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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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天賦珠玉の抜き出しについて自分にしかやってない、とか書いてましたが他の人にもやってました。すみません、ただの作者の勘違いです。修正しておきます。

     ★  地底都市外郭  ★



 地底都市で生きて行くには多くの自由を捨てなければならない。

 都市外を出歩く自由はもちろん、結婚の自由もほとんどなく、結婚相手は親や所属するコミュニティで決められた。

 口にできる食事、飲める酒、娯楽も限られていた。

 教育の幅も狭い。

 さらには従わなければならない、暗黙のルールがいくつもある。


 ——ぶち壊したい。


 それが、元帥が抱えてきた感情であり欲求だった。

 この都市を動かす都市評議会員の一族であり、軍のトップを任されるという——この都市内では一握りの幸福に恵まれながらも、彼はここのルールを壊したかった。


 ——もう、限界だ。


 恐るべきモンスターから逃れるように地底に隠れ住んだ祖先は、数百年前から起きていた種族間の抗争も悠々生き延びた。

 地底人は他にいくつの種族があり、抗争の結果、滅んでいったのかを知らない。本来なら力を合わせてモンスターに対抗すべきなのでは? と元帥は思ったのだけれど、彼が生まれたときには「世界に種族は3つしかなく、我々地底人、ダークエルフ、竜人だけだ」と教わった。

 そしてもうひとつの重要な教え——「この世界には神がおり、神の声はウルメ総本家だけが聞くことができる」というもの。

 他に誰も聞かないというのに、ウルメ総本家だけわかるとはどういうことか。しかも彼らはけっしてその内容を他言しないのだ。あのおぞましいサルメがそんな神秘性を盾に偉ぶっているのを見ると怖気が走った。それをいかにも恭しく受け入れ、さらにはおもねるように彼女に身体を売る若い男たちも不気味で仕方がなかった。

 世界にたった3種族。

 しかもそのうちの1種、我らが地底人のトップは頭がおかしい。いや、その周囲にいる我々ももうとうに狂ってしまっているのではないか……。

 そう思うと——もう限界だと思えてしまうのだ。

 だがこの都市を、社会を、壊すには「力」が要る。壊し、再生し、できることなら他種族と協調していくしか生き延びる道はない。

 元帥はその「力」を天賦珠玉に見いだしていた——。


(あの少年は何者だ!? いや、それよりも天賦珠玉を抜き取った!?)


 スーメリアに与えられた星6つの天賦珠玉こそまさに、元帥の望んだ「力」だった。だが今夜の侵入者はスーメリアに打ち勝ち、さらには天賦珠玉を抜き取った(・・・・・)

 禍々しくさえ見える天賦珠玉は、この暗い地底都市で光を放っている。


「お前は何者だ!? それは我らのものだ!」


 戦いが終わり、あっけにとられて動けない者が多い中、元帥が声を上げた。

 暴風によって侵入者のフードは剥がれている。そこに現れた顔は、10代半ばかというくらいの、少年のものだった。


「……墜落した飛行船にいたレフ人を、一方的に捕まえたあなたたちが、なんの所有権を主張するのですか?」


 ぎくり、とした。それは図星を指されたからではなく——彼が、「竜人」ではなく「レフ人」という先日まで聞いたこともなかった国の名前を、さも当然のように口にしたからだ。

 そうか。この少年は警邏隊が襲撃して返り討ちに遭った少年か。


「君は……竜人たちの仲間なのか」

「彼らはレフ人です。あなたたちに不当に捕縛されるいわれはありません」

「だが君はこうして我らの都市へ不法侵入している」

「……都市だというのに侵入を不法だと言うのなら、門番でも置いたらいかがですか」


 口の回るヤツだ、と元帥は忌々しく舌打ちをする。

 地底都市に入るいくつかのルートに見張りを設置すべき、と10年前に提案したのは他ならぬ元帥だったのだ。しかし実際に見張りを置いてみると、侵入しようとする者なんて現れず、「見張りは罰ゲーム」などと揶揄されるようになり見張りの担当は「本日も異常なし」という報告書だけ書いて見張りに立つことを止めた。

 結果、元帥は自分の方針を撤回せざるを得なかった。


(見張りとは異常がないことを喜ぶべきものだというのに……!)


 そう言ったのだが賛同者はほとんどいなかった。腹心の百人長ですら「まあ、ここが侵入されることはねえっすよ」と他の地底人同様、地底都市の秘匿性に異常なまでの信頼を見せていた。


「レフ人、とかいう人種はともかく、飛行船の墜落現場は我らの領土だ。そこでなにが起きたかを解明するのが我らの責務である」

「……それは、そうかもしれませんね。まあ、レフ人たちを独房に閉じ込めている時点で詭弁極まりないですけれど」

「ああ言えばこう言う! お前こそ詭弁の塊ではないか!」


 元帥が言うと、少年は小さく肩をすくめただけだった。

 その仕草にもイラッとするが——参謀が横で囁いてくる。


「……元帥、もうちょっと時間を稼いでください。その隙に出口は全部封鎖します」


 その手があった。

 よし、行け——と言おうと思ったときだ。


「ああ、今から手勢を動かして出口を塞ぐとかは止めたほうがいいですよ。大体、この……スーメリアさんよりも強い人はいるんですか?」

「うぐっ……」


 確かに、そうだ。スーメリアが敗れ、警邏隊の襲撃でも勝てなかった以上、ここで戦っても被害が拡大するしか道はない。


「……そうかもしれん」


 であれば、どうするか。参謀が横目で聞いてくる。出口を塞ぐのか、どうするのかと。

 元帥の脳内でめまぐるしく計算が始まる。

 これだけいいように破壊され(たとえ壊したのがほとんどスーメリアなのだとしても)、捕虜は解放され、星6つの天賦珠玉まで奪われては——自分の元帥の解任は間違いない。いや、それで済めばまだマシだ。父の評議会員の席すらも、あのサルメは奪おうとするだろう。


「じゃあ、そこでじっとしていてください。僕は——」

「だが」


 今、この瞬間、なにができるのか。

 元帥は賭に出た。


「このままおめおめとお前を逃すわけにはいかない。我ら全員が命を懸けてお前を外に出さないよう行動する。何人死んでも構わん。最悪、出口すべてを破壊して生き埋めにする」


 元帥の言葉に参謀が目を剥いた。

 後方にいる軍人たちは「げっ、マジで言ってンのか」「無理。俺先に逃げるぞ」などと言っているが構わない。


「……あなた、正気ですか? 都市民全員の命で僕ひとりを殺すと?」


 呆れたように少年は言ったが、ここで退いては元帥の賭けは失敗だ。


「そうだ。行け、参謀。今の内容を聞いたな?」

「は、はい……ほんとうによろしいのですね」

「構わん。すぐに行け——他の者は、ヤツを取り囲め!」


 元帥の号令で、のろのろと動き出した軍人たちが遠巻きに少年を囲む。


「はあ……わかりました。ここには無辜の市民もいるというのに、僕なんかのために犠牲にされたら寝覚めが悪いって話ですよ。なにをお望みですか? あ、レフ人を返せというのはナシですよ」


 勝った、と思った。

 本気の本気で玉砕覚悟で突っ込ませるつもりなど元帥にはなかった。というより命令してもほとんどの部下は動かないだろう——それほどまでに地底人の軍隊は腐っている。


「レフ人とやらは構わん。私が主張するのは、墜落した飛行船とやらは我らの領土にあるものなので我らが接収すること」

「……うーん、僕は、まあ、構わないです」

「それと、天賦珠玉を返せ」


 これが絶対の条件だった。

 天賦珠玉さえ戻ってくれば失地回復になる。

 被害と言えば都市外郭の破損くらいで、人的な被害が出たわけではない。


「ああ、そんなことですか? 元々返そうと思っていましたよ」

「——なんだと?」

「落とさないでくださいね」


 少年はなんともないように、天賦珠玉を放った。それは放物線を描いて元帥の手元に落ちた。

 これが——星6つの天賦珠玉……。


「ただ、ひとつ言っておきます」


 呆けていた元帥へ、少年の声が響いた。


「その【狂乱王剣舞(インセインブレイド)】を使うことは絶対に勧めません。というのも、天賦の使用により記憶の欠落が起きるからです。これが進むとやがて日常生活に支障を来し、死にいたる……と僕は考えます」

「な、なんだと……?」

「彼女を見て思い当たるフシがあるのでは?」


 少年の足元に横たわっていたのはスーメリアだ。

 スーメリアは、明るい少女だったというのに——確かにこの天賦を手に入れてから人が変わってしまった。

 それが天賦使用による代償なのだとしたら?


「……まさか、そんなことが」


 ぞっ、と背筋が冷たくなった。

 いやしかし、と思い直す。だからこそこれは強いのではないか。それだけ強力な「力」なのではないか。自分が欲していたのはまさにこういうものなのではなかったか。


「条件はそれだけですね? じゃあ、僕は行きますよ」


 少年はすたすたと壁面に向かって歩いていく。そこの出入り口は塞がったはずなのだが、気にせず進んでいく以上、魔法の力でどうにかするつもりなのか。

 囲むだけ囲んだ軍人は、びくびくしながら少年に道を開く。

 これで、終わりだ。今夜の大騒動はこれで——と元帥が油断しかけたときだった。


「なァにボケッと突っ立ってンのよ!? その侵入者を逃がしたら、この街で生きていけなくしてやっから覚悟しなァッ!」


 いちばん聞きたくない声が、聞こえてきた。

 大勢の付き人を連れたサルメが、のしのしと歩いてやってきたのだ。

 全身から冷や汗が噴き出る。

 この女だけは、こいつだけは、生理的な嫌悪が先に立って冷静な思考が保てなくなる。


「元帥ィ! さっさと命じなさい! あの野郎を止めろと!」

「し、しかし……やられたのです、スーメリアも」

「あァッ!?」


 離れた場所で倒れたスーメリアを見て、サルメはペッとツバを吐く——それを受け止める、金色の痰壺を差し出す係もいるのだから頭がクラクラするような光景だ。


「そンじゃァ……アイツは星6つ以上の強さってことなの?」

「……はっ。とてつもない、実力の持ち主かと」

「…………」


 うなだれた元帥は、顔を上げられない。すぐそこまでやってきたサルメの顔からぴきぽきぷちとイヤな音が聞こえてくるのだ。何かがブチ切れたような音が。


「アタシがなにが嫌いってェ! 負けが大っ嫌いなんだよォォォ! 知らなかったか、元帥、このボケナスがァッ!」

「申し訳ありません」


 這いつくばって謝りたい気持ちに駆られるが、ぎりぎりのところで踏ん張ったのは彼に最後に残ったわずかな矜持があったからだ。


「アンタに期待なんて最初からしてなかったけどよォ! できねェことがあンならさっさと報告しろやァァッ!」

「申し訳ありませ——」

「どけェッ!!」


 肩を突き飛ばされて元帥は横によろけた。サルメと、サルメの付き人がぞろぞろ進んでいく。その先にいるのは、ぽかんとした顔で立っている少年だ。

 今、ここでなにが起きているのかわからないのだろう。


「この野郎が……アタシの街で好き勝手しくさった礼だ。ブッ殺してやらァッ!」


 サルメは右手を掲げた。


「出てきなさいよォッ! 調停者(・・・)!! アンタの敵がここにいるわよォッ!」


 その瞬間——地底都市にうっすらと差していた光源すらなくなり、周囲は墨で塗りつぶしたような闇の世界となった。


多くのご回答ありがとうございました。

正解は「オ)返す」でした(湧き起こるブーイング)。

すみませんごめんなさい!

いやほんとすみません!

いろいろ書いていただいてありがとうございます!

(正直ほとんど反応もないだろうなァと思っていただけにびびりました)

次回もしこういう企画やるときは、「必ずその選択肢内に答えがある」ようにします。

なぜ返したのかについては次話で、その動機について語られます。

全然関係ないですがスーメリアの名前の由来はとあるゲームです。


本話の末尾で出てきてお久しぶりワード「調停者」さんも気になりますね。どうなる、次号!(まだ書いてない)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スキルオーブ抜き取りしたことを忘れてたとのことなので、魔力伝播?星2の正体が明かされないまま、次章に入ったので魔力伝播のことも忘れられているのではないかと気になりました。
[一言] とりあえず調停者は放っておいて キーキーうるさいオークをプチッと潰そう 黙ってレイジを帰せば、これ以上の被害は出なかったのにねぇ
[一言] 後書き見て感想荒れてるのかと思ったけどそんなことはなかった
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