『全属性勇者、宗教団体に祀り上げられる』
坂上健吾は、知らないうちに神様になっていた。
朝、井戸を澄ませに行ったら、
井戸の横に祭壇ができていた。
(昨日まで、なかったよな?)
白い布。
花。
ろうそく。
そして――
自分の像。
(誰だよ、鼻高く作ったの)
「お告げを……」
跪く人々。
「いや、違います」
「ご謙遜を」
(否定が、肯定として処理される)
話を聞くとこうだった。
健吾が浄化した水で病が治った。
健吾が直した橋で事故が減った。
健吾が助けた村が豊作。
それらが繋がって――
全属性の加護を持つ現世神
という設定が完成したらしい。
(設定って言うな)
教団代表が現れた。
白装束。
笑顔が柔らかすぎる。
「神よ、我らを導いてください」
「無職です」
「俗世の名を捨てた……」
(聞け)
信者は増えた。
祈れば雨が降る。
祈れば水が澄む。
祈れば害獣が消える。
実際は、健吾が夜中にこっそりやっていた。
(放っておくと、変な方向行く)
問題は、金だった。
「お布施は、任意です」
と言いつつ、箱は重い。
(これ、絶対任意じゃない)
健吾は代表に言った。
「俺、神じゃないです」
「ええ、神はそうおっしゃるものです」
(詰み)
決定的だったのは、
奇跡の要求がエスカレートしたこと。
「戦争を止めてください」
「疫病を消してください」
「隣国を滅ぼしてください」
健吾は、静かに怒った。
「最後の、誰が言った」
信者たちは黙る。
その夜。
健吾は、壇上に立った。
「お告げです」
場が静まる。
「俺は、神じゃありません」
ざわつく。
「祈っても、何も起きません」
信者が動揺する。
健吾は、何もしなかった。
翌朝。
水は濁ったままだった。
雨は降らなかった。
人々は気づいた。
(あ、ただの人だ)
教団は、静かに崩れた。
像は倒され、
祭壇は解体され、
健吾の鼻も削れた。
(そこはいい)
数日後。
健吾はいつもの井戸に戻る。
水を澄ませる。
誰も祈らない。
誰も感謝しない。
「……こっちのほうが、楽だな」
全属性勇者は、
神になりそこねた男として、今日も生きる。
崇められるより、
知られないほうが、ずっと自由だった。




