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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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     ★  レフ魔導帝国 天幕街  ★



 エルを知っていたのは——それも母の手紙でのやりとりだけだったが——ルルシャだけだった。そのルルシャであってもエルがどのような人物なのかは知らず、まさか巨大なウサギだとは思いも寄らないことだった。

 突然の来訪者にふだんならすぐにも反発する人たちも、唖然として見守っていた。その沈黙を利用してエルは説明を続けた。

 2つの世界の成り立ちと、空の赤い亀裂(レッドゲート)に関する情報は突飛な内容ではあったけれど、クルヴァーン聖王国では機密情報として扱われながらも真実とされていること、さらにはすでに彼らの尊敬する皇帝がすでに信用したということもあいまって、人々は黙って聞くしかなかった。



 だが、レッドゲートに関する情報と、英雄武装(ヒロイックギア)の取り扱いは話が違う。いや——エルの情報提供に対する見返りで英雄武装が貸与されるという側面はもちろんあるのだろうが、それでも、自分たち帝国のものだと信じている英雄武装が他国に渡るということをどうしても許せないレフ人は多かった。


「……あのウサギのせいでうやむやにされたが、英雄武装を国外に持ち出すなどあってはならん」


 迷宮攻略第1課の課長と、魔道具を扱う大商会の1つである「ロロロ商会」の番頭は、会議の後に密会していた。


「……まったくですな。大体、第4課の持ってきた魔道具が英雄武装と呼ぶにふさわしいものであるかも確認できておりません。大方、見栄えのいい魔導武装(マジックギア)を発見し、それを英雄武装などとうそぶいておるのでしょう。あそこのお抱えの商会は『オンボロ商会』ですからな」


 番頭は敵意剥き出しに「ムゲ商会」のことを「オンボロ商会」と言った。

 この番頭はレイジたちが「畏怖の迷宮」で遭遇した「感情攻撃」を使うオートマトンを相手に死にかけ、骨身に染みて「感情攻撃」のすごさを知った。結果として「ムゲ商会」が手に入れたオートマトンを帝国金貨1,000枚で購入したのだが——あれはダンジョンそのものが「感情トラップ」を仕掛けており、オートマトンに「感情攻撃」の機能は含まれていなかった。

 言うなれば、銃が欲しかったのに、買ったのは銃の引き金だけだったのである。

 こんなものは詐欺だと、金貨を支払うつもりはなくむしろ相手を詐欺罪で告訴するつもりだったのだが、なにがどうなったのか、渉外局副局長のアバと従兄弟である商会主は告訴を取り下げ金貨も支払うことになった。


 ——これは貴様の責任だ。


 ぶん殴られた左頬の痛みを、番頭は今も覚えている。

 このままではガラクタを買って商会に大損害を与えた番頭でしかない。「ロロロ商会」は規模も大きく若手も育ってきており、いつ番頭を交代させられるかわかったものではなかった。

 番頭は、商会の仕事も人事もすべて取り仕切る、代表権のないCEOみたいなものだ。

 レフ魔導帝国内では「ロロロ商会の番頭」と言えば尊敬を集めるポジションである。番頭はなんとしてでも名誉を挽回したかった。


「……番頭よ、商会では多少の荒事ができる者も雇っているのだろう?」

「……なにをなさるおつもりで?」


 不穏な気配を感じ取った番頭の声は自然と低くなる。


「……なに、そう警戒するな。第4課が手に入れた英雄武装を、我らが有効利用してやるのだ」

「……奪うということですか? それはできましょうが、ここいらの天幕に置けばすぐにもバレましょう」


 関所前の広場には今や多くの天幕がひしめいており、周囲の丘にまで他国の軍が展開している。毎朝、関所の細い通路を通るための行列がレフ人の天幕街を貫いていた。

 英雄武装を一時的に隠すならまだしも、研究するとなるとそれなりの設備が必要で、設備がある場所は限られている。そこから機材を持ち出せばそれも怪しまれるので隠す場所がないと番頭は言ったのだ。


「……それについては考えがある。それで、『ロロロ商会』は乗るのか? 乗らないのか?」


 20しか見つかっていない英雄武装。新たな英雄武装がもしもあり、それらが他国に流れぬよう守ることができたのなら国民は大喜びするだろう。自分たちこそが英雄(・・)だ。

 番頭の地位どころか、出資者が現れ新たな商会を立ち上げることができるかもしれない——そう思うと番頭の声は震えた。


「……もちろん、ご協力いたします。して、なにをどうすればよろしいのでしょう?」


 にたり、と笑う第1課長と、番頭の密会は続いた。



 それから数日後、激務のあまり短い仮眠を取っていたルルシャのところへ飛び込んで来たのはアバだった。


「起きたまえ、ルルシャ!」


 水飴を止め、すっかり痩せたアバが——口寂しいのか楊子はくわえたままだったが——取り乱した様子でルルシャが寝起きする天幕の外で声を上げた。


「……どうしたのだ。まだ早朝じゃないか」


 太陽が昇り始めた、という時間帯だ。朝食の準備をするための炊煙が上がるにも少し早い。

 起きて外を歩いている人影だってほとんどなかった。

 目をこすりながら出てきたルルシャに、アバは言う。


「落ち着いて聞いてほしい。……『ムゲ商会』の天幕に保管していた英雄武装が奪われたようなのだ」

「…………」


 寝ぼけたルルシャの頭に、衝撃が強すぎる言葉はなかなか浸透してこなかった。


「——あそこは特に気をつけて警備兵を配置しておいたのは君も承知のとおりだがね、手違いで警備兵のローテーションがズレて、30分ほど警備の空白時間ができてしまったらしい。その間にやられたのだと思う」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ムゲさんは。ムゲさんはずっと中にいたはずだ。彼は」

「頭を殴られ、血を流していた。だが無事だ。今は治療を受けている」


 無事、と聞いてホッとはするものの、身体から抜け落ちる気力に立っていられなくなる。


「大丈夫かね」


 あわててアバがルルシャの肩をつかむ。痩せたとしても筋力は衰えておらず、思いがけずたくましい腕にルルシャはすがるように、


「……英雄武装は、すべて?」

「ああ……保管してあった3つ、すべてだ」

「犯人は——」

「その調査はこれからだがね」

「——第1課長よ」


 断定口調に、アバは眉をひそめる。


「ルルシャ。そういうことは安易に言わないほうがいいと思うが」

「そうに決まっている。あなただってそう思うだろう? 英雄武装の他国貸与に最も反対したのが彼で、第4課の戦果を奪おうとしたのも彼だ。大体、警備のローテーションがズレてその間に犯行を実行できるなんて内部の人間しかいない」


 アバとていちばん怪しいのが第1課長だということはわかっている。

 だからこそ、第1課長がそんな危ない橋を渡るはずがないとも思っていた。


「捜索はすぐに始めるから」


 そして——アバの直感は正しかった。

 第1課長は迷宮攻略1課が所有するすべての天幕の調査を許し、そのすべてに怪しいところはなかった。第2課や3課も協力を申し出て、さらには各大商会も天幕の調査を許可したが——どこにも英雄武装は見当たらなかったのである。

 国外へと運び出される物品は厳しくチェックされているが、英雄武装が運び出された形跡もなく、さらにはレフ人たちに広く情報を募集したが、怪しげなものを運んでいる——といった情報は上がってこなかった。

 英雄武装は、いずこともなく消えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 展開に無理がありすぎる
[一言] 帝国はこのまま滅びた方がいいんじゃないかな
[一言] 正直、帝国が屑すぎて戦っている兵士たちが可哀想すぎる
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