2 いつも通りの昼下がり
大国ファルベの歴史は長く、「ファルベ」を名乗ってから、かれこれ500年が過ぎようとしている。
南北へ伸びるこの国は、様々な気候や動植物に恵まれ、また科学が発展してからというもの広大なこの土地を端から端までつなぐための交通機関も数多く登場し、物資不足などは遠い昔に起きた不幸な事故として扱われるまでになっている。
王制であるがここ8代暴君という暴君も現れず、いたって平和な時代が続いている。
ファルベ10世が統治する現在も大きな事件はない。
そんな衣食住、交通、政治 何一つ不自由ないようなこの国でも、広さ故に交通機関や物資が行き届かない辺境が存在する。
この土地では100年前とほぼ同様の生活を行っていると言ってもいい。
そんな辺境の地にクライナー孤児院はある。
「まあた負けたかー」
緑が深まり日差しが地面をやき始めたこの季節、土の上に転がった一人の少年が声をあげる。
「おまえらおかしいんじゃねえの?」
「強すぎる・・・」
「もう強い弱いの話じゃなくなってきてる気がするんだけど・・・」
「瞬殺されたっす」
「やっぱりおかしいぞ!」
真っ先に声を発した少年に続き、これまた同じように汗まみれで転がっていた他の少年少女達からも声があがる。
その批難の先にいるのは僕を含め三人。
「おかしいのはあんた達の砂だらけの顔だねー」
そのうちの一人、少女が少し前傾姿勢をとり、遠くを眺めるように手を額にあてながら楽しげにそれらの声にこたえている。
その言葉に同じ孤児院の仲間であるにもかかわらず、周囲が軽く殺気立つ。
それを感じて僕はあわてる。
「ちょっ、ラント、煽るような言い方やめろよ、たかだか戦闘訓練で打ちのめされて文句たれるぐらいこいつら気が短いんだから」
面倒ごとを引き起こさないためにもフォローする。
「ん?ディヴェルトの方がよっぽどひどいこと言ってない?」
「いやいや、僕がこいつら煽って何かメリットある?」
「ないね」
「そういうことだ」
・・・おや?フォローしたのに殺気が
僕が首をかしげていると最後の一人があきれたような調子で口を挟む。彼も僕らとは違い額に汗をにじませ、少し長めの髪からぽたりぽたりと雫が落ちている。
「二人とも齢15にもなって煽り方もろくに知らないなんて・・・そもそも「煽る」ってのは他人を刺激して行動を駆り立てるための手法で、ちょ、てめえらうるさい!んで何だっけ?ああ、「煽る」だな。これは幾多の戦場でも、だからきゃーきゃーとさっきから何な
話の途中で彼は異変に気がつく。
先程まで行っていた戦闘訓練の際の騒がしさが戻っている。
なぜなら、僕とラントのたわいもない会話は彼の説教の間に壮絶な喧嘩へと発展していたのだ。
理由は明白。
―卵焼きは砂糖だ。絶対に。それを侮辱したラントは許せん。
地面に転がっていた約30名を巻き込んでの大乱闘。
「ちょっと、兄貴の話も聞いてくれよー」
僕ら二人の説教に失敗した兄・リヒトは、寂しそうな口調をしながらも、なんだかんだで笑顔を浮かべ乱闘の中に踏み行ってくる。
その後は孤児院のいつも通りのがりだ。