忙しい日々
ソティラス 、的たち十人は、翌日から急に忙しくなった。悪魔があちこちの遺跡から一斉に出てきたのである。しかも、今までとは違い、十人の大所帯となって。それに加え、新月と満月の夜だけに出てきた悪魔だったが、毎日現れるようになった。大忙しの毎日だったが、ソティラスの圧勝が続いていた。
彼らの待機場所として、特別教室が解放された。戦いの合間を縫って、窓際の席に座っていた的は、ぼんやり考え事。
自分がセフィスへ来たのは、ソティラスのメンバーになるためだったのかと思わずにいられなかった。知恵を意味する、『グノシー』をつけて、呪文を唱えると、今までとは桁外れに魔法が効くのだ。相手を一撃でスパッと倒せるし、自分の体とは思えないほど身軽になった。何より、武器が自分を勝利に導いているような感覚だった。
そこで、彼の考えは飛躍した。的は攻撃担当だ。そのため、戦いでは常に最前線に立っている。彼は疑問を持っていた、敵の目の色が違うことに。今までは赤く光る目だったが、目元が見えない敵も混じっていた。そんなの個性だと言われてしまえば、それまでだが、気になることはそれだけではなかった。
今までは攻撃をしても、悪魔はうんともすんとも言わなかった。終始無言。だが、断末魔のような悲鳴を上げ倒れ、光と化すものが現れたのだ。悪魔らしいと言えば、そうなのだが、なぜ、急に変わったのかが的は気になって仕方がなかった。
彼は紫の月、アメティスを見上げていたが、答えは見つからなかった。考えるのをやめ、窓から教室へ視線を戻すと、ドアががらっと開き、クピルが険しい顔で、
「ズィオ村とエプタ村に悪魔が出たわ!」
ソティラス たちは一斉に立ちあがり、教室から飛び出していった。
★ ★ ★
ズィオ村に向かった第二班は、今までとは違う敵に出くわしていた。それは、知恵を持っていることだった。ただ剣を振り下ろすだけだったのが、防御魔法の呪文を唱えようとしたアサシを真っ先に襲ってきたのだ。アサシは右腕に軽いケガを負い、治癒のジュランがすかさず、
「アサシ先輩! 我 ドクサ デオス プロセフホメ アナクフィシー オアシー!!」
アサシの傷は癒されたが、今度は、魔力を使いすぎたジュランが倒れる。彼を守る形で、戦いは展開された。アサシはまた攻撃される前にと思いつつ、素早く呪文を唱えた。
「我 アヒル デオス プロセフホメ アスピダ アミナ!」
今度はしっかり防御が成功。好機といわんばかりに、天使と見間違うようなクリティアが、
「我 オモルフォ エクサルファ デオス アゲロス」
光の魔法陣が敵の手前に突如現れ、大きな天使が具現化する。
「エピセシー!」
天使が翼を羽ばたかせると、突風が吹き荒れ、悪魔十人を吹き飛ばした。生い茂る木々に激突し、半分が光と化した。残った悪魔五人はよろよろ立ち上がるが、体勢が整ったと思ったら、こちらへ猛突進。だが、イグジは見逃さなかった。
「我 スリアンヴォス デオス プロセフホメ スパフィー ヴロヒ カタストロフィ!!」
天から光る剣が雨のように降り注ぎ、悪魔五人をあっという間に倒した。さすが、自分にあった武器を、使い込んで来ただけのことはある。近接戦に持ち込んで、一人一人倒すのではなく、こんな風な使い方もでき、一気に倒すことが出来たのだ。
戦いは終わったが、一人倒れている人が。他人優先しすぎのジュランである。アステルダムはあきれ顔で、
「そこまでやらなくても、アサシの傷は治ったわよ。この子は加減を知らないのね。まったく、困った子だわ」
彼女はジュランのそばに歩み寄り、
「デオス プロセフホメ ジュラン アナクフィシー」
ジュランの疲労は綺麗に取り除かれ、パッと起き上がって、
「ありがとうございまーす! 先輩♡」
「まったく、もう」
アステルダムの怒った声響くと、みんなそれに笑って、引き上げてゆくという戦い方を、二班はいつもしていた。
★ ★ ★
一方、エプタに向かった第一班は、
「的、今だ!!」
司令塔のギャラクシムが叫んだ。
「我 グノシー デオス プロセフホメ ロンヒ エピセシー!!」
光る槍が、的の手の中に現れ、敵を一体一体、的確に倒していく彼だったが、十対一では無理がある。そこで、最後尾にいるギャラクシムは次なる指令を、
「ミザリオ!」
「はい!」
ミザリオは後方から、数字に置き換えて覚えた呪文を唱えた。
「我 エフティヒア デオス プロセフホメ アゲロス」
光る魔法陣が、一気に七つ敵の前に現れた。ソティラスとして選ばれたミザリオの魔法は数段技術が上がっていた。
「クソルキ エピセシー!」
七対の天使が次々と悪魔に矢を射り、あっという間に倒した。だが、まだ三体残っている。ギャラクシムはすかさず、
「的、受けろ!」
言われた彼は、敵から目を離さず、自分に補助魔法がかけられるのを待った。
「我 ヴァシーリオ デオス プロセフホメ 的 エピセシー アナクフィシー!!」
的は自分のうちから力がみなぎってくるのがわかった。手に持っている槍も光を増していく。ギャラクシムは魔法を持続させながら、さらに指示を出す。さすが最上級生。気がそれても、魔力は維持できている。
「ギル、的の防御」
「我 ディケオシニ デオス プロセフホメ アスピダ アミナ」
ギルが的を守る形になった。的は槍を振るうが、イグジのように爽快に敵を倒すことはできなかった。その時だ。
パーン!
的たちは今までの戦いで、聞いたこともない音だった。全員が一瞬動きを止めた。ただ、的一人は何なのか気づいた。敵は剣ではなく、飛び道具を使ってきた。拳銃だ。文明の発展していないセフィス人にわかるはずはなく、そのため身も守ることはできず、的の右肩を弾丸がかすめた。
「うっ!」
ギルの防御魔法をかいくぐってきた。彼の異変を見て取ったギャラクシムは、
「シャータ!」
「我 エレオス デオス プロセフホメ アナクフィシー 」
的は肩の傷が癒えていくのを感じ、慎重に槍を振るい始めた。敵は断末魔をあげていく。
「うぎゃあぁぁっっっ!!」
「ぎぇぇぇっっっ!!」
的は疲れたのか、ふらっとした。敵はその隙を逃さなかった。一人残された悪魔は叫び声をあげ、やけくそになって、
「うおぉぉぉぉーー!!」
剣を突き出し、突進してきた。一気に間合いを詰められてしまい、的は戦えなくなった。槍は剣より、間合いが広いのだ。これで、終わりか……。そう思った時、光る球が後ろから飛んできた。ギャラクシムの攻撃だ。正確に敵を捉えており、一気に弾き飛ばした。遺跡の壁まで吹き飛ばされ、背中から激突。
「ぐふっ!」
ぐたっと力が抜けると、光と化した。戦いは終わった。
「ありがーー」
的がお礼を言う前に、
「半人前だから、俺が手を貸してやらねえとな」
ギャラクシムは的の頭をポンポンと軽く叩いた。子供扱いされたようで、的はムッとしながら、乱れた髪を手ぐしで整えた。だが、半人前は本当のことで、的は何も言い返せなかった。引き上げていくみんなの後ろから、彼はついていく。
みんなは昔から、魔法の練習をしてきた。だから、上手にできて当然だが、自分はそれに比べたら、にわか仕込みだ。出来ないのは当たりなのだが、何かが根本的に違っているような気がしてならなかった。何がと問われれば、答えることはできないが。その上、戦闘の途中で、倒れそうになる感覚も、他の人にはない現象で、的は首をひねる他なかった。
★ ★ ★
日によっては、三度も出動することもあり、ソティラスたちに疲れが見えてきた。マサガガとクピルは彼らのために、昔からの万能薬、アメティスの光を浴びた灯草の露を集めて、ソティラスたちのサポートをする日々を送っていた。
そんな様子を、近くで見ていた他の生徒たち。彼らからソティラスたちを心配する声が上がり、自分たちも戦いに赴きたいと、マサガガとクピルに願い出た。
だが、二人は悩んだ。カタフィギオから選ばれた者ではないため、他の生徒たちは極端に魔力が弱い。どうしたものかと思案した挙句、それぞれの科から三人ずつ、十五人体制を組ませ、他の生徒たちも戦いに出るようになった。
倒しても、倒しても、出てくる悪魔。
司令塔のギャラクシムは、魔法の連続で、ひたいの汗をぬぐいながら、
「きりないぜ、まったく……」
吐き捨てるように言った。
それでも、戦い続ける日々は続く。




