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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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13

「まあ……ともかくそんなわけです。——って、どうしたんです、ムゲさん?」


 僕が一通り考えたことを話すとムゲさんが呆然としていた。


「そ、そ、それはほんとうですか? ほんとうのほんとうのほんとう?」

「ええまあ。魔術を解析しないと裏付けにはなりませんが……でも、あらかじめ体内に魔力を仕込んでおくくらいのトラップでなければ、あんな簡単に感情を変えることなんてできませんし、ほぼ確実ですよ」

「それってすごい発見ですよ!?」

「……え?」


 興奮したふうのムゲさんが身を乗り出して僕の両肩をつかんだ。


「今まで迷宮攻略で失敗が多かった場所は、全部、感情に負けてるんですよ! レイジさんの推測が正しいなら、止まっていた攻略箇所が一気に前進しますよ!!」

「いや、でも……気づかなかったんですか?」

「わかりませんが、今のレイジさんの話みたいなことは聞いたことがありません。みんな感情をどうやって克服するかばかり考えてましたから」

「……そうか」


 僕は気がついた。

 確かに、僕の発想は現代の地球人が持っていたものに近いかもしれない。科学的な発想だ。

 それは魔法があるこの世界の人には縁遠い発想だったりする。

 だけどそれ以上に重要な要因があると僕は気がついた。


「天賦……ですね」


 レフ人は天賦を持たない。だから【人魔法】のことなんて知らないに違いない——僕だってヒンガ老人がチラッと言ったことを覚えているに過ぎないのだから。

「九情迷宮」がもたらした魔道具はレフ人に富をもたらしたけれど、一方で、天賦を使えないレフ人が愚直にこのダンジョンを攻略しなければいけない、というのはなにかの皮肉のように僕には思えた。


「そう言えば……なぜレフ人は天賦を使えないのですか?」

「それがわからないのですよ。そりゃね、やっぱり興味はあるもんですから私もいろいろと試してみたんですが……」


 しょんぼりしてムゲさんは言った。

 どうも、ムゲさんは帝国の外で天賦珠玉を買って、自分でも何度も取り込もうとしたことがあったらしい。だけどすべてうまくいかなかった。


「こんなだから『呪われた種族』だなんて言われるんだよね〜。あー、やだやだ」


 ムゲさんは肩をすくめておどけて言うが、僕は他人事には思えなかった。


(『忌み子』、『災厄の子』……僕も同じだ)


 黒髪黒目というだけで迫害されるのだ。

 前髪をつまんでみる。今はミミノさんたっての希望により中心がオレンジっぽい金髪になっている。「またおそろいだべな!」って言われたけどミミノさんは飴色なんだよなぁ。


「ま、そんなことはともかく!」


 パン、とムゲさんは手を叩いた。


「それで、『銀の天秤』の皆さん。私はこれでも結構稼げた感じですがどうします?」

「え? 稼げたんですか? 魔法で結構焼いちゃったんですけど……」

「車輪の駆動部が残っていますし、割れた魔石もそれなりの金額で売れますよ。魔導雷電を使えば簡単に倒せるんですけどねえ、それやっちゃうと魔術部分が全部飛んでしまいますし」

「ああ」


 迷宮攻略課はそういう武器も持っているとは僕も聞いていた。

 確かに、機械が相手なら電気なんだよなぁ……。

 ただ【雷魔法】は使い勝手が悪くて有名だった。撃ってもコントロールできないし。まあ槍とか持ってる相手なら避雷針みたいになって当てやすいけども。

 近接戦で直接触って撃ち込めばいけるか?

 でもなあ。消費魔力に比べて威力が弱いっていう特徴もあるんだよな。

 今までは「火炎嵐」で始末してきたけど、他の方法も考えてみようか。【花魔法】で縛る? でも植物がないしなぁ……。

 ——そんなことを考えていたら、


「うっひっひ。キャラバンで何ヶ月も回るより今日1日のほうが稼ぎが美味しいんですもんね〜、こりゃ迷宮はやめられませんな」


 あ、これはよくない。

 ムゲさんの目が金貨になってしまっている。


「……ええ、ですがこれは賭博と同じようなもの。賭けているのは命という名のチップですからね」


 だけど僕が言う前に、にっこりとノンさんが言うと、


「は、はい……」


 ムゲさんはおとなしくうなずいた。わかったんですね、ムゲさん。ノンさんは怖いんですよ。


「——だがムゲさんよ。もしアンタが戻りたいというのならここで引き返すぞ。俺たちは護衛の依頼を受けているわけだしな」


 依頼料はさほどでもないけれど、魔道具の売却益は折半だ。それでもムゲさんがここまで言うのだからかなりの高額になっているのだろう。


「そうですねえ……レイジさんはどう思います?」

「え、僕ですか?」

「ええ、ええ。先ほどの見事な推測、あれを思いつくということは今後の見通しもお考えでしょ? 教えて教えて〜!」

「…………」


 チャラくなってきたムゲさんがちょっとウザイ。


「……そうですね。トラップについては検証したいので進みたい気持ちはあります」

「ならば、行きましょう! 私、今回の探索でもっと利益を上げて、長年の夢だった店の改装をするのです!」


 うーん、なんかそれってフラグっぽいから止めて欲しいんですが……。


「よっしゃ! あーしもここでガツンと金儲けして、坊ちゃんへの借金を全部返しちゃいますよ!」


 ゼリィさんが飛び上がった。うーん、着実に失敗する方向に行ってる気がするぞ!




   *  ルルシャ  *




「敵、全滅です……」

「倒しきったか」


 ルルシャはその場に座り込みそうになった。

 魔導雷電をすべて使うはめにはなったが、なんとか追加のオートマトンを撃退することができたところだった。

 予想外に多くのオートマトンが投入されており、こちらの負傷者もかなりの数に上った。

 これは撤退か、と天を仰いだ。


(甘かったな……)


 正直、魔導武装でなんとかなる——と思っていた。

「畏怖の迷宮」を攻略できてしまうかもしれない。補給さえしっかりしていれば——とも思っていた。

 それがどうだろう。触媒が尽きてしまえばできることなどなにもない。


「——ふー、やれやれ。やっと終わったか」

「——生きた心地がしませんでしたな」

「——そちらは冒険者に守ってもらってるからマシだろう?」


 ついてきている商会のレフ人たちがああだこうだ言っているがそれに構っている余裕はルルシャにはなかった。


「負傷者の治療! 急げ! 各班の班長は動ける人数を確認しろ!」

「課長、戦利品は……」

「そんなもの、商会に任せておけ」


 見渡す限り無傷な戦闘員はおらず、煙を上げているオートマトンがあちこちに転がっていた。確認するまでもなくこれ以上の戦闘続行は不可能だろう。

 だが——あきらめきれない。


(こんなふうに終わってしまうのか。これが迷宮か。いや、補給さえあれば。いや、戦闘に慣れていないメンバーが。いや、采配のミスだったか? いや……)


 頭の中をとりとめのない考えがぐるぐる回る。


「課長、敵です!」

「なんだと……」


 また追加の敵——さすがに絶望が心に忍び寄ってくるが、通路の向こうから現れたオートマトンを見て小さく息をついた。

 それは、今まで見たどのオートマトンよりも小さかったのである。

 これまでは動物タイプのオートマトンばかりが出現していた。それらは単純に突っ込んで来るタイプで「なにが『畏怖の迷宮』か。ここは動物園か」くらいに思っていたのだ。


「特殊な形だが……小さいな。雷電魔導の残数は!?」

「あと12です」

「それなら仕留められるな」


 ホッ、と小さく息を吐いた。

 今回現れたのは——大きさこそ1メートル半程度のものだったが、槍のような腕が4本、頭はなく、胴体の中心に三角形を描いて3つの宝玉が埋め込まれてあるタイプだった。


「よし、片づけるぞ」


 ルルシャは動ける戦闘員に向かって片手を挙げた。


『…………』


 キイイインと宝玉が光ったのには気がつかなかった——それが悪夢の始まりなのだとは思いも寄らなかった。


四半期ランキング1位となりました。ありがとうございます!

ほんとうに多くの方にお読みいただけてうれしいです。

今後ともオバスキをよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ゼリィさんが飛び上がった。うーん、着実に失敗する方向に行ってる気がするぞ!」 本当にそう考えているのなら、今回はここで引き返す一択でしょう。まだ、進むのなら、その様なこと思っていないと言…
[気になる点] >キイイインと宝玉が光ったのには気がつかなかった——それが悪夢の始まりなのだとは思いも寄らなかった。 気がついてないのだから、思いもよらなかったのは当然のことで、 おかしくないですか…
[一言] 面白いです!更新ありがとうございます!
2020/05/31 02:12 退会済み
管理
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