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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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「遅い……丸2日経って、なんの連絡もないってさすがにおかしいですよね」

「遅い……丸2日経って、なんの入金もないってさすがにおかしいですよね」


 僕とムゲさんは同時にそんなことを言った。

 ここはムゲさんの商会にある倉庫で、僕らはそこに寝起きさせてもらっていた。鉄パイプで組んだ寝台に藁をかぶせただけのベッドは質素極まりないものだったけれど、冒険者からすればベッドがあるだけで御の字。ドアがあってさらにはカギも掛けられるのだからこれ以上ない待遇である。

 スィリーズ伯爵邸のベッドが恋しいときもあるにはあるけどね。


「えっと……レイジくんのはルルシャさんからの連絡で、ムゲさんのはオートマトンを売ったお金のことだべな?」

「「はい」」


 またハモった。

 ここには僕、ムゲさん、ミミノさんの3人しかいない。

 ダンテスさんとノンさんは、迷宮攻略がないなら街をぶらぶらしてくると出かけ、ゼリィさんはとなりの部屋で寝てる。どうやら昨晩は帝国内の賭場に行っていたらしいけど……ムゲさんいわく「賭場なんてないんですけどねぇ?」と首をかしげていたのが解せないところではある。

 まあ、ろくでもないところに行ってるんだろう。確信があるね。

 それはともかく、


「迷宮攻略の報告をしたり負傷者の治療の手配をしたりっていうのはわかるんですけど、もう3日目ですよ。どうしたのかなぁ……忘れてるとか?」

「いや〜。どうだべな。一応、わたしらは命の恩人だし、そこまで無碍にはされないと思うんだけど」

「……ムゲさん。迷宮攻略課に連絡を取る方法ってあります?」

「ええ、ありますよ、もちろん。行ってみましょうか?」

「是非」


 ルルシャさんが忙しいのはわかるけど、僕だってせっかくここまでやってきたんだ。早めに会って話をしたい。


「ムゲさんのほうはどうします? 購入した商会に行ってみますか?」

「迷宮管理局——ああ、迷宮攻略課の入ってる組織ですが、その建物までご案内したら私も自分で行ってみますわ」

「でも帝国金貨1,000枚なんて大金だから、すぐには払えないとかそういうオチではないんですかね」

「いんや〜。落札したあの商会は新進気鋭で伸びてきてる商会ですから、お金がないことはないと思いますよ! 1課ではなく4課を狙ってついてきたあたりも、作戦だと思いますし」

「どういうことです?」

「そのあたりは歩きながらにしましょうか。時は金なり時は金なり」


 コップの水をぐびりと飲んで、ムゲさんは立ち上がった。

 こっちの世界にも「タイム・イズ・マネー」の格言があるんだな。




 ムゲさんが言うには、迷宮攻略1課から3課までは老舗や大商会が軒並み同行を希望しており、ヒト種族とのハーフであるルルシャさん率いる4課は人気がなかった。逆に言えば4課にはライバルが少なく、希少な戦利品(オートマトン)を手に入れた場合に確保できる可能性が高いと。


「実際、金貨1,000枚を積んでもいいと思えるほどのものが出たわけですしねえ」


 ムゲさんは他人事のように言ったが、


「あの、ムゲさん? なんだかその商会、お金を払わないんじゃないかっていう気がしてきたんですけど」

「ロロロ商会がですか?」


 ロロロ商会ってすごい名前だな。日本語で書いたら()なのか(くち)なのか(しかく)なのかわからないな。


「あの場には他の商会もいました。ここで払わないなんてなったら商人の名折れですよ。それは心配しなくても大丈夫でしょう」

「そう……ですかね?」

「ああ、迷宮攻略局はあちらです」


 猫チャンは置いてきたので僕ら3人は道をてくてく歩いている。

 照りつける陽射しが強い。レフ人はみんな白や砂色といった明るい色のフードをかぶって日光を防いでいた。

 たどり着いた黒っぽい建物は、味も素っ気もない四角い形をしており、見るからに「お役所」感が漂っている。

 正面入口には「迷宮管理局」の看板があった。


「それじゃ、私はロロロ商会に行ってきますね。もし身元の照会が必要だったら私の名前を出してください」

「ありがとうございます」


 ムゲさんが手を振って行ってしまった。

 僕はミミノさんとともに迷宮管理局へと入る。建物の内部は日陰だからなのか、あるいは冷房みたいなものがあるのかひんやりとしていた。

 プロテクターと、腰に警棒、右手に金属の短槍を身につけた警備員が2人近づいてくるが、僕はルルシャさんに会いたいこと、会って時間を取ってもらう約束はしてある旨を伝えると、2人は顔を見合わせた。


「……上に確認するので、あっちで待っていてくれ」


 来客用のロビー、と言うにはあまりに小さい、10人分のイスが置かれてあるだけのスペースを指差された。観葉植物もなければ絵が掛けられているわけでもない、ほんとうに殺風景な場所——まるで留置場のようなところだった。

 窓から光が射し込んでおり、外は忙しなく行き交うレフ人の姿が見える。

 レフ人はほんとうによく働く。歩く速度も早いし、朝から晩まで仕事をしている。「賭場なんてない」とムゲさんが言ったのは、レフ人の気質もあるのかもしれない。


「……なあ、レイジくん。ルルシャさんと会うのにわたしもついてきてよかったのかな」


 なかなか警備員が戻ってこないなと思っていると、ミミノさんがたずねてきた。


「全然問題ないですよ。ルルシャさんは僕の恩人のお孫さんというだけですし」

「え!? そ、そうなの?」

「あ……僕、言ってませんでしたっけ?」


 そう言えば話してなかった気がする。というか「銀の天秤」のみんなは優しすぎて、僕が鉱山にいたときの話とか聞いてこないんだよね。だから僕もヒンガ老人のことを話そびれたというか……いやいやいや、待てよ。ということはなんの事情も知らないのに、僕が「ルルシャという人に会いたいんです」と言ったからというそれだけで、みんなここまでついてきてくれたのか。


(底抜けのお人好したちだ)


 失敗した。ここまで信用してくれているのに僕は「銀の天秤」のメンバーになったうれしさと、みんなといっしょに旅ができる楽しさで浮かれていたのかもしれない。

 帰ったらダンテスさんとノンさんにも話そう。


「僕が鉱山にいたころ、世の中のことをいろいろと教えてくれた方がいるんです。その方のお孫さんなんですよ」

「そう……なんだ。ごめんな、詮索するつもりはなくて——」

「い、いやいや、ミミノさん、こんなの詮索だなんて思わないですよ。それに、鉱山にいたときのことは……あまりいい思い出ではないですけど、それでも僕はあそこに行かなければ死んでいたので」


 自分を売らなければ親に殺されていた。髪の色が黒く、目の色が黒いというそれだけで。

 ミミノさんはハッとした顔をしていたけど、僕は努めて明るく、


「過ぎたことです。今、僕はミミノさんたちと冒険ができて幸せなので、なにもつらくはないんですよ」


 そう言った。

 それから僕はヒンガ老人のことを話した。鉱山で教わった様々なことを。ミミノさんは相槌を打ちながら、たまに薬草の話になると「そんなに詳しい人だったんだべな?」と驚いていた。ハーフリングの薬師にして専門家のミミノさんからしてもヒンガ老人の知識は卓越していたみたいだ。

 時間を忘れて話していたけど——僕はふと妙な音を聞いて話を止めた。


「ん、どうしたんだ、レイジくん。そう言えば警備員が戻ってくるのが遅いべな」

「……ミミノさん」


 僕の強化された耳がなくとも、わかるだろう——外を歩く人がいなくなって(・・・・・・)いることは。

 窓の外の通行人が途絶えているのだ。

 そしてこの建物に出入りする人もいない。

 耳を澄ます。かすかに、金属のこすれる音が複数、聞こえた。


「この建物ごと、武装集団に包囲されているようです。考えたくはありませんが、狙いは僕らの可能性が……高いです」


 ルルシャさんに会いに来ただけなのに、どういうことだ?


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです!更新ありがとうございます!
2020/06/02 11:16 退会済み
管理
[一言] いやあ、さすがに話してないはないじゃない? ていうか前章の最後で”話しても、話しても、話しても話題は尽きなかった”ってなんだったんだろう? 情報共有はどうなったんだ?
[良い点] いい感じで「不穏な空気」が漂い始めましたね [気になる点] ロロロ商会からの支払いが滞っていることと関係するのか? [一言] ヒンガ老人から渡された宝石(輝石でしたっけ?)はヒンガ老人の研…
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