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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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16

 休息後、偵察チームのリーダーを先頭に僕らは移動を再開した。

 距離にして50キロ以上は竜人都市から離れているだろう。

 こんなところまで偵察し、地形を把握しているのだから偵察チームの能力の高さは正直すごいと思う。


「もうすぐだぬ」


 リーダーがそう言ってから15分後、僕の鼻は焦げたようなニオイを感じ取った。

 雨が降ったらしく、森の中はムッとするような湿気と、清浄な緑の香りが立ちこめていた。

 この辺りは木々も葉が濃く、どこか赤みを帯びた陽光が木漏れ日となって降り注いでいる。


「……飛行船だ」


 木々が切れたところに——いや、へし折られ、無理矢理開かれた土地に横たわっていたのは僕があちらの世界で見た軍用飛行船そのものだった。

 木々が折れているのはこの飛行船が不時着に失敗し、ハードランディングしたからだろう。

 飛行船に使われた木材が焼け、黒々としていた。

 そして船体に張られた鋼板や、窓ガラスの破片などは飛び散って、濡れた水滴が陽光を映じていた。

 静かだった。

 だけれどそこにあるのは、確かに破滅の痕跡だった。


「確かに、君の知っているものだったかぬ?」

「はい。あっちの世界の、レフ魔導帝国が所有している軍用飛行船に間違いありません。落ちている国旗がレフ魔導帝国のものですから」

「あの残骸が元はどんなもので、どんな技術が使われていたか君にはわかるのかぬ?」

「いえ——それよりも、生存者がいないか確認してもいいですか? 生き残った人は、確実にこの飛行船の関係者ですから」

「わかったぬ」


 了承が得られるや、僕は残骸へ向けて飛び出していく。


「誰かいませんか! 僕はレフ魔導帝国に来ていた冒険者です!」


 声を張り上げ、半壊し、ナナメになった船体の中にも声を掛けていく。

 だけれど——誰の返事もなかった。

 いや、おかしなところがあった。

 血の流れた跡はあるというのに、死体がひとつもないのだ。


(どうしてだ? もしや、モンスターに食われたとか……? それにしたところで、骨ひとつ残っていないのはさすがにおかしいんじゃ……)


 僕が首をかしげながら潜っていた飛行船から出て行ったときだった。


「!」


 耳が——【聴覚強化】によって常人ならざる聴力を持っている僕の耳が捉えたのは、木材の軋むような音。それに弦が引かれぎりぎりまで伸びていく音だった。


 ——弓だ。


 偵察チームは弓を持っていない。

 ましてやレフ人たちは「鋼鉄武装(スチールギア)」などの兵器は使うが、腕力で引いて放つような原始的な弓矢は使わない。

 ハッとして振り返ったそこへ、風を切って飛来する矢があった。

 今まで見た中でも相当に速い。

 魔法は間に合わない。

 僕は半身をひねってそれをかわすと、矢は、僕の背後の船体に突き刺さってビィンと音を立てた。


「——・・・!」

「・・・————!!」


 太い木の枝に立っている。

 人だ。草や枝でカムフラージュしたフードをかぶっている。

 次の矢をつがえている——瞬間、僕はロケットのように走り出した。


「!?」


 ジグザグに走って突っ込んで行く。敵の挙動に動揺が見える。

 それでも矢の次弾は過たず僕へと飛来するので射手の腕はかなりのものだ。まあ、まとわせた【風魔法】で軌道を少しずらせば当たることはないのだけれど。


「マズいぞ」

「迎撃!」


 僕が10メートルの距離まで接近したときには、迷彩服(ギリースーツ)っぽい服装の敵がひらりひらりと5人ほど、上から降りてきた。弓を持った1人は上に残り、狙撃に徹するらしい。

 まあ、させないけど。


「そらぁっ!」


 僕は【補助魔法】と【身体強化】全開で地面を蹴ると、降りてきた彼らを軽々飛び越えて、木の枝に立つ射手へと迫った。

 突然の跳躍に驚いた射手は——それは、青白い肌に赤い目の、ヒト種族に近い感じだった——あわてて弓をこちらに向けたけれど遅すぎる。

 跳び蹴りを胸にくれてやると、敵は吹っ飛んで地面に落下、見事にバウンドした。


「ッ! クソッタレ!」


 敵のひとりが両手を開いてこちらに向ける——と、そこには岩石が現れる。


(え、【土魔法】?)


 ぎゅるるると回転したそれは、


「死にさらせェッ!」


 すさまじい勢いで射出され、僕の頭目がけて突っ込んできた。

 だけど——まあ、自分の魔法で慣れているわけで。


「んなァッ!? かわしよったぞ!」

「なんなんだ、あいつは! 肌を黄色く塗りやがって!」


 塗ってない塗ってない。

 僕は距離を一気に詰めると、振りかぶってきた曲刀をかわし、膝蹴りを腹にめりこませた。


「ふぐおォッ!?」


 次は、と……。

 僕が残り4人へと視線を向けると、


「ひィッ」


 4人とも後じさりして逃げようとする。

 さて、どうするか——と思っていたときだ。


「おいィ、てめえ、こっちを見ろや!」


 離れた場所から別の男の声が聞こえた。


「この男がどうなってもいいのか! コラ! あァッ!?」

「す、す、す、すみませんっす〜〜……」


 偵察チームのメンバーのひとりが、後ろから羽交い締めにされていた。

 しくじったな。ここだけじゃなく他にも敵がいたのか。

 ちらりと見ると、曲刀を突きつけられた偵察チームのリーダーと、もうひとりのメンバーの女性竜人は陰に潜んでいる。うまいな、見つかってない。

 ……いやむしろ君、どうして見つかったの? 偵察チームなのに……。


「武器を捨てろ、てめえ!」

「いや、最初から武器持ってませんけど」

「あァッ!? 口答えすんのかコラァ!」

「いや、事実……」

「黙れオラァ!」


 ヤバイ、会話が通じない。アレか、山賊タイプか。


(この世界に3種族しか残っていないのなら……この人たち、たぶん「地底人」だよな)


 地面にのびている敵を見ると、フードが外れて中の顔が見える。耳はヒト種族と同じで丸い。髪の毛はちりちりのブラウンだった。


「てめえは竜人の仲間か!? この残骸は俺たちが先に見つけたんだよ!」

「……ここにいた方たちを連れていったのはあなたがたですね?」

「だったらなんなんだァ? 竜人ども、ここんとこ接点はまったくなかったが、いきなりこんなドデカいもんで攻め込んできやがって……どうなるかわかってンだろうな、おォ!?」


 あ〜〜、そうか、レフ人は竜人にそっくりだから、竜人が巨大兵器を使って攻めてきたって思ってるのか。


「ん、ということはあなた方の集落はこの近くにあるんですか?」

「集落じゃねえ! 町だ! ビッグシティだ!」


 正解らしい。


「大体てめえ、知っててここまで来たんだろ!?」

「いや、僕らは——」

「いいから来い! おい! そいつをふん縛れ!」

「へい」


 僕と相対していた4人は警戒しながら近づいてくる。


(どうしよう……とりあえずついていってみようかな。予定とはだいぶ違うけど、地底人にも独自の情報があるだろうし)


 僕ひとりならどうとでもなるけど、偵察メンバーもいっしょだとちょっと面倒かもしれない。


「あのー。僕が人質になるので、彼を解放してもらえますか?」

「あァ!? なに舐めたこと言ってンだ! 命令できんのはこっちだ!」

「命令じゃないです。交渉です」

「笑わせンな! ボケ! アホ! バーカ!」


 語彙がヤバイ。なにがヤバイって会話がヤバイ。僕の語彙までつられてヤバイ。


「わかりました……それじゃあ」


 僕は右手を突き出した——曲刀を突きつけられている仲間へと。


「風よ」


 即座に【風魔法】を発動し、突風を起こす。


「っく!? おおおおお!?」

「ぎゃあ!」


 ついでに【土魔法】も混ぜれば砂塵を巻き上げ目隠しになる。雨上がりでなければ地面の砂をそのまま使えたんだけどな。

 羽交い締めから逃れた彼へと僕は告げる。


「逃げてください〜」

「わ、わかったっす!」


 目に砂が入ったのか、涙で目をしょぼしょぼさせていた偵察メンバーだけれどなんとか走り出す。あとはリーダーがうまく連れて行ってくれるだろう。


「お、追え! 逃がすな!」

「いや、面倒ごとが増えるので逃がしてやってください」


 僕が再度魔法を使って煙幕を張ると、彼らはびくりとして立ち止まった。


「僕が代わりに人質になると言ったでしょう。ね?」


 にっこりと、無害をアピールするために微笑んで見たのだけれど、地底人たちはぎょっとした顔で後じさりするのだった。

 いやいや、ちゃんと縛ってください。そして僕を地底人の町へと連れてってくださいよ。

 楽しみだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです更新ありがとうございます!
2020/08/07 21:25 退会済み
管理
[一言] やべえ実力者が黒い笑みで、ね? っとかやられても怖気が走るだけで逆効果だと思うけどねw
[一言] 炎の化身の家庭訪問の始まりの予感
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