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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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「うふふ」


 アナスタシア殿下がお帰りになってから、なんだかノンさんがおかしい。


「うふふ」


 含み笑いをしながら僕をちらりと見てくるのだ。

 いつもの冒険装束に戻った僕らは、ミミノさんたちに合流すべく迎賓館を後にした。もう……こんな豪華なところで寝泊まりできることは一生掛かってもないかもなぁ。そう思うと名残惜しい気持ちもあるのだけど、でもここでは熟睡できない貧乏性でもあるので気分を切り替えさっさと出る。


「うふふ」

「……あのー、ノンさん?」

「うふ。なんですか?」

「その笑いはなんなんですか……?」


 強い日射しが照りつける街を歩く。すっかり夏の陽射しで、なるべく日陰を選んで歩いていくと、レフ人も当然日陰を選ぶので、異邦人である僕らが気を利かせて日向にどくようにしている。

 するとレフ人は「おっ、こりゃどうも」というふうに顔を上げるのだけど、僕らがヒト種族だとわかると怪訝な顔をしてまたぐったりとうつむくのだった。

 やっぱり汗腺ないのかな? 変温動物? とかどうでもいいことを思う。


「そりゃぁ、もう! レイジくんも隅に置けませんねぇと思ったら、お姉さんうれしくて」

「えぇ……?」


 なんか妙なこと言い出したぞ。


「先ほどアナスタシア殿下にお渡ししたの、恋文でしょう?」

「…………」


 なんか妙なこと言い出したぞ!?


「憧れる気持ちはわかりますよ。高貴な御方で、しかも気さく。レイジくんのやってくれたことに感謝もしてくださっています。でもねぇ、やっぱりこういうのは身分の差というのがあってですねぇ……あっ、でもでも、身分の差を超える恋っていうのもいいですよね!」

「あのちょっと?」

「うんうん! 私は応援します!」


 私設応援団宣言をされましても。


「あのぅ、猛烈に勘違いされているようなので一応訂正しますが——」

「あっ、ミミノさんが聞いたらどう思うかしら……もしかしたらジェラシーしちゃうかも……?」

「余計なこと言わないでくださいねほんと!?」


 僕はそれからあわててノンさんの勘違いを正した。アナスタシア殿下にお渡しした内容は、殿下の体調(・・)に関わることであることを。

 殿下の特異体質については実は初めてムゲさんの商会で会ったときにわかっていたのだけれど、こちらから切り出すものでもないだろうと思っていた。

 今回はスカーフが薄めで、そこに透けて見えた魔術の内容がなんだかちぐはぐだったので、僕は異変に気がついた。


 ——もしかしたらこの人、無理矢理言葉を使わないようにすることで体質を封じ込めているのでは?


 と思ったのだ。

 僕も【森羅万象】がそういう診断を下してなお、殿下の体質はとんでもなく珍しいなと思った。身体の細胞のひとつひとつが【火魔法】に最適化されている——とでも言えばいいのか、言葉のように外側へとなにかを伝えようとすると、それが炎になって現れるのだ。

 さらにはハイエルフの王族だからか、とてつもない魔力を持っていた。

 殿下が本気で【火魔法】を使ったらとんでもないことになるぞという予感があった。

 ただ、その体質は魔力操作系のトレーニングを積むことで制御できるようになるはずだ。僕はそれを、スィリーズ伯爵が「審理の魔瞳」をコントロールしていることで確認しているし、エヴァお嬢様も【魔力操作★★★★】を手に入れてから、目に見えて「鼓舞の魔瞳」をコントロールできるようになった。


「ふぅ〜ん、体調、ですか……」


 ノンさんはいまだ疑っている。


「とにかく、殿下にそんな思いはありませんって」

「でもすごくキレイな方でしたよね」

「それはまあ——」

「ほら!」

「ほら、じゃありません」

「でも」

「でも、も要りません。それを言うならノンさんだってキレイですよ」

「……え?」

「あんなにドレスアップして、メイクもして、もともと優しい美人だと思っていましたけど、それが磨かれて輝きを増したな、というか」

「…………」

「ああ、難しいですね、言葉にするのは。とにかくノンさんも負けないくらい魅力的でしたし——ってどうしました、ノンさん?」

「……そ、そんなことを言って年上をからかうものではありません!」

「本心なんですけど……」

「ほら、早く行きましょう。ほらほら!」

「あ、ちょっと」


 つかつかとノンさんは前を歩いて行ってしまった。

 その肌は真っ赤で——【森羅万象】は「急な体温上昇による作用」と解説してくれた。




 ムゲさんの商会にやってきたころには僕もノンさんもうっすら汗をかいていた。ムゲさんも、「銀の天秤」のみんなも商会にいた。


「よお、そっちはどうだった?」


 ダンテスさんの気軽い声かけに、ノンさんは唇を尖らせたまま横を向いてしまったので僕が説明をすることになった。

 うん……アナスタシア殿下に渡したメモ紙についてははしょったけどね。変に勘違いされると変なことになるし(経験談)。


「そちらはどうでした? ポリーナさんは?」

「ポリーナは、俺たちが合流したら『務めは果たしたので自分の用事を済ませたい』と言ってどこかに行っちまったよ。『黄金旅団』の話もしてなかったんだがな……」


 どこかに行った? この国の中でレフ人以外の行動は相当制限されると思うんだけど。

 大丈夫かな。


「ムゲさんのほうは本人に話してもらったほうがいいだろ。なっ、ムゲさん」

「はい」


 ピッチャーから注いだ水をがぶがぶと飲んだムゲさんはニコーッと笑った。めちゃくちゃにっこりしている。トカゲ顔のレフ人が笑うとこんなふうになるのか……と驚くくらいの笑顔だ。


「示談になりました!」

「……示談? ってことは——」

「はい、帝国金貨1,000枚に、迷惑料で50枚上乗せですよ!」


 ムゲさんがダンテスさんの手を借りて足元のカバンをテーブルの上にドンと置くと、じゃららっという硬貨の音が聞こえた。中には目もくらむほどの金貨がぎっしりと詰まっていた。めっちゃ重そう。


「すごい! でも、『ロロロ商会』も急に態度が変わりましたね?」

「それもこれも全部皆さんのおかげです」


 ムゲさんは相変わらずのニコニコ顔で説明してくれる。

 僕らが「畏怖の迷宮」を踏破したことはその日のうちに有力商会には伝わり、今日の朝一番でムゲさんは「ロロロ商会」から示談の申し出を受けたのだそうだ。

 迷宮踏破の英雄(・・)を囲っている商会と事を構えることは、商売において百害あって一利なし。さらには厚かましくも、僕らの持ち帰った戦利品を売って欲しいとまで言ってきた。


「それは……なんというか、商魂たくましいというか」

「あっははは。そうですねぇ、でもわかりやすくていいでしょ?」


 確かに。変なプライドやしがらみでがんじがらめになっている貴族が繰り出す権謀術数に比べればはるかにわかりやすい。


「というわけで、金貨500枚は皆さんのものです! 迷惑料も、実際は皆さんが解決してくださったことですからすべてもらってください。帝国金貨550枚を差し上げます」


 ムゲさんは日本円で1億5千万円から2億円ほども価値のある金貨を、僕らに分けると言った——例えそれが正当な報酬で、迷惑料が全体から見ると少額だとしても、大金には違いない。


「……と言いたいところですが、実は商会同士の取引には税金が発生するのです。10%の税金が引かれますので……金貨495枚となります」


 小さなオチまでついてきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〉私設応援団宣言をされましても。 ・ ・ 〉「……と言いたいところですが、実は商会同士の取引には税金が発生するのです。10%の税金が引かれますので……金貨495枚となります」 小さなオチま…
[良い点] ゼリィさん一筋のワイ、低めの見物 うん、ゼリィさんはヒロイン争奪戦にはまず入らないよね… なんか一イベントないとね…チラッチラッ
[良い点] 森羅万象、体温上昇の理由までは明らかにしてくれない [気になる点] 450枚ですなー
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