53
僕がお嬢様を下がらせて、一歩前に出たのでレレノアさんが警戒して腰の剣に手を伸ばす。
「……レイジくん、私は君の知り合いだからここに来るよう当主様から言われたんだ。『連れてきて欲しい』とだけ命令されているので、その後はどうなるかはわからないべな。だけど、ここで君が抵抗するのならこちらにも考えがある」
「知り合いだからといって僕に剣を向けたら手加減はしないのでそのつもりで」
レレノアさんの鼻の頭にシワが寄る。
「エベーニュ公爵家をなめているようなら、その認識を改めるベな! ここには聖王都のエベーニュ家を守る——」
「警告はしましたよ」
「——んなッ!?」
僕は門から外へ一歩踏み出し、次の瞬間にはレレノアさんの身体が宙を舞った。その身体に【風魔法】を撃ち込んだことに何人が気づいたろうか?
「あとその話し方は……大切な仲間を思い出すので、あまり聞きたくありません」
相手がハーフリングの女性で、ミミノさんと同じ話し方となると変に戦いづらい。だから、最初に対処できたのはよかったかもしれない。これで気絶したろうから、しばらくは起きないだろうし。
いきなりの攻撃に驚いたのか一瞬、武装兵たちが呆ける。
(隙を晒してどうする? 僕がお嬢様の護衛をやっているときはいつだって気を抜かなかったよ)
僕は【疾走術】で駈け出すと武装兵の間をすり抜けつつ【風魔法】を連発する。
「がっ」
「ぐう!?」
「ぬあああっ」
7人ほどが吹っ飛んで、8人目が盾を使って魔法を止める。止めた瞬間に盾がボウッと光ったのはあれは武具魔術だろうか?
「ぐぬっ。おい、武器を取れ! 構えろ! 攻撃されているぞ!」
「なんて卑怯なヤツだ!」
1人相手にこの人数で押し寄せてきたのに「卑怯」とは恐れ入る——僕を中心にドーナツ状の空間ができた。
(押しつぶさないで距離を取るとか、人数差があるのになにやってるんだ? もっと卑怯な戦い方を見せてやろうか?)
僕が次に【闇魔法】を発動させると、右手に5つ、左手に5つの計10個の闇の弾が現れる。
「盾持ちが魔法を止めろ! 来るぞ!」
武装兵が入れ替わって盾を持った者が前へとやってくるけれど、僕はそんなもの気にせず、10個の闇の弾を放射。
「盾を構えろ! ……ぬっ!?」
僕は人を狙ったりはしない。狙ったのは、
「わあ!? なんだこれ!」
「暗いぞ!」
魔導ランプだ。次々に闇の弾を発射して魔導ランプの周囲にまとわりつかせる。これは殺傷能力はないが、光を遮断するだけの魔法だ。さらに言えば剣で斬ろうと手ではたこうと数分という時間が経たない限りは解除されない。
途端に、周囲は深夜の暗さに包まれる。
「——フッ」
僕は盾を構えた武装兵へと走る。気配を感じたのか盾を構えた彼らに向かって跳躍し、その頭を踏んづけて後方へと飛び込む。
この暗さがあっても僕には天賦【夜目】がある。向こうにも1、2、3……3人ほど【夜目】持ちがいるようだけれど、それじゃ全然少ないよ。
「ぐご」
「がふっ」
「っ!?」
手当たり次第に【風魔法】を打ち込み、鎧を着ていない相手にはパンチやキックをお見舞いする。【風魔法】はいい。痕跡が残らないし、光らないし、強力な風圧は鎧の上からでもダメージを与えられる。
「あそこへ撃て! 多少の巻き添えは構うな!」
魔法使いがいるようで、その人へと【夜目】持ちが指示を出した。
突き出された魔法使いの両手に、回転する炎が現れて周囲が唐突に明るくなる。
「撃てェ!」
僕はとっさに地面に手を触れ【土魔法】を発動する。石畳を割ってついでに武装兵を2人ほど吹き飛ばしながら土壁が現れ、炎の弾を粉砕した。
「んなっ!?【土魔法】まで使えるのか!?」
「いくつ使えるんだよ!」
土壁はいい目くらましになった。僕はその隙に【夜目】持ちに接近して【風魔法】で気絶させ、次に魔法使いを殴って沈めていく。
魔法使い全員沈め終わるころには暗がりで同士討ちまで始まっている——人数差を生かした戦い方とかもうちょっと考えろよ。
「クソッ! こいつは何発魔法撃てるんだよ!?」
「撃たせておけ! どうせそろそろ魔力切れ——ごふっ」
言いかけのところ悪いけど、【風魔法】で吹っ飛ばした。
「ふう、半分は減らしたかな」
魔導ランプを覆っていた【闇魔法】が解除され——ほとんどが地面に投げ出されていたので地面周辺が明るくなる。
僕の周囲には死屍累々という感じで武装兵が倒れている。殺すのではなく気絶させる前提で魔法を撃っているのでさほど魔力の消費は激しくない。これはお嬢様の星4つ【魔力操作】も学習したみたいだな……。僕の体内を流れる魔力が、完璧に制御できる感じがある。
僕はハンカチをポケットから取り出し、額を拭った。少し汗をかいた。
「残り半分」
ハンカチをしまってから、親指から順に【闇魔法】を発動させていき、合計10の闇の弾を出現させる。
「最後まで遊んでくれるんだろ?」
にこりと笑って一歩進むと「ひぃっ」と叫んだ武装兵が後じさる。ほとんどの武装兵が顔を青ざめさせ、手にした武器も震えていた。
「——その騒ぎ、待てェッ!」
とそこへ、馬の蹄鉄が石畳を叩く音が聞こえてきた。僕の【聴覚強化】がかすかに足音をとらえたあたりで声も飛んできたので、どれほどデカイ声なんだよっていう話だ。
ふだん目にする馬よりも、一回り大きい。筋骨隆々といったふうの青い毛並みの馬だったけれども、それ以上に、馬にまたがる人物のほうが目立ってしまって仕方がない。
灰色熊の毛皮をかぶった巨漢。背中には100キロを優に超えそうなほどのどっしりした両手斧を担いでいる。
「辺境伯……」
ここにきて厄介な人が来た。辺境伯は、ここにいる武装兵が束になっても到底かなわないほどには強いだろう。
僕がにらみつけると、武装兵から10メートルほど離れたところで馬を停めた。
「戦闘を停めろ、今すぐだ。俺はミュール辺境伯、こいつの意味は全員わかるな?」
辺境伯が腰にぶら下げていた、青色に輝く勾玉のようなものを取り出した。
「せ、聖王陛下の全権委任紋章!?」
武装兵たちがざわつく。どうやら、聖王の代理で来ている——とかそういう意味のようだ。
「わかったらさっさと剣を引け!! どのみちそこの小僧はお前らの手に負える相手じゃねぇんだよ! あと戻ったら、エベーニュのちんちくりんに伝えておけよ、今回の抜け駆けは許されねぇぞってな!」
hiromugichaさんにもレビューをいただきました。ありがとうございます!
あと前話でちょうど100話だったようです。タイトル回収で100話達成とか奇跡かな?(奇跡と書いて「ぐうぜん」と読む)
そんなわけで皆様にひとつお願いです。
もし本作を読んで「面白い」と思われましたら、是非、ログインして「ブックマーク」をお願いします。ブックマーク機能便利ですよ!
それとこのページ下部に「★」をつけての「評価」機能がありますので、こちらも是非ともお願いいたします。皆様が思っている以上に、作者が書き続ける原動力となりますので。
2章はあと少しで完結となりますが(たぶん)、また少しお付き合いくださいませ。




