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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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3

 キミドリゴルンさんが住んでいるのは湖畔にたたずむログハウスだった。

 ウッドデッキにはテーブルセットとカウチがあり、湖にすぐ出られる小舟まで備えたなかなかしゃれた家だった。

 正直——「変わり者の一軒家」「マッドな研究施設」ということで掘っ立て小屋、まさか洞窟……!? だなんて想像を巡らせていた僕には驚きの住居だった。


「まあ、遠慮せず入るがいいぬる」


 ちら、ちら、とこちらを見ながら勧めてくるキミドリゴルンさんは、どうやら僕らに来て欲しいようだ……いやさ、会ったばかりの人をそんな簡単に招き入れてもいいわけ? むしろこっちのほうが警戒しちゃうよ。

 ふつうならアーシャに先に入ってもらうのがエスコートの基本だけれど、なにがあるかわからないから警戒心バリバリで僕が先頭を切った。


「……ふつうだ」


 思わず声に出た。

 暖炉があって、ベッドがあって、4人掛けのテーブルがある。テーブルには、無骨ながらも銅製のポットやマグカップが置かれてあった。

 すっきりしていて広く、清潔感がある。

 ただ外よりも気温が高く、むわっとした蒸し暑さがあった。変なニオイはしないからいいのだけれど。


「さ、さあ、まずは食事にするかぬる? 身支度を整えるかぬる? それとも——研究内容?」


 新妻か。ご飯にする? お風呂? それとも、あ、た、し? みたいな言い方するなや。もじもじそわそわするなや。


「すみませんが、僕らはまずはこのあたりの情勢について聞きたいのですが……」

「ふうむ。研究成果の情勢についてとな。熱心熱心、結構結構ぬら!」

「…………」


 アーシャ。僕は悪くない。だからそんな困ったような顔で僕を見ないでくれ。


「わかりました……うかがいましょう」

「ふううん! では少々待ちたまえ!」


 鼻息も荒く奥の扉から続きの部屋へと飛び込んで行ったキミドリゴルンさんは、すぐに一抱えの金属製魔道具を持って戻ってきた。


「見るぬら!」


 ごろごろん、とテーブルの皿に置かれたのはふたつの卵だった。鶏卵Lサイズよりも二回りほど大きく、黄色い殻に紫色の水玉模様。ここが地球だったら「イースターエッグかな?」と思うだろう代物だ。

 模様は若干違うけれど、見た目はほとんど同じ2つの卵である。


「これは?」

「チョチョリゲスの卵だぬ。知らないのか?」


 知らなかったけれど、あまり知りたいとは思えなかった。【森羅万象】を通して見るとこの卵を産んだ鳥の姿も見えるのだけれど、首が3つに尻尾はミミズという、なかなかファンキーな見た目の鳥だった。ミミズ部分を地中に突っ込んで卵を産むらしい。卵は非常に栄養価は高いが、食べ過ぎると中毒症状を起こすとか。以上、今後役に立たないであろう無駄知識。


「これぞ我の研究成果たる魔道具だぬ」

「ふうむ?」


 一抱えほどもある金属の土台は、先ほどテーブルに置かれたときの音を聞く限りめちゃくちゃ重そうだ。

 中心には金属製の皿があり、左右に魔石をはめ込む穴があった。


「この卵を、ここに置く……すると」


 ごと、と卵が置かれた瞬間、皿と土台とに、緻密に描き込まれた魔術回路が光とともに浮かび上がる。


「————」


 僕の横でアーシャが目を見開いた。

 光が収まっていくと——さらに文字が浮かび上がっていた。


『生存』


 と。


「?」

「?」


 僕とアーシャが「?」を頭上に浮かべて視線をかわしていると、次の卵が載せられ、またも同じように魔術回路が発動した。

 次に浮かんだ文字は、


『ゆで卵』


 だった。


「ふっふっふ……ふはははははははははは! どうだ! 驚いたぬら!? これぞ完成形! その卵がゆで卵かどうかを判別する魔道具、『ゆでたかどうか判別デッド・オア・アライブ君』なのだァッ!!」


 キミドリゴルンさんが高笑いとともに。

 両手を広げ。

 声は狭いログハウスに響き渡り。

 湖畔を伝ってきっと遠いところまで音は届き。

 直後に、耳に痛いほどの静寂が舞い降りた。


「……あの、卵は平らなところに置いて回転させて、くるくるくると素早く回ればゆで卵、ゆったりもったり回れば生卵じゃないですか?」


 僕が実演して見せると、2つの卵の回転は明らかに差があった。もちろん、先ほどの魔道具の結果と同じだ。


「…………」


 キミドリゴルンさんは両手を広げたままの状態でカッと目を見開き、口を大きく開け、ヨダレをつぅぅと垂らしていた。




 キミドリゴルンさんは無言で「ゆでたかどうか判別君」を片づけ、僕らにお茶を出してくれたあと、夕飯にとスクランブルエッグとゆで卵を出してくれた。主食は、イモをふかしてつぶしたもので、そこに塩を振る。

 そんなものでもとても美味しくて、僕らはしっかりごちそうになってしまった。


「それで……君らはこの辺りのことを知りたいんだぬる?」


 ようやくキミドリゴルンさんが言葉を発してくれた。


「あの、なんか、ごめんなさい……」

「いやッ! いいよッ! 別にあの研究に2年も掛けたのに、とか、実家にお金借りたのに、とか我は思ってないからさッ!」


 ツーンとそっぽを向いて言い放ったキミドリゴルンさんに掛ける言葉が見つからない。くそぅ、誰か、誰か、ゆで卵の判別方法くらい教えといてやれよ! いや、人里離れたところで暮らしてるこの人に非があるんだったわ……もうどうしようもないじゃん。


「それで……我ら、竜人族の話だったぬ」

「竜人族、とおっしゃるんですか」


 とアーシャがたずねると、


「? 君らの里でだって当然我らの話をしているだろう? そんな常識すら教えてもらえなかったのかぬ?」

「うぅん……僕らはちょっと特殊な事情がありまして」

「……そうか。地底人とダークエルフは種族意識が強いぬる。苦労したんだな……」


 なんか同情された。「まあ、2年に渡る研究を一瞬で粉々にされた我のほうがつらい思いをしたんぬれ」とか恨みがましく付け加えつつ。


「地底人やダークエルフよりも竜人族は数が多いぬ。おそらく今は、1万人を超えたんじゃないかな……」

「いっ、1万!?」

「ふはは。驚いたかぬる? 竜人族はモンスターとの戦いでも強く——」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 僕は思わず大声を出していた。


「あの……確認ですが、その地底人、ダークエルフ、竜人族……以外の種族はどうなっていますか?」


 するとキミドリゴルンさんはきょとんとして——それは僕のイヤな予感を裏打ちするかのような表情で——こう言ったのだ。


「それはもちろん、3種族しかいないだろう? もう何百年も前に滅んだじゃないかぬ」


 と。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ふっふっふ……ふはははははははははは! どうだ! 驚いたぬら!? これぞ完成形! その卵がゆで卵かどうかを判別する魔道具、『ゆでたかどうか判別デッド・オア・アライブ君』なのだァッ!!」 …
[一言] この世紀の大発明がこの章のクライマックスで重要な役割を果たすと思う。
[一言] 世界が分断されたのか どうやってかは知らないけどw
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