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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
プロローグ 限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない
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 子どもひとりが身体をひねり、ごつごつする岩肌に服をこすりつけながらなんとか通れる坑道があって、これを鉱山夫たちは「狸穴(まみあな)」と呼んでいた。


天賦珠玉(スキルオーブ)あったぜ!」


 と甲高い声が狸穴から聞こえてきたので、ぼろぼろのリュックを下ろして水筒を飲んで一服していた僕は腰を上げる。


「これで今日のノルマはクリアだよ!」


 狸穴の奥へと声を掛けた。

 奥、と言っても真っ暗なわけじゃない。壁面がほんのりと発光する不思議な力によって明るさが確保されている。

 これは「ダンジョン」と呼ばれる「モンスターが出現する場所」の特徴らしい。

 ただ僕とラルクのいるダンジョンは他とはちょっと違っていて——天賦珠玉を発掘できる世界に8つしかない場所のうちのひとつだ。


「……ラルク? どうしたの?」


 なかなか戻ってこないので、僕は狸穴に首を突っ込んで彼女(・・)の名を呼んだ。ラルクは僕より3つ上の13歳で、3年前、僕がこの鉱山に売られて(・・・・)来るまでは彼女が最年少だった。

 なので、彼女はいつだって僕に対して「年上」ぶる。

 でも……それはあまりイヤな気持ちじゃなかった。貧乏で、食べるものすらぎりぎりで分け合って——むしろ非力な僕の食料を奪われていたころを思えば、ラルクの「お姉さん」ぶりなんてありがたいくらいだった。なにせ僕には食べ物だけでなく「名前」さえも与えられなかったから。

 ラルクは率先してツライ仕事を引き受けてくれるし。もっと食え、って言ってパンをほんの少し分けてくれたりするし——まあ、確かに、僕は栄養が足りなかったらしく今も背がだいぶ低いのだけれども。

 それはともかく、ラルクは、僕らに課せられたノルマである「1日10個の天賦珠玉の発掘」をこなすためにさっさと狸穴から出てくるのがいつもの常だった。

 それが、出てこないということは——。


「まさか、モンスター!?」


 僕は背筋が冷たくなった。

 ここは天賦珠玉が発掘される鉱山で、限られた冒険者と限られた鉱山奴隷(・・)しか入れない。だけど、坑道を闊歩しているのは僕らだけじゃない。

 モンスターだ。

 狸穴は僕らのような年少者が率先して天賦珠玉を回収しなければいけない。それは身体的な問題ということもあるし、一方、モンスターが出現しにくいからという意味合いもある。

 でも「しにくい」であって「絶対出ない」のではないのだ。

 過去に、逃げ場のない狸穴に、ナメクジのモンスターが出たことがあったらしい。運悪くそこにいた子どもは、ナメクジに襲われ、溶かされた——。


「ま、待ってて!」


 ナメクジのことまで思い出したときには、僕は腰に吊った(ノミ)をつかんで狸穴へと上半身を滑り込ませた。両腕でぐいと踏ん張って身体全体を通路へと押し込む。

 僕ら鉱山夫も武器の携帯は許されている。奴隷だから、魔術によって絶対に反抗できないから大丈夫なんだそうだ。だけど子どもの僕らに与えられた武器と言えば先っちょの欠けたナイフが一本で、それは「お姉さん」のラルクが僕に渡してくれるはずもない。

 だから、鑿。

 でも鑿だって、武器になる。岩だって削るしゴブリンの目くらいえぐれるはず。いや、ゴブリン見たことないけど。


 ずずずずずずず……。


 ちょうどその瞬間、地響きが聞こえたものだから僕の小さな心臓は縮み上がった。だけれどラルクを放ってはおけない。


「僕が今から助けに行——もごっ!?」


 勇んで乗り込んでいった僕の目の前に現れたのは、湿って、柔らかい、表面は布の感触だった。


「ぎゃあ!? ちょっ、なに来てんだよ!」

「もごもがっ!?」


 詰まるところ僕の顔面はラルクのお尻に埋まっているわけで、


「動くなバカッ、アホッ、くすぐっ……ぎゃははは!」

「あごふっ!?」


 くすぐったかったらしいラルクが大笑いし、跳ね上がった彼女の足が僕のアゴにヒット。その衝撃で僕の頭は狸穴の天井に激突したのだった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ぼろぼろのリュックを下ろして水筒を飲んで 水筒を飲んじゃってますが・・・大丈夫でしょうか?
[良い点] タイトルとあらすじで興味持ちました [一言] これから楽しみです
[良い点] 冒頭でさわりまで結構書いています。がそこからの物語を期待しています(掲載3ヶ月で40万字超え。お疲れ様です)。 [一言] この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます! の紹…
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