怖い会長の歌声に恋をした
本作はAI小説です。AI直接使用です。
AI小説の可能性を探求した作品です。
いかにもAIが書きそうなベッタベタな話に。
絶対にAIが書かなさそうなギミックを織り交ぜてあります。
Gemini、ChatGPT、Grokの3AIに、数度テイクしてもらい良いとこ取りという作り方。
文章そのものは、ほぼ手を加えてません。
文体の統一と、つなぎ目で不自然になってしまった箇所の修正くらいです。
自分で描いた方が早くね? という箇所もありましたが、
あえてAIに書いてもらってます。
映画でいえば私が監督でAIがシナリオライター。
そんな在り方の作品も大いにありだと思ってます。
四月。大学生活が始まって少し経った頃。
私は、サークル棟の前で十分くらい立ち尽くしていた。
――帰ろうかな。
いや、だめ。ここまで来たじゃない。深呼吸。大丈夫。怖くない。たぶん。
ドアの横に貼られた紙には「合唱サークル 新入会歓迎」の文字。
ずっと憧れていた。
中学では廃部になってた。高校でも入部直後に「人数が足りないので活動休止です」と言われた。歌うことは好きなのに、ちゃんと合唱をやれたことがない。
だから大学では絶対に入りたかった。
問題は、勇気がなさすぎることだった。
でも、入りたい。
その気持ちが勝った。
私は意を決して扉を叩いた。
「し、失礼します……!」
低い声が返ってきた。
「どうぞ」
――ひっ。
思わず肩が跳ねた。
部室の奥から立ち上がった人を見て、私は固まった。
背が高い。肩幅が広い。目つきが鋭い。黒髪短髪。しかも声が低い。
怖い。
怖い怖い怖い。
絶対怒らせたくないタイプの人だ。
「あの……見学か?」
近づいてくる。
無理。
圧がすごい。
逃げたい。
「あ、あの、にゅ、入会、し、したく、て……」
蚊の泣くような声しか出ない私を、その人はただじっと見下ろしていた。その沈黙が怖くて、私は泣きそうになりながら一歩後ずさりした。
そのとき。
「ちょっと怜司! 何新入生ビビらせてんのよ!」
音楽室の奥から、綺麗な女子の先輩がタタタッと駆け寄ってきた。
私の前に庇うように立つと、その「怖い人」をビシッと指差した。
「だから言ったでしょ!? 新入生対応の時は引っ込んでろって!」
女性先輩は男性先輩の背中をバシッと叩くと、彼を強引に部屋の隅へと追いやった。
「ほら、あっちで楽譜の整理でもしてて!」
そう言われて、なんかしょんぼりとした様子で部屋の隅へと歩いていった。……気のせいか、心なしか大きな背中が小さくなっているように見える。
「ごめんね、びっくりさせちゃって。私は高橋彩花。ここの副会長で3年。あいつは3年の藤堂怜司。一応、この合唱サークルの会長」
「あ、は、はい……! 1年の、桜井みう、です……」
彩花先輩の明るい笑顔に、ようやく私のガチガチだった身体がほぐれていく。
入会して数週間。
結論から言うと。藤堂会長は怖くなかった。
「――桜井、ここのフレーズ、まだ少し喉が締まってる。もう少しお腹に息を落とすイメージで」
「あ、はい! ありがとうございます」
音楽室のピアノの横で、藤堂先輩が私にそっとアドバイスをくれる。
最初の日に「怖い人!」と怯えてすくみ上がっていたのが、今では嘘のようだ。
藤堂先輩は、見た目が鋭くて不器用なだけで、実は誰よりもサークルと部員のことを考えている、もの凄く優しい人だったのだ。
私が楽譜を落とせば無言で拾ってくれるし、パート練習で迷子になっていると、さりげなく隣に来て正しい音程でリードしてくれる。
「藤堂先輩、あの、この前の曲なんですけど――」
「ああ、あの部分か。あそこはアルトとの掛け合いになるから……」
今ではこうして、緊張せずに普通に話せるようにもなった。
ふと視線を感じて振り返ると、今年新しく入ってきた他の1年生の女の子たちが、遠巻きに私たちの様子を窺っていた。藤堂先輩がそちらに視線を向けた瞬間、彼女たちは「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げて、お互いの背中に隠れてしまう。
(ふふ、みんなまだ、会長の見た目に腰が引けてるんだなぁ……)
最初の頃の自分を見ているようで、なんだかおかしくてクスッと笑ってしまう。
同時に、先輩の優しさを知っているのは自分だけのような、ちょっとした優越感に胸がくすぐったくなった。
――でも。
その小さなうぬぼれは、すぐに思い知らされることになる。
「あ、君、そこ。無理して高音を出さなくていい。パートのバランスを見るから、一回力を抜いて」
藤堂先輩は、さっき怯えていた1年生のところへ歩み寄ると、いつも通りの低い、でも穏やかな声で話しかけた。
彼女の緊張をほぐすように、丁寧に、根気強く教え始める。
あ、……と思った。
藤堂先輩が気にかけてくれているのは、私だけじゃなかった。
私に優しくしてくれたように、先輩はサークルのみんなを、全員を、平等に気にかけているのだ。会長として、当然のように。
私は、サークル部員のなかの、ただの『1人』に過ぎなかった。
(……そっか。そうだよね)
胸の奥が、ツンと痛む。
なんだか、すごく、残念だな……と思ってしまった。
残念?
自分で自分の思考にツッコミを入れて、顔がカッと熱くなる。
ちょっと優しくされただけなのに、私、何を期待していたんだろう。まるで特別扱いされたかったみたいじゃないか。
『みうちゃんってさ、本当に男の人に免疫なさすぎだよねー!』
いつだったか、彩花先輩にからかわれた言葉が頭をよぎる。
本当にその通りだ。ただの親切を勘違いして、勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んで。
「桜井? どうした、顔が赤いぞ。体調でも悪いのか?」
いつの間にか指導を終えた藤堂先輩が、すぐ近くまで戻ってきて、私の顔を覗き込んでいた。その切れ長の瞳には、真っ直ぐな、そして『純粋な先輩としての』心配の光が宿っている。
「な、なんでもないです! ちょっと暑いだけで……っ」
私は慌てて手で顔をあおぎながら、情けないくらいにバクバクと脈打つ心臓を必死に隠した。
藤堂先輩の担当パートは、テノール。
普段の地声は低くて、ちょっと凄みがあるくらいなのに、ひとたび歌い出すと驚くほど澄んだ美しい高音が響き渡る。そのギャップには、最初に聴いたとき本当にひっくり返るくらいビックリした。
今日のサークル練習の締めくくりは、アラジンの『A whole new world』。
今度あるミニコンサートのうちの一曲で、サークルでも精鋭達がアカペラで歌うのだという。
当然、入会したての私たちは聞き手に回る。
厚みのあるコーラスが、音楽室の空気を優しく満たしていく。
そのコーラスをバックに、藤堂先輩の男声ソロが響き渡る。
「――見せてあげよう、この広い世界♫」
心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
先輩の声が伸びた瞬間、目の前の景色がブワッと一気に広がったような錯覚に陥る。ただの防音壁の音楽室が、まるで夜空を飛ぶ魔法のじゅうたんの上になったみたいだ。私は完全に、その歌声に聴き惚れていた。
「――おおぞら、目がくらむけれど♫」
続く、彩花先輩の女声ソロ。
あ、と思った。自分が手を引いてもらえるお姫様の心地になった矢先、そこに完璧なタイミングで滑り込んできた彩花先輩の歌声は、凛としていて、本当に綺麗だった。
(すごいなぁ……。私もいつか、あんなふうに迷いなく、綺麗に歌えるようになりたい……)
憧れの眼差しを向ける私の前で、曲は一番の盛り上がりへと向かう。
藤堂先輩と彩花先輩の、息もつかせぬ輪唱のパートだ。
「――A whole new world (目を開いて)初めての世界 (怖がらないで)♫」
鳥肌が立った。呼吸が、ぴったりすぎる。
お互いの目を見合わせるわけでもないのに、お互いのブレスのタイミング、音の切り際までが完璧にシンクロしている。胸がドキドキして、呼吸を忘れてしまいそうになる。
「――素敵な (星の海を)新しい世界 (どうぞこのまま)♫」
二人のパートが入れ替わった。
まるで、見えないドレスを翻して、くるくるとワルツを踊っているかのように滑らかに。
「――二人きりで明日を一緒に見つめよう♫」
合唱。二人の声が、きれいに一つになる。
「このまま(ふたりが)すてきな(世界を)みつめて(あなたと)♫」
二つの声が、別れて、交差して、また重なって……。
そしてラスト。
「――いつまでも♫」
最後の合唱で二人の声が溶け合い、消えていく。美しい余韻を残しながら、ゆっくりと曲が終わった。
「っ……! すごい、すごいです……!」
静寂の後、私は我を忘れて思いっきり拍手喝采を送っていた。周りの1年生たちも「鳥肌立った……」と感動している。音楽室全体が、二人の圧倒的な世界観に酔いしれていた。
でも――。
パチパチと手を叩きながら、なぜだか急に、胸の奥がキュウッと痛くなった。
(……あれ?)
さっきまであんなに感動していたのに、拍手をする手がだんだん重くなっていく。
あの息の合い方。あの、お互いへの絶対的な信頼がなければ出せない響き。
3年生同士。会長と副会長。
もしかして、あの二人は……。
ただのサークルの仲間じゃなくて、もっと特別な関係なのかな。
そう思った瞬間、さっきまで魔法のじゅうたんで夜空を飛んでいたはずの私の心は、冷たい重力に引かれるように、一気に地面へと落ちていってしまった
サークルに入ってしばらく経った頃、初めての本格的な飲み会が開催された。
一次会の会場は、女子ウケの良さそうな、ちょっとおしゃれなイタリアンレストラン。
私はまだお酒が飲めないので、カシスオレンジのノンアルコールカクテルで乾杯したけれど、運ばれてくるピザやパスタがどれも本当に美味しくて、それだけで幸せな気分になれた。
いつもは真面目に練習している先輩や同級生たちが、少し顔を赤くしてワイワイと盛り上がっている。その賑やかな輪の中にいるだけで、なんだか大人になったみたいで、すごく楽しかった。
「――桜井。楽しんでるか?」
不意に、少し低めの、でも聞き慣れた声が降ってきた。
見上げると、ワイングラスを手にした藤堂先輩が、私の隣の空いている席に腰を下ろすところだった。
「あ、藤堂先輩! はい、料理がすごく美味しくて、とっても楽しいです!」
「そうか、なら良かった。お前、こういう所はあまり来たことないって言ってたから、退屈してないか少し気になってたんだ」
(……え。私のこと、気にしてくれてたんだ……)
それだけの言葉で、胸がじんわりと熱くなる。
藤堂先輩は私のノンアルコールグラスを見て、少しだけ目を細めて優しく笑った。
それからしばらく、大学の授業の話や、次のステージで歌う曲のことなど、色々な話をした。普段の練習中よりも少しだけ距離が近くて、先輩がグラスを傾けるたびに、ほんのりと大人の香りが漂ってくる。心臓のバクバクが先輩に聞こえてしまうんじゃないかと、私はずっと生きた心地がしなかった。
だけど、楽しい時間はあっという間で。
「よし、じゃあ……俺はあっちの1年生の席にも顔を出してくる」
藤堂先輩はそう言って立ち上がると、グラスを片手に、まだ少し緊張している男子1年生たちのグループへと歩いていってしまった。
「あ……」
引き留める勇気なんてあるはずもなくて、私の声は雑音にかき消される。
遠ざかっていく先輩の大きな背中を見つめる。
先輩は次の席でも、後輩たちにジュースを注いだり、笑顔で話しかけたりしていた。サークルの会長として、みんなが馴染めているか、楽しんでいるか、ずっと気を配っている。
(みんなと話したいのは分かるけど……疲れないのかな?)
優しくて、責任感が強くて、本当に素敵な人。
だけど――。
(……もっと、私と一緒にいてくれてもいいのに……)
心の中で、ぽつりと小さなワガママが溢れた。
レストランの照明に照らされる藤堂先輩の横顔は、やっぱりどこか遠い。
みんなの会長である先輩を、私だけのものにしたいなんて思っちゃいけないのに。料理の美味しさも、周りの賑やかな笑い声も、一瞬だけ遠くに消えてしまった気がした。
「みーうーちゃーーーんっ!」
一次会も終盤に差し掛かった頃、突然、背後から強烈な抱擁とともにとろけそうな声が降ってきた。
振り返ると、頬をりんごみたいに真っ赤にした彩花先輩が、私の肩にぐにゃりと体重を預けてきている。手元にあるグラスの中身は……うん、完全に本物のお酒だ。
「さーくーらーいーみーうっ。さっきから、ずーっと視線が泳いでるよぉ? 具体的には、あっちの、むすっとした大男の方にさぁ!」
「ひゃっ!? あ、あや、彩花先輩!? なに、何を言って――っ」
心臓が口から飛び出るかと思った。
彩花先輩は私のすぐ近くに顔を寄せると、アルコールの熱い吐息混じりに、いたずらっぽく片目を瞑る。
「ぶっちゃけさ、みうちゃん。怜司のこと、どう思ってるわけぇ?」
「ど、どう、どうって……っ!」
頭の中が真っ白になる。
慌てて藤堂先輩の方を見ると、幸いなことに遠くの席で男子部員に熱く語り込まれていて、こちらには気づいていない。
でも、私の顔は完全に手遅れだった。火がついたように真っ赤になっていくのが自分でもよく分かる。
「そ、そんな、私なんて、ただの1年生ですし……っ。それに、その、藤堂先輩と彩花先輩は、す、すごくお似合いというか……。私のせいで、お二人の邪魔をしちゃったら悪い、ですし……」
消え入りそうな声で、しどろもどろになりながら、胸の奥にずっとトゲのように刺さっていた気持ちを吐き出す。あのステージでの、完璧に溶け合っていた二人の歌声が頭をよぎって、きゅっと胸が締め付けられた。
すると、彩花先輩は一瞬だけピキッと動きを止めた。
それから、漫画みたいに目を丸くして、私の顔をじーーっと見つめてくる。
「……え? 邪魔? 誰と誰の?」
「だ、だから、藤堂先輩と、彩花先輩の……」
「ぷっ、……あははははははは! やめてよーーーっ!!」
突然、彩花先輩が爆笑し出した。お腹を抱えて、涙を流しながら笑っている。
「あいつと私が!? ないないない、天地がひっくり返ってもそれだけはないから! そもそも私、他に彼氏いるし!」
「え……? か、彼氏さん……?」
ポカンとする私に、彩花先輩は自慢げに胸を張った。
「そ! 2歳上の、このサークルのOB。今は社会人なんだけどねー、あいつなんかよりよっぽど大人で、優しくて、頼りになるんだから!」
そこからは怒涛のノロケ話だった。彼氏さんがどれだけ素敵か、どれだけ自分を甘やかしてくれるか、楽しそうに語る彩花先輩の言葉を聴きながら、私の心の中の霧は、信じられないくらいの勢いで晴れていった。
(よかった……。お付き合い、してなかったんだ……!)
心の底から、じわぁっと安堵が広がっていく。ホッとしすぎて、膝の力が抜けそうになるくらいだった。
「ちなみにぃ……」
急にノロケを止めた彩花先輩が、声をワントーン落として、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「あいつ――怜司は、今、彼女いませーん。っていうか、私の知る限り、いままで一度もいたことないよ」
「えっ……! あ、そう、なんですか……?」
「そーうーなーのー」
彩花先輩は私の真っ赤な耳元をつんつんと突きながら、さらにニヤニヤを深める。その目は完全に「ぜんぶお見通しだよ」と言っていた。
遠くの席で、相変わらず不器用そうに後輩の話を聴いている藤堂先輩の横顔を見る。
彼女、いないんだ。
これまでも、いたことないんだ。
サークルのみんなに優しい、大好きな先輩。
私はまだ、大勢いる部員の1人に過ぎないけれど――ほんの少しだけ、欲張りな期待を抱いてもいいのかな。
彩花先輩のノロケ話と、賑やかな喧騒のなかで、私の心臓はさっきまでとは全く違う、温かいドキドキを刻み始めていた。
「――あとさ、これ、とっておきの爆弾発言ね」
彩花先輩がさらに顔を近づけて、いたずらっぽく囁いた。
「あいつもさ、みうちゃんのこと、結構気にしてるよ?」
「ふぇっ!?」
変な声が出た。
気にしてる? 藤堂先輩が、私のことを?
「ほら、あいつ、見た目が怖いって自覚はあるし、よく言われるじゃない? でもね、初対面で、あそこまで本気でビビられたのは初めてだったんだって。実は裏ですっごいしょげてたんだよー?」
「えっ……そ、そうだったんですか……?」
あの時の、心なしか小さく見えた藤堂先輩の後ろ姿が脳裏をよぎる。本当に傷ついていたんだ、と思うと申し訳なさで胸が痛む。
「だからさ、怜司なりに『怖がらせちゃって申し訳ないな』って、みうちゃんのこと特に気を使って見てたらしいの。最近になって、みうちゃんがサークルに馴染んで、楽しそうに笑うようになって……あいつ、本当にホッとした顔してたよ」
「そんな……っ。私、問題児ですいません……っ」
あまりの申し訳なさに頭を下げようとする私を、彩花先輩は「違う違う!」と手で遮った。
「そういう意味で言ったんじゃないって。……あのさ、あいつも最初からあんな感じだったわけじゃないの。大学に入りたての頃の怜司って、今の面影もないくらいの超絶陰キャだったんだから」
「えっ、藤堂先輩が……ですか?」
今の堂々とした、みんなを引っ張る会長の姿からは全く想像がつかない。
「そう。あの風体でしょ? 無口だし、近寄りがたい奴だったの。でもね、当時の会長に強引に引っ張られて、色々イジられていくうちに、だんだん変わっていったんだよね」
彩花先輩はグラスを揺らしながら、どこか懐かしそうな目を向ける。
「ううん、違うな。あいつ、自分から『変わりたい』って思って、必死に頑張って変わろうとしたの。サークルのみんなと楽しく歌いたくてさ」
全然、信じられなかった。
「だからね、昔の自分の姿が、みうちゃんに重なるんじゃないかなぁ。放っておけなかったんだと思うよ」
「……そんな、私なんて、先輩に比べたら全然、そんなんじゃないです……」
私は小さくなって自分の手を握りしめた。
藤堂先輩は、自分で努力して、殻を破って、今の素敵な先輩になった。
それなのに私は、未だに自分の殻に閉じこもったままで、ただオドオドしているだけ。重なるなんて、先輩に失礼だ。
彩花先輩が、私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「いや頑張ってるじゃん」
即答だった。
「最初、部室で固まってたのに」
う。
「今ちゃんと喋れるし」
うう。
「練習も真面目」
「それは普通です……」
「普通にできない人、大学には山ほどいる」
ぐうの音も出ない。
「変わろうとしてるじゃん」
彩花先輩が少し笑った。
「そういうの、あいつ弱いよ。怜司はちゃんと、そういうところを見てるの」
胸の奥が、じいんと熱くなる。
彩花先輩の言葉が、私のこれまでの小さな一歩を、全部肯定してくれたような気がした。
(私、頑張れてるのかな……。先輩の目に、そう映ってるのかな……)
「本当にさぁ……あいつ、良い奴すぎるんだよ」
彩花先輩は、手元に残ったお酒をぐいっと飲み干すと、少しだけ寂しそうに、でも愛おしそうに呟いた。
「あの風体のせいで、初対面の人に警戒されたり、あらぬ誤解を受けたりさ。昔から損することばっかりのくせに、自分のことよりサークルやみんなのことを優先しちゃうんだから。……本当にバカだよね」
そうボヤく彩花先輩の言葉は、藤堂先輩への深い信頼と優しさに満ちていた。
「だからさ、あいつは、少しくらい報われてもいいと思うんだよね」
彩花先輩は、私を真っ直ぐに見つめて、優しく微笑んだ。
「――たぶん、うちのサークルの他のみんなも、同じように思ってるよ」
その言葉に、私は深く、何度も、心の中で大きく頷いた。
私も、全くの同感だった。
誰よりも不器用で、誰よりも傷つきやすくて、それでもみんなのために一生懸命で、誰よりも優しい藤堂先輩。
そんな先輩が、ただ損をして終わるなんて、絶対にあってほしくない。先輩のその大きな背中に、たくさんの幸せが降り注いでほしい。
(……もし、その幸せのなかに)
ほんの、ほんの少しだけでも。
私という存在が関わることができたなら、どんなに素敵なことだろう。
「みうちゃん?」
「あ、は、はい……っ!」
彩花先輩の覗き込むような視線に気づき、私はまた顔を真っ赤にして慌てて俯いた。
損ばかりしてしまう、大好きな先輩。
その人を、今度は私が、少しでも笑顔にできるようになりたい。
私の胸の中で、藤堂先輩への想いは、ただの『憧れ』から、もっと強くて温かいものへと変わっていくのを感じていた。
2次会の会場は、駅前の大きなカラオケボックスだった。
部屋に入った瞬間から、みんなのテンションは最高潮。いつもサークルで歌っているクラシックや合唱曲とは全然違う、地声で叫ぶようなポップスやロックをみんなが思い思いに歌っている。ペンライト代わりにスマホのライトを振って盛り上がるのは、新鮮で、すごく楽しかった。
「みうちゃんも今度歌えよー!」
「む、無理です……!」
そんなやり取りをしながら、私は隅で手拍子係をしていた。
でも楽しい。
みんなで笑って、合いの手入れて、盛り上がるだけでなんだか嬉しい。
そんな中、マイクを持ったのは藤堂先輩だった。
何を歌うんだろう。
藤堂先輩、歌上手いし。
絶対かっこいい曲だ。
バラードとか?
渋いロック?
あの強面の先輩が、一体何を歌うんだろう。みんながモニターを見つめる。
イントロが流れた瞬間、部屋中に爆笑が巻き起こった。
「なんでだよ!!」
画面に映し出されたタイトルは――AKB48『ポニーテールとシュシュ』。
あの国民的女性アイドルグループの、超有名夏ソングだった。
「似合わなさすぎる!」
「顔が強面でAKB!」
綾香先輩なんか机叩きながら、ひぃひぃ大笑いしてた。
やがて、先輩の歌声がマイクに乗った。
やっぱり、驚くほど綺麗な高音だった。この澄んだ声が、あの大きな体のどこから出ているんだろうと、いつもながらうっとりしてしまう。
でも、じっと聴いているうちに、私はあることに気がついた。
(あ……これ、男の子の片思いの歌、なんだ……)
今までテレビとかで何気なく聴いていたときは、ただ明るくてキャッチーな曲だとばかり思っていた。だけど、藤堂先輩が言葉を噛みしめるように丁寧に歌うのを聴いていると、歌詞の意味がダイレクトに胸に飛び込んでくる。
爽やかなメロディの裏にある、届かない想い。それがなんだか、すごく切なくて……胸の奥がゾワゾワと波立ち始めた。
そのとき、ふと、自分の頭の後ろに手が伸びた。
今日の私の髪型は、居酒屋の熱気で暑かったから、飲み会の途中で結び直した――ポニーテールだ。
(ま、まさか……ね? そんなわけない、絶対ない……!)
頭を振って必死に雑念を追い払おうとする。
「――ポニーテール、切なくなる片思い、目と目合えば今はただの友達♫」
心臓が跳ねた。
歌いながら、藤堂先輩の視線が、部屋の隅にいる私の方へと向けられた――気がした。
ほんの一瞬。
息が止まりそうになって、私は慌てて視線をグラスへと逸らした。手元にある烏龍茶の氷が、カランと小さな音を立てて揺れる。
(ダメだよ私! こんなの絶対に自意識過剰の変な子じゃん……っ!)
先輩はただ、画面からなんとなく目を移しただけ。たまたまそこに私がいただけ。そう自分に言い聞かせるけれど、耳に入ってくる先輩の歌声が、どうしても私の心をきつく締め付ける。
「――恋の尻尾は捕まえられない、触れたら、消えてく、幻♫」
(本当に……そうだよね……)
部屋中が手拍子で盛り上がる中、私だけが、胸を締め付けるような切なさと、先輩のどこまでも綺麗な高音の余韻に、深く、深く、溺れていくようだった。
「みうちゃんも歌いなさい」
逃げられない声がした。
彩花先輩。笑顔。なのに圧がある。
「いや、でも私……!」
「歌うための二次会でしょ〜?」
「いや見るのも楽しくて……!」
「だーめー!」
有無を言わせない彩花先輩の圧倒的な圧に負けた。
選曲画面を前に、頭の中がぐるぐると回転する。
選んだのは、アニメ『推しの子』の劇中歌、B小町の『サインはB』。
アニソンしかも劇中歌だし、メジャーなJ-POPに比べればそこまで知られていないはず。アップテンポな勢いだけで何とか押し切って、みんなには「知らない歌だなー」とスルーしてもらおう。そんな淡い期待を抱いていた。
だけど。
「「「うりゃおい! うりゃおい! うりゃおい! うりゃおい!」」」
「な、なんでぇぇぇ!?」
部屋が震えるほどの地鳴りのようなコールが巻き起こった。
(なんでみんな完璧に合いの手を入れられるんですか!?)
私のささやかな期待は、一瞬にして木っ端微塵に打ち砕かれた。みんなこの曲を、ものすごくよく知っているらしい。
頑張るしかない……っ。
この歌はとにかくテンポが速くて、一瞬でも油断したらメロディにおいていかれてしまう。恥ずかしがっている暇なんてなかった。
「――緊張なんかしてる場合じゃない 一分一秒無駄になんてできない♫」
マイクを両手できつく握りしめ、一心不乱に歌い出す。
恥ずかしさとか、さっきまでの藤堂先輩との視線のこととか、余計なことは全部頭から追い出した。とにかく、音程を外さないように、言葉が遅れないように、全力で声を出す。
「――手を伸ばせ いらっしゃいませ 好きが集まる場所へようこそ♪」
「「「フワ!フワ!」」」
「――日常はクロークの中 ここに来たなら踊らにゃ♫」
「「「損!損!損!」」」
私がワンフレーズ歌うたびに、みんなが完璧なタイミングで合いの手を入れてくれる。
(……あ、あれ? なんだか、すごく楽しい……!)
手拍子とコールに包まれて歌っていると、本当に自分がステージの上のアイドルになったみたいな錯覚に陥る。
いつもやっている繊細な合唱とは全然違うけれど、歌い手と聴き手が一体になって、みんなでひとつの熱狂を作り上げていく。これも、立派な『歌の形』なんだ。
「――アナタのアイドル、サインはB♫ ッ」
原曲なら、ここで可愛く「チュ♥」とリップ音が入る。
だけど、さすがにそれは恥ずかしすぎて、声にできずにごまかしてしまった。
でも、誰もそんな小さな失敗は気にしていない。
「「「うりゃおい! うりゃおい!」」」
みんなが笑顔で飛び跳ねながら、全力で私を応援してくれている。
ふと見ると、部屋の隅に座っているあの藤堂先輩まで、大きな体を少し揺らしながら、大真面目な顔でリズムに乗って手拍子をしてくれていた。
先輩も、ノッてくれてる。
その姿が視界に入った瞬間、胸の奥から熱いものがこみ上げて、私の気持ちは最高潮に達した。もっと声を届けたい。もっと、私の歌を聴いてほしい!
「――見てよ、見てよ、何か始まる、君との物語が
嗚呼なんて素晴らしい景色だ♫」
音楽室の天井に閉じ込められていた、私の本当の声。
それが、今までにないくらい伸びやかに、真っ直ぐにカラオケルームに響き渡った。自分でもびっくりするくらい、お腹の底から声が出ている。
曲はラストのサビへと向かい、あのフレーズがもう一度やってくる。
「――アナタのアイドル、サインはB、……チュ♥」
言えた……!
最後の最後、恥ずかしさを脱ぎ捨てて、全力のハートを込めて声を響かせた。
「「「うりゃおい! うりゃおい! うりゃおい! うりゃおい!」」」
最後は、みんなと、声をそろえて…。
「「「フ!フ!フ―!!」」」
ジャカジャン! と派手な伴奏が終わり、曲が完全に終了する。
「はぁ……っ」
息が切れる。
全力疾走したみたい。
脚まで少し力が抜ける。
なのに。
「みうちゃん良かった!」
「声伸びるじゃん!」
「アイドル適性ある!」
拍手。
笑顔。
褒め言葉。
みんながわっと盛り上がってくれる。
私は顔を真っ赤にしながら、でも少し笑ってしまった。
恥ずかしい。
でも嬉しい。
引っ込み思案で、いつも誰かの後ろに隠れていた私が、みんなの中心で笑っている。
みんなの声と、先輩の温かい眼差しに包まれて、私は今、信じられないくらい幸せだった。
カラオケでの興奮がまだ冷めないまま、私たちは深夜のファミレスに流れ込んだ。
三次会はファミレスだった。
「まだ帰らん!」
「歌い足りん!」
「甘いもの食べたい!」
そんなテンションのまま、ぞろぞろ移動。
正直、私は少し眠かった。でも帰りたくなかった。
今日は楽しい。すごく楽しい。だから、もう少しだけ続いてほしかった。
でも、さっきまであんなに賑やかだったメンバーが、時間が経つにつれて「門限が」「明日バイトで」と、一人、また一人と帰っていく。
(……なんだか、すごく自然に解散していくなぁ)
ふとそう思った瞬間、妙な違和感に気づいた。
みんなの帰るタイミングが、あまりにも完璧すぎる。まるで誰かに誘導されているかのように。
そう思って隣の彩花先輩を見ると、彼女はスマホをいじりながら、口元に何とも言えないニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
(……あ、これ、絶対先輩の仕業だ……!)
そう確信したのと同時だった。
「あ、ごめん。ちょっと」
藤堂先輩が席を立ち、遠ざかっていく。
藤堂先輩の背中が完全に視界から消えた瞬間、彩花先輩は私の横にスッと移動してくると、私の耳元で囁いた。
「じゃあね、みうちゃん。頑張れ♥」
彩花先輩はそう言い残すと、驚くほど軽快な足取りで出口へと向かってしまった。
自動ドアが閉まる音。店内に残されたのは、私と――戻ってくるはずの、藤堂先輩だけ。
心臓が、喉の奥までせり上がってくる。
二人きりなんて、そんなの、そんなの無理……!
藤堂先輩が戻ってきた。
私の正面の席に、先輩が座る。
あの鋭い目つきの、でも誰よりも優しい人が、今は目の前でストローでドリンクをかき混ぜている。
店内の深夜のBGMだけが、やけに大きく聞こえる。
先輩が私の方を見て、何かを言おうと口を開いた。
「……あ、あの」
――どうしよう!
「あの……」と先輩が口を開いてくれたものの、緊張のあまり頭が真っ白になった私は、「あ、ドリンクバー、お代わりしてきますっ!」と席を立ってしまったり、変に早口でサークルの話を始めてしまったりして、完全に空回ってしまった。
藤堂先輩は先輩で、私がまだ自分を怖がっていると思ったのか、どこか遠慮がちで。結局、不器用な二人きりの空間は、決定的な言葉を見つけられないまま時間が過ぎていった。
「……そろそろ、終電の時間だな。行こうか」
「あ……はい」
伝票を手にする先輩の背中を見つめながら、自分の意気地なさへの自己嫌悪で涙が出そうになる。彩花先輩があれだけお膳立てしてくれたのに、私って本当にダメだ……。
駅から続く夜道を、二人で並んで歩く。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った住宅街。アスファルトに伸びる二人の影が、歩調を合わせるように揺れている。
家が近づいてる。
あ。終わる。この時間。二人きりの時間。今日という特別な日。
(終わっちゃうんだ……)
サークルのみんなの会長である先輩。
明日になれば、また「大勢いる部員の一人」に戻ってしまう。
(――そんなの、イヤだ)
胸の奥から、今までに感じたことのない、強くて、わがままで、熱い感情がせり上がってきた。
変わりたい。殻を破りたい。カラオケのとき、先輩の目を見て歌えた私なら、きっと――。
神様、仏様、誰でもいいから、私にあと一歩の勇気をください。
ギュッと拳を握りしめ、私は立ち止まった。
気づいて足を止めた藤堂先輩が、不思議そうに振り返る。その綺麗な切れ長の瞳を、私は真っ直ぐに見つめた。
「帰りたくないです……っ」
静かな夜の空気に、私の声がはっきりと響いた。
「え……?」
藤堂先輩が、目を見開いて固まる。
……。
…………。
待って。
今の何?
何言った私。
とんでもないセリフでは?
深夜。
男女。
二人きり。
帰りたくない。
いやいやいやいや!!
違う!!
違わないけど違う!!
(っ、~~~~~っ!!!!!)
一瞬の沈黙の後、自分の放った言葉の意味に、遅まきながら気づいてしまった。
引っ込み思案で男の人に免疫がないはずの私が、よりによって、最高に、とんでもなく、誤解を招きかねないセリフを、大真面目な顔で言ってしまったのでは――!?
「あ、あの! 違うんです! そういう意味じゃなくて! ええと、その!」
みるみるうちに顔が限界まで沸騰していく。あまりの恥ずかしさにパニックになり、私は両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込みそうになってしまった。
「あー……その、つまりだ。少し落ち着いて、座らないか?」
パニックになって真っ赤なまま固まる私を、藤堂先輩は困ったように、でも凄く優しく、近くの夜の公園へと連れていってくれた。
街灯がぽつんと照らす、静かな夜の公園。
私たちは、緑色の古びたベンチに並んで座っていた。
恋愛小説や漫画で何度も見たおなじみのシチュエーションだけど、いざ自分がその当事者になってみると、ムーディな雰囲気に気絶してしまいそうだ。
すう、と夜の冷たい風が通り抜ける。ブランコが小さく揺れる音が、なんだか決戦の合図のように聞こえた。
ここで言わなきゃ、私は一生、意気地なしのままだ。
藤堂先輩が変わりたいと思って頑張ったみたいに、私も、今ここで変わりたい。
私は膝の上でぎゅっと拳を握りしめ、一生分の、うつむいてばかりだったこれまでの人生の全ての勇気を振り絞って、顔を上げた。
「藤堂先輩っ……! 私、先輩のことが、好きです……!」
勢い任せに叫んだ私の告白は、静かな公園に驚くほど真っ直ぐに響いた。
言っちゃった。本当に、言っちゃった……。
怖くて目を瞑り、ぎゅっと身を縮めて返事を待つ。不器用な先輩のことだから、「サークルの会長だから」とか「まだ早い」って断られるかもしれない。そんな不安で視界が涙で潤みそうになった、その時。
「――っ。……本当に、俺でいいのか?」
頭の上から、ひどく掠れた、でも震えるほど優しい声が降ってきた。
驚いて目を開けると、そこには、耳まで真っ赤にして、見たこともないくらいに優しい目をした藤堂先輩がいた。
「俺は、不器用だし、見た目もこんなだし……お前を怖がらせてばかりだったのに。……本当に俺でいいのなら、こちらからお願いしたい。……俺も、桜井のことが好きだ」
…………え?
それって……OKってこと、ですよね……?
その瞬間、頭のネジが完全に吹っ飛んだ。
嬉しさと、安心感と、信じられないという衝撃が一気に押し寄せてきて――。
「う、うわああああああああんっ!!」
私は、ベンチの上で大号泣――いや、完全な『ギャン泣き』をしてしまった。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、子供のように声を上げて泣きじゃくる。
「おい!? 桜井!? なんで泣くんだ!?」
「ひっ、ふぇっ、うれ、嬉しくてぇぇぇええ!」
「分かった、分かったから泣き止んでくれ! 頼む!」
藤堂先輩は、大きな手をあちこちへ彷徨わせながら、これまで見たことないくらいに激しく動揺していた。
「俺みたいな風体の男の前で女子がギャン泣きしてたら、完全に悪人が襲ってると勘違いされる! おまわりさん来ちゃうから! 頼むからやめろーーーっ!」
あんなに怖かったはずの、威厳のあったサークル会長が、今は大慌てでポケットからポケットティッシュをガサゴソと探している。その姿が、愛おしくて、おかしくて、やっぱり世界一優しくて。
涙と笑い声と、深夜の公園の冷たい風の中で、不器用な二人の特別な物語が、最高のハーモニーを奏でて動き出した。
「う、うぅ……ひっく……」
ティッシュで鼻をズーズーとすすりながら、ようやく私のギャン泣きが落ち着きを見せ始めた頃。
藤堂先輩は「はぁ……」と、寿命が縮んだような長いため息を吐いて、ベンチの背もたれに体を預けた。
「……本当に焦った。速攻でフラれたのかと思ったぞ」
「ち、違いますってば……! 本当に嬉しかったんです……」
まだ赤くなっている目で先輩を見上げると、先輩は少しきまずそうに視線を夜空へと向けた。そして、ぽつり、ぽつりと、これまで胸に秘めていた本音をこぼし始めたのだ。
「……さっきも言ったけどさ。俺、見た目が怖いってのは自分でもよく分かってる。でも……新歓の初対面のとき、お前にあれだけ本気でビビられたのは、流石に結構なショックだったんだ」
「う……その節は本当にすみませんでした……」
「いや、いいんだ。……ただ、だからこそ、他のみんな以上に神経を使ったのは確かだ。どうすれば怖がらせずに済むか、どうすればサークルを楽しんでもらえるかって、お前のことばかり見てた」
先輩はそこで言葉を一度区切り、恥ずかしそうに私のポニーテールへ視線を移した。
「だから……お前が少しずつ周りに馴染んで、楽しそうに笑ってくれたときは、心底ホッとしたんだよ。それからかな。気づいたら、目で追うのが『義務』じゃなくなってた」
「え……?」
「一生懸命練習に打ち込む、頑張り屋さんのところとか……その、可愛いな、って。ずっと思ってた」
(か、可愛い……っ!?)
藤堂先輩の口から出た想定外の直球ワードに、私の頭は再びパニックを起こす。
嬉しくて、でもそれ以上に恐れ多すぎて、私は立ち上がらんばかりの勢いでぶんぶんと首を振った。
「な、何言ってるんですか! 私なんて、全然そんなんじゃないです! 頑張り屋さんなんかじゃなくて、ただオドオドしてるだけで……っ。が、頑張り屋さんっていうなら、先輩の方がよっぽど頑張り屋さんですっ!!」
感情のままに、勢いよく捲し立ててしまった。
すると、藤堂先輩は一瞬きょとんとした顔をした後、大きな手で自分の顔を覆ってしまった。
指の隙間から見える耳の先が、街灯の光に照らされて真っ赤に染まっている。
「……お前なぁ」
「は、はい……」
「それは、年上の先輩に向かって言う言葉じゃないだろ……」
呆れたような、でも、限界まで照れ隠しを含んだ低い声。
『頑張り屋さん』なんて言われて、どうしていいか分からない子供みたいに、藤堂先輩はもの凄く照れていた。
いつも強面で、みんなの前ではしっかり者で、完璧な歌声を響かせる大好きな先輩。
その人が、私の言葉一つで、こんなに不器用で愛らしい表情を見せてくれている。
「……でも、ありがとな」
顔を覆った手の隙間から、先輩がはにかむように優しく笑った。
もう、そこに怖い会長の姿はなかった。
これからは、大勢いる部員の1人としてじゃなく、一番近くでこの人を支え、一緒に歩んでいけるんだ。
深夜の公園、二人の距離がほんの少しだけ縮まって、私たちの新しい歌のイントロが、静かに鳴り響いた気がした。
翌日の放課後。
私たちは、いつも通りサークルの練習が行われる音楽室へと向かっていた。
いつもと違うのは、二人の距離。
歩幅の大きな藤堂先輩、じゃなくて怜司さんが、私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれていること。そして、私の右手が、先輩の大きくて少しゴツゴツした温かい左手の中に、すっぽりと包まれていること。
「……みう。本当に、このまま入るのか?」
「はい! もう、隠すようなことじゃないですし……!」
ドアの手前で急に足を止めて真っ赤になっている先輩を、今度は私の方が引っ張るようにして、音楽室のドアをガラリと開けた。
「「「あ、おつかれさまで――」」」
中に入った瞬間、談笑していたサークルメンバーたちの動きがピタッと止まった。
みんなの視線が、一斉に私たちの『繋がれた手』へと注がれる。文字通り、全員が漫画みたいに目を丸くしていた。
「あ、あの……!」
私は深呼吸をして、一生懸命に声を張った。
「会長と、お付き合いすることになりました……! ご報告です!」
一瞬の静寂。それから――。
「「「うおおおおおーーーーっっ!!!???」」」
音楽室がひっくり返るかと思うほどの、大歓声が沸き起こった!
「マジで!?」「おめでとう!」「やったじゃん!」と、先輩も同級生もみんなが自分のことのように飛び跳ねて喜んでくれている。
引っ込み思案だった私を受け入れてくれた大好きな場所で、こんなにも祝福してもらえるなんて。嬉しくて、楽しくて、胸がいっぱいで、涙がまた出そうになってしまう。
ずっと、ずっとこんな幸せな時間が続けばいいのに。
そんなお祭り騒ぎの中、男子の先輩たちが怜司さんの肩を叩きながらニヤニヤと笑った。
「それにしても、美女と野獣とはまさにこのことだな! みうちゃんが可愛すぎるから、会長の指名手配犯感が際立つわー」
「……うるさい。別に狙ってこうなったわけじゃない」
みんなから『美女と野獣』呼ばわりされて、怜司さんは大きな身体を丸めて、あからさまに拗ねていた。そのギャップがまた可笑しくて、みんなの笑いを誘う。
すると、輪の中心にのっしのっしと歩み出てきた彩花先輩が、腰に手を当てて、怜司さんの前にビシッと人差し指を突きつけた。
「ちょっと怜司。みんなに祝福されて浮かれるのはいいけどさ、これだけは釘を刺しておくわよ?」
「……なんだよ」
彩花先輩はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、音楽室全体に響き渡るような声でこう言い放った。
「いい? いくら美女と野獣だからって、ホントに『野獣』になるには、まだ早いからね!!」
「――ッ!?」
その瞬間、私の思考が完全に停止した。
音楽室にいた男子たちが「ぶっ、あはははは!」と大爆笑し、怜司さんが「彩花ッ!!! お前、新入生の前で何を……っ!!」と過去最高に顔を真っ赤にして大激怒している。
ホントに野獣。まだ早い。
……つまり、その、大人の、段階というか、そういう……っ!?
「あ、あう、あ……」
あまりにも刺激が強すぎる彩花先輩の直球爆弾に、私の脳細胞は一瞬で全滅した。
お祝いの歓声も、先輩たちの爆笑も、すべてが遠のいていく。
さっきまで「ずっとこんな時間が続きますように」なんてピュアな幸せに浸っていた私は、自分の顔から完全に血の気が引いて、カチコチに凍りついてしまうのだった。
「……というわけで! 付き合いたてホヤホヤの二人の記念に、今日はデュエットしてもらいまーす!」
彩花先輩のその一言で、音楽室は再びお祭り騒ぎになった。
「そうだそうだ!」「デュエットしろー!」
周りの部員たちも手拍子を叩いて大盛り上がりしている。
「む、無理です無理です! そんなの無理です……っ! 付き合いたての二人でラブソングなんて歌ったら、恥ずかしすぎて私、本当に死んでしまいます……っ!」
私が顔を手で覆って全力で首を振ると、怜司さんも「おい、お前ら調子に乗るな。桜井が困ってるだろ」と私を庇うように前に出てくれた。けれど、その耳が真っ赤なのを、先輩たちは見逃してくれない。
「まぁまぁ、そう固いこと言いなっこなし! あ、ラブソング以外ならいいんだよね?」
そう言って、サークルの最年長である4年生の先輩が、部室の奥にある楽譜棚へと歩いていった。
「確か、昔の先輩たちが残していった楽譜の中に、ちょうどいいデュエット曲があったはずなんだよなぁ……」と、棚をガサゴソと探り始める。
やがて取り出された、少し年季の入った楽譜。
「これこれ!」と差し出された楽譜を、みんなが興味津々で覗き込んだ。
「お前これ知ってるか?」
「いや……知らないです」
先輩たちが鼻歌で少し口ずさんでみる。
「あ、これ意外といいじゃん! ハモりも綺麗だし、何より熱い!」
「よし、これに決定!」
そう言って私の手元に差し出された楽譜のタイトルには、――『W-Infinity』と書かれていた。
(ダブル、インフィニティ……?)
私も怜司さんも知らない歌だった。けれど、パラパラと歌詞をめくってみると、それは甘いラブソングなんかじゃなくて、お互いを相棒として信頼し合い、希望を胸に未来へ向かって突き進む、すごく爽やかで力強い曲だった。
これなら、恥ずかしがらずに歌えるかもしれない。
「……みう、少しだけ音を取る時間を貰おう。俺がハモりをやるから、お前は主旋律を真っ直ぐ歌えばいい」
「はい……っ!」
怜司さんの頼もしい言葉に頷き、私たちはそれぞれ数分間、集中して楽譜を読み込んだ。
そして、ピアノの伴奏が始まる。
いつもの合唱とは違う、アップテンポで疾走感のある前奏。
言葉が遅れないように、でも、自分の精一杯の声を込めて、私はマイクへと息を吹き込んだ。
「――(セーブ)未来がゼロか無限かは、
(ロード)生きてる今にかかってる♫」
私の真っ直ぐな歌声に重なるように、怜司さんの声が滑り込んでくる。
先輩の澄んだ、力強い上ハモ。普段の合唱のときよりも力強く、引っ張り上げてくれるようなその響きに、私の心の中の不安が一気に吹き飛んでいく。
視線を交わすと、怜司さんは真剣な、でも、どこか楽しそうな目で私を見ていた。
(先輩がいてくれるなら、怖くない……!)
サビに向かって、二人の声のギアが一段上がる。
「――2つの心ぶつけて生まれるパワーで、突き抜けよう彼方へ〜♫」
鳥肌が立つような感覚。
お互いの声が、ぶつかり合いながらも完璧に調和して、一つの大きなエネルギーになって音楽室に広がっていく。
引っ込み思案で、ずっと自分の殻に閉じこもっていた私。
過去の自分を変えようと、必死に努力して今の場所を掴み取った怜司さん。
そんな二人の心が重なったような気がした。
(――こんな風に、この先もずっと、一緒に歩んでいけたらいいな)
未来がどうなるかなんて分からないけれど、この人と一緒なら、きっとどんな壁だって突き抜けていける。
拍手喝采を送るサークルの仲間たちの真ん中で、私たちの声はどこまでも高く、どこまでも重なって、美しく響き渡っていた。
劇中歌4曲について
「ホール・ニュー・ワールド(A Whole New World)」
石井一孝, 麻生かほ里(日本語版)
作詞Tim Rice,日本語詞 湯川れい子
作曲Alan Menken
作中でもある通りディズニー映画アラジンの劇中歌。
いかにも合唱サークルでやってそうな超メジャー曲、として採用したのですが、思わぬ罠が待っていました。
各AIが逃げ回ります。頑なに直接描写を避けます。
AIとは好き勝手にどこでも参照して回る傍若無人な存在と思ってました。
それでも天下のディズニー様は怖いらしいです(爆)
3AIとも良かったシーンとして、このシーンを上げてました。
現金な奴らです。
このシーンもAI製ですが、プロンプトが本文並みに長くなったのでしたwww
「ポニーテールとシュシュ」
AKB48
作詞秋元康
作曲多田慎也
AKBの代表曲の一つ。
なんで怜司が歌うのか、ミスチルとか歌われても面白くも何ともないからw
この曲を採用したところChatGPTさんがすかさずにみうの髪形をポニーテールと設定し、ニヤニヤ度が爆上がりしました。
ところが、みうが普段からポニーテールだとすると、下手すれば怜司は痛い奴に成り下がります。
どうしたもんかと悩んでいたら、Geminiさんがたまたまその時だけポニーテールだったときれいにまとめてくれました。
「サインはB -New Arrange Ver.-」
B小町(ルビー,有馬かな,MEMちょ)
作詞 大石昌良
作曲 大石昌良
編曲 白戸佑輔
推しの子アニメ第1期のラスト、有馬かなが感情を爆発させるシーンで有名な曲です。
そのイメージまんまで使ってます。
本作でもシンクロ具合が思いの外強くなり感動しました。
しかしAIさんは冷徹です。このシーンを褒めてくれた人はいません。。。
「W-Infinity」
三重野瞳 with 影山ヒロノブ
作詞:石川雅敏
作曲:Little Voice
GEAR戦士 電童の主題歌です。
当初予定でラストは「Beauty and the Beast」のつもりでした。
その前のシーンで美女と野獣ネタなのはその名残です。
ところが、私の中のみうが全力で拒否りました。
歌の内容そのものもさることながら、みうはまだ怜司と並んで歌える力量がありません。
なんか他にないか?
女性メインで男性がサブに回るような曲…。
できれば未来に向かって二人で歩みだすような歌詞…。
そんな都合のいい曲…あった!
この曲を思いついたときは震えましたね。
しかしGeminiさんは最後まで難色を示してました。
「いいんですよ。すごくいいと思いますよ。
でも最近の大学生が四半世紀も前のアニソンなんて知ってるわけないですよね」
ぐはっ。
しこたま悩みましたが、結局この歌に匹敵するものは見つけられませんでした。
誰か、他にいいのあったら教えてください。
その他雑感。
彩花先輩について。
AIさんたちは最後まで気づかなかったようですが、本作の真の主人公は彩花です。
みうがあわあわしているのをニヤニヤしながら見守るのが本作での読者の立場です。
その投影として彩花を置いています。
テイクの最初の頃、AIさんはこぞって良かった点として彩花を上げていました。
ChatGPTさんなどは彩花を主役にしたスピンオフを提案してくる始末です。
テイクを重ね両主人公が強くなる過程で、いつしか彩花の位置は下がっていきました。
最初に指摘したのがGrokさん、そしてChatGPTさんも悪い点として彩花を評価するようになりました。
この瞬間、私は本作の完成を確信したのでした。
裏バージョンについて。
AIさんたちが上げる本作の欠点として怜司の描写が弱いと。
みう一人称でこれ以上どないせいちゅーねん。
それでも悔しかったので作り始めた裏バージョン。
最初はAI達もボロカスです。
最高の巻末特典、ファンディスク。
褒めてません。
Geminiさん曰く、単に逆視点にするだけでなく情報量を増やせ。
なるほど。
最終的には表裏一体、二つ揃って三倍面白くなる。と評されるまでに仕上げました。
よろしければ次に進んで、ご笑覧いただけると幸いです。




