルヴァーン聖王国、光天騎士王国、キースグラン連邦にそれぞれ貸与されることになったよ。ただ……どれがどこに行くかではだいぶ揉めそうだけれどね」
と苦笑する。
僕が聞いた範囲では、衝撃を全反射するという「キミウツスカガミ」は触媒なのかエネルギー源なのかわからないけれど、それがない。
光学迷彩の効果がある「タソガレニキユ」は今も使える。
対象の重量を増加させる「デイネイハウタフ」は破損している。
その3つのいずれも、今の魔法では再現できないらしく価値はすさまじいのだが、「デイネイハウタフ」だけは壊れてしまっているので他のふたつがいいと考えるのは道理だろう。
「いずれにせよ、『英雄武装』の貸与で、帝国が差し出すものはだいぶ軽くなるだろうけれど」
3国とも、無償で出兵したわけではない。それは当然だ。
本来なら魔導飛行船を渡したりすれば済んだろうけれど……もうほとんど残っていないらしい。
終焉牙の魔法で相当破壊されたしね……。
思えば、ほんとうに多くの人が犠牲になったんだ。
「レイジくん、そんな顔をしないでください」
僕が表情を暗くしていたからか、ノンさんが言ってくれた。
「戦って亡くなった人たちは、この国に平和を取り戻すために命を懸けたのです。みんな納得してのことでしたよ」
「……はい」
「そうだぞ、レイジ。俺もお前もがんばった。むしろがんばりすぎたくらいだ。死んでいったヤツらのことを気にするなとは言わんが、気にしすぎるな。今もどこかで野垂れ死んでるヤツだっているんだし、そこまで気にするのかって話だ」
「お父さん、そのたとえは間違っている気がしますけど」
「……俺には難しいことはわからん」
腕組みしてふいっとそっぽを向いたダンテスさんがおかしくて、僕は思わず噴き出した。
「ありがとうございます、ダンテスさん、ノンさん。町の崩壊がすごすぎて、ちょっと気が滅入っていたかもしれません」
レッドゲートは封印されたけど、モンスターが破壊した町はそのままだ。
大量の死骸、破壊された町並み。
無事な町並みは半分か、もう少しと言ったところだろう。それでも半分残ったのはラッキーだったと考えるべきだろうか。
「これから帝国は大きな方針転換をしなければならない」
ルルシャさんが言うと、ムゲさんも、
「そうそう。きっと他の国ともっと交流を持つようになるでしょう。そうなりゃ、行商も盛んになりますよ!」
「あれ、ムゲさん、まだ行商を続けるんですか? 確かロロロ商会から大金をせしめてましたよね」
「あ、はあ、まあそうなんですが……」
僕の問いに、ムゲさんは歯切れが悪い。
「——ムゲさんは、帝国の復興に多額の資金提供をすると申し出てくれたのだよ」
とそこへ、天幕の入口にやってきたすらりとしたレフ人が言った。
……誰? なんか長楊子くわえてるけど。
「ふふ、彼はアバだよ。渉外局副局長の」
「え?」
ええー!? 水飴舐めててぶくぶくに太ってた、あの!?
「……そこまで驚かれると、今までどう見られていたのかと少々気になるが」
ひっそりと眉をひそめたアバさんは言いながら、楊子を口から取った。
「ムゲさんだけでなく、多くの商会が帝国復興のために資金を提供すると申し出ていてね。隣国から多くの資材を輸入して町をもう一度作っていくことになる。……それでも、もう戻りたくないと言うレフ人も多かろうけれどね」
クルヴァーン聖王国は難民化したレフ人を受け入れているという。
あの国は、ヒト種族至上主義のキースグラン連邦や、偏見がないまでもヒト種族が大多数を占める光天騎士王国と比べればレフ人にとって住みやすいに違いない。
「ま、そんなわけで私は相棒といっしょにまた行商をやりますよ! むしろ新しい迷宮発掘がなくなった今、帝国内で技術開発やるより、行商をやったほうが儲かりますからね!」
あっはっは、とムゲさんが笑う——たくましいなあ。
提供した資金については復興後、国が利子を付けて返してくれるらしく、一種の「投資」なのだそうだ。
損をしない賭け、かもしれない。でも帝国がこのまま沈んでいけば資金は返って来ないわけで、さらにはムゲさんは帝国のために行商をやると言っているのだから——全身全霊で帝国をもう一度よみがえらせるつもりなのだろう。
「僕もなにか協力できることがあればします!」
「ありがとうございます、レイジさん。でも帝国はレイジさんに借りができっぱなしですからねえ。ちょっとは私らにもがんばらせてください」
「いや……そんなことは」
「そんなことはあるよ」
苦笑しながらルルシャさんが言う。
「迷宮の攻略に始まり、巨大なイソギンチャクの討伐や『豊穣ノ空』墜落を防いでくれたこと、それからアナスタシア殿下も救ってくれたのだろう? 戻ってきてからは巨大モンスター——終焉牙と言ったか、あんな化け物との戦いに、竜を使ってのレッドゲート封鎖。どれだけ恩を売ったのかというほどじゃないか」
「い、いや、そんな……僕だけががんばったんじゃないですし」
その都度、全力で走っていただけだけど、面と向かって挙げられるとかなり恥ずかしい。
「ルルシャ殿の言うとおりだよ。もちろん、君だけじゃなく冒険者パーティー『銀の天秤』にも大きな借りがあるし、『黒の空賊』にもそうだね」
アバさんが言った。
「そんなわけで、私は君たちを呼びに来たのだよ。レッドゲート封鎖を祝っての褒賞授与について、皇帝陛下からお達しがあるとのことだ」
「ほう、ずいぶん早いな」
ダンテスさんが片眉を上げた。国の褒賞なんていうものはあれこれ落ち着いてからあるもんだ——みたいにかつて言っていたから、昨日の今日で褒賞というのは確かに早い。
「君たちは冒険者だから、なるべく早くしないとどこかに行ってしまう。このままなにも与えずに出国させたら帝国の恥だと口を酸っぱく局長に言ったのが効いたのかもしれないな」
にやり、とアバさんは笑った。……太っていたころにやってたら「ぐひひ」って感じだけど、スリムになった今やると結構決まるな。体型って大事だな。
「なるほどなあ。——だってよ、ミミノ。準備はできたのか?」
ダンテスさんは、それまでずっと黙って天幕の奥で作業をしていたミミノさんに声を掛けた。
「うん、うん! オッケー、できたべな!」
ミミノさんは立ち上がる。
手に持っていたのは——僕の服だ。
「今のレイジくんの背丈に合うように直した!」
借りていた光天騎士王国の制服は返却し、着の身着のままの粗末な格好だったのでミミノさんが「とにかく服を!」というわけで過去に着ていたものを直してくれた。
まさかこんなに早く着ることになるとは。
「うんうん、よく似合う!」
ささっと物陰で着替えると、すぐにミミノさんが言ってくれた。
ハーフリングのスタイルなのか、袖には派手なあしらいの刺繍があったり、ふわりとした着心地に布をぎゅっとヒモでしばったりという感じだけれど、着心地は抜群だ。
なにより、ニコニコしているミミノさんが手作りしてくれたというのがうれしい。
「そ、そうですか?」
「レイジくんはもともと男前だからなぁ〜。なに着ても似合うけどね」
「そんなことないですって! あの……いつもありがとうございます。ミミノさん」
「えっへっへ〜」
すでに僕より少し背が小さくなったミミノさんが胸を張っている。かわいい。思わず頭をなでたくなってしまうのだけれど、それはミミノさんが望んでいるリアクションではないのだろう。というかミミノさんはいつまでも僕の頭をなでたい側なのだと思う。
「よし、そんじゃあ行きますか。どんなお礼がもらえるのかねえ」
ダンテスさんの言葉に、僕らは立ち上がった。
ラルクとエヴァについては次話で。




