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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
南の辺境伯領編

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43 【閑話】レドニージュ次期公爵夫妻の話

とてもとても短いです。

 まだまだこちらは現役なのだからお前達は好きなように活動しなさい。そう言ったのは現レドニージュ公爵である父で、母もそれを咎めなかったので、次代を担うバルグスとローゼルの夫婦は自由にさせてもらっている。

 本来の帝国貴族ならば社交を行い地盤を磐石なものにし、人脈を広げるものだろうが、古くよりレドニージュ公爵領はバドシュラ辺境伯領の背中を守る役割を担っており、他の貴族との立ち位置が異なっていた。

 世界の在り方が変わっても役割が変わることはなく、然程社交を重視していないのは身軽に動くにはありがたい話であった。

 とは言え、普段は冒険者活動などをしながら魔物の素材を集めたりしているが、社交シーズンとなると話は変わる。

 流石に疎かに出来ない付き合いというのもあり、帝都のタウンハウスに赴く足取りはやや重たかった。


「今までは特にそうは思いませんでしたものね」

「何よりも食事がな」

「ふふ。分かります。レーグの食事の偉大さを痛感しますね」


 決して帝都の料理人の腕が悪いのではない。ただ、最上級の料理人が作る食事を毎日食べていたら舌が肥えるのは無理もない話だろう。

 バルグスとローゼルは華やかな場所をあまり好まないが、立場として許されないので求められるままに動く育ちをしていた。

 ローゼルは母国の王妃になる予定で育てられていたので、過去の事件をきっかけに随分と変わったものだと思う時がある。

 かつての婚約者は優しい人だったとは思う。しかし人を守ろうとする人ではなかったと今なら断言出来る。

 多くの令息を魅了の魔道具で籠絡した女性は、少し前に亡くなった。ゾルダ王国で既知を得たサーヤとリーチェデルヒにより『テンセーシャ』もとい『転生者』という存在がより明確になった。

 この世界と表裏一体の世界である『地球』は存在がとても近い為、魂が何らかのタイミングで移動してしまうらしい。

 この世界から地球に行く魂もあり、そこから創作の遊戯が生み出される事もあるそうだ。

 その知識があるものがこちらに来ると混同して変な行動に出るらしい。大抵は『ヒロイン』と呼ばれる主役だと思うそうだ。

 はた迷惑な話だ。

『この世界は私の為の世界よ』だなんて事を言うパターンが多いらしい。けれど、この世界は創世神により造られているのは明確で、誰か個人の為の世界ではない。

 まともな『転生者』は今も生きて発展に協力してもらっているらしいけれど、まともでは無い『転生者』は悲しい事に儚い命なのだそう。


 過去を思い返していると、バルグスが「どうした?」と問い掛けるので「何でもないですよ」と返す。

 バルグスは人の心の機微にそれなりには敏感だ。カルミアにしか発揮しないマディスと違ってバルグスは人をよく見ている。

 今もローゼルが心あらずになったのにすぐに気付いた。

 こう言った小さな積み重ねが信頼に繋がると、以前の婚約を解消してバルグスと婚約し、関係を深める度に感じる。

 バルグスは回りくどい話し方をしない。すぐに伝わらなければ意味がない育ち方をしているからで、だからこそそのまま受け止めて良いと思うと気が楽だった。

 案外初心で、ローゼルと初めてキスをした時などは緊張の余り手と足が同じように動いていたのは面白かった。

 結婚式は帝国の公爵領で行ったけれど、ローゼルの両親をどうもてなすかに苦心していたし、ドレス姿を見て誰よりも感激していた人が愛しくて仕方がない。


 この縁はカルミアが結んでくれたものだった。

 婚約者に裏切られ、周りからは心無い言葉を投げつけられて守ってくれるのは親だけ。そんな時に四人の皇女が圧倒的な顔の美しさで全てを制圧していた。

 カルミアに気に入られたローゼルは今や彼女の親友である。皇女の頃から親しい友として『カルミアの花飾り』を与えられていたローゼルは帝国で侮られる事はなかった。

 周りに恵まれている。そう感じるほどに全てが順調に行っていた。


「明日にはタウンハウスに到着するな。最初の夜会はどこだったか」

「リンドン侯爵家ですね。わたくしはその前にテルヴェル伯爵家のサロンに招かれていますわ」

「慌ただしいな。まあ、ギリギリで出発してしまったから仕方ないが」

「ええ」


 こてりとバルグスの体に身を預けると、最近は慣れたのは軽く笑いながら肩を抱き寄せられる。


 馬車の中は皇女時代のカルミアが使っていたのと同じような空間拡張がなされていてかなり快適になっている。最大の特徴は揺れがない事だ。

 ゾルダ王国の王太子妃となったトレニアが育てた魔導具師の作品らしく、妹と仲良くしてくれているからと言うお礼の体で譲り受けたものだ。

 丁寧に魔導回路を刻んだようでおかしい所はひとつもない。

 通常ならば外に積み込む荷物を中に収容出来るのはありがたいと言ったのはバルグスの侍従のマーカスで、その隣にいたローゼルの侍女のレミも頷いていた。

 雨に濡れないかとかそういった心配をせねばならないのだ。更に盗賊の心配もしなければならない。まあ、国内でも武で名の知られているバルグスに手を出せる者がいるのかは別にして。

 この馬車ではその心配がないし、広さがあるお陰で同乗して給仕出来るのもありがたいそうな。


 使用人用の休憩用の部屋があるので二人には休んでもらっている。折角の二人での移動なのだからいちゃつきたいのがローゼルの本音だった。

 ちらりと顔を見上げれば、ローゼルにだけ蕩けた笑みを見せてくれる優しい男が顔を近付けてきたのでそっと目を閉じる。


 冒険者活動は存外楽しいのでやり甲斐はある。けれど一旦お休みしないといけないなとは思っているのだ。カルミアだってそうだろう。

 子供をそろそろ、と考えるのは自然なことで。夜の生活をしていて子供がいないのは出来ないようにしているからだけど、貴族の義務として子供を産まなければならない。年齢的な問題もある。

 この社交シーズンが終わる頃にはきちんと話し合わなければと思いながら、ローゼルは二人きりの時間を満喫しようと心に決めた。

貴族として子供を作るのも大事なことなのでね。

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