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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三章
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十七駅目 妖精議会(前編)

 誠斗とマノンがシャノンと出会ってから数十分後、しばらく木しか見えていなかった視界が急に晴れて、目の前に大木が現れる。


「近くで見るとこれはまた……」


 天までそびえているのは遠目からでもはっきりとわかっていたのだが、改めて下から見るととんでもなく大きな木だというのが理解できた。


「ほら、マコト早くいくわよ。急がないと議会の開始時刻に間に合わないわ。まったく、誰のせいでこんなに遅れたんだか……」

「はいはい」


 遅刻ギリギリという状況を作り出している犯人は明らかにマノンなのだが、それを口に出すのは控えておく。

 別に言ってもいいのかもしれないが、そうした場合遅刻寸前から遅刻確定になる可能性がある。

 そうなると、面倒なことになるだろうから、今はおとなしくマノンのあとについていく。


「やっと着いた……ここが妖精議会の議場よ」


 マノンが立ち止まった場所は、木の根元に造られた広場だ。

 木の目の前にあるステージを中心に半円状に段差がつけられていて、そこにはすでに何人かの妖精が座っていた。


「時間ぎりぎりとは珍しいな。マノン」


 広場に入るなり、入り口付近にいた金髪の妖精が話しかけてくる。


「申し訳ございません」

「いやいや、怒っているわけじゃないから安心しなよ。っと、そちらさんは今日の証人だな。私はリェノン。大妖精だ」

「山村誠斗です。よろしくお願いします」

「おう。楽しみにしているからな」

「はい」


 誠斗はリェノンに頭を下げると、マノンの案内でどんどんとステージに向かって進んでいく。


「あの……どこまで行くの?」

「……中央の演説台のあたりよ。あのステージみたいなところ。あそこのすぐそばにある席。私の隣だからこのままついてきて」


 彼女の後ろを歩いている間も左右の席から好奇の視線を向けられる。

 ある者は、誠斗の姿を見てひそひそと話しだし、またある者は視線が合ったとたんによける。


 それを全身で感じながら誠斗は下へ下へと階段を降りていく。


「よおマノン! もしかして、そいつが今回の証人か?」


 ちょうど、半分を過ぎようかというとき、赤い髪をポニーテールでまとめている妖精がマノンに話しかけた。


「珍しいわね。リノンがここに来るなんて、明日は天変地異かしら?」


 リノンと呼ばれた少女は笑いながら手に持っていた果実を口に放る。


「おいおいそこまで言うことはないでしょ?」

「はたしてそうかしらね? 大妖精を毛嫌いしているあなたがこの場にいるなんて何か裏があるんじゃないの?」

「ないない! 大丈夫だって……それよりもさ、そこの……マコトだっけ? これから演説台(あそこ)に立って説明するんだろ?」


 そういうと、リノンは持っていた果実のうち一つを誠斗に向かって放り投げた。


「腹が減っては戦はできぬっていうしな。喰うかい?」


 誠斗は受け取った果実をもの珍しそうに眺める。

 それは手のひら大の大きさで色は光沢のある赤……先ほど、リェノンが食べていたリンゴそっくりの果実だと思われた。


「そいつはリーガっていう果実だ。この森にたくさん自生しているモノで私たち妖精の大好物だよ。人間もよく贈り物なんかに利用しているらしいな。だから、毒なんか入ってないから安心してもいいよ」

「……ありがとう」

「いいんだって! そうだ! すっかり遅れちまったが、私はリノンだ」


 思い出したようにそう言ってのけるリノンはこちらに手を差し伸べる。


「山村誠斗です。よろしく」

「あぁ! よろしく! まぁ蒸気なんとかってやつのことは興味があるから、楽しみにさせてもらうよ」


 誠斗がリノンの手を取り、二人は握手を交わす。


「ほらほら、話なんてあとでできるでしょ。急ぐわよ」

「……まったく、マノンは相も変わらずせっかちだな。ちょっと、ぐらいいいだろ?」

「よくない! ほら、さっさと行くわよ!」


 マノンはリノンとつないでない方の手を引っ張って、階段を降りはじめる。


「まぁせいぜい頑張れよ!」


 リノンのそんな声援を背中で聞きながら、誠斗は議場の一番下まで降りて行った。




 *




 演説台と呼ばれるステージの目の前。

 そこに誠斗の席は用意されていた。


 誠斗の左隣にはマノンが座り、その反対側……右側にはカノンの姿がある。


「あははっ! 久しぶりだね! そう久しぶり! また、人間と会えるなんて思っていなかったよ!」

「マコトさんですよ」


 誠斗の名前を覚えていなかったのか、誠斗のことを人間と呼んだカノンに対して、彼女の隣に座っている妖精がこっそりと(ただし、誠斗に聞こえる程度の音量で)誠斗の名前を教えた。


「あぁそうだったね! 久しぶりだね! そう久しぶり! こんなにすぐマコトの顔を見るなんて思っていなかったよ! にしてもさ、マノン。もしかしてももしかすると、またご機嫌斜め? うん、機嫌が悪いの?」

「そうですね。そうかもしれませんね!」


 最初に会ったとき同様に何かあったのだろうか? 二人の間にはどこか不穏な空気が流れている。


「マノン」

「なんですか?」

「こういったタイミングで言うのもおかしいかもだけど、終わったものは仕方ないじゃん? そう。仕方ない。だから、いつまでも不機嫌やってないでいつものマノンに戻ってほしいなって。うん。戻ってほしい。だって、あなたはこうして大妖精と同じ位置に座ることを赦された唯一の妖精なんだから」

「はい……それにしても、シノン様ともどものご出席ですか。先ほど、リェノン様も見かけましたし……この調子だと」


 マノンの問いを続けるような形でカノンが答える。


「十六人いる大妖精はみんな出席だろうね。さっき、シャノンの姿も見たし。そう。見ちゃったし」

「やっぱり……」

「全員となると、少し骨が折れるかな。うん。折れそう」

「まぁ伝統だなんだっていう方は多いですから」


 頭を抱えてため息をつくマノンの肩に、いつも間にか現れていたシャノンがトンと手を置く。


「まぁそんなに落ち込むなって! 急に呼び出したから準備が出ていないのはお互い様だろ? そもそも、マノンがしゃべるわけじゃないんだ。落ち着け」

「いやまぁそうですけれど……」

「大丈夫だ。大丈夫。私らはそろそろ何百年と繰り返されてきた平穏に飽き始めているんだ。だから、ここでドカンと風穴を開けるようなことがあれば、みんな賛同してくれるさ」

「そういうもんですかね?」

「そういうもんだ。マコトもその辺ちゃんと踏まえろよ」

「えっはい」


 突然、話を振られたために返事が少し遅れてしまったが、シャノンは満足そうにうなづいてその場から離れていく。

 その後も次々といろいろな妖精が興味本位で誠斗に近づいてきて、議会の開始を告げる鐘の音がなるまでそれは続いた。




 *



「これより、第898回妖精議会を開会する。皆、不正なく存分に話し合うように!」


 壇上に上がった司会進行役と思われる妖精が声を張り上げると、議場からは拍手と歓声が響き渡る。

 その様子は誠斗の知っている議会とは大きく異なるものだ。


 彼女の言葉のタイミングに合わせるように青地に妖精の羽が刺しゅうされた旗が大木の前ではためく。


「それでは、今日の議題を言うよ。そう。言っちゃうよ!」


 いつも間にか壇上に上がっていたカノンのことばで議場がシンと静かになる。


「今日の議題は蒸気機関車とその運用について……ただこれだけ。議長は私カノン、副議長はリェノン、秘書官はシノン、司会進行はワノンで進行させていただきます。そう進行します。さて、それではさっそくこの場に証人を呼ぶよ。そう呼んじゃうよ! ヤマムラマコトこちらへ」


 その声にまた議場中から歓声が上がる。


「ほら、さっさと行かないと」


 あまりの出来事に呆然としている誠斗の背中をトントンとマノンがたたく。


 それに押されるような形で誠斗はゆっくりと演説台の方へと歩き始めた。

 読んでいただきありがとうございます。


 書いているうちに長くなりそうだなと感じたので妖精議会の話は前後編に分けることにしました。


 これからもよろしくお願いします。

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