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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三章
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十八駅目 妖精議会(後編)

 セントラルエリアの中央に鎮座している願いの木の前にある演説台。

 そこを囲む議席は異様な雰囲気に包まれている。


 誠斗が恐る恐る演説台に上がると、拍手と歓声があがる。

 そんな中で誠斗は口を開く。


「えっと……妖精のみなさん。こんにちわ。ご存知かと思いますが、私は人間の山村誠斗です。今日はみなさんに頼みたいことがあってきました」


 誠斗はぐるりと議場を見回す。

 妖精たちは先ほどとは打って変わって真剣な表情で誠斗の言葉に耳を傾ける。


「うん。それじゃあ蒸気機関車の説明をしてほしいかな。そうしちゃって!」


 そんな中でカノンの明るい声だけがやけに大きく響き渡る。


 誠斗は大きく息を吸ってから口を開く。


「えっと、蒸気機関車についての説明ですが……えっと」

「ちょっと、カノン! いきなり呼び出しておいてそれはないでしょ。ちゃんと段取りっていうのがあるんじゃないの?」


 誠斗が説明を始めようとしたとき、声が上がる。

 誠斗が声のした方を見ると、議場の最後尾列に座っていた濃い青色の髪の妖精が立ち上がっていた。


「ユノン。どういうつもり? うんどうしちゃったの?」

「私はちゃんと正論を言っているつもりなんだけどね。何の準備もなしに納得の説明をしろっていうのは無理がある。だからといって、妖精議会を閉会するわけにはいかない。続けての招集となると面倒だからな」

「だったらどうするつもり? どうなるの?」


 カノンに尋ねられたユノンという妖精は演説台の方へと歩き始めた。その様子に議場がざわつき始める。


「せっ静粛にしてください!」


 ワノンが必死に訴えると、少しざわつきながらも先ほどの雰囲気を取り戻す。


「だったら、彼が説明しやすいようにすればいい」

「……やりやすいように? できるの? できちゃうの」

「忘れたのか? なぜ、我々が大妖精を名乗れているのか忘れたのか?」


 そういうころには、ユノンは演説台の上に上がろうとしていた。

 刹那、司会進行のワノンが止めようとするのだが、彼女の行方を阻むのは気が引けたらしく、すぐに引き下がる。


「まぁ確かにただで大妖精は名乗ってないよ。そう名乗らない。でもね。それが何か関係あるの?」

「だからね……私を除く大妖精の面々……いや、この議場にいる妖精のほとんどが誠斗が蒸気機関車の話をするのが面白そうだって言う理由で来ているわけでしょ。まぁどちらにしても妖精議会は開会しているわけだけど」

「回りくどい。早く結論を言って、そう言っちゃって」

「まぁそう焦らないでよ。なにが言いたいかっていえば私たちの能力さえ駆使すれば、彼の頭の中を直接覗き込むことぐらいはできるしょう? まぁ人間相手にやると命の保証はできかねないかもしれないけれど、一番手っ手っ取り早くて楽なんじゃないの?」


 ユノンの言葉を聞いたカノンは軽く頭を抱える。

 その横で誠斗は背筋が凍るような思いをしていた。恐らく、今目の前に鏡があったら


「あのユノンさぁ……冷静になって考えてみようか? 仮に記憶だけ覗いてマコトが死んじゃったら、其れこそ妖精議会をやる必要がないと思うんだけど?」


 なんだろうか、笑顔なのに怖い。

 目が笑っていないというのはこういう状況の時を言うのだろう。声のトーンも先ほどよりもかなり低い。


「あぁそれもそうか……だったら、このままでいいかもな」

「そうそう。だったら、ちゃんと席に着きなさい。一番後ろじゃなくてちゃんと最前列へね」

「はいはい」


 彼女はいかにもめんどくさそうな振舞いで演説台から降りていく。

 それと入れ替わるような形で今度はリェノンが壇上に上がってきた。


「すまなかったなマコト。まぁあれだ。それにカノンも少し意地の悪いところがあってな。まぁゆっくりと説明してくれていいから。まずは蒸気機関車の概要をゆっくりと話してくれ」

「はい」


 リェノンは誠斗の肩をとんとたたいてから、元の席へと戻っていく。


 その後、誠斗は大きく深呼吸をしてから口を開いた。


「えっと、蒸気機関車というのは……」


 誠斗は必死に自分の知る蒸気機関車の知識を懸命に説明する。説明するといっても、もともとそういった知識を持ち合わせていない誠斗は自分の頭をフル回転させてメリットとデメリットを説明していった。

 同じ話を二度も三度もしてしまったり、なにを言っていいかわからずに止まってしまったりしたんだが、妖精たちは静かに耳を傾けていた。


 それはそれで寝てしまったのではなかろうかと不安になったのはまた別の話だが……


 約数十分を使って説明を終えるとカノンが壇上に上がってきた。


「いきなりにしては上出来な説明ありがとう。とここで二つ三つ聞きたいことを聞いちゃおうかな? そう。聞いちゃうよ」

「えっと、どうぞ」


 カノンの明るい口調に少々戸惑いながらも誠斗は必死に冷静を保つ。


「それじゃ一つ目。まず、蒸気機関車に関してだけど、実験用に森の中に建設する小さい奴は人が乗れるの?」

「……えっと、組み立ててみないとわからないことは多いけれど、乗れると思います。たくさんは無理だと思いますけど」

「なるほどね……それじゃ二つ目は……」


 カノンの質問を皮切りにして次から次へと妖精たちから質問の嵐が浴びせられる。

 それを聞いていると、やはり説明がうまくなくて伝わらなかったのではないかという不安に駆られる。


 しかし、だからと言って落ち込んでいる暇はない。

 誠斗は一つ一つの質問に丁寧に答えていく。


 森に手を加えるのは必要最小限にするように気を付けるということ、機関車を走らせる場所は妖精たちが指定した場所にすること……質問に答えていくうちに徐々にそういった決まりも作られていく。


 これが妖精議会というものなのだろう。


 ブレーンストーミングと呼ばれる手法に近いが、それとはまた違う方法だ。


 ブレーンストーミングは“批判禁止”、“自由奔放”、“質より量”、“結合改善”の四つの原則に従い行われるもので詳しく説明すれば、とにかく質は気にせずに自由にたくさんの意見をだし、その意見と自分の意見をつなげたり、便乗することが推奨される。また、どんな意見に対しても基本的に批判をしてはならず、結論もその場で出さない。というのがブレーンストーミングだ。


 妖精議会の場合、この四つのルールにある程度当てはまるやり方で違いと言えば、すべての意見が誠斗の回答内容からの派生であること、よい意見はその場で次々と決定されていくことの二つである。

 誠斗がカノンからの質問に答えると、それをもとに多数の意見が飛び出し、つなげられ、あっという間に決まりができていく。いったん、議会内で決定したことも別の議題中に意見が出て書き変わるなど良くも悪くも自由奔放ではっきり言って、誠斗にはついていけない世界だ。


 約半日をかけて恐ろしい勢いで条文が作られていくのを見て、誠斗は妖精は周りから言われるほど能天気ではないのではないか? という疑問を持ち始めていた。


 そんなことを考えられるような余裕ができたのは、質問攻めがひと段落して、妖精同士の話し合いが行われているからだ。


「ごめんね。マコト……大変だったでしょ?」


 その中から抜け出してきたマノンが誠斗に声をかける。


「……まぁね。かなり大変だったよ……それにしても、こんなふうに即決して行って大丈夫なの?」

「問題ないわ。人間と違って、新しい決まりに不都合があれば、その場ですぐに改善するし。改善して改善してまた改善して……そうした方が人間みたいに机上で“あんなことがあるかもしれない”とか“こうしたらこんな批判が来るかもしれない”だとか、“あぁしたら私の財産がなくなるかもしれない”なんて、考えるよりはよっぽどか実用的で早いでしょ? それに、もしもって口で言っているだけで実際にやってみれば、そんなこと全く起きないかもしれないし、不安に思うほど批判はないかもしれない。あとから考えてみると、議論をしていないでさっさと最初の案でやればよかったということもあるかもしれない。もっとも最初の案でやったら全然ダメっていうときもあるけれど、最初も言ったとおり、そういったところはすぐに直せばいい……それが私たち妖精のやり方。まぁしばらくは妖精議会が何度も開かれるだろうし、場合によってはマコトはしばらく呼ばれるかもしれないわね」


 笑顔で説明するマノンに誠斗は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 それには、何度も呼ばれてたまるかという感情とあまりルールがコロコロ変わるとやりづらそうだという二つの意味が込められている。


 それを知ってから知らずか、マノンは笑顔で手を振って妖精たちの議論の輪に戻っていく。


 結果的に実際にマーガレット家前に実験線を建設し、その状況を踏まえたうえで今後もう一度判断するという決定がなされた。

 ほかにもいくつか決まりが存在するのだが、小さい蒸気機関車……(アイリスに渡された箱の大きさから公園などで走っているミニSLぐらいの大きさだとみられるため)以後ミニSLを走らせるための線路を造ることが先決だ。


 カノンがしたためた条文を読みながら、誠斗はまずはいくつかの安全試験の後に妖精たちに実際に乗ってもらうという小さな目標を胸にその書状にサインをした。

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