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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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     ★  ムゲ  ★




「くぁ〜〜今日だけで一年分の来客がありましたよ……」


 くてーとテーブルに伸びているのは商会主のムゲだった。その彼の目の前に、コツ、とカップが置かれる。つんとする果実の香りがするので、ジュースを入れてきてくれたのだろう。

 外はもう暗くなっていたが、室内は蒸し暑い——まるで今日一日の熱気を閉じ込めているかのように。


「こりゃ、すんません、ノンさん」

「いえいえ。お疲れのようですし、【回復魔法】を掛けておきましょうね。身体をほぐすものなので害はありませんよ」

「いやはやうれしいですねえ」

「うふふ。これも護衛任務のうちですから」

「ダメですよ、条件を引き上げようとしたって!」


 笑いながらムゲは言いつつ、カップからジュースを飲んだ。甘すぎず、冷たい飲料が一日の疲れをほぐしてくれる。ノンがムゲの後ろに回って両肩に手を置いて【回復魔法】を使うと、じわりじわりと疲れが染み出していくように感じられた。日本人が温泉に浸かるときの「あ゛ぁ〜〜生き返るゥ〜〜!」というヤツだ。


「あ゛ぁ〜〜」


 ムゲも思わず声が出た。


「あれ、そう言えばダンテスさんは……」

「父は私が帰ってきたので入れ替わりで出て行きましたわ」


 はー、と娘のノンがため息を吐いているあたり、ダンテスは酒場にでも繰り出したのだろう。

 種族の垣根を越えて誰とでも仲良くなれる男ではあるが、「憎悪の迷宮」「狂気の迷宮」「同情の迷宮」に同行しているパーティーのいくつかが街に戻ってきているという情報もあり、冒険者仲間と情報交換をしに行ったという側面もあった。

 もちろん、「酒が好き」というのがいちばんなのだが。


「今日は何組くらいお客様が?」

「そうですねぇ……20数組だとは思うんですが、数えてはいませんな」

「そんなに」

「それだけ、『銀の天秤』の皆さんが持ってきてくださった戦利品に価値があるということですわ。あっはっは」


 今日の来客はすべて、「畏怖の迷宮」から持ち帰った魔術・機関部分や素材の買い取り希望者である。

 一通りの希望を聞いて、あとはムゲが差配するつもりだった。

 日中はこうして来客があるので、ムゲの自由時間は今から、ということになる。


「今日も徹夜で調べませんとな! 売り物を私が把握していないなんて、笑い事にもなりません。あっはっは」

「……もう、ムゲさんも無理をしてはいけませんよ? 私は先に休みますので、なにかあったらすぐにお知らせください」

「はい。ありがとうございます! ……あ、そう言えばレイジさんはいますか?」

「レイジくん、ですか? 見ていないような……なにかご用ですか?」

「ああ、いえ、いいんです。たいしたことではないので」


 ノンが去ったあと、ムゲはしばらく書類整理をしていたが、ふとレイジのことが気になった。実は彼に任せておいた猫チャンにいくつか修復箇所があり、迷宮内で直してくれたらしい。もしも彼が魔道具に詳しいのなら、戦利品の分析にも協力してもらえないか——と思ったのだ。


「レイジさ〜ん」


 冒険者パーティーに貸している倉庫へと行き、男子部屋へと入ったムゲ。だがそこにはレイジも、ダンテスもいなかった。


「こんな遅い時間まで、レイジさんも夜遊びですか? ——ん?」


 ムゲはふと、テーブルの上に置かれていた紙に気がついた。

 それはレイジが「畏怖の迷宮」内で見た石版の写しだ。


「んん? これ、レイジさんが書いたんですかね……どれどれ、ええと、なんだっけな。これ、これ。難しい単語だな……こうか?『原初、世界は1つであり、2つに分かたれた』……?」


 内容に目を通していくムゲの手が——震えた。


 最初の絵は背を向け合うふたりの女性——『原初、世界は1つであり、2つに分かたれた』。

 2つ目の絵は8つの丸が等間隔に並び、それが2セットあるために16個の丸となっている——『天賦は2つの世界で1つ、偏ることがあってはならない』。

 次は扉を通り抜ける男——『偉大なる魔法使いは、世界を超えた』。


「『偉大なる魔法使い』……『九情の迷宮』を作ったラ=フィーツァは自分のことをそう呼んでいたはず。ラ=フィーツァは世界を超えた。世界を超えた。世界を超えた……? ラ=フィーツァは別の世界の人間(・・・・・・・)だった……?」


 次は思い悩む男。

 次は9つの扉。

 次は9つの扉が、開いているように見える。

 最後の絵は、最初の2人の女性が今度は向き合い、伸ばした手と手が触れ合っていた。


「ちゃ、ちゃんと調べたほうがいいのでは!? これは『畏怖の迷宮』のものですよね……!?」


 ムゲは部屋を飛び出すと、寝ようとしていたノンと、すでに眠っていたミミノを起こした。ゼリィはいなかった。

 この、レイジの残したメモの重要性を話しながら、3人はムゲの母屋に保管されている簡易版の古代語の辞書を引っ張り出して内容の解読に当たった。




     ★  「畏怖の迷宮」  ★




「九情の迷宮」を研究する専門チームは、「畏怖の迷宮」の最奥の調査に当たっていた。趣味の悪い「デスマスクの壁」を抜けた先にその部屋はあり、最重要事項として石碑の調査に当たっていた。


「ふーむ、この石碑が、魔術に関する情報をもたらしてくれているようだが」

「どうも不完全ですね。断片的な情報だけが与えられている気がします」

「そうか? 私は、この言葉を解する能力が不足しているだけではないかという気がするが」


 10人を超えるチームは、狭い部屋でやいのやいの言い合っていた。


「あ、あのぅ……やはりここを踏破した冒険者の話もヒアリングしたほうがいいのではありませんか……?」


 いちばん年若の、少年のように声の高い男性研究員が言ったが、


「バカ者。素人の意見など意味がない」

「ここのすばらしい魔術式を理解できるわけがないだろ、ヒト種族に」

「そんなことよりさっさと測量を続けろ」


 取り付く島もない回答だった。


「は、はいぃ……」


 その研究員は測量用具を持って狭い部屋を四つん這いで抜け出て行く。後ろでは、研究員たちが石碑の前でまたも議論を交わしていた。


「とりあえず解読できていない魔術式ですがいくつか実行してみましょう」

「やってみて、実証的に確認するということか?」

「そうです、そうです。今までそれで迷宮が崩壊したとかそういうことだってなかったでしょう」

「ふーむ、一理ある、か……」


 細い通路を抜け出ると、議論の声はほとんど聞こえなくなった。研究員は「デスマスクの壁」を気味悪そうに見上げ、ぶるぶると首を横に振った。


「さて、仕事仕事……っと」


 測量用具を持って進もうとしたそのとき、ごごごご……と迷宮全体が震えるような地響きがあった。


「!? な、なに、これ……」


 地響きはすぐに止んで、それ以降はなにも起きなかった。先輩の研究員が「おーい、そっちも揺れたか!?」と聞いていたがその程度のものだった。

 彼らは迷宮に籠もっていたせいで知らなかった。

 帝国を揺るがす大事件が、自分たちによって引き起こされたということを。


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― 新着の感想 ―
[一言] ムゲさんがいい仕事しそうだな。
[良い点] うーん…おもしろい!
[気になる点] この学者共迂闊過ぎない? 普通どんな影響が出るのか分かったもんじゃ無い魔法を未だ攻略した本人しか詳細を解明しきれてない、しかもダンジョンなんていう閉塞的な空間で使う? 下手すりゃ崩落…
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