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24話 最下層

 ララの目覚めを待ち再出発した一行は、索敵と防御、そして攻撃のバランスが整ったお陰で危なげなく下層へと続くダンジョンを進んでいった。

 ララ曰く、


「わたくしたち修羅場に慣れすぎじゃございませんこと?」


 と言わしめるほどである。

 場数を踏んだことで、それぞれレベルアップしたようだ。中でも神官とは思えぬ動きを見せはじめていたフェルデールであったが、実は本人でさえも首を傾げている。


「うーん? 孤児院の喧嘩とは次元が違うしなぁ?」


 何かあるとすればルシュメイアの力だろうか? 楓なのか、アロエなのかはわからないが、常に魔力と繋がっているような感覚があるのだ。軽く棍棒を振り回すだけで小型の魔物程度であれば問題なく倒すことが出来るようになっていた。


 そんな彼らに緊張が走ったのは、ある階層に到達した時のことだった。周囲の様子がガラリと一変したのである。上階にあった檻や鎖の比ではない。

 ダンジョン内であるにも関わらず、階段の踊り場には彫刻が飾られ、壁には大小様々なレリーフが掘り込まれていた。一見荘厳そうに見えるそれらは、どこか無機質で不気味でさえある。

 フェルデールは故郷の大聖堂を思い出しながら進んだ。

 

 階段を抜けると、そこには広間があった。

 基本的なデザインはこれまでとそう変わらないが、大きく異なる点がひとつあった。

 それは、正体不明の魔法陣が床に描かれていることである。

 艶やかな白地の床を彩る魔法陣の中には、何らかの液体――おそらくは血液や体液とおぼしきものが付着していた。それもひとつやふたつではない。

 目線を壁へ移すと、そこにもまた飛沫の残滓が残っている。

 

 全体的に薄緑に発光している広間の奥には、両開きの重厚そうな扉が見える。

 魔法陣を避けるようして配置されている机や椅子には、つい先ほどまで人が座っていてもおかしくない雰囲気があった。転がる羽ペンの横には日誌のようなものが積み重ねられているが、日付以外の情報を解読することは不可能だった。

 

 ひと通りの暦を確認したフェルデールは、手にした日誌を床に広がっている液体に触れさせてみる。すると、ねちょりとした感触と共に糸を引いた。


「2人ともごめん」

「どうしたのです?」

「たぶん、全部僕のせいだ」

「何か心当たりがあるんですのね?」


 ルーシーは部屋そのものに怯えているのか、相変わらずララにしがみついたままだ。


「君らは隙を見て逃げて欲しい。用があるのは僕だけだろうから」


 フェルデールはそう言って日誌を手渡す。ミュリオルさんに渡してと添えるのも忘れない。


「ちょっと! このネバネバは許し難いですわ!」

「これがなんなのか調べたほうがいいだろう?」

「乾けばなんとかなるかしら……いえ、そういうことではなくってよ! 置いていけるわけないじゃありませんの! おめおめと帰ってご覧なさい、シャオム様に顔向け出来なくなるじゃない! わたくしの結婚が破談になったらどうしてくれるのですかっ! そこのところちゃんとわかってらして?」


 と、地団駄を踏む。

 それを見たフェルデールは思わず声を出して笑ってしまう。


「ごめんね、ママって呼べなくて」

「だいたいどうやって逃げろというのよ?」


 ララが扇で前方を指し示すと、重苦しい両扉が開きかけていた。


「そもそも事の発端はわたくしなんですのよ? その責任はきっちり取らせて頂きますわ。ドンラン家次期会頭として、この事実から逃げるわけには参りませんもの」


 彼女は、もしかすると過去のことを何も知らないのかもしれないな、とフェルデールは思った。聞いていたドンラン家のやり方とは180度違うその無鉄砲さに舌を巻きつつ、後を追った。


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