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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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     ★  レフ魔導帝国  ★


 夜更けではあったが、まだ多少なりとも人が起きている時間帯だ。

 花火のような光が、地中を割って空へ上がる。青、赤、黄色と様々な色を混ぜ込んだその光は、「畏怖の迷宮」の上空へ高々と舞い上がると、パァッと光を散らして爆ぜた。

 その爆発は連鎖し、大輪の光の花が空へと咲く。

 色とりどりの光がレフ魔導帝国の町並みに降り注ぐ。

 これを見たレフ人たちはあわてて家の外へ飛び出し、光が踊る崖の上を呆然と見つめていた。


「……まさか」


 帝国皇帝もまた、就寝前でひとり、自室にこもっていた。

 その光が窓から射し込むとあわてて窓辺へ駈け寄り、窓を左右に開く。


「攻略したのか!? この方角は……『畏怖の迷宮』」


 進行中の4つの迷宮攻略のうち、早々にリタイアが決まった「畏怖の迷宮」。もちろん本命は迷宮攻略1課から3課までであり、皇帝としても落胆はするもののそれは予想範囲内ではあった。

 だというのに。


「クッ、ククックククッ……ワハハハハハハハハ! 面白くなってきたではないか! さあ、攻略したという者の顔を拝むとするかえ」


 夜という時間であるにも関わらず、帝国内はにわかに騒然とし始めた。



     ★



 僕が大部屋に戻るとすでに霧は消えていて、ジャガーノートは停止し、その胸から宝玉をゼリィさんが抜き出しているところだった。


「レイジくん!」


 出てすぐそばで待っていてくれたのはミミノさんで、僕の両腕をつかむと、


「大丈夫だべな!? なにもなかったのか!?」


 あちこちに触れて無事を確認した。心配されているのはありがたいと思う反面、信頼されていないのかな……子ども扱いなのかな……と少々不安にもなる。これって贅沢な悩みかなあ。


「レイジ。もしやあのオートマトンを止めたのはお前か?」

「はい。実は——」


 ダンテスさんたちがやってきたので、僕は向こうで見たものについて話す。

 石板がこの迷宮のコントロールを握っているようで、それを使えば自由に迷宮内をいじれること。

 つまり外へのショートカット出口をつくることも可能であること。

「月下美人」らしき飛行船があったこと。

 そしてもうひとつは、花火のような光が空に上がったこと——これはどうやら迷宮踏破の印らしく、冒険者ギルドでもらった資料にも簡単に触れられていた。


「だから僕らが迷宮を踏破したことは外にも知られているはずだと思われます。時刻は夜遅いので、実際にどうこうなるのは朝になってからという感じだと思いますが」

「わかった」


 僕はみんなを奥の部屋へと案内した。

 ジャガーノートとの戦いについて聞くと、ダンテスさんは無傷で、時間は掛かるが1つずつ腕をつぶせば勝てたかもしれない、体力はしんどいけど、と言っていた……この人はやっぱり化け物では?

 みんなに石板に触れてもらってみて、不思議なことが起こった。


「なんだ? なんも起こらねえぞ」

「さっぱり反応ゼロっすね」


 石板が無反応だったダンテスさんとゼリィさん。


「うぅ……なんだか、頭の中に大量の情報を詰め込まれた感じだべな……」

「ちょっと気持ち悪いですね……でも、これは魔術に関する知識なんでしょうか? 意味不明のことばかりです」


 反応はあったけれど、よくわからないというミミノさんとノンさん。

 結局のところ、ダンジョン構成をいじったりするのは僕にしかできないということだった。


「なんでレイジくんだけなんだべな?」

「どうでしょう……最初に触ったから?」

「まあ、なんでも構わんだろう。とりあえず帰ろう。帰って酒を飲みたい」


 ダンテスさんの言葉には全員賛成だった。お酒はともかくね。

 僕は大部屋から入口までつなぐショートカットの通路を造ることにした。石板に手を触れると頭の中に「畏怖の迷宮」の全体マップみたいなものが思い浮かぶので、そこに手を加えていく。

 魔力の消費は一切ない。ただ、ダンジョン全体の魔力の貯蓄量みたいなものがあって、これが目減りしていくのは感じられた。


「……あの壁の『顔』はどうしますか? 消すこともできるみたいですけど」


 趣味が悪いこと極まりないデスマスクの壁。

 みんなが無言になったけれど、ミミノさんが、


「残しておく必要があると思う。後で調査が入ったときに、誰が亡くなったのかがわかるから……」

「……そうですね、わかりました」


 僕はそこはいじらなかった。

 大部屋に出て、沈黙したジャガーノートの横を通り過ぎる。


「坊ちゃん坊ちゃん。ここにある魔石の類を全部集めてから帰るってのはどうですか?」

「……そろそろゼリィさんが思いつく頃合いだとは思いました」

「まさかの予想済み!? で、でもいいじゃないですかぁ。それこそが最初にダンジョンを攻略した人の特権でしょ」


 どうするんだ、という感じでダンテスさんが見てくる。

 冒険者的には「アリ」っていう発想なのかな。


「このダンジョンは奇跡的なバランスで保っているんです。なので、大量に魔石や宝玉を吐き出した場合、最悪は崩落しますね」

「……だ、そうだ。残念だな、ゼリィ」

「ええ〜!」

「あのでっかいオートマトンの宝玉、取っただろ? それで我慢しろ」

「うう……」


 ゼリィさんの耳と尻尾がしょんぼりしている。

 もちろん僕はウソは吐いていない。一方で、バランスが崩れないぎりぎりまで搾取(・・)することも可能は可能だ——でもそれはしないほうがいいんじゃないかと思ったんだ。

 クリアした状態そのままで、レフ魔導帝国に引き渡す。

 そうであればアナスタシア殿下もルルシャさん救出のために動きやすいだろうから。


(ダンジョンを自由自在に操る技術か……確かにそんな知識がもたらされれば、魔道具の技術革新につながりそうだよな。そうやってレフ魔導帝国は進歩してきたんだろう)


 魔導飛行船の技術とかも他のダンジョンにあったんだろうなあ……。

 僕はふと、大空洞にあった「月下美人」のことを思い出した。あれについても報告したほうがいいんだろうか……いや、でもここで言ったら「お前らさては空賊とグルか?」と疑われそうだよな。

 ダンジョンのコントロールを握ったら発見はたやすいわけだし、あとは帝国の人に任せよう——。

 そんなことをつらつらと考えながら、僕らは新たにできた通路を進んでいく。

 行きはあんなに時間が掛かったのに、帰りは2時間程度歩くだけだった。最終的な高低差もあまりなく、僕らは入口にあった「顔」の横までやってきた。……このダンジョンはなにからなにまで「顔」づくしだったな。


(あれ以降、ラ=フィーツァのメッセージらしきものはなかったけど、結局このダンジョンはなんなんだろう。なにを目的に造ったんだ?)


 考えを巡らそうと思ったけれど、うまくいかなかった。

 なんだか頭がふわふわするのだ。石板から一気に情報が入ってきたせいで処理が追いついていないのかもしれない。これでも【森羅万象】大先生の補助があるから頭の回転はよくなってるはずなんだけどな……ん? そうか? もしかしたら【森羅万象】があるからダンジョンのコントロールができるところまで情報を把握できたのかな?


「——は?」


 先頭を行くダンテスさんの、呆けたような声が聞こえてきた。

 すでにダンジョンを出て、僕らは崖を削った洞窟を進んでいるところだった。この先にエレベーターがあって、下にいけるんだけど——。


「——出てきたぞ!」


 時刻としては夜中もいいところだというのに、巨大な投光器が置かれ、多くの人たちが集まっていたのだ。


「——アイツらが攻略したのか? ヒト種族じゃないか!」

「——次はどんな技術が?」

「——くれ! 発見した魔道具を売ってくれ! 言い値で買う!」


 そして僕らの姿を見るなり、歓声のような、怒号のようなどよめきと、そして拍手が湧き起こったのだった。


雨の月曜ですがようやくダンジョンクリア。長かった。3章的には中盤です。


というわけで恒例のお願いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。キャラクターが生き生きしていて良かったです
[一言] 更新いつも楽しみにしています! とても面白いです(^ω^)
[一言] 長かったけどダンジョン入った目的を考えるとここからが本番なんだよなあ(遠い目
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