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薔薇の死神  作者: 族猫


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70.平和の鐘

「わぁ!すごい品揃えだね!隣町のお店なんて目じゃないよ!」

「ああ、それにどれも素晴らしいデザインだ。これは時間を忘れて選んでしまうね」


 二人がそう話しているのを聞きながら、俺はネルの姿を探して辺りを見回す。


「春海ちゃんどうしたの?さっきから何度も辺りを見回してるけど‥‥」

「え!?あ、いやあまりの品揃えに圧倒されちゃって‥‥いつも行くお店よりも遥かに多いから」

「分かるよ〜同じブランドのお店でも、ここは凄い品揃えだよね〜」


 何とか誤魔化せたようだが、少し気をつけなければ流石に挙動不審すぎる。


(まさか今朝の『また今度いらっしゃい』がその日のうちになるとは思わなかったわ‥‥ま、まあ流石にネルも変な事はしないだろうし、私も買い物を楽しもうかな‥‥一応ゼルからお金は貰ってるし)


 今回永瀬達と出かけるにあたり、ゼルからそれなりの額の小遣いを貰っている。正直あまりのおおさに、少し返そうかと思ったが「我が子が友達と遊びに行くなんて重大なイベントに臨もうとしてるんだから何てこと無いさ!持っていきたまえ!」と半ば押し付けられた形だ。


「何かいいのは〜‥‥あ、これ新作!?可愛いし買っちゃお!あ、こっちのスカートも可愛い!それなら靴も欲しく‥‥‥って何を言っているの私‥‥」

(危うく春海の方に思考が持ってかれるとこだったわ‥‥)


 春海の姿でいると趣味趣向まで女子の方に寄ってしまう訳で、途中で自制を効かせないと俺が俺でなくなる気がして恐ろしくなる。


「春海ちゃん‥‥何だか、踏み込んではいけない一線ギリギリで踏みとどまる地雷原の兵士みたいな顔してるけど大丈夫‥‥?」

(いや、どんな顔だよ‥‥)

「だ、大丈夫!ちょっと考え事してただけだから!」

「ならいいんだけど‥‥悩みとかあったら聞くからね‥‥?」


 そう心配そうに言う永瀬に、俺はただ笑って誤魔化した。


「二人とも、どうやら入り口の方で何かあったみたいだよ。先程から賑やかな声が聞こえてくる」


 唯にそう言われて、俺と永瀬は入り口が見える場所まで移動する。そしてその入り口の光景を見た俺は思わず「げっ‥‥‥」と呟いた。というのもその入り口には多くの客に囲まれているネルの姿があったのだ。


「きゃぁぁぁ!!!復田社長よ!!」

「サインください!!」

「おいおい!あれって復田音流じゃないか!?相変わらず綺麗だよなぁ‥‥」

「綺麗というより可愛い系だよなぁ‥‥歳は一体いくつなんだろうなぁ‥‥」


 周りにいる客や外を通りがかった人々はネルの姿を見て立ち止まり、そのせいで店内外が大騒ぎとなってしまう。


「はいは〜い、お仕事があるからちょっと道開けてね〜あんまりうるさいと営業妨害で外に放り出した上で警察呼ぶわよ〜」


 ネルのその声に観衆は多少落ち着き始める。毎度思うのだが、いくらアレとはいえ客に対していきなり警察呼ぶとか言って大丈夫なのだろうかと心配になる。だが、その観衆たちの反応は割と好感触である。


「ウハッ‥‥‥!あの初手から高火力の一言は効くぜ!」

「あの笑顔から放たれる一言は何かゾクッとするよな‥‥」

「もっと叱って〜!」


 この国は終わりかもしれん。俺はこの光景を見て深くそう思った。


「おかしいわねぇ‥‥もう店についてもおかしくない頃なんだけど‥‥?私が奥にいる間にもう店の中にいたりして‥‥ん?」


 ネルは観衆を無視して辺りをキョロキョロと見回していたが、突然ピタッと動きを止めて何やら鼻を動かすかのような動きを始める。


「スンスン‥‥‥なるほどね〜」


 ネルはそう呟くと、軽く店内を眺めてからかすかに微笑んだかと思うと突如俺の脳内に声が聞こえてくる。


『匂いでバレバレよ〜猫の嗅覚を甘く見ちゃだめ〜ってか着いたなら着いたって言ってくれればいいのに〜!』

「ヒッ!?」


 あまりに突然の事だったために、俺は思わず声を出してしまった。当然いきなりそんな声を出せば、一緒にいる二人は不思議に思うわけで‥‥


「春海ちゃん突然どうしたの?」

「い、いや‥‥何でもない‥‥ハハハ」

「?」


 俺は慌てて誤魔化すが、違和感しかないために永瀬は不思議そうな顔をしたままである。だが、そんな永瀬よりも無視していると拗ねて騒ぎだしそうなネルに念話を飛ばす方が優先だ。


『一応、私もネルのこと探したんだけど見当たらなかったから‥‥忙しいのかなぁって‥‥』

『んもぅ!念話かスマホで連絡してくれればどんなに忙しくても優先するに決まってるじゃない!』

『いや、仕事とかならそっち優先しようよ‥‥ってかお願いだからみんなの前で娘だの何だのって騒がないでよ?あと、過度な特別扱いもね。春海と関係があるとなれば自然と秋司の方にも飛び火して学校生活に影響を及ぼしかねないわ』

『それは分かってるわよ。だから今日は春の可愛い悲鳴が聞けたからそれで満足しておくわ!因みに春用に用意した服は店の奥側に纏めて陳列してるから!あ、ここでのお会計は前に渡した私名義のカードで払いなさいね!』

『いや、自分で出すって‥‥ゼルからお金もらってるし‥‥』

『駄目よ!!このままじゃまたアイツに「母親面してるだけ」とか何とかマウント取られるんだから!私も母親らしい事して逆にマウント取ってやるんだから!そうだ!今度私の家にお泊りにいらっしゃい!私も料理出来るとこ見せてあげるから!美味しいご飯作ってあげる!何ならずっと住んでもいいわよ!!』

『あ、はい‥‥』


 前も思ったが、完全に別居中の夫婦が子供を取り合ってるだけにしか見えない。まあ、本人達にそんな事を言えば怒られるため言わないが‥‥因みに俺とそんな会話をしている間も、ネルは従業員達に様々な指示を飛ばしている。流石だ‥‥


「あの‥‥社長‥‥そろそろお時間ですが‥‥」


 俺との念話をしていたネルに、秘書っぽい人がそう声をかけた。するとネルはハッとした表情を浮かべ、慌てて時間を確認する。


「ちょっと、この店を確認するために来たのにもう行かないといけないの!?これじゃあただ来ただけじゃないのよ!」

「それはそうですが‥‥この後、次のファッションショーの大事な打ち合わせが‥‥」

「はぁ‥‥仕方ないわね‥‥今度時間あるときにまた見に来ましょうか」


 ネルは大きなため息をつくと、もう一度店内を見回してから出口の方へと歩き出した。その際、ネルは俺の方に軽く投げキッスをしてきたのが見えた。それによって群衆達はまたも大騒ぎとなる。


「うおぉぉぉぉぉ!!!見たか!?復田音流が俺に投げキッスしてきたぞぉぉぉぉぉ!?!?」

「ちげぇよ!俺に決まってんだろ!!」

「キャァァァ!!!復田社長すてきぃぃぃ!!!」

「今度のファッションショーも楽しみにしてますぅぅぅ!!!」


 流石は世界的なブランドの社長様だ。その見た目も相まって熱狂的なファンが多い。こんな中、『実は子持ちでした!』何て情報が流れれば大スクープとなるだろう。当然俺の平穏も消え去ることになる。


「凄い盛り上がりだったね‥‥流石は復田社長‥‥」

「そ、そうだね‥‥」


 周囲の熱気に唖然としている永瀬に、俺はなんとも言えない表情を浮かべていた。


「さて、二人は何かいいのは見つけたのかい?」


 結にそう聞かれて、俺はすでに手に持っていた何着かを見せる。まあ、後でネルの言っていた奥の方も見に行くのだが‥‥


「とりあえずこんな感じですね〜」

「春海ちゃん早いね〜!私なんて一着は決まったけどまだ迷ってるよ〜結姉はどう?」

「ん〜‥‥私はいいかな。この間買ったばかりだし。二人が楽しそうに服を選んでいるのを見ているだけど十分だよ」

「むぅ‥‥結姉のも一緒に選びたかったのに‥‥」

「ふふふ‥‥また今度お願いするよ」

「じゃあその時は、また春海ちゃんも一緒に選ぼうね!」

「うん!任せて!私結構自信あるから!」


 俺達がそんな会話をしていると、どこからともなく鐘の音が聞こえてきた。


「おや?この鐘の音は?」


 結は突如聞こえてきた鐘の音に、不思議そうな表情を浮かべる。すると永瀬は「あぁ‥‥これは」と真剣な表情で話し始める。


「この近くにある、魔法少女平和記念館の鐘の音だよ。結姉も覚えてるでしょ?4年前の大侵攻の事。その時に避難場所の一つになっていた建物が、魔物の攻撃で崩壊して多くの犠牲者が出たんだって。だけどとある一人の魔法少女がその魔物を倒したうえに、その時この都市を襲っていた魔物の大群を倒してこの都市を救ったの。そこでその時の生存者や遺族達が政府と協力して亡くなった人達の慰霊の為とその魔法少女の偉業を伝える建物を、その倒壊した建物があった場所に作ったの。そしてそれ以降その倒壊があった時間の午前2時になぞらえて毎日午後14時に鐘を鳴らすの。流石に夜中に鳴らすと迷惑だからね」


 俺は今、どんな顔をしているのだろうか。その平和記念館の建つ場所こそが俺のすべてが始まった場所である。当然ながら俺も何度か足を運んでいる。


『あぁ‥‥景色が変わっていて気づかなかった‥‥そうか‥‥』


 まただ。また結は聞こえるか聞こえないかのような声で何かを呟いた。そしてゆっくりと顔を上げてから口を開いた。


「すまない。このあと、その場所に付き合ってもらえないだろうか?」


 そう言った結の表情は、とても真剣なものであった。そしてほぼ同時にネルからの念話が俺の頭に響く。


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