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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
ドラスニト王国編

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66 「生きた人形と呼ばれる皇女」⑬

 王太后イゾルデにとって、帝国の皇女は所詮嫁いで来てしまえば王家に従わなければならない存在だと考えていた。

 まさか、その皇女によって過去の罪を暴かれるなど思ってもいなかったのだ。

 全ては闇に葬り去ったはずなのに。

 彼女はどこまでも他者は自分の欲を叶えるだけの存在でしかなく、おのれより上などいないと考えていた。

 神だって彼女は真の意味で信じていなかったのである。


「ゲルディオ国王。皇帝陛下代理として命じます。

王の座を正しき者へ。但し、ダーレン大公は若くして王家から離れ、ジェレミー公子はまだその器にありません。共同統治とし、王太子をジェレミーとすること。

イゾルデは罪人として帝国にて裁きます。王子グランヴィルは王族ではないので速やかに除籍後、離宮にて幽閉します。彼はイゾルデが揉み消してきましたが、多くの罪を犯しています。恩赦は与えません。

王妃ファリナセア。貴方にも思うところはあるでしょうが、シラン大公妃と共に王を支えて下さい。五年後を目標にジェレミー公子を即位させます。その為の暫定措置とします」


 皇帝からの命令はイゾルデを斬首刑、ゲルディオ国王を幽閉としていたのたけれど、ダーレン大公と接してみて、直ぐに国王になるのは無理だと判断した。

 ルピナスがある程度人脈を作ればジェレミーを国王として即位させても問題無く、暫定的に二人を共同統治の王にすればよいと判断したのだ。

 トラディアスからも臨機応変に対処することは認められていたので問題は無いだろう。

 イゾルデはドラスニトで処刑するよりも、帝国で裁いた方が良いと判断した。それに、イゾルデに阿っていた者達も処罰せねばならない。

 何人の罪無き人々が彼女達の欲望の犠牲になったのだろう。


『ルピナス。吾が見届けてやろう』

「ありがとうございます、ヴェシ様」

『ニルヴァーグの血を持つ子を見守るのもまた一興。我らが主はゾルダの地とアンザスを見守り、トゥリはそなたの姉を見ておる。故に、吾はそなたを見守ろうぞ』

「大変光栄に存じます」

『そして正しき王となる定めの子よ。其方にも吾は目をかけてやろう。其方とルピナスが国を治める間は吾の加護を与える』

「水の庇護者、神の御使い様の御心のままに」


 千年の約定は決して短くはない。それでも途絶えさせる事なく血を繋げ、そして悲願を果たした人間の力をヴェシは認めていた。


 宰相であるルドヴィグは、神の御使いがルピナスとジェレミーを認め、一代限りとはいえ神の加護を与えられた事は、彼等の即位の後押しとなる。

 これまでイゾルデがどれだけ横暴な事を行ってきたか。ルドヴィグが首を斬られたら間違いなく中枢は腐敗していただろう。

 何も出来なかったが、悪くならないように踏み止まる事しか出来なかった。もっと、何か手が打てたのではないかと思う事もあった。


『其処な人の子よ。全ては水の流れのまま。時の流れのまま。今だからこそ、今がある。過去を悔やんでもその時では無かっただけの事よ』


 ルピナスがドラスニト王国に嫁ぐと決めた時から水面下で情報が集められ、イゾルデの専横が明らかとなった。

 早めに手を打つ事が出来なかった訳では無いが、ルピナスが介入する事が最も穏便に済ませられたのは間違いない。


「まずは、イゾルデとグランヴィルを移動させましょう。それから、宰相はダーレン大公と大公妃、令嬢を呼んで下さい。当主会議の招集もお願いします。国王の生まれは……高位貴族の当主会議でのみ周知させます。秘密を暴いたのは私です。ゲルディオ国王は知らなかった」

「承りました。速やかに手配致します」

「はい」


 すべき事は山ほどある。

 ヴォルグとゲルディオには話し合う時間が必要であるし、ファリナセアはシランへの優越感を無くして対応してもらわねばならない。

 ジェレミーとエリカは王族となる為、教育が変わる。


「ルピナス様。お一人で抱え込まず、俺を頼って下さい」

「そう、ですね……私にはジェレミー様が居ますね」

「はい」


 ルピナスが見上げると、柔らかい笑みを浮かべたジェレミーがルピナスをしっかりと見ていた。

 皇女でも裁量権はある程度あり、一人で判断することが多かった。しかしここは帝国ではなく王国で、ルピナス一人ではないのだ。



「ジェレミー様。これから大変な日々になりすが、よろしくお願いします」

「共に、頑張りましょう」



◇◇◇


 ルピナスが皇帝代理として属国のドラスニト王国の害悪であった王太后イゾルデ並びに彼女の駒はことごとく排除していった。

 最大の変化は、大公として臣籍降下していたダーレン大公ヴォルグがゲルディオ国王と主に共同統治の王になった事だろう。

 しかし、それはあくまでも暫定的な処置に過ぎなかった。

 五年で彼らは退位し、帝国皇女ルピナスを妃として立太子となるジェレミーが即位する為の中継ぎであった。

 当主会議では初めこそ反対意見などが出たものの、直ぐにそれが止んだのは、神の御使いがジェレミーの正当性を保証し、一代限りとはいえ加護を与えるという宣言を行った為である。


 王太后イゾルデは数多の罪が発覚し、帝国に引き渡されて処分を下された。極刑だった為、ドラスニト王国が落ち着いた頃には既に命はなかった。

 横暴なグランヴィルは廃籍され、離宮への幽閉となった。


 ルピナスはアルヴァイツ公爵家の娘イヴェンナを筆頭とした十三名の令嬢を腹心とし、ドラスニト王国の社交界にも根を張って行った。


 イゾルデを排除した結果、国から少しずつ腐敗が消えていった。それだけイゾルデの専横がまかり通っていたということに他ならない。

 ドラスニト王国は変革の時を迎えた。

もうちょっと続きます。

トリシャや帝国から友人を引っ張ってきたり、その他のお話も入れたいので。

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