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今日は出社しなければいけないので短いです。
しかしもう2020年が半分終わったってマジ……?
それから僕はルルシャさんといろいろな話をした。ヒンガ老人のことはもちろん、ルルシャさんがどう過ごしてきたかということを。ミミノさんやノンさん、ダンテスさんも出てきて朝食を取りながら話をした。ゼリィさんは寝てた。
ルルシャさんがヒンガ老人と会ったのはほんとうに小さかったころで、それ以降はまったく会わなかったのだという。というよりヒンガ老人の行方が知れなくなった。
当時はいまだフォルシャ王国があり、ルルシャさんの母も健在だった。その後の動乱で王国はなくなり、ヒンガ老人とも連絡が取れなくなった——ということらしい。
「……いろいろな話を聞けて楽しかった。まだしばらく帝国にはいるのかい?」
ルルシャさんに聞かれ、僕はダンテスさんを見た。
「そうだな。次の目的地が決まるまでは……といったところか。ただそう長くはないと思う」
「ルルシャさんも、もう少しゆっくりしていけばいいじゃないですか」
「それがそうもいかないんだ。今日から職場復帰だからな」
どうやら迷宮攻略4課の立て直しをしなければならないらしい。それでも、ルルシャさんの表情は明るかった。迷宮攻略課に戻れることがそんなにもうれしいのかな——と思っていたのだけれど、お父さんもお母さんもいないこの国で、自分の居場所があるということがいちばんうれしいようだ。
お昼前に、ルルシャさんは帰っていった。
「……強い人だなぁ。わたしなら、しばらく休みたいって言うべな」
ぽつりとミミノさんが言った。
心が強いだけで、大丈夫かなと心配になる。
【森羅万象】で彼女の身体を見て気づいたことがあったのだ。レフ人とヒト種族のハーフである彼女は、天賦珠玉を使えないようだ。でも見た目はヒト種族なので、この国ではやはり特別な存在だ。これからも多くの困難が待ち受けるのだろう——。
(でも、理解者もいる)
ルルシャさんがここにいる間ずっと、離れた物陰からこっちを見ていた人影があった。その人は去っていくルルシャさんの前へと回り込むように去っていったから、話しかけるか、あるいは見守るだけのつもりだったのだろう。
(なにを心配してたんだか……僕らがルルシャさんを傷つけるわけもないのに。いや、もしかしたらルルシャさんが帝国から出て行くのを心配してたのかな)
その人は——アバは、最初こそ「ロロロ商会」の回し者かと思ったけれど、常に公平に判断してくれる人なのだと今は理解している。水飴をチュパチュパしているのはどうかと思うけどね。
ルルシャさんとアバがどういう人生の交わり方をするのかはわからないけれどそれもまた平坦な道ではないだろう——なにせルルシャさんのお父さんは、アバのかつての上司で、この国の英雄みたいな人なのだから。
一躍有名人に、そして大金持ちになったムゲさんの護衛のためにダンテスさんがついていると言い、ミミノさんは使い切った薬剤の調合をするという。ノンさんも教会ボランティアに出かけたので僕はひとり倉庫にこもった。ゼリィさんはさっき起きてきてどこかに消えた。
「畏怖の迷宮」で見た石板の内容を書き写しておこうと思ったのだ。
言語の習得は記憶だけではできないので、だったら、古語を読める人を紹介してもらって解読してもらったほうが早い。解読したところでなんの役にも立たないかもしれないけれど、遺跡に残されたメッセージを読める……となったらちょっとはワクワクするじゃないか?
紙とペンを用意してさらさらと書き写しながら、手が勝手に動くことに気がついた。どこかで【書術★】みたいな天賦を学習していたのかもしれない。きちんと観察していれば勝手に学習しているけど、自分で使ってみなければわからないというのは【森羅万象】のもどかしいところだ。
(そう言えば、アナスタシア殿下はどうしてるかな)
特異体質のことを記したメモを渡したのは昨日だ。もしも殿下が、自分の体質を克服できたらすばらしいことだと思う——喉の、ものものしい包帯を取ることができるんだし。
(どんな声なんだろう)
きっと鈴を転がすような可愛らしい声なんだろうなぁ。いや、ハスキーヴォイスでも魅力的かもしれない。ギャップ萌えと言うヤツである。
というか何歳なんだ? 見た目は僕と同じかそれより小さいくらいだけど、でもエルフ種族って長命なんだよなぁ——。
そんなことを考えながらすべて書き上げた僕は、だいぶ熱中していたらしい。
「——おい、冒険者」
「わあ!?」
部屋の入口に立っていたのは誰あろう、アナスタシア殿下の執事だ。あの感じ悪い人である。
「殿下がお呼びである。ついてこい」
「いやちょっとちょっと、勝手に入ってきてなんですかあなた!」
「なんだ、アナスタシア殿下のご依頼を聞けないのか? それならそれで構わん。身の程知らずにも貴様が断ったとお伝えするだけだ。いやはや、害虫を遠ざけられてよかったよかった——」
「……行きます」
「なんだ? なにか言ったか?」
「行きますって! もう!」
殿下直々の依頼だったら、たぶん、特異体質のことを聞きたいのだろう。
それなら直接会って、いろいろと教えてあげたい。いくらこの感じ悪い人が腹立たしくとも……ていうかたぶんこの人、殿下の体質のこと知らないんだろうな。
「? なんだ、貴様。こちらをじろじろ見て」
「いいえ。別に。ただあなた、殿下がどうして僕を呼ぶのか知らないんだろうなって」
「!?」
図星だったらしい。少しだけ気分がすっきりしたぞ。
「さっさと来い!」
「あ、ちょっと! ああ、どうしよう、道具袋だけでいいか、持ち物」
書き終わった古語と絵もそのままに、僕は執事にくっついて倉庫を飛びだした。




