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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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書き下ろし小説「今宵はジビエを召し上がれ」は双葉文庫より絶賛発売中です。

函館を舞台にした、ジビエ料理を主軸に据えたライトミステリです。かわいいワンコも出てくるよ(重要)。

よろしければぜひ〜。

     ★  地底都市ウルメ総本家  ★




 レイジが見つけた、見張りがある建物のもうひとつは、この地底都市で最大規模を誇る大きさだった。

 とはいえ見た目としての荘厳さがあるのかというとそうではなく、八角形の土台にベースとなる5階建てがあり、そこにはてんでバラバラな建物が積み木のように載せられてあった。

 その中枢にあるのがウルメ総本家の居住地だった。

 地底都市のルールを決めるのが10人により構成される「都市評議会」であり、評議会長を代々務める家柄がウルメ家だと言えば、この都市での重要度がわかるだろう。

 屋外は消灯している時間帯だというのに、この宅内は煌々とした明かりが灯っていた。複雑にカットされたガラスが、魔導ランプの明かりをきらびやかに反射する。室内はその光に負けず劣らず豪奢であったが、家具のデザインやカラーリングはあまりにちぐはぐだった。

 たとえばシックなアーガイル模様の絨毯があると思えば、エスニック調の飾り棚があり、その横には鋼鉄製のテーブルが置かれてある。

 なぜかと言えば——これらは先祖代々伝わるもので、戦乱時に奪い取ってきたものばかりだからだ。


「警邏隊がやられたって聞いたけど、アンタの報告には書いてなかったわよねえ」


 部屋の主にして、ウルメ総本家の現当主サルメが言った。

 質素な服を来ている都市住民とは違って、着せ替え人形でもなかなか見ないようなフリフリのワンピースに、両手にはメリケンサックになりそうなほどの宝石をつけたリングがずらり。

 問題はその体格で、彼女が手にしている葡萄酒入りのゴブレットは本来なら1リットルが入るジョッキサイズなのに、まるで瓶ビールにつけあわせて出てくるコップに見えるほど——彼女の手、だけでなく、身体は大きい。

 クッションを張った鋼鉄製のイス——左右に3人ずつがついて運ぶような代物だ——が、彼女がみじろぎするたびに悲鳴を上げるほどだった。

 長い金髪はウェーブが掛かっているが、長年の暴食が祟ってか艶はなく、最近の悩みは薄くなってきた頭頂部というのが地底都市の評議長にして、ウルメ総本家の当主サルメなのだ。


「申し訳ありません。サルメ様のお耳に入れるほどのものではないかと思いまして」


 がっちりした体躯と身のこなしは、どう見ても軍人である男が身体を折って頭を下げる。オールバックにした灰色髪から、一筋、はらりと目元に毛が垂れる。

 その態度は礼儀正しくは見えるが、どこか慇懃無礼にも感じられる。


「アタシが知るべきかどうかはアタシが決めンのよォ!」


 吹き出物によって凸凹になった頬を震わせてサルメが吠えると、身体を起こした男はじっと瞑目しつつ不満を受け止める。彫りの深い目元には地底人の特徴である赤い目があるが、目尻にはうっすらシワがある。年の頃は40に差し掛かったというところだろうか。

 ヘビのような目でぎょろぎょろとにらみつけたサルメは、ゴブレットから酒を飲んだ。地底に生き、安全性は高いものの当然のことながらブドウの栽培などはできない地底人にとって、数少ない都市外のブドウ農園でできる酒は貴重品だ。しかしウルメ総本家では、その貴重品も湯水のごとく消費される。


「はっ。申し訳ありません。以降、ご報告する情報レベルを変更したいと存じます」

「元帥ィ……アタシが言いたいのはそういうことじゃないのよォ」


 どう考えても「もっと情報を寄越せ」という話の筋だったはずだが、サルメがそう言うのだから、


「はっ。申し訳ありません」


 と答えるしかない。たとえ男が、軍を統括する最高責任者の「元帥」であったとしても、地底都市の上意下達は徹底している。この目の前の女がヒエラルキーのトップであり、この女がそうだと言えば「はい」か「わかりました」か「すばらしい」しか言ってはいけないのだ。

 黒いカラスがこの地底都市では白くなるなど日常茶飯事で、生まれてこの方軍事について学んだことなどないこの女が、軍の編成について口を出してきたことはこれまでに21回あり、そのうち6回は大幅な組織変更だった。

 元帥が、今に至るまで元帥でいられたのは、父が10人しかいない評議会員の1人だからだ。だがそれもサルメの意に染まぬことがあればどうなるかわからない——それほどまでにウルメ総本家の意向は絶対だった。


「その腐った耳くそが詰まった耳をかっぽじってよォく聞きなさい。アタシが言いたいのはねェ……あの飛行船とやらを押収しようと言い出したバカのことよ。それさえなければ飛行船の再調査なんて必要なかったし、アンタが派遣した警邏隊が負けることもなかった。そうでしょ?」

「…………」

「そうなのかッて聞いてンのよォ!」


 ゴブレットがすさまじい勢いで飛んできて、元帥の左耳をかすめて背後の壁に激突した。ぶちまけられた葡萄酒は彼の軍服を汚した。


「……はっ、その通りでございます」

「それじゃァ、後はどう動けばいいかわかるわねェ?」

「はっ」

「それじゃ行きなさい。アンタを元帥にしてンのはこういうときにちゃっちゃと動かすためなンだから」


 うー、よっこいせ、という声とともにサルメがイスから立ち上がると、どこからともなく4人の見目麗しい地底人が出てきて、


「サルメちゃん、もうお仕事終わりィ?」

「あっちでいいことしよーよ」

「俺さァ、ちょっと小遣い欲しいンだけど……」

「おいお前、そればっかじゃねーか」


 にたにたしているサルメを囲みながら隣室へと消えていく。


「…………」


 元帥はポケットからハンカチを出すと軍服を拭いて、部屋を出た。廊下に待機していたメイドたちが入れ替わりで入っていくと室内の掃除に掛かる——元帥に声を掛ける者も、その汚れた服に気がつく者もいない。いや、気がついているのに無視しているのだ。


(汚れたのは服ではなく、誇りだ)


 元帥はため息すら出なかった。

 警邏隊が負けたという事実を、あまりにもサルメは軽視している。いや、むしろ重要視されたくなかったから隠しておいたのだし、それをサルメに密告した何者かがいることも腹立たしいのだが、それはさておいても——警邏隊が負けたというのは由々しき事態である。

 地底人にとってこの都市は外敵から守ってくれる秘密基地である一方、この場所がバレたら死活問題だ。なんせ、逃げ道は限られているのだから。


(だからこそ警邏隊には手練れを多く所属させている……)


 この都市の安寧がそうさせるのか、怠け者が多く、やさぐれた半端者が人口の多数を占める地底人だったが、中でも自分の部下には選りすぐりの手練れを選んできたという自負が元帥にはある。

 それが、負けたのだ。

 話を聞けば、戦った相手はたったひとりらしい。


(そこまでサルメは知っているはずだ。だというのに、軍のてこ入れではなく、この敗北を政治に利用しようとしている)


 サルメが元帥に命じたことは簡単で、「警邏隊を差し向けることを提案した評議会員を攻撃しろ」ということだ。

 評議会は10人いるが、ウルメ総本家派閥とそれ以外の派閥は拮抗している。それ以外が、一枚岩ではないのでウルメ総本家が非常に強い権力を持ってはいるのだが、かといって独走は許されない状況になっている。

 今回のことで、少しでも敵対派閥を削れればいいと、そうサルメは考えているのだ。


(戦乱から遠ざかった数十年で、これほどまでに内向きとなったのか……。竜人族の飛行船とやらはいい刺激になったと思ったのだが)


 地底都市に漂う、異常なまでに強い「現状維持バイアス(このままでいいじゃん)」。

 だが元帥は、どうしてもこのままでいいとは思えなかった。

 だから多くの試行錯誤を繰り返している——サルメの妨害に遭いながら。


「おかえりなさい、元帥——ってどうしたんスか、その服!」

「あーあー、またあのオークがヒステリー起こしたんスね?」

「止めろ。どこにオークの密偵が潜んでるかわかんねーぞ」

「お前もオーク言ってんじゃねーか」


 オーク、とはもちろんサルメのことだ。

 軍の総本部には夜遅くまで部下が残っていて、仕事をこなしている。老若男女問わず、意欲と実力のある者を採用してきた元帥は、ここに来るとホッとする。


「——それで、今日の報告をしてくれ。ダークエルフとの戦線はどうなった?」


 元帥が報告を促すと、ひとりの女軍人がうなずいた。


「はい。連中はやはり天賦珠玉が出てくる場所を押さえているようです。正面衝突は必至かと」

「そうか……」


 元帥は歯噛みする。

 彼が繰り返した「試行錯誤」の末、これぞと思ったものが——天賦珠玉だった。

 ダンジョンからしか見つからないと言われていた天賦珠玉を、大量に発見したのだ。

 だがそこにダークエルフが現れ、散発的な小競り合いが起きている。

 このことはまだサルメは知らない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 情景描写が上手い。ストーリーも情景に乗ってすすむ、素晴らしいです。
[一言] 面白いです更新ありがとうございます!
2020/08/11 23:03 退会済み
管理
[一言] 地底世界はもっと世紀末っぽい力こそパワーな世界観かと思ってたけど、武力もないオーク女でも血筋が大事にされるレベルの秩序はある世なんですね。
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