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B:Lue ~図書室の女王、夢見の人形~  作者: 湊波
図書室の女王、夢見の人形 ―the Truth ... the queen has, the doll dreams-
47/55

act.8

 ***


『龍とは、人の願いによって生まれる獣である。』

『選ばれた者は契を交わし、龍の持つ力――魔法を手にすることができ、』

『……数年前より、我が国で見られ始めた魔物は、漆黒の翼と血のごとく穢れた紅き瞳を持つ。頭部が龍によく似たそれを、陛下はドラゴンと名付ける』

『竜は非常に凶暴で貪欲』

『竜が最初に認められたのはルクスとの国境沿いの荒野で』

『ある学者は竜は悪しき願いから生まれたと』


「……はぁ」

 

 ソラは顔を上げてため息をついた。

 首を回し、目を瞬かせ、もう一度手元に目を落とす。

 開かれているのは、古びた分厚い本。それをちらりと見やって、再びため息と共に本を閉じた。

 『龍と竜の類似性について』。偶然見つけた本だ。だが、結局、竜のことはよく分からない、という結論しか得られなかった。 

 まして、リューの治療法なんて。


「……また手がかりなしか……」

 

 もう、一ヶ月も経つのに。そう心中でぼやきながら、ソラは目の前の本棚に本を押し込んだ。

 顔を上げる。

 見渡す限り、びっしりと本でうめつくされた本棚だ。ぐるりと、円形の部屋の壁の全てが本棚である。本棚の高さは果てが知れない。この建物は、外から見れば五階建てだ。けれど中に入れば吹き抜けで、二階、三階と明確に階を分けるような床はない。本をとるための小さな階段と踊り場が、天井からロープであちこちに吊るされているだけ。

 つまりは、五階建て分の高さの本棚が部屋の壁なのである。


 イシュカ国立大図書館――アレクサンドリア。

 それがこの建物の名前。そして。


「ソラ、何をちんたらやってるのですか!?」

「……はいはい、今行くって」


 下から飛んできたアリスの声に、二階にいたソラは肩をすくめた。

 大図書館アレクサンドリアはアリスの仕事場の一つだ。王城内警備の仕事の傍ら、アリスが行う山積みの仕事の一つ。

 ソラがアリスの元で働き始めて一ヶ月経つ。困っている人を見捨てられないのか、アリスはとかく人から頼まれた仕事を断らなかった。人手が足りないとわかれば、その仕事をすぐに肩代わりする。

 要は、仕事を押しつけられることが多いのだ。

 そして悲しいかな。それ即ち、アリスのパシリとなってしまったソラの仕事が増えるということである。

 ここでの仕事は実に単純明快だ。本棚に本を戻すこと。

 問題は、その量だ。


「多すぎでしょ……」

「当然なのです。陛下は物語を愛していらっしゃるのですから」


 思わずソラがぼやいた言葉でさえ、アリスは耳ざとく聞き取っていたらしい。

 地獄耳すぎだろ。

 そう言いかけた言葉を、苦いため息と共に吐き出した。

 傍らに置いていた最後の一冊を本棚に押し込む。歩く度にゆらりと揺れる階段を降りる。

 そうして、一階にたどり着けば、待っていましたとばかりに、アリスに次の本の山を押しつけられた。


「……ねぇ、今本を片付け終わったばっかりなんだけど?」

「いやだなぁ、仕事とは終わりなきものなのですよ?」

「…………」

「睨んだって無駄なのです。ほら、ついてきやがれなのですよ」


 銀髪を綺麗に翻し、アリスが颯爽と歩き始める。

 仕方なくため息をついて、ソラはその背を追いかけた。

 日の落ちた図書館は薄暗い。

 すれ違った管理人が、あちこちに設けられたランタンに炎を灯していく。

 暖かな炎の色で包まれた空気は、どこか安心感さえ抱かせてくれるものだ。


「ねぇ」

「なんなのです?」

「ここ、やたら本が多いけど……全部でどれくらいあるの?」

「さぁ」

「さぁって……」

「言葉通りの意味なのです。多分、ここの館長だって知らないと思うのですよ。なんせ、生み出された物語は全て書物の形で図書館に収められているのです」

「全てって?」

「有名なものからは無名のものまで。作家でなくとも良いのです。誰かの話の続きを書いたものでもいいし、子供がお遊びで書くような物語も対象となるのです。種類も問わないのですよ? レシピだとか説明書だとか占いの本だとか」

「とりあえず本であればいいってこと?」

「本になりそうなものなら何でも良い、ということなのです」

「なんかめちゃくちゃな気がするんだけど……」

「どうしてそう思うのです?」

「すっごく下手な話とかあるんじゃないの? 誰にも見向きもされない話だとか。そんなの、本にするだけ無駄だと思うんだけど」

「ちっちっちっ……甘いのですよ、ソラ」

「……何がだよ」


 アリスはくるりと振り返った。両手を広げる。


「どんな物語であれ、描けることが素晴らしいのです。心をこめて描いたからこそ、生まれる世界がある。生まれる命だってある。そうして生まれた世界が、たった一人でもいい、読者の胸に響いたら……こんなに素晴らしいことはないと、思いませんか?」


 アリスが微笑む。純粋に瞳をきらめかせて。

 それが少し眩しくて、ソラは目を逸らすように本棚の方へ目を向けた。


「ま、まぁ……そうだね」

「おやおやぁ~? ソラったら目を逸らしちゃって……もしや私の魅力にあてられちまったのですかぁ?」

「は!? そんなわけないだろ!」

「うふふ、照れ屋さんなのですねぇ~?」

「だから……!」

「そんな照れ屋のソラは、とっとと本をしまって館長から書類を受け取ってきやがれなのです」

「……アリスはどうするんだよ?」

「私は警備の最終確認をしてくるのです。そうですねぇ、半刻後に正面入口集合で」

「半刻後!? ま、待ってよ! もう少し時間を、」

「パシリの意見は受け付けないのです。ほら、ちゃっちゃか働く!」

「痛っ」


 アリスに思い切り背中を叩かれた。

 地味に痛い。けれど、顔をしかめたところで、既にアリスは別の通路を歩き始めていて。

 

「……この馬鹿力女」


 思わずぼそりと呟いた。瞬間、頬をかすめて何かがが飛んでくる。

 ごとん、と背後で音を立てて落ちた。見れば、いつだったかアリスが戦う時に使う鉄の棒が床に転がっている。


「あっれれぇー? おっかしいなぁー。手が滑っちゃったのですー」

「……し、仕事シテキマス……」


 白々しい声を上げるアリスに背を向けて、ソラは一目散に足を動かした。


 本を戻し終え、図書館の一番奥にある館長室に辿り着いたのは、半刻経つか経たないかの、ぎりぎりのところだった。

 弾んだ息を整え、閉じられた扉を叩く。許可の声がしたので中に入った。

 書斎机に向かって何か書物をしていた男――恐らくは館長が、不思議そうな顔をする。


「君は……?」

「あ、えっと、いつもの書類を取りに来ました」

「書類?」

「はい。アリス……じゃなかった。リデル隊長の代わりで」

「あぁ、彼女の」


 笑って頷く館長に、ソラは書類を手渡した。

 館長は丸メガネをかけ、羽ペンをインクに浸す。


「リデル隊長は今日はいないのかね?」

「? 最後の見回りをしてるところですけど……呼んできましょうか?」

「いやいや。構わないよ……なに、毎日、彼女が書類を持ってくるものだからね。体調でも崩したのかと思っただけさ」

「まさか」


 むしろ『うっかり手を滑らせて』鉄の棒を投げてくるくらいには元気です。言いかけた言葉をソラが飲み込む間に、サインを終えた館長が書類をソラの方へ差し出した。


「君は、リデル隊長の部下、ということなのかな?」

「え、えぇ、まぁ」

「そうか。彼女は本当に良い子だよ。この前は壊れた吊り階段を直してくれたし。夜遅くまで、古い本の修繕も手伝ってくれたし」

「はぁ」

「リデル隊長はずっと一人で仕事をしていたんだ。そんな彼女が君を部下にしたということは、それだけ期待されているんだろう」

「き、期待……? いや、そうじゃなくて、ただのパシリとして見られてる気が、」

「仕事は大変だろうが、頑張って、彼女を支えてあげておくれ」


 館長が、にこりと微笑む。そうなってしまえばソラにはどうしようもなく、曖昧に笑って、書類を受け取った。

 館長が目を瞬かせる。


「それにしても君……髪の色といい、顔立ちといい、リデル隊長そっくりだね? 兄妹か何かかい?」

「はぁ?」


 何を言い出すんだ、このおっさんは。危うくソラが、そう言いかけた時だった。

 低い鐘の音が鳴り響く。余韻を重ねて、丁度五回。

 ソラは青ざめた。


「すいません……! アリス、じゃなかった、リデル隊長が待ってるので!」


 書類を抱え直して部屋を飛び出す。ランタンがポツポツと灯る通路を駆ける。

 五回の鐘は約束の時間だ。遅れればどうなるか……考えた瞬間、鉄棒を振りかざすアリスの笑顔が垣間見えた気がして、ソラはさらに足を早めた。


***


 息せき切って、ソラが入り口にたどり着く。

 アリスの笑い声が飛んできた。ソラは反射的に首をすくめる。

 しかし、ゲンコツも鉄棒も飛んでは来ず……そろりと辺りを見回したソラは、目を丸くした。

 入り口から少し離れたところにある小さな庭。そこに植えられている木の下で、アリスが数人の子供たちの相手をしている。

 アリスはソラにも気づいていないようだ。冗談を言って、子どもたちと笑い合う。それから、彼らと共に木陰に座り、子供の一人が持っていた絵本を受け取り、ページを開く。

 普段の彼女からは想像もできないほど穏やかな光景に、ソラが目を奪われて。


「ねぇねぇ、おにーちゃん」


 不意に、声をかけられた。

 ソラがびくりとして我に返ると、幼い少女がソラの服の裾を掴んで小首を傾げる。


「ほん、よんでほしいの」

「本?」

「うんっ。これ!」


 少女は満面の笑みで片手に持っていた本を差し出した。おまけに、アリスがいるのとは別の木陰へソラを引っ張ろうとしていて、慌ててソラは声を上げた。


「ちょっ、まだ読むなんて言ってな……!?」

「よんでくれないの……?」

「うっ……よ、読まないとも……言ってないけど……」


 ソラはちらりと少女の方を見やった。少女は大きな瞳を潤ませて、じっとソラの方を見ている。

 じっ……と。


「……あぁもう分かったよ! 読むよ!」

「ほんとっ!?」


 根負けしたソラが声を上げると、少女は満面の笑みを浮かべてソラを引っ張った。なされるがまま、ソラが木陰に座ると、隣に少女が座り、改めて本を差し出す。

 それは、絵本だった。

 中央に描かれているのは、一人の女の子。大切そうに銀の髪の人形を抱えている。

 そのタイトルを見て、ソラは顔をしかめた。よりにもよって、彼女と同じ名前だ。

 一瞬、読むのを躊躇った。けれど隣の少女のうきうきとした様子に負けて、渋々口を開く。


「『にんぎょう ありす の ぼうけん』はじまりはじまり。むかし、むかし、ある貧しい家に……」




 ある貧しい家に、マリーという女の子がいました。

 マリーが大切にしていたのは、お父さんが作ってくれた人形でした。

 人形の名前を、アリスといいます。

 マリーは、いつもアリスに話しかけました。けれど、アリスは人形なのでしゃべれません。

 そこで、赤い星が輝く夜、マリーは言いました。


『アリスとお話できたらなぁ。』


 すると、どこからともなく真っ黒な魔女が現れて言いました。


『お前の願いを叶えてあげよう。』

『ほんとう!?』

『本当だとも。その人形に命をあげよう。ただし、偽物の命さ。この人形が涙を流した時、偽物の命は本物になるだろう。』


 真っ黒な魔女は人形のアリスに魔法をかけました。

 すると、アリスはぴょこんと飛び跳ねて、マリーにおじぎをしました。


『はじめまして、マリー。ずっと、あなたとお話したかったのよ。』


 マリーは、大喜びしました。


『わたしもよ! アリス!』


 それからというもの、二人は、たくさん遊び、たくさんおしゃべりをし、一緒に眠りました。

 そんなある日のことです。

 マリーは病気になってしまいました。けれど、貧乏な家には薬を買うお金がありません。

 そこで、アリスはお城に行き、お金をかせぐことにしました。


 ある時は、兵士の頼みで魔物を倒しにいきました。

 ある時は、召使の頼みで危険な崖になる珍しい果物を採りに行きました。

 ある時は、王様の頼みで見知らぬ隣国へ旅をさせられることもありました。


 アリスにはいつも、危険な仕事ばかり回ってきました。

 それも全て、アリスが人形で、どれだけ傷ついても死なないからでした。


 アリスは、文句も言わずに働きました。

 マリーの薬が買えるよう、お金を送りました。

 マリーが美味しいものを食べられるよう、お金を送りました。

 マリーが新しい服を買えるよう、お金を送りました。

 マリーのために、アリスは必死に働きました。


 けれど、そんな時です。今度はアリスが倒れてしまいました。


 誰にも原因は分かりませんでした。

 そして、お城中の誰もが、アリスの元から離れていきました。

 アリスは人形だから、壊れることもあるだろうと思ったのです。


 アリスはただ一人、お城の物置に放って置かれたままになりました。

 人形だから、泣くこともできず、床に転がったまま。


「……そうしてアリスは埃をかぶり、誰からも忘れ去られてしまったのでした」


 ソラが本を閉じると、傍らで聞いていた少女が鼻を鳴らした。

 見れば、その目には涙が浮かんでいて、ソラはぎょっとする。


「ちょ、ちょっと……何も泣くことないだろ……?」

「だ、だってぇ……ぐすっ、……かなしいはなしなんだもん……」

「いや、確かに悲しいっていうか、結構暗い話だとは思うけど……」


 これ、本当に子供に読ませる絵本なんだろうか。ソラは半信半疑の視線を絵本に向ける。絵本のアリスと目があった。

 銀髪にオレンジの瞳。それは、まさしく目の前で子どもたちの相手をしているアリスそっくりだ。

 というより、そのものなんじゃないか。自分の想像に、何故かソラが薄ら寒いものを覚えた時だった。

 影が落ちる。顔を上げれば、警備兵の男が三人。


「……なにか用?」

「仕事だ、下っ端」

「仕事? 今日の分はちゃんと終わっただろ」

「追加だよ、追加。下っ端のうちは、たくさん仕事して仕事覚えねぇとなぁ?」


 何が面白いのか、三人の男たちはニヤニヤ笑い合う。ソラは眉根を寄せた。言い返そうと口を開きかける……が、服の裾を掴まれる感覚がした。

 見れば、少女が怯えたような視線を男たちに向けている。ソラの服を掴んだ手は僅かに震えていた。

 ソラが思わず言葉に詰まった。その隙に男たちがソラに無理矢理、分厚い封筒を押しつける。

 緑色の封筒だ。


「そいつを届けてくれればいいからさぁ!」

「簡単だろ? 住所のとこに行って、受け取りのサインもらって来るだけなんだからよ!」

「じゃ、今日中にサインもらって明日の朝一に俺らのとこ持ってこいよ!」

「っ、ちょっと……!」


 ソラが抗議の声を上げるも、男たちは笑いながら立ち去ってしまった。


「おにーちゃん……?」

「あぁもう……泣かないでって」


 ソラは、ため息混じりに立ち上がった。泣きそうな少女の視線がソラを追う。

 不安げな少女の視線は、苦手だ。ソラは何とか笑みを浮かべ、絵本を少女に手渡した。


「アリスのところに行きなよ。僕はちょっと仕事してくるから」

「でも……」

「大丈夫だって。えっと……そうだな。またここに来てくれたら、本読んであげるから」

「ほんとう?」


 少女が目を瞬かせた。ほっとしながらソラが一つ頷けば、彼女は絵本をぎゅっと抱きしめて立ち上がる。


「ぜったい、ぜったいだよ!」

「うん」


 ソラが頷くと、少女は身を翻して駈け出した。

 その背を見送って、ソラは踵を返す。

 そういえば、アリスとここで待ち合わせしていたんだった。そんなことを思い出したが、ソラはゆるりと首を振った。

 多分、アリスが同じ立場なら仕事を終わらせに行くだろう。どんな仕事を頼まれても、嫌な顔ひとつせず引き受けるアリスの姿が脳裏をよぎる。


「さっさと終わらせよう」


 そう呟いて、封筒に乱暴に書かれた住所を確かめて。そうしてソラは、ゆっくりと歩き始めた。


***


「アリスおねーちゃんっ」

「んん? どうしたのですか?」


 服の裾をぐっと引かれてる。本を読み終え、少年たちと遊んでいたアリスは後ろを振り返った。少女がいる。ソラに本を読んでもらっていた少女だ。

 アリスは小首を傾げて、辺りを見回した。


「ソラが見当たらないですねぇ……まさか逃げやがったのです?」


 だとしたら、ゲンコツものだ。不敵な笑みを浮かべながらアリスが尋ねれば、少女がぶんぶんと首を振った。


「ちがうよ! アリスおねーちゃんのいったとおり、おにーちゃんはちゃんとほんよんでくれたの!」

「お、そうなのですか?」

「うんっ! でもね! こわいおにーちゃんたちがきて、ソラおにーちゃんがおしごとするからって、またあしたよんであげるよって!」

「へぇ。あのソラがそんなことを……」


 思わずアリスは感心してしまった。一ヶ月前のソラなら考えられないことだ。

 無愛想で、どこかやさぐれていて、色々考えているだろうに行動しないでウジウジ悩んでいる。少なくとも、一ヶ月前のソラはそうだった、はずだが。


「成長してるってことなのですかねぇ……」


 なんとなく、嬉しいような、くすぐったいような。親のような気持ちでアリスが目を細める。

 そんなアリスの目の前で、少女は少し顔を曇らせた。


「でも……しんぱいかも」

「心配、なのです?」

「うん……だって、さっききたおにーちゃんたち、こわかったし……」

「さっきも言ってましたよね? おにーちゃんたちって」

「そうなの。アリスおねーちゃんとおなじふくきててね、ソラおにーちゃんにふうとうわたして、いってこいって」


 アリスは目を瞬かせた。

 同じ服、ということは、警備の人間じゃないか。

 それに封筒って……思い当たる節があったアリスは、慌てて身をかがめて、少女と目線をあわせる。


「その封筒って、何色だったのです!?」

「え、えぇ? えっと……みどりいろ、だったけど……」

「あんの馬鹿……っ!」


 アリスは弾かれたように立ち上がった。

 緑色の封筒には心当たりがある。

 それはとびきり難しい案件だ。絶対にサインなんてもらえない。


「アリスおねーちゃん……?」

「ごめんなのです! 今日はここまでで!」

「えぇ!? なんで!?」

「用事を思い出したのです! また、明日!」


 おざなりに答えて、アリスは駈け出した。

 早くソラを追いかけて捕まえなくては。


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