42 【32階層】海洋地帯と海鮮BBQ
料理回はレーグ回
レーグはマジックバッグに釣り道具一式を入れた状態で【美食の卓】と共に32階層に来ていた。
ここは通称ボーナスステージと呼ばれており、そこそこ大きな島が一つあり、あとは見渡す限りの海が広がっている。
島には小屋が二つ並んでいて、一つは31階層から登ってきた階段が、そしてもう一つには32階層に登る階段がある。転移陣はその二つの小屋の中心にあり、下に戻ることも下からここに直接来ることも出来る。
そして小屋の周辺はセーフティゾーンになっているのでその中であれば寝起きだって出来る。
ここは朝昼晩と時間の移り変わりが空を見たらわかるようになっていて、実際の外の時間とは異なるのだが、それでも変化があるのは冒険者にとっては有難いことだ。
この階層は昼の時間帯以外は案外平和なのである。朝と夜の時間帯はセーフティゾーンの役割を果たしていて、島に魔物は上がってこない。しかし昼の時間帯はそれとは裏腹に海の中から魔物がこれでもかと飛び出してくるのだ。
鋭い角が生えたような大きな魚が回転しながら突っ込んでくると、防御していなければ刺されて大怪我をすることだってある。
しかし上手く捕獲出来れば大変美味な魚にしかならないのだ。
連続して登る冒険者パーティにとって、ここは食料補給や休憩の場所となっている。
なお、31階層は氷雪地帯なのでここで体の冷えを取ることも出来る。
「朝の時間帯に上手く着けたな」
「わーい!おっさかなー♡」
「お肉は何とか捌き方を覚えましたが、お魚は無理ですわ」
「魚って、捌くの大変なんだな」
「そりゃまあそうだろうな」
育ちの良い四人はまず魚そのものの姿を見ることは滅多にないだろう。彼らの食卓に上るのは調理された完成品であるし、そもそもの話、海沿いの街でなければ魚料理は鮮度の問題で食べることはほとんど無かった。
レーグはこの数年で一気に発展した魔道具のお陰で手に入れられるようになった魚を捌きまくった。初めこそは失敗したものの、そこは料理人のこだわりで、今では漁師をしていた冒険者からも褒められる腕前になっていた。
「俺は昼までの時間はそこらで釣りとかしてるんで、皆さんは貝とか拾っといてくれ。毒の有無はこっちで調べるから。で、昼から俺は見学にまわるんで」
「はーい」
良い子のお返事を聞いてからレーグは釣りに良さそうな岩場に腰を下ろして釣竿の先に餌をぶら下げて海の中に投入した。
ここの仕組みは分からないが、太陽に見える光がてっぺんに来たら昼の時間帯なので、そこまでは海の中の生き物はただの魚なのだ。
ここで釣れなくても魔魚を大量に確保するだろうはらぺこ貴族様を理解しているレーグはのんびりと魚を釣って行った。
尚、海の傍で貝を集めている面々は非常に賑やかだった。
光がてっぺんに来たところでレーグは釣りを辞めた。これからの時間は魔魚が出現する。多少は戦えるようになったレーグだけど、本職がいるのでお任せして釣り上げた魚と彼らが集めた貝を選別していく。
鑑定の魔道具で毒のあるものだけ排除し、安全なものだけ選別している向こうで、盾を持ったバルグスが体よりも大きな魔魚の突撃を防御し、マディスが頭を切り落としているのが見えた。
他にも、凶悪そうな牙を持つ魚や何本も足を持つうねうねとした大きな生き物を剣や魔法で仕留めていく姿は豪快だった。
「魚介スープはいるよな」
マジックバッグから香り付けのハーブや臭みをとるハーブを取り出しながら、魚を骨付きのままブツ切りにしたものと一口大に切ったものを用意する。魔導コンロの上に鍋を置くとよく熱する。
スープはまずはベースを作るのが大事で、熱した鍋に一口大に切った魚を炒めてよく火を通した。水分が飛ぶまで炒めたら玉ねぎや香りの強い野菜ににんにくを加えて炒めていく。
全ての野菜に火が通ったところでワインと薬草酒とトマトを加えてひと煮立ちさせる。トマトの赤は何故こうも食欲をそそるのだろうか。しかもトマトには無限の可能性があることを知ってしまった。
煮立ったところでハーブを加えてさらに腹持ちが良くなるように皮を剥いたじゃがいもを加えてじゃがいもに火が通るまでしっかりと煮込む。
魚介のごった煮のスープなので野菜が煮崩れていても問題は無い。
香りの強いものを使っているので空腹を刺激されながら、レーグは酒に合いそうな肴をいくつか作っていった。
今回のメインは網焼きなのでそこまで気合を入れる必要はない。海老があれば最高なんだけどなぁ、と思っていると、丁度バルグスの頭ほどの大きさの海老が宙を舞いながら飛んでいたので幸運だった。かなり大きいので食べごたえがあるだろう。
マジックバッグの中を確認すると、調味料にサーヤが手に入れたという「ショーユ」なるものがある。豆を発酵させて作られたそれは、そのままだと塩辛いし匂いもきついのに、調理に使うととんでもなく香ばしい匂いになるのだ。
しかもバターを入れると罪深い味わいになる。
ショーユは肉にも魚にも合うので、レーグは大変重宝していた。
どんどんと倒した魔魚が積み重なるのを見ながら、貝の一つをこじ開けてフライパンに乗せると火をつける。ゆっくりと水分を出しながら貝に火が通ったところでショーユとバターを載せてさらに加熱すると、バターが溶けてショーユと混ざり合い、何とも言えない匂いが鼻を刺激した。
「エールだよな」
料理をしている者の特権だ、と木で出来たカップにエールを注いだレーグは、焼けた貝を慎重に掴みながらショーユとバター、それに貝から出たスープを口に含みながら貝を咀嚼する。
熱々の貝を何とか飲み込むと、きんきんに冷えたままマジックバッグに入れていたおかげで最高な状態のエールを一気に飲み干す。
「はー、うま」
ちょうどその瞬間を見たカルミアが「あーーーー!」と叫んだけれど、レーグは聞かないフリをした。
姫様は魚に集中して欲しい。
大量に得られた魚はレーグが保管してクランハウスで調理してメンバーに振る舞う予定なのでいくらあっても良い。食費的な意味では大助かりだし、物によってはギルドに渡せば報酬が貰えるのだ。
空の光が沈む前に魔魚の活動は終わり、四人のそばには驚くほどの魔魚が積み上がっていた。
魚は傷みやすいのだが、魔魚は数時間放置していても傷まないのは魔素のお陰らしく、レーグは体を解しているカルミア達を横目に、今から食べるものは残してほかはマジックバッグにどんどんと収納していく。
「お、これとか売りに出したら高く売れそうだな」
一際大きな魚はヒレの部分が魔石で出来ていてそれだけでも高く売れそうなのに綺麗な形で凍り付いているので食用でも売れそうであった。
「そう思って凍らせたんだよぉ!それより、レーグ、お酒飲んでたでしょ!」
ぷぅ、と頬を膨らませるカルミアにしらばっくれながら、レーグは網焼きの準備を始める。
鉄で出来た炭入れに炭を並べてその上に網を乗せるだけ。火をつけて放置している間に、特注で作ってもらった長い包丁で魔魚を捌いていく。
適当に出しておいた簡素な机や折りたたみのイスを並べて、戦闘終わりのお酒を飲み始める四人。よく戦っていたのでレーグはお疲れさん、と言いながらマリネや魚を彼らの前に並べた。
パチパチと炭が良い音を立て始めたので、レーグは網の上に貝や味付けをしておいた魚を並べていく。
「おなかすいたぁー」
「良い匂いなのが辛い」
「貴族の晩餐では無理な食事だな」
「どちらも良いものですよ」
レーグは平民の食事も王侯貴族の為の食事も作れる。どちらが良いとかはないのだ。見た目と味を重視した美しい食事は技量を問われるし、平民向けは如何に安く美味いものを出せるかという挑戦であった。
それらを積み重ねてきたレーグは、食べた者が笑顔になって美味しいと言ってくれるのが一番だと悟った。
「ほら、腹ペコ共。そろそろいいぞ」
網の上でしっかりと焼かれた魚介は空腹を耐えていた四人を満たす。もちろん魚介スープも提供したが、あっという間に食べきられた。
貴族社会では食事は全て食べずに残してそれを下の者に下げ渡すのが常識だが、こうして完食してもらうのが本当はいちばん嬉しいのだと、それだけは言ってはならないことだと理解して居ながらも感じていた。
3/2の更新はおやすみ。次は3/3になります。




