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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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今日も朝昼夕の3回更新予定です。

 魔法を使ったことによる魔力の減少は、あたかも血圧が一時的に下がったような立ちくらみを発生させる。僕は気を失ってしまったらしい。同じ失敗を2度もしてしまうとは……。


「レイジくん、天賦珠玉がなくとも初歩的な【花魔法】は使えるようになるべな!」


 しょげる僕とは裏腹に、ミミノさんは上機嫌だった。

 気絶している間にチャコールウルフの処理は終わり、僕はダンテスさんに背負われて移動していた。今は、食事も終わってミミノさんの薬草茶をいただく寝る前の時間だった。

 ちなみに今夜のメニューも干し肉。超美味いんですけど。ライキラさん、そんなにマズそうに食べるなら僕がもらいますよ?


「そ、そうですかね……?」

「うんうんっ。わたしが最初に【花魔法】を使ったときよりずっとすごいんだもの。これで天賦珠玉があればいっぱしの【花魔法】使いになれるべな!」

「その前に魔力量増やすスキルがねーと意味ねーだろが」


 ライキラさんが口を挟んでくる。薬草茶が嫌いらしく、お茶は断り、苦みのある味がする草の茎を噛んでいる。


「そうは言うけどねぇ、ライキラ。【魔力量増大】の天賦珠玉はとんでもなく高価(たか)いんだよ?」


 ミミノさんが言うには、彼女の持っている【魔力強化★】【魔法適性強化★】は出現頻度が高いために安く販売されており、【魔力量増大★】は星3つと同じくらいの金額で取引されているという。

 星が少ないほど出現しやすいのは事実なのだけれど、確かに僕とラルクが3年間発掘してきた中で【魔力量増大★】は一度も見たことがないな。同じ星の数でも出やすさが違うんだろう。

「魔力量」はRPGで言うところの「MP」かな。これが多ければたくさん魔法を撃てる。僕はメチャクチャ少ないんだろう。


「ちなみにな、【魔力量増大★★】は『雪風の賢者』とも呼ばれた大魔導師(ウォーロック)様が使っていたみたいで、【魔力量増大★★★】は発見された記録はあるものの、どこかの国で厳重にしまわれて管理されているんだとか」

「へー。同じ種類なのに星が増えるんですね」


 ヒンガ老人からその話は聞いたことがなかったな。


「そうだよ? ちなみに【魔力強化★】を2つ装着するよりも【魔力強化★★】1つのほうが効果が高いんだよ?」

「へえー!」


 それもそうか。星1つを2つくっつけて、星2つと同じ効果があるなら、星2つの天賦珠玉なんてなんの意味もないもんね。


「そう言えば、ミミノさんも持っていた【魔力強化】にはどんな意味があるんですか?」

「単純に魔法の威力が上がるべな」

「【魔法適性強化】は……?」

「魔法を使える幅が広がるって感じかなー。それで【魔力操作】は魔法を発動するときにいろいろと細かい融通が利くようになる」


 なるほど。

 入手のしやすさと使い勝手の良さを考えた上で、ミミノさんはスキルを選んだって感じか。


「……魔力量は、魔法を使っていれば増えるんですか?」


 ここが重要だ。僕は今のところお金もないし。


「それがねえ……よくわからないんだべな」

「わからない?」

「レイジくんが言ったみたいに『使えば増える』という人もいるし、『年齢で増える』という人もいるし、『肉体が成長すれば増える』という人もいてな。果ては『種族によって違う』なんていう人もいるもんだから……わからない」

「あらら……じゃあ、僕はこの先どうなるかはわからないですね」

「でも、使う練習はしておいたほうがいいね。他の魔法を習得するにしても役に立つしな!」

「はい!」

「がんばろー!」

「おー!」

「…………」

「……………………? どうしました、ミミノさん?」


 じっ、とミミノさんが見てくるので僕はなんだか居心地が悪い。


「いやさ、レイジくん、ほとんどなにもわたしが教えてないのに魔法を使えたな、って……わたしだってお姉ちゃんに結構仕込まれたんだけどな」


 ミミノさんにはお姉さんがいるようだ。

 僕の姉……ラルクは今ごろどうしてるかな。


「あ、そ、そうですね!? おっかしいなー、使うのは初めてなんですけどね、いやほんと」


 じろっとライキラさんが疑わしそうな目で見てきたけれど「あは、あはは」と僕は適当にごまかすしかない。この世界の常識がよくわからない! 助けて、【森羅万象】! ……はい、わかってた。返事がないことくらい。そういう便利なスキルじゃないからね、君は。


「いやあ、もしかしたらレイジくんは魔法の才能がすごいのかもな!」


 ミミノさんはそう言うと、うれしそうに笑った。




 それから僕は【花魔法】の使い方をいろいろとミミノさんに教わった。だけれど、僕の魔力量が足りなくて発動できないものばかりだった。【土魔法】も同様だ。それでも——いつか魔力量が増えたら使えるようになるかもしれない。だから、僕はじっと見つめて勉強した。

【魔力強化】、【魔法適性強化】、【魔力操作】はコピーできたのかどうかよくわからない。そもそも魔力が足りなくて魔法を使えていなかったからね。

 枝を生やして足場を作る魔法。逆に枝を消す魔法。草を操り転ばせるトラップを作る魔法。ツタで相手を締め上げる魔法。トゲを飛ばす攻撃魔法。花粉で眠らせる魔法——。

 土の壁を作り出す魔法。落とし穴を作る魔法。石を割る魔法。金属の硬度を一時的に増す魔法。土を固めて射出する攻撃魔法。地面の揺れで敵の位置を把握する魔法。洞窟の壁面や天井を補強する魔法——。

 実は、ノンさんが毎晩ダンテスさんに掛けている治療の魔法についても僕は使えるようになっていた。その魔法は身体の活性を高めて自己治癒能力につなげる魔法なので、僕は擦り傷程度なら治せるようになった。

 一方で、ダンテスさんが振り回すベンチのような大剣や、ライキラさんの身のこなしについては使えるようにはならなかった。そもそも大剣どころか刃物すら僕は持っておらず、(のみ)ではその代用品にもならないからだ。ライキラさんのほうは……わからない。【脚力強化】か【蹴術】なんだと思っているのだけど、僕はその真似ができないのだ。どうしてだろう? 獣人が持ってるそもそものポテンシャルなんだろうか? だとしたら獣人ってだけでチートじゃない?

 ライキラさんが自分のスキルについて教えてくれれば解決しそうだけれどもちろん教えてくれるわけもなく、僕からも聞くことはなかった。

 ただダンテスさんとノンさんは教えてくれたっけ。


 ダンテスさんのスキルは、こうだ。


【腕力強化1・背筋力強化1・腹筋力強化1・手先が器用1・大剣術2・免疫強化2】


 僕は【手先が器用】なんて天賦珠玉、自分で何度も発掘したことはあったけれど実際に使う人がいるとは思わなかったよ……。聞いてみると、実は使い勝手がいいらしく、装備品や道具の修理、料理をするのにも役に立つんだとか。

 スキルの世界は奥が深い(2回目)。

 そして星2つの中でもレアな【免疫強化】は石化に掛かってから有り金を全部使って買ったらしい。元々持っていたスキルを「破壊」して、新しいスキルを手に入れたところで無一文どころか借金をしたのだとか。

 スキルの「破壊」は専門の人にお金を払えばやってもらえるようで、【オーブ着脱】と違い、なくすだけなのでたいした金額ではないんだって。

 ともあれ【免疫強化】のおかげでそれで石化の進行を食い止めることができ、冒険者として活動再開できるようになって借金を返したとダンテスさんは言っていた。


 ノンさんのスキルは、こうだ。


【神感強化1・祈祷術1・回復魔法2・補助魔法2・神聖魔法2】


 すべて「神秘特性」の天賦珠玉だ。ノンさんは着ている服が修道服っぽいなと思っていたけれどそのものずばり修道女だった。ダンテスさんが石化に掛かったと聞いて、一時的に教会を抜けてお父さんのところへと飛んできた。

 教会は「神秘特性」の天賦珠玉を国から配布される。ノンさんは修道女になる代わりにお金を払わずにこれらのスキルを得られたと言っていた。逆に修道女を辞めることはほぼ不可能で、ダンテスさんの石化みたいに特別な理由があって、ようやく一時的に抜けられる程度だ。

【補助魔法】や【神聖魔法】は見てみたいんだけど、まだ見たことがないくらいには「銀の天秤」はモンスターを相手にびくともしない。

【祈祷術】はなにに使うの? と聞いたら、「よりいっそう神に感謝の念を送れます」と真顔で返された。

 この世界、スキルが多すぎない? やはり奥が深い(3回目)。

 僕のいた鉱山も含め、この世界には全部で8か所の天賦珠玉の出現ポイントがあるのだから毎日すさまじい数が産出しているんだよね……とはいえ鉱山は、今は操業停止なんだろうけれど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今は使えなくても今後役に立つんでしょうねぇ
[気になる点] スキルを破壊できるのって合意の上なのだろうか.......?
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