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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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   *  レフ魔導帝国皇帝  *




 絶壁に囲まれた狭い土地——それがレフ魔導帝国の領土だ。

 そこにレフ人は暮らしているが、居住可能な土地が狭いために高層建築の技術が発達した。この世界ではあまり見られない5階以上の建物がこれほど多く、一般市民も利用できているのはレフ魔導帝国ならではだ。

 帝国のトップである皇帝が住んでいるのも街中にあった。さすがに広大な敷地を確保し、高い城壁があるとはいえ、他の国の王城のおもむきとはまったく違う。

 レイジが見たら「地方都市の土地持ちの家みたい」とでも言っただろうか。

 広い庭園の中央に、9階建てのビルがある。ビル、とは言っても高さより横幅のほうが広いのだが。

 その9階が皇帝の住処だった。


「——以上が迷宮攻略1課から3課までの攻略状況です。いずれも迷宮に手こずっている様子がうかがえます。ただし迷宮攻略4課からだけは、報告がございません」


 窓のない部屋で、ひとりのレフ人が報告を終えた。天井にファンが回っていて換気がされている。

 壁面に張られた緋色の壁紙は柔らかく、防音効果も高い。

 長い会議デスクの末席にちょこんと報告者が座ると、デスクに座っているレフ人たちが一斉に口を開いた。


「なんだなんだ。4課は手を抜いているのか」

「とはいえ1課から3課もうまくいっていなかろうに」

「所詮はヒト種族とのあいの子だ」

「あれは天賦が使えるから推されたのではないのか?」

「いや、4課長は天賦を使えないと聞いているが……」

「そう言っておけば失敗したときに言い訳が効くからだろう」

「天賦などに頼らずとも魔導武装(マジックギア)があれば攻略ができる。それを証明するための今回では?」

「冒険者を外から呼び寄せておいて今さらなにを」


 ざわざわとしているが、ここにいるのは帝国内でも重鎮ばかりだ。行政を司る長たちである。

 ただひとり肩身が狭そうにしている太った男は迷宮管理局の局長だった。


「——静かに。皇帝陛下が発言されます」


 報告者と対になるいちばん奥には、9の階段が作られてあり、そのいちばん上に座っている老人こそが帝国皇帝だった。

 どこか着物に似た赤い上着には金糸の刺繍がびっしりとされている。ただの鉄でできた肘置きに頬杖をついていた帝国皇帝は、眠そうな目を室内へと向けた。


「ルルシャの抜擢は他ならぬ余が行ったことじゃ。不満があるのかえ」


 室内は水を打ったように静まり返っている。


「ないならよい。しかし4課の報告がないことは気に掛かる——今回は多くの商会が参加を希望しておったはずじゃが、そちらはどうじゃ」

「おい、どうなってる」


 促され、報告者が再度立ち上がる。


「5の商会が同行していますが、特に変化はございません。……あ、いえ、昨日付でもう1件申請がありましたので6の商会ですね」

「昨日付?」


 皇帝が不機嫌そうに眉根を寄せたので報告者はあわてる。

 今回の大規模攻略は、1月以上も前に発表されたことだ。発表直後に名だたる商会からの申し込みが殺到し、すぐにも攻略1課から3課までの同行枠は埋まった。4課はルルシャが——ヒト種族との血が混じった課長が率いていることから人気がなく、最後まで同行枠は余っていた。


「そ、それが、キャラバンで長く帝国から離れていたという理由でして……」


 皇帝がアゴに伸びているひげをしごいている。金色の瞳はレフ人特有のものだが、肌の色は人によって様々だ。皇帝は黄土色に黒のまだらというニシキヘビに近い見た目だった。


「……その者が外部とつながっているという可能性はどうだえ?」


 皇帝の言葉を聞いて、会議に参加しているレフ人たちがハッとする。

 皇帝が言っているのは盗まれた魔導飛行船の話だ。2月ほど前に盗まれた「月下美人」は、今もなお捜索の手が緩んでいない。追う側も同じ魔導飛行船を使っているが、速度では「月下美人」にかなわず、とっくに国境を越えてしまったのだろうと見られている。

 帝国内に居住しているレフ人は、全員、「帝国民基礎情報台帳」という制度によって管理されている。すべての帝国民が出入国を調べられ、今では「月下美人」の盗みは外国人によるものと判断されている——大体、盗みの際に魔法のようなものを使われているのでほぼ確実ではあったのだが。

 とは言っても、である。

 さすがに、たかだかキャラバンの商人が「月下美人」を盗むのに加担したとは考えられないのだが、会議に参加しているメンバーは皇帝の機嫌取りに余念がない。


「可能性はございますな。さすが陛下、ご慧眼」

「おい。そのような怪しげな者を今回の攻略に同行させるとは何事か!」

「すぐに『畏怖の迷宮』を調査しましょうぞ」

「キャラバンとは気づきませんでしたな」


 わかりやすい阿諛追従を聞いているのか、いないのか、皇帝は目を細めてから小さく手を挙げる——それだけで室内は静まり返る。


「『月下美人』は我が父である先代皇帝から申し送りもされた、我らレフ人にとって悲願ともなる最先端の高速魔導飛行船じゃ。これを超えるものを造り出すめど(・・)をつけるのが今回の攻略作戦ではあるが、『月下美人』を取り戻すことも絶対に必要じゃ。わかっておるな?」

「はっ!」


 応諾の声が唱和する。


「各々が全力を尽くせ。さすれば光明が見えるはずだえ。——行くがよい」

「はっ!」


 会議室からぞろぞろと参加者が出ていった。それを見送った皇帝は、深い深いため息を吐いた。


「……局長、攻略はうまくいくかえ?」


 皇帝の身の回りを世話する者以外にただひとり残ったのは迷宮攻略課の上長である迷宮管理局長だった。

 この太ったレフ人はおどおどと視線をさまよわせながら、


「わ、わかりません。しかしルルシャはきっとやってくれるかと存じます」

「そうかえ。もうよい、下がれ」

「は、はっ」


 あたふたと出て行く局長に、皇帝は再度深いため息を吐いた。


「……陛下、あのような者になぜ重要な管理局をお任せするのですか」


 皇帝の身の回りを世話し、秘書としての役割も持っている女性がたずねる。


「血筋だえ。仕方なかろう」

「……血筋、ですか」


 あの局長の父は魔道具製作者(マギクラフト)を集めた商会の中でも帝国で5本の指に入る大商会の長だった。魔道具が帝国の行く末を左右する——そうである以上、新たな発明をし、多くの魔道具を造り出せる商会が力を持つのは当然のことだった。

 それは時に、皇帝の力をもしのぐ。


「ルルシャとて同じことだえ」


 ルルシャの父、カールは、迷宮とは関係なかったが魔道具の取引を仕切る部署のトップだった。外国との交渉にはめっぽう強く——その関係で、ヒト種族の嫁を連れてきたときには多くのレフ人が驚いたものだったが。

 ルルシャは、カールとよく比べられた。さらには見た目はほとんどヒト種族、中身はレフ人——つまり、天賦が使えない、ということでこの国では悪いところ取り(・・・・・・・)のような状態だった。

 だからこそ、と皇帝は期待している。すでに亡くなったカールは今でも話題に上る。ルルシャはイヤと言うほど父の話を聞いてきたはずだ。それを乗り越えようとする闘志は、難題を解決するのに必要なものだと皇帝は考えたのだ。


(……それはあなた様も、同じことなのでしょうに)


 秘書のレフ人は恭しく頭を垂れながらもそう思っていた。

 魔導飛行船を初めて完成させた先々代。先代はその飛行船を外国に売ることで帝国に大きな財をもたらした。

 今代の皇帝は目立った業績がなく、「先代が育てたマイカ茸の原木を使っているだけ」などと言われている。原木があればまたキノコは生えてくる。新たな原木を探すことこそが皇帝の仕事なのに——。




   *  ルルシャ  *




「魔導弓構えッ!! ……撃てェーッ!!」


 ボウガンを構えた兵士が一斉に矢を射出する。


「命中!!」


 天井が見えないほどの大ホールにいたのは、キャタピラを搭載した巨大なオートマトンだ。キャタピラを回転させてこちらへと突っ込んで来る。

 身体は猪を模しているが当然車体は金属製であり毛皮などはついていない。ついているのは触れた者を傷つけるトゲ針だけだった。

 放たれた矢はオートマトンに突き刺さる。矢羽根の後ろにはワイヤーがついておりそれは兵士の手元にまでつながっていた。


魔導雷電(マギ・ライトニング)発動ッ!」


 ワイヤーは弁当箱程度の箱から出ており、兵士は箱についたボタンを押すと前方へと放り捨てた。直後、青白い電撃がワイヤーを伝ってオートマトンを感電させる。耳に痛いような破裂音が響くが、その効果はてきめんだった。

 キイイイイと甲高い音とともに猪の内部から煙が噴出する——だがキャタピラの勢いは止まらず突っ込んで来る。


「散開! 散開ーッ!!」


 兵士たちは逃げ出したが数人が猪に引っかかり、吹っ飛ばされた。迷宮の壁面に激突したオートマトンは衝撃で跳ね返ってきたが——もはや動かなかった。


「……止まったか」

「課長! 危険です、近づかないでください!」


 制止の声は聞かず、彼女はオートマトンの巨体へと近づいていく。

 深い青色の髪は無造作に後ろで束ねられている。硬い布地でできたツナギを着て、身体に巻きつけたベルトには工具が装着されている。

 書類仕事をするようにはまったく見えない、工場の現場に毎日出ていそうな出で立ちの彼女こそが、迷宮攻略第4課長のルルシャだった。

 年は18歳。瞳は、祖父と同じ琥珀色だ。


「沈黙している、か……」


 彼女のつぶやきに答えたのは、そばにやってきた迷宮攻略課のメンバーの女性だ——ルルシャ以外はすべてがレフ人だった。


「はい。ですが、魔導雷電を使ってしまったので、中の魔術は焼き切れているでしょうね」

「仕方ないだろう。あれを使わなければ、犠牲者が出ていた……いや、すでに何人もケガ人がいる」


 背後ではついてきている商人たちが騒いでいた。


「——これじゃ使い物にならん!」

「——おいおい、ケガしてくず鉄を拾うだけでは割に合わんな」

「——どうせケガをするのは兵士だけだろうが」

「——時間の無駄だったか」


 彼らは迷宮攻略課が戦った戦利品を、その場で買い取っている。オートマトンを無傷で捕獲できればそれはもう高値がつくが、そんなことはできやしない。無傷ということは、オートマトンは稼働しているからだ。

 オートマトンとて弱点はある。それは「電気」だ。魔術で動くオートマトンは、魔術効率のいい金属を使用しておりその金属は電気を通す。そうすると魔術は焼き切れ、オートマトンは沈黙する。だが希少な触媒や魔石も壊れるので手に入るのは金属塊だけになってしまう。金属塊はたいした金額にはならない。


「課長、問題はこれだけではないです」

「なんだい」

「……魔導雷電の残量がありません」


 聞いて、ルルシャは舌打ちする。


「いったい、後方支援はどうなっているんだ!? 何度も報告と、援助要請を送っただろう!?」


 迷宮攻略チーム100名を率い、迷宮に入ってから10日が過ぎたが、一向に外界からの返事がなかった(・・・・)。食料や水は十分だが想定以上に触媒を消費している。

 魔導武装(マジックギア)は誰にでも使え、強力だが、触媒を消費する。


「撤退か……」


 ギリッ、とルルシャが歯噛みをしたときだ。


「課長!! 敵です!」


 今いちばん聞きたくない情報を、偵察兵が持って戻ってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです!更新ありがとうございます!
2020/05/29 21:26 退会済み
管理
[一言] そう言うことの答えはお預けですか(´・д・`) 早く続きが読みたい!
2020/05/29 18:12 退会済み
管理
[一言] あ、これは情報を握り潰してるのが居ますね
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