23話 魔女様の娘
鉄格子はソイルシザーを倒したことで無事に開いていた。どういう仕組みなのかはわからないが、来た時にはなかった階下への階段も出現している。
しかし、疲弊し切ったララが熱を出してしまったため、一行はひとまず階上へと戻り野営することにした。
ルーシーがどこからともなく出してきたアロエを額に乗せられ休んでいるララは、少しうなされているようだ。
ルーシーはフェルデールにもアロエを渡そうと、魔物の残骸を観察しているその背に声をかける。
「ララさん、眠っちゃいました」
「そっか。無理させ過ぎたね。お嬢様とは思えない頑張り方だったよ」
「そ、それは、さっきのクモ……うっ、ぎ、ぎもぢワルイっっ」
「あー……ごめん。魔物とは縁遠い生活だったから、動物や昆虫との違いが知りたくてね」
ルーシーは魔物から遠ざかるよう促すべく、青年の手を引くと、これ食べて下さいとアロエを手渡した。
「ありがとう。これって全部、そのエプロンに入ってたものなの?」
「……やっ、やっぱり、気になります、よね?」
「んー、この棍棒の経緯からして、植物に関わる魔法が使えるとしか思えない….かな?」
「……」
「ごめん、内緒にするよ。こんなに助けて貰ってるんだ。約束する」
絶望を絵に描いたような表情を見せるルーシーと視線を合わせるため、フェルデールはしゃがんだ状態で真摯に語りかけている。
「絶対に内緒の内緒のナイショ、でお願い、します」
「ところで、こういうの食べちゃったらまた泣いちゃわない? 松の木のときみたいに」
「あっ……松の子はですね、お、おともだちなので……召喚する子たちは、私の魔力由来なので、だいじょぶです!」
潤沢な恩寵に恵まれて育った青年は知る由もなかった。本来、人間は魔力を持たない生き物であるということを。
そして、内緒を取り扱うことそのものが初めての少女は、自身の微細な過失に気付いていなかった。
2人はアロエを食べながら次の話題へと移っている。
「何から何まで頼り切りだなぁ。本来なら僕たちが君に食べさせなきゃダメなのに。ルーシーが居なかったらダンジョン攻略どころか飢え死にしていたよ。本当にありがとう」
「そっ、そそそんなことないのです。いつも役立たずで、落ちこぼれで、アカデミーにも馴染めなくて、お義母さんも呆れてるダメな子なんです。ララさんのように強くもないですし、あんなキラキラ私にはないですし……」
「そもそも比較対象がよくないんじゃない?」
「フェルデールさんは、ララさんがお嫌いですか?」
ルーシーはどうやら、これまでの2人のやり取りを彼女なりに心配していたようだ。
ちょっと驚いた表情をしたものの、フェルデールは逡巡することなく回答する。
「あー、それはね、ちょっと複雑かな。でも嫌いじゃないよ。たぶん悪巧み出来るタイプじゃないだろうし。初対面の印象は最悪だったけど」
「ララさんは、おともだちを大切にしてくれますし、すごくいい人だと思います!」
「あの思い込みの激しさはどうにかした方がいいと思うけど……ああ、それはルーシーもだね」
「?」
「ミュリオルさん、たぶん呆れてなんかいないと思うよ」
「お義母さんですか? でも全然会えないですし、農地以外は出ちゃダメだって怒られました……きっと私を外に出すのが恥ずかしいんじゃないかな……」
「んー。そうかなぁ? アースクローラーが最初に襲ってきたとき、ミュリオルさん必死だったよ?」
「え?」
「丁度、健康診断の話をしてたから、その場に居たんだ。ミュリオルさん、出現場所が農地だったからあんなに焦ってたんだね。君のことが心配だったんだと思うよ。だって真っ先に飛んでいっちゃったもの」
フェルデールは、ルーシーの顔に花が咲くのを見た。これは決して比喩ではない。なるほど、だから農地だけなんだなと合点した。




