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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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35

ちょっと短いです(土日は忙しいので……)。

     ★  大広間  ★


 レイジの残した言葉にハッとしたダンテスが振り返ったときには、すでにゼリィが武器である短剣を抜いて身構えていた。

 煙のように湧き出た霧はまだまだ薄かったが、これからどんどん濃くなっていくことはわかっている。なんといってもその濃い霧は経験済みだ。

 高い天井からワイヤーに吊されするすると降りてきたジャガーノートはあまりに滑稽ではあるけれど、その強さを知るダンテスたちが笑うことはなかった。


「こりゃまた……面倒な置き土産だな」


 レイジがどのようにジャガーノートの再出現を知ったのかはわからなかったが、わかっていることもある。

 レイジが戻るまでに耐え忍ばなければならないということだ。


(これはヤバイっすわ〜……あーしが引きつけてみんなを向こうの通路に戻すことを考えなきゃ……)


 とゼリィが考えていたときだった。


「年を取って感じたのは、体力の衰えもそうだが、回復が遅いということだ」


 すでに太く重い鉄塊であるメイスを右手に持ち、左手には大盾を構え、ダンテスが歩いていく。

 その正面にはジャガーノートが着地し、するするとワイヤーだけが天井の穴へと引っ張り込まれていく。


「だが、悪いことばかりじゃあねえ。立ち回りはこなれたもんだし、なにより、狡猾になる……」


 チカチカッ、とジャガーノートの胸の宝石が点滅した——前回倒した個体とほとんど同じタイプのようだ。


「……デケェ化け物の倒し方ってヤツを見せてやらぁな」


 ジャガーノートの車輪が回転し、ダンテスへと迫る。

 ダンテスは腰を下ろしてそれを迎え撃つ——。



     ★



 通路が完全に閉じられると向こうの音はなにひとつ聞こえてこなくなった。

 ジャガーノートは出てきたのだろうか——出てきた、と考えておいたほうがいい。この迷宮は僕らの考える最悪の、ほんの少し先を行くのだ。


「行こう」


 僕のいる狭苦しい換気口みたいな通路は閉じられていなかったので、匍匐前進で進んでいく。この先を確認し、なるべく早く向こうに戻るのが僕のなすべきことだ。

 不意に周囲が広くなり、僕は立ち上がった。

 そこは薄暗い小部屋だった——7、8メートル四方しかなく、出口の扉もないのがすぐにわかった。

 部屋の中央には腰の高さほどもある円柱状の祭壇のようなものがあった。

 祭壇の上には書見台のようにナナメになった石板が置かれ、文字が刻まれていた——その文字は青白く発光しており、ちりちりと燐光のようなものを上へと飛ばしていた。

 その発光物がこの部屋の明かりのすべてだった。

 石板に近づこうとして、ぎょっとする。

 石板の向こう側、壁面上部に——顔があったのだ。僕の顔だ。苦しそうにしながらも正面を見据えているその顔は、たぶんでしかないのだけど、さっき僕がレバーを引いたときの顔だ。


(ほんとうはそこで、僕の「畏怖」が刻まれるはずだったってことか……?)


 わからない。推測に過ぎない。

 ほんとうにこの迷宮は悪趣味だ。

 僕は改めて石板に近づき、その文字を目で追った。


「……よ、読めない」


 ダメだこれ。ちょっとイヤな予感はしてたんだけど、壁画みたいなのに書かれていたものと同じ古代語で、僕には読めなかった。あー、もう、こんなことなら勉強してからくるんだった!

 頭を抱えてうずくまろうとした——そのときだ。


『念のため、と思っておったが、まさか文字も読めぬ輩がここまでたどり着くとは思わんかったぞ。その意外性よりも、むしろ念には念を入れて文字を読めぬ者に備えた我の偉大さを尊ぶべきであろうな』


「!?」


 しゃがれた声が聞こえてきて僕は石板から飛びのき、腰の短刀を引き抜いた。


『我が名はラ=フィーツァ……フィーツァ家門の者。名はとうに捨てた』


「ラ=フィーツァ……この迷宮を造りし者!」


 音声だけが流れている。先ほどの言葉から察するに、ここの部屋については石板で解説があるけれど、文字を読めない者のために音声ガイド(・・・・・)があるということか。


『石碑に手のひらを載せよ』


 音声は、それで止まった。あの、発光する文字の石碑に手を載せろということなのか。


(……怪しい)


 これが罠ではないという可能性はどこにある? 石板の最初の文言が「手のひらを載せろ」なのかもしれないけど……。


「……クソッ、迷ってる時間はないか」


 前の部屋でジャガーノートと戦っているであろうダンテスさんたちのことを考えると、とりあえずやってみるしかない。どのみち他に調べられる場所もないのだ。

 運を天に任せ、僕は石板に手を載せた——。


 視界が、弾けた。


 すべてが白くなって光の粒が僕の身体を()く。

 熱を感じない。ただただ僕の身体が燃えるように感じられたのだ。

 これが「情報」の奔流なのだと気づいたときには、僕は、自分がこの迷宮のあらゆる場所をみることができることに気がついていた。

 長い通路、いくつもの罠、迷宮に仕込まれているオートマトン、挑戦者を消化(・・)しオートマトンに変換する循環システム——。


(ああ、すごい……ダンテスさんが圧倒している)


 ジャガーノートの巨体をダンテスさんは盾で軽々といなし、メイスで時折反撃していた。なんとこの短時間でジャガーノートの腕を1本折っている。僕が急ぐ必要なんてないというふうにすら思える。

 僕は思考の腕を伸ばし、ジャガーノートをつまみ上げる——スイッチをオフにする。

 ジャガーノートがぴたりと動きを停止したからダンテスさんたちが警戒心たっぷりに観察している。

 これで、ここは大丈夫だ。


(ん……)


 僕はそのとき、通り過ぎた大空洞が気に掛かった。ダンジョンから一度外に出て、大量の触手ヤモリに襲われた場所だ。

 そこはダンジョン外に当たるので鮮明な映像は確認できない。だけど——僕は空洞に巨大なシルエットを見た。

 触手ヤモリに襲われた僕らは急いでいてそっちを確認する余裕があまりなかったのだ。

 でなければ、絶対に気づいている。

 それくらいに巨大で、特徴的なシルエットだ。


(銀色の流線型、まるで、船みたいな……)


 飛行船であることを疑う理由はなかった。

 そしてその、ノイズ混じりの映像ですら美しさがわかる姿が——レフ魔導帝国の至宝にして、盗まれた(・・・・)魔導飛行船「月下美人」であることも。


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― 新着の感想 ―
[一言] だいぶ都合がいい物語になってきちゃったな
[一言] ふむ…結局畏怖しなくてよかったのか()
[一言] >さっき僕がレバーを引いたときの顔だ 絶叫マシンで写真撮るサービスかな?
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