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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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今日も朝夕の2回更新……できたら、いい、な……!

 公設市場は商業ギルドにお金を払えば誰でも店を出せるようで、だだっ広い石畳の広場に多くの露店が出ていた。

 ハンドメイドのアクセサリを売っていたり、ドライフルーツを売っていたりと、日本のフリマにもありそうな屋台もあれば、鉄板でじゅうじゅうとソバ的ななにかを作って売っている屋台もある。

 どうやらある程度、場所によって売るものが異なっているらしい。

 まあそりゃそうだよね。ごった煮になってたら買うほうも買いづらいし。


「……どこもかしこも鉱山の話題ばかりだべな」


 不意にミミノさんがそんなことを言った。


「聞こえてこない? みんなそんな話ばっかりよ」


 ——六天鉱山(シックスマイン)が止まってるって?

 ——でなきゃ領兵があんなに出張らないだろう。

 ——公爵様は責任を感じて城から出てこないそうだぞ。

 ——あれ、公爵様って鉱山に行ってなかったか?

 ——理由はなんなんだ、理由は。

 ——鉱山が止まったら領都も先細りだよな……。

 ——一時的なものだろう。


 確かに、ちょっと耳を澄ませるだけで、お客と店主のやりとりが聞こえてくる。

 正確な情報は伝わっていないけれど、とにかく鉱山がヤバイ、みたいな感じでみんな話していた。それほどまでにあの鉱山はアッヘンバッハ公爵領にとって重要なものだったってことか……。


「まったくねぇ、天賦珠玉に頼り切ってたからこの国は」

「そう……なんですね」

「鉱山がなくなったらどうなるか? いい薬かもしれないべな」


 にこっ、とミミノさんは笑ったけれど僕には笑えなかった。


「……レイジくん? どしたの?」

「あ、い、いいえ。大丈夫です」

「そう?」


 ミミノさんはさりげなく僕の手を握ってくれた。身長差はあるけれど、こうなると少年少女のお使いカップルみたいになってしまう……いやいやそんな、カップルって、そんな(その程度でテンパってしまう恋人履歴なしの僕)。


「ここからが薬草を扱ってる露店みたいだね」


 ミミノさんの言葉で我に返る。地べたに布を広げて、そこに乾燥させた葉っぱを並べている露店がたくさん出ている。


「おおお」


 僕は喜び勇んで露店を回っていく。

 ふつうの薬草もあれば、香辛料を扱っている店も多かった。というよりほとんどが香辛料だ。乾燥させたタネをごろっと売っていて、後は自分で処理しろという感じだろうか。

 中には壺に香辛料を入れている露店もあるけれど、それは天秤での量り売りで、値段は結構高い。

 僕の探している草は、まったくなさそうだった。


「なにか欲しいのがあるべな?」

「え、えぇっと……ミミノさんが知ってるかはわからないんですけど」


 僕はミミノさんに葉っぱについて説明した。紅葉のように5つに分かれている葉っぱで、その先端がさらに5つになっている。僕の中では「ダブルモミジ」と勝手に名付けている葉だ。


「なんだべな、それ?」


 ミミノさんもわからないらしく、こてんと首をかしげた。なにそれカワイイ。これで20歳だっていうんだから反則だよ。


「——ハーフリングの薬師も知らない葉だと? 俺にも教えてくれや」


 すると近場にいたひげもじゃのオッサンが立ち上がって出てくる。


「なにぃ、ハーフリングの薬師も知らない幻の葉だと?」

「おいおい、ハーフリングの里に伝わる秘伝の葉?」

「なんだって、ハーフリングの長老が栽培した伝説の葉?」


 どんどん伝播して露店からオッサンたちが出てくるんですけど!? しかも尾ヒレがついてるし!「ハーフリング」と「葉」しか合ってないよもう!

 ぐるりとオッサンたちに囲まれた僕らだったけれど、ミミノさんは冷静に、僕が言った葉っぱの特徴をオッサンたちに伝えている。


「——アレじゃねえのか、ほら、氷落樹の葉」

「バカ。アレは三つ叉だ」

「俺見たことあるぞ。あれは確かクルヴァーン聖王国の珊瑚礁で……」

「海にあるわけないだろ」


 やいのやいのとあれこれ言っているけれどなかなか正解にはたどり着けそうもない。というか、それくらいレアな素材なのかな……。

 それなら、深みのある銀色の金属と、うねうねしたミミズみたいな生き物について聞いてみようかな——と思っていたときだった。


「フォフォフォ。これはなんの騒ぎじゃ」


 ぴっかぴかの禿頭に長い眉毛が目までかぶさっている老人が、杖をつきながら現れた。


「長老」

「長老だ。これで判明するな」

「長老」


 露店の薬師たちはザッと横にどいて僕らのところまで一直線の道ができた。


「坊主。この御方は『歩く薬草辞典』と呼ばれる方だ」

「そ、そうなんですか? お名前は……」

「名前は知らん」


 知らんのかい。


「フォフォフォ。なにやら面白そうな草について話しているようじゃな……ぬ!? お前はハーフリング!?」


 柔和な雰囲気が一転していきなりつばを飛ばしてきた!?


「ハーフリングの薬師めぇええ……またも人間の縄張りを荒らしに来たかぁああ」

「ちょ、長老。この方は旅の薬師だ。露店荒らしじゃないさ」

「ワシは信じぬぞぉ! ハーフリングのいる場ではなにも語らぬ!」


 語らぬ、とか言い出したけど特にまだなにも話はしてないんだけど……。

 とは思うものの、チラッ、チラッ、と僕の様子をうかがってくるあたりがなんだかめんどくさい。


「……えっと、じゃあミミノさん、行きましょうか?」


 僕がミミノさんを促して離れようとすると、


「いいのかのう!? ワシは『歩く薬草辞典』じゃというのにのう! 他のどの薬師が知らずともワシが知っていることもあるでのう!」


 うわぁ、めんどくせえ……。

 これは無理です。相手にするだけで疲れることこの上なし。さっさと離れよう——と思っているのに、当のミミノさんがこんなことを言い出した。


「レイジくん、わたしは離れてるから、この方に話してみるべな」

「で、でも……」

「いいからいいから、なっ? ダメで元々だ」


 そう言ってミミノさんは僕から離れていった。むう……僕としてはミミノさんを悪く言う人と話したくなんてないのに。


「で? 坊主、なんの葉っぱが欲しいんじゃ? ん? 快楽に溺れるような葉っぱか?」


 この人、なんか麻薬でも扱ってるんですか……?




 結論から言うと、老人は「ダブルモミジ」を知っていた。

 どころか、持っていた。

 その葉は「生命樹の葉」と呼ばれる代物で、ハイエルフの管理する森でしか手に入らない貴重なものだという。

 だけれど僕は、ダンテスさんから預かった「お小遣い」だけで買わせてもらった——なぜかと言えば、「生命樹の葉」は貴重なのだけれどハイエルフ以外には調合できないのでただの趣味の一品になっているかららしい。


「フォフォフォ。こうして、先々代から引き継いだ『生命樹の葉』を誰かに託すことになるとはのう……」

「ありがとうございました。ではもう行きますね」

「そう。あれは先々代の元に弟子入りしたこのワシが……」

「その話長いですか? もう行っていいですよね」


 最近の子どもは礼儀を知らんとかなんだとかいろいろ言われたけれど、僕は解放された。ここは老人の露店で、老人は最後にそっと、


「……ハーフリングはの、確かに薬師としては優れておる。じゃが、その金への執着から悪く言う者もあるのだ。坊主はそれを知っておきなさい」


 と言われた。ミミノさんを遠ざけたのは、老人なりの配慮だったんだろうか……。

 だとしてもミミノさんはミミノさん。十把一絡げにまとめて欲しくはない。

 複雑な気持ちのまま、僕の手のひらよりもずっと大きな「生命樹の葉」を見つめる。採取されてから数十年経っているらしいが、つい先ほどまで枝にくっついていたのではないかと思えるほどにみずみずしい。【森羅万象】を通して見ると、様々な可能性がこの葉っぱに眠っていることがわかる。


「——おっ、レイジくん、お目当てのものは手に入ったようだね?」

「ミミノさん……」


 にっこりして近づいてきてミミノさんに、僕は頭を下げた。


「ごめんなさい。僕のワガママでミミノさんにイヤな思いさせて……」

「え!? そ、そんなこと気にしないでいいよ〜。ハーフリングは確かに、あの老人が言ったみたいに市場を荒らしたりすることもあるんだ。だから嫌う人も多い」

「それでも、ミミノさんは関係ないじゃないですか」

「レイジくんがそれをわかっててくれるならそれでいいべな。だって、関係ない人のことまで気にしてられんもんね?」

「でも……」


 ミミノさんはそっと僕の頭をなでてくれた。


「……でもその葉っぱ、あとでわたしにも見せてな?」

「はい、もちろんです!」


 ふたりして笑い合った——ときだった。


「い、いたっ、ミミノさん、レイジくん!」


 息を切らせて走ってきたのはノンさんだった。


「急いで冒険者ギルドまで来て! レイジくんが薬を飲ませた人が——」


 僕とミミノさんは顔を見合わせ、走り出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです、夕方更新待ってます
2020/03/30 16:13 退会済み
管理
[気になる点] 主人公って、うわぁめんどくせえ……なんて反応するキャラでしたっけ? だんだん調子に乗って、よくある上から目線のなろう主にならなきゃ良いなと心配になりました。
[一言] 主人公の意地で、探していたものを见逃してしまいそうになったが、反省がまったくない。
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