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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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32

★★★★★注意★★★★★

残酷な表現がありますので、苦手な方は本話を読まないようにしてくださいませ。

次話まで飛ばしても大丈夫な感じにしますので。

「……レオン、こっちに戻れ。そこになにが書いてあるのかは知らんが、きちんと調べなければならん」

「おいおいダンテス、バカなこと言うんじゃねえ。どうせ戻ったらその物騒な武器でバカッと俺の頭を割る気だろ?」

「そんなことはしねえよ。お前とは違う」

「ハッ!」


 吐き捨てるようにレオンは、


「言うに事欠いて『お前とは違う』かよ! お前は昔っからそうだ、説教くせーし、パーティーやみんなのためを思ってみたいなツラしてるけど、結局は後先考えずその場その場でいいカッコしたいだけだろうが! お前の勝手な正義感で、依頼料をまけて(・・・)やったことが何度あった? 忌々しいゴブリンの集団を倒したときだって、お前は勝手に『貧乏な村から金は取れんだろう』とか言って金をもらわなかった!」

「あれは……その後に、冒険者ギルドから十分な報酬をもらっただろうが」

「それは! 俺が! この俺が! ギルドに交渉したからだろ! だってえのに、周りの冒険者どもはお前ばっかり褒め称える! 金をもらうことのなにが悪い? 上を目指すことのなにが悪い? ダンテス、俺はお前が石化に掛かってほんとうによかったと思ったんだよ。お前がいなくなって俺はハッピー、お前は英雄気取りで死ねてハッピーだった」

「お、俺は……そんな」


 ダンテスさんが喉に草でも絡みついてしまったかのように言葉が出てこなくなる。

 さすがに、その言い草はなんだと僕は思った。

 だけど僕はなにも言えなかった——なぜなら、僕は、僕の隣にいる人の気配に鳥肌が立ったからだ。


「2度も、私の父に命を救われた人の言葉とは思えませんね」


 ノンさんの声はいつもどおり落ち着いていた。そしてその言葉の裏に、信じがたいほどの怒りが滲んでいる。

 怖い。ふだん穏やかな人が怒っているからこそ怖い。怖くてそっちを見られない。


「英雄気取り? だからなんです。あなたはその英雄気取りにメデューサから、そしてこの迷宮で2度も命を救われたのでしょう。そんな相手に刃を突き立てた時点で、あなたのような人間の言葉など聞くに耐えないのです」

「なっ——お前はダンテスの娘だからそんなことが言えるんだ!」

「私は教会に身を置く者。父の娘である前に、神の子です。『恩には感謝をもって報い、憎しみには慈愛をもって報いよ』と聖書にもあります。父は教会の人間ではありませんが、聖書の教えを地で行く人間です。あなたがどれほどのクソ野郎(・・・・)であったとしても、父はあなたに慈愛をもって接するでしょう」

「う、う……う、うるせえ!! 説教はまっぴらだと言っただろうが!」


 僕はこのときレオンの異常に気がついた。

 彼はこれほど追い詰められたような、狂気的な声を上げる男だったろうか?

 もっと剽軽で、フワフワしていて、軽佻浮薄を絵に描いたような男だったはずだ。


(あ——)


 さっき感じたここのヤバさ(・・・)の正体が、わかった。


「——ミミノさん、僕らは魔力中和剤が切れています。今すぐ出せますか?」

「えっ? あれはあっちの荷物の中に——」


 ミミノさんが、先ほど僕らが食事を終え、出しっぱなしになっている荷物を指したときだった。


「レオン、一度こっちに戻れ!」


 レオンがレバーにかけた手に力を込めようとしていた。


「ダンテス。お前はそこで指をくわえて見てろ。このダンジョンを踏破するのは俺だ。俺が、ここの英雄になるんだ!」


 レバーが下ろされた。

 僕はこのとき——どうするべきだったのか。

 レオンは笑い、ダンテスさんは青白い顔をゆがめ、ノンさんはじっとレオンを見つめ、ゼリィさんは警戒し、ミミノさんはまだ向こうの荷物を指差したままで。

 上から、はるか上から、まるで神がお告げでも与えるように声が振ってきた。




『——畏怖セヨ——』




 心臓をわしづかみにされ、頭を上から押さえつけられたように感じられる。恐怖、というのはこういうものなのだと思い知らされる。

 よろめいて地面に手を突いた。呼吸が苦しい。視界が赤く染まる。最初のオートマトンとの戦闘でやられた感情攻撃よりも、ずっとキツイ。


「!?」


 僕は通路の先を見た。レオンもまた頭を抱えてうずくまっている。だけどその後ろ、なにか文字が書かれていた壁面のところにぽっかりと通路が——四つん這いならなんとか通れそうな通路が空いていたのだ。

 だけどレオンは気づいていない。レオンだけでなく、僕らは全員この場から動けなかった。

 ずずん、と地響きがした。

 それはジャガーノートを倒したときに聞こえたそれと「同じ」だった。

 つまり「同じ」ことが起きる——「顔」の埋まっている壁が、動き出す。細い通路を閉じようと、動いていく。


「レオ、ン……! 壁が動いてる!」


 僕は声を振り絞る。ハッとして顔を上げたレオンは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔だった。そして自分の身になにが起きようとしているのか理解した。

 だというのに彼は動けなかった。まるで怯える小動物のようにイヤイヤと首を横に振るだけだった。


「動け……動けって! 死ぬぞ!?」

「レオン、こっちへ来い……!」


 ダンテスさんも異常に気づいて声を上げる。1メートル幅ほどあった通路は、すでに70センチほどまで狭まっている。


「立ち上がれ! レオン!」

「……た、助け……」


 だけどレオンは動けない。こちらから動こうにも、足がすくんでしまっている——ああ、クソ、クソ、クソ!「魔力中和剤」を飲んでれば、あと少しだけ準備の時間が取れればこんなことにはならなかったのに!


「ミミノさん、ツタはありますか!?」

「!」


 真っ青な顔で震えていたミミノさんは僕の言葉で気がついたらしい、腰の道具袋からツタを取り出すと通路へ向け、【花魔法】を発動する。ひゅるるると伸びたツタは、レオンのすぐ手前に落ちた。


「ダ、ダンテス、引っ張るべな……!」

「レオン!」


 レオンは自分の前に落ちてきたツタをすがりつくようにつかんだ。

 たとえ刃を向けられても、たとえ裏切られても、たとえツバを吐かれても、ダンテスさんもミミノさんもレオンを助けることに一切の躊躇はなかった。

 極限の状況で人は本性を現す。

 僕は、この人たちと同じパーティーでよかったと心底思う。


「行くぞ!」


 通路幅はすでに50センチほどになっている。レオンは横倒しに倒れ、必死でツタにしがみついている。

 恐怖の余韻はまだ残っている。足は震え、手に力が入らない。それでも——「助ける」という意志で、恐怖を乗り越える。

 僕もダンテスさんに加わってツタを引っ張る。引っ張る。引っ張る。

 あと5メートル。4メートル。3メートル。2メートル。

 幅は30センチほどしかない。

 でも、間に合う——顔を上げたレオンの目に希望の光が点った。


「あ——」


 レオンの上から

 どろりとした粘性の物体が、バケツでぶちまけられたように降ってきた。


「ああああああああああああああああ!?」


 ツタが切れて僕とダンテスさんは後ろにひっくり返った。

 スライム——。

 レオンを包み込み、服を溶かし、肌を溶かし、煙が上がる。

 声が途絶える。

 通路が閉じていく。

 音もなく。

 幅が10センチを切るともう中は見えなくなった。


「…………」


 ぴたりと、通路は閉じられた。まるでそこに通路なんてなかったかのように。

 少しだけはみ出たスライムはどこに隙間があるのか、すすすと壁へと吸い込まれて消えた。


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― 新着の感想 ―
カドコミから来ました ここはヘイト貯めてきたレオンをスパッと殺してスカッとジャパンな展開でしょ? どうしてレオン無能化してモタモタ助けるふりしてモヤっと殺しちゃうんですか? そこはスパッと首チョンパで…
毎回窮地に自発的にスキル発動する選択が取れないのなんで? ベテラン冒険者なんだよねスキル覚えたてみたいじゃん
毎度話の佳境で唐突なご都合主義によって作品の良さを打ち消していくのが勿体ないですね。強引な展開で登場人物達がいきなりパペット化して感情の機微が消失すると言えば伝わるでしょうか? 重ねて設定やら世界観や…
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