キャラクター紹介
橋本由実
本作の主人公。聖フェリス学園高等部一年生。十五歳。
高等部から入学した外部生で、内部進学生たちが持つ長い友人関係や特技に引け目を感じている。
中学時代は美術部に所属していたが、自分には人へ誇れるものも、最後まで続けられたものもないと思っている。
吹奏楽部の歓迎演奏でサックスへ興味を持ち、二年生の佐伯香苗に半ば強引に見学へ連れていかれる。
香苗と同じアルトサックスを希望するが、部の事情からテナーサックスを担当することになる。
最初に与えられた楽器は、学校備品の赤いBuffet Crampon S1 Prestige。
傷や剥がれのある古い楽器を、初めは「余った自分へ回された余り物」のように感じていた。
しかし、練習や合奏、本番を重ねるなかで、赤いテナーが多くの初心者を最初の音へ導いてきた楽器だと知る。
慎重で、自信がなく、失敗を強く恐れる性格。
一方で、一度納得したことは記録し、地道に積み重ねられる粘り強さを持つ。
練習内容や失敗、できるようになったことを記録帳へ書き続け、その記録は後に楽器購入や香苗の定期演奏会参加案を考える材料となる。
物語後半では、自分の意思でYanagisawa WO2を選ぶ。
「必要とされたからテナーを吹く」少女から、「自分が好きだからテナーを吹く」奏者へ成長する。
香苗への感情は、憧れ、依存、尊敬を経て、恋心へ変わっていく。
しかし、香苗を自分のそばへ置くために夢を諦めさせるのではなく、異なる未来を選んだまま互いの音を聴き続ける道を選ぶ。
翌年には、自分が赤いテナーから受け取った経験を新入生へ渡す側となる。
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佐伯香苗
聖フェリス学園高等部二年生。アルトサックス担当。
由実を吹奏楽部へ連れてきた先輩であり、最初の指導者。
率直で少し強引。
困っている人や、興味を持ちながら一歩を踏み出せない人を放っておけない。
由実が吹奏楽部の演奏を見つめていたことへ気付き、本人が迷っているうちに見学へ連れていく。
普段は簡潔でぶっきらぼうな話し方をするが、サックスの話になると説明が止まらなくなる。
マウスピース、リード、リガチャー、メーカーごとの設計や音色の違いに詳しい、かなりのサックス好き。
使用楽器は、父親から譲り受けたKeilwerth SX90Rのアルトサックス。
最初から自分で選んだ楽器ではないが、道具を選び、長く吹き続けることで、自分の音へ変えてきた。
由実に対しても、自分と同じ楽器や音を選ばせようとはしない。
意見や知識は与えるが、最後には本人へ選ばせる。
指導は厳しく、失敗を慰めて終わらせることはない。
しかし、由実ができるようになった小さな変化を誰より早く見つける。
幼い頃に重い病気を患い、長期間治療を受けた経験がある。
病気だけでなく、恐怖や不安にも向き合ってくれた医師との出会いから、自分も人を助けられる医師になりたいと考えるようになった。
医学部進学を目指しているが、現在の成績では十分とはいえず、勉強時間を確保するため年内で吹奏楽部を退部する決断をする。
部活動を軽く見ているから辞めるのではない。
音楽も医師になる夢も大切だからこそ、どちらにも中途半端な姿勢で向き合いたくないと考えている。
すべてを自分で背負おうとする面があるが、由実たちの提案を受け、役割を仲間へ任せることも学ぶ。
由実にとっては、音楽の始まりをくれた人。
物語の終盤では、守り教えるだけの先輩から、互いの音を聴かせ合う一人の奏者へと関係が変化する。
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小川真琴
由実と同学年の一年生。アルトサックス担当。
ピアノ経験があり、音感にも優れている。
仮入部の段階で由実と同じくアルトサックスを希望する。
経験も能力もある真琴の存在は、当初の由実にとって、自分との差を意識させる相手となる。
しかし真琴本人は由実を見下しておらず、穏やかで協調性がある。
演奏や練習のなかで、由実のテナーを頼りにするようになり、同期として互いの音を支え合う関係となる。
香苗の退部が決まった際には、自分も寂しいと認めながら、香苗本人の選択を尊重したいと由実へ伝える。
「寂しいこと」と「相手の選択を尊重すること」は両立すると教える役割を担う。
香苗の退部後は、アルト側の基礎練習や後輩への指導を引き受ける。
由実にとって、香苗の代わりではなく、同じ立場から一緒に部を支える大切な仲間。
翌年には由実とともに、新入生の楽器体験を担当する。
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榊原莉央
サックスパートの先輩。バリトンサックス担当。
低音から合奏全体を支える、落ち着いた奏者。
由実がテナーの役割を理解するうえで、重要な存在となる。
テナーは旋律と低音の間をつなぐ楽器であり、バリトンサックスや低音楽器との音合わせを通じて、その役割を由実へ実感させる。
親しみやすく、後輩の緊張を和らげるタイプ。
香苗の退部を寂しがりながらも、その進路を応援する。
香苗が不在の日には由実の低音や音程を確認し、由実が一人で練習を抱え込まないよう支える。
由実にとって、香苗とは異なる方法で音楽を教えてくれる先輩。
香苗退部後も、真琴や由実と役割を分けながらサックスパートを支える。
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水野千秋
聖フェリス学園高等部三年生。サックスパートリーダー。
由実が入部した時点で、サックスパート全体をまとめている。
冷静で、演奏を感覚だけでなく役割や構造から考える人物。
初めて合奏へ参加した由実が、自分の音を聞かせようとして荒い大音量を出した際、
「大きい音を出すことと、届く音を出すことは違う」
と指摘する。
また、テナーサックスについて、
「上と下の間に橋を架ける楽器」
と教える。
由実にとって、テナーという楽器の意味を最初に言葉で示した先輩。
県大会では金賞を受賞しながら代表へ届かなかった現実を受け止め、自分たちの実力不足を認めつつ、作り上げた演奏そのものは否定しない。
引退時には、香苗へサックスパートの運営記録を託す。
由実へは、いつか自分が支えられる側ではなく、誰かへ橋を架ける側になることを示唆する。
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高瀬美緒
聖フェリス学園吹奏楽部の顧問。
部員の気持ちだけでなく、学業、負担、部全体の公平性を考えて判断する現実的な指導者。
香苗の退部についても、辞めるよう強制した人物ではない。
香苗本人が考えた末の決断として受け止める。
由実が香苗を定期演奏会まで参加させる案を持ってきた際には、感情だけで許可しない。
香苗の学業を妨げないこと。
本人が無理をしないこと。
他の部員へ過度な負担をかけないこと。
演奏会の完成度を香苗一人へ依存させないこと。
それらを条件として、提案を認める。
由実の願いを否定せず、願いを現実的な計画へ変えるための責任を求める大人。
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由実の両親
由実の成長を家庭から見守る存在。
物語序盤では、由実が学校生活や部活動について詳しく話さないため、本人が何を考えているか十分に分かっていない。
それでも、由実が初めて自分からマウスピースを選びたいと相談した際には、その意思を受け止める。
地区大会で金賞を受賞したとき、由実から、
「私も吹いたんだよ」
と報告され、娘が学校の中へ自分の居場所を作ったことを知る。
由実がテナーサックス本体を購入したいと申し出た際には、単に大会の結果へのご褒美として与えない。
練習記録や費用、卒業後も続けたい理由を聞き、由実が初めて見つけた「長く続けたいもの」を支えるため、購入費用の一部を援助する。
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新入生
最終話に登場する、翌年の新入部員候補。
部室の奥にある赤いS1 Prestigeを見て、
「変な色」
とつぶやく。
入学当初の由実と重なる存在。
テナーの重さに戸惑い、最初は音を出せず、ようやく鳴った音も濁っている。
由実はその音を笑わず、姿勢やストラップを直し、息を止めないよう教える。
新入生は、物語開始時の由実そのものではない。
由実から受け取った経験をもとに、これから自分の音を作っていく次の奏者である。
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キャラクター関係
由実と香苗
憧れる新入生と、強引に導く先輩として始まる。
個人指導を通じて、教える者と教わる者になる。
やがて由実は、自分の楽器と音を選び、香苗と異なる音を持つ奏者へ成長する。
香苗の退部を前にした由実は、相手を大切に思うことと、自分のそばへ置くことは同じではないと知る。
最終的には、同じ場所や未来を選ばなくても、互いの音を聴き続ける関係となる。
由実と真琴
同じアルトを希望した同期として出会う。
当初の由実は、経験のある真琴へ劣等感を抱く。
しかし演奏を通して、競争相手ではなく、音と役割を支え合う仲間になる。
香苗退部後は、ともにサックスパートを引き継ぐ。
由実と莉央
低音と中音をつなぐ奏者同士。
由実がテナーの役割を理解するための支えとなる。
香苗がいない練習でも由実を支え、香苗以外にも頼れる先輩がいることを教える。
香苗と千秋
サックスパートを支える先輩同士。
千秋の引退後、香苗が運営記録と責任を受け継ぐ。
香苗がすべてを一人で背負おうとする背景には、千秋から託された立場への責任感もある。
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主な使用楽器
橋本由実
学校備品
Buffet Crampon S1 Prestige テナーサックス
個人所有
Yanagisawa WO2 テナーサックス
マウスピース
Vandoren V5 T20
リガチャー
BG
リード
Vandoren Traditional 2½
佐伯香苗
Keilwerth SX90R アルトサックス
父親から譲り受け、長く吹き続けることで自分の音へ育てた楽器。




