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レフ人であり、レフ魔導帝国の外にも隊商で商売に出かけるムゲさん。彼からの僕らへの提案は、
「攻略課が入っている迷宮には、レフ人の入場が認められているんです。いっしょに入りませんか?」
というものだった。
ムゲさんは攻略課の取りこぼした魔道具が手に入るかもしれないし、僕らは——というより僕はルルシャさんに会えるかもしれない、というところで利害が一致する。
実のところ迷宮攻略はかなり危険が伴うために、ルルシャさんが生きて帰ってこられるかどうかは誰にもわからないのだそうだ。ここでチャンスを逃したら、僕は後悔するだろう。ダンテスさんたちもうなずいてくれたので、
「是非、やらせてください」
と僕は申し出た。
それからムゲさんは迷宮に入る申請を行うので、僕らは今日1日帝国内で情報を集めることになった。ダンジョン、と一口に言ってもどんなものかわからないし。
レフ人向けの冒険者ギルドもあり、そこで情報を集められるだろうとムゲさんは言っていた。
「それじゃあ、また夜に〜」
レフ人以外が帝国に足を踏み入れることがあまりないので宿泊施設はほとんどないのだそうだ。だから、夜はここの倉庫に泊めてもらうことになった。
帝国民は10万人を超えているはずなのになぁ……ここまで鎖国ができるものなんだな。
僕らがまず向かったのは冒険者ギルドだ。1階には受付があるだけで依頼の掲出なんてものはなかった。レフ人の冒険者は数が少ない上に国民の要望はすべて国に提出するようになっているようで、あくまでも外のギルドと中をつなぐためだけの組織のようだ。
迷宮も冒険者が入るためのものではなく、国が所有している。
「ああ……今回の大規模攻略に参加される方ですか」
受付で話を聞くと、女性らしいギルド職員は——まつげが長くて線が細いので女性なのではないかと僕は見当をつけた——納得したようにうなずいた。
「いくつもの商会が名乗りを上げてますよ。『外』に集まっている冒険者たちは私どもが各地のギルドに通達し、それを商会が雇い上げる形となっています。ちょうど今ごろ入国が始まっているんじゃないですかね」
「迷宮に関する資料はないのか?」
ダンテスさんがたずねると職員は首をかしげた。
「すでに商会には資料を渡していますが……」
「すまんが、俺たちは個人的な知り合いで雇ってもらったんだ。その商会も今日、攻略の申請を出すことになっている」
「ああ、オンボロ商会の——」
「なんだって?」
「……コホン。なんでもございませんわ。こちらに写しがあるので差し上げます」
失言をしたふうの職員にダンテスさんが圧を掛けたおかげなのか、すんなりと資料を手に入れることができた。
でも「オンボロ商会」ってなんだよ。
確かにムゲさんは猫チャンみたいな壊れかけの蒸気自動車を使っているし、この街には猫チャンみたいな自動車はまったく見かけないけど、それで誰かに迷惑を掛けたわけではあるまいし……。ダンテスさんはにこやかにしながらも、職員から書類を受け取るときは一回にらみつけてた。「ひっ」て職員ものけぞってたし。
ギルドを出た僕たちだったけど「オンボロ商会」の話はあちこちで聞くことになった。
食事をすればその食堂で「どこから来たの? 誰のところにいるの?」と聞かれるし、なんなら街を歩いているだけでもうムゲさんが僕らを雇ったことが知られていた。そのたびに出てくる単語が「オンボロ商会」だ。ウワサが広まるの早すぎない?
ああ……こんなとき【聴覚強化】は要らないなって思うよ。
ちなみに食事は、味付けが濃いキノコでした。
「ここが魔道具ショップ?」
一度帝国に来たことがあるみんなが次に連れてきてくれたのは、通りに面したショーウインドウにマネキンのような人形を置いて、そこに鎧を着せているような店舗だった。鈍い金色の、トゲが痛そうな鎧だったり、丸みを帯びたプロテクターで全体的に流線型のフォルムになる鎧だったり、今までの街では見たことがない個性的なものがそろっている。
僕とゼリィさんは初めてなのできょろきょろしてしまう。
「いらっしゃい——……」
ガッチリとした体格の店主は新聞を読んでいたらしく黒縁の眼鏡を掛けていた。入ってきた僕たちを見て眼鏡を置いて立ち上がる。
(この国には印刷技術がもうあるんだよな……)
新聞もそうだし、先ほど渡してもらった迷宮の資料もそう。どちらも機械による印刷物だった。そんな魔道具も迷宮から発見されるのだろうか。
「アンタたち、前に来たことがあるな?」
「覚えていてもらえましたか」
「はん。ここにゃレフ人以外ほとんどいねぇからよ。それくらいの知恵はあるってもんだ」
「レフ人が知恵のことを言うと皮肉に聞こえますよ。世界に冠たる魔導大国でしょう」
ダンテスさんが軽口で応じているあたり、なかなか気のいい店主のようだった。
その隙に店内に飾られている武器を見ていく。
魔導ランプがふんだんに使われた店内は明るく、清潔だった。鉄製のラックに置かれた武器は剣や斧なんていうものではない——かなり変わったものばかりだ。
篭手に装着された爪。そこにはバネが仕込まれており、射出することもできるようだ。
巨大な棍だが先端に穴がいくつも空いている。これも魔道具が仕込まれており炎を吹くのだとか。
鎧にも魔道具が仕込んである。耐熱耐寒といったわかりやすいものから、体当たりするタイミングで金属が変形してトゲが出るようなものも。
あとは——ジャンク品? 木箱に用途不明の小さな金属部品が山と積まれている。
「珍しいかい、坊や」
熱心に見ている僕に店主が話しかけてきた。
「『外』にはないようなものばかりだろう? このあたりのな、『武器』と『防具』があいまいなものはな、天賦の影響を受けないんだ」
天賦は能力を人間に与えるが、一方でその性能以外のものには影響がない。【槍術】を持っていても「棍」を振り回す助けにはならないのだ。
「——なるほど、レフ人は天賦珠玉を使えないから」
「そう。そこを魔道具に頼る。逆に言やぁ、武器も防具も発想の自由が利くってわけよ」
店主が説明してくれる。
「このバネ式の武器はいちばん単純だな。ものによっちゃ天賦が反応するらしいが、俺はよく知らねぇ。この手の品は『鋼鉄武装』という」
次に手にしたのは、ほんのり青白く光っている盾だった。
「こいつはゴリッゴリに魔術を仕込んであってな、攻撃されたときに反発力が働くようになっている。だから天賦からすると『盾』とは認められんそうだ。こいつは『魔導武装』って名前で呼ばれてる」
盾を戻した店主は、ぽん、と両手を打ちつける。
「で、ここにはないが……こういった魔術の参考にしたのが『九情の迷宮』で見つかる武具だな。解析不能なものが多くて困るんだが、俺たち魔道具製作者の創作の種ってわけさ。それらは『英雄武装』という」
「『英雄武装』……」
「そんなもんを見つけちまったら、大変なことだぞ。新発明につながるかもしれん代物だからな、皇帝陛下が直々に買い上げる。望めば魔導飛行船だって手に入る……」
店主はそこまで言ってから、にやりと笑って見せた。
「……が、『九情の迷宮』はそんなに優しくはない。一攫千金を夢見た迷宮攻略隊が押し寄せ、これまでに数千数万という死体があの迷宮には眠っているんだからな」
獰猛な笑顔だった。
僕らが夕方にムゲさんの商会に戻ると、ムゲさんはニコニコと笑顔で迎えてくれた。どうやらあちらの申請も問題がなかったようで、明日からの迷宮入りが決まった。
「……ええっと、それで中に入るとですね。私の同業者がいっぱいいると思うんですよ。そこで少々イヤな思いをさせてしまうかも……」
「大丈夫です。俺たちは冒険者であなたは依頼主だ。だから——」
「——『オンボロ商会』」
僕がぽつりと言うと、ムゲさんもダンテスさんもハッとする。
「レイジ!」
「い、いや、いいんですよ。それはそれで事実ですし……」
「違いますよ、ムゲさん。そんな事実は——事実でなくしましょうよ」
僕は冒険者ギルドでもらった資料をぺしぺしと指で弾いた。
「レイジ? どうしたんだ、お前ちょっと変だぞ」
「ダンテスさん、ミミノさん、ノンさん——僕はムゲさんに恩があります。旅路でいっしょになっただけの僕を気にかけて、ルルシャさんの情報まで仕入れてくださった。だから、恩返しをしたいです」
「——そうか。そういうことか」
ダンテスさんがにやりとし、ミミノさんとノンさんはうなずいた。
「だから、今回の迷宮探査で目標にしませんか——ムゲさんのために『英雄武装』にも匹敵する戦利品を得ることを」
「えええ!? そ、それはさすがに無理ですよ!」
とムゲさんだけは反対だったけれど、
「いいじゃないか。俺もムゲさんのことを悪く言われるのはイラついていたんだ」
「そうだべな。冒険者だもん、夢はでっかくだ」
「ご褒美が出るならこの帝国内に教会を設置させてもらえますかね?」
「坊ちゃん、あーしは!?」
若干1名、名前を呼ばれなかったことで焦っている人がいるけれど、みんな賛成のようだ。
「ムゲさん、そんなわけで……せっかく迷宮に行くのですから、楽しんでいきましょう」
僕がムゲさんににっこりと笑って見せると、ムゲさんは——ちょっとだけ、僕らに依頼を出したことを後悔したような、そんな顔をしていた。
戦利品の取り分は、雇い主にして迷宮に入る機会提供者のムゲさんが50%、僕ら「銀の天秤」が50%となった。




