百六十駅目 地下迷宮での捜索(前編)
カレン・シャララッテとフウラ・マーガレットとの遭遇のあと、誠斗とオリーブは現状について報告するためにノノンが待つ中央広場まで戻ってきていた。
「なるほどね……ちょっと、引っかかるけれど話自体はいい方向へ動いたということかしら?」
誠斗から一連の話を聞いたノノンは顎に手を当てて深く思案する。
「引っかかるって……何かありそうっていうこと?」
「……はぁ少しは考えてみたらどう? そもそも、フウラ・マーガレットとカレン・シャララッテの関係についても何かありそうだし、そもそも、サフラン・シャルロッテをゆするための重要な切り札ともいえるアイリス・シャルロッテをあっさりと手放したのよ。となれば、彼女の中でアイリス・シャルロッテの利用価値がなくなったか、そもそも最初から利用価値など見出していなかったということになるわ。いくらフウラ・マーガレットの暴走が原因とは言え、あまりにもあっさりと負けを認めすぎているのよ。そう考えると、少し気にならない? それとも、私が疑いすぎているだけなのかしら?」
ノノンの推論に対して、誠斗が返答するよりも前にオリーブがくすくすと笑い声を上げる。
「何かおかしい?」
「……まぁそうですねー私からアドバイスをするのならーあなたはーもう少し人を信じるとかー偶然起きたという可能性を考慮する必要があるのですよーそーもーそーもーあの場所でフウラがー何をしようとしていたのかという点は謎ですがー私が聞く限りーフウラはーカレン・シャララッテの前からー姿を消していたとみることができるのですよーその目的はー唯一の肉親であるーミル・マーガレットがらみであるのは間違いないのですよーそーれーこーそー地下迷宮に閉じ込める程度にはー手に入れたいと考えていたということになるのですよーさぁてぇ本筋から外れましたがーアイリス・シャルロッテの立ち位置についてーこれに関してはー監視役が勝手に連れ出してー捜索していたところにー私たちが現れたのでー暇つぶしに無理難題なゲームを吹っかけたというところでしょうかねーそしてー姿を消していた自らの部下がー粗相をしでかしたーそこでーこう考えたのではないですかー? “利用価値も危険もないアイリス・シャルロッテの追跡をやめさせる口実になる”とーそもそもーアイリス・シャルロッテがどうしてさらわれたのかは知りませんがーもともと利用価値なんて見出していなかったと思いますよーもう少し言えばー“何かしらの形で十六翼評議会の存在を知っていて、なおかつ十六翼評議会の邪魔になる可能性”が考えられていたにもかかわらずー十六翼評議会の議長代理が領主代理になりーそのあたりの危険がなくなったのでーわざわざ探す必要は皆無になったとーでーもーそれではー対面上まずいわけですよーなのでー捜索中止の口実が欲しかったーとも見えますねーなのでーあの出来事はーカレン・シャララッテにとってちょうどよかったと見ることができるのですよーこんなところでどうですかー?」
カレンが言うことには一理あるかも知れない。
そもそも、アイリス・シャルロッテがさらわれたのは彼女がそれなりの地位にありながら、十六翼評議会の存在を知っていたからであり、決してカレン・シャララッテが個人的に利用価値を見出したからではない。(最も、彼女がなにかしらの形でアイリスを利用していた可能性は否定できないが……)
そんな背景を考えたうえで今回の出来事を考えてみると、オリーブの推論はある一程度の説得力を持っているように感じる。
「まぁとりあえず、マーガレットを探そうよ。いつまでもこうしているわけにはいかないし」
ただし、いまするべきことはこの議論ではない。マーガレットの捜索だ。
それを忘れたわけではないだろうが、この状況下で無駄な対立は抑えたいという思いから誠斗は二人の間に立って本来の目的に沿った提案をぶつける。
「まぁそれもそうね」
「そうですねー引き続き捜索と行きましょうかー」
その意見には二人ともあっさりと同意し、捜索を再開するための準備を始める。
「そーれーでーはーまだまだ私とマコトのー時間なのでー私たち二人で行ってきますねー」
早々に準備を終わらせたオリーブはそういった後、誠斗に目配せをしてから歩き出す。
それに続くような形で誠斗もオリーブを追いかけるような形で中央広場を後にした。
*
中央広場を離れてから約30分。
誠斗たちは再びカギが合う個所を探して歩き回っていた。
大きな音を聞いた地点の近くから再開し、徐々に奥へ奥へと移動していく。
「……相変わらず見つかりませんねー扉があまりにも多すぎるからでしょうけれどー」
「そうだね。それに、フウラが動かしたみたいな変な仕掛けもあるかも知れないし、それが本当に通路に面した扉の鍵なのかもいまいちわからないしで……どうしたものかな……」
「それを言い出したら元も子もないじゃないですかー私たちはーこの鍵を信じて地道に進むしかないのですよー」
終わりが見えない作業に弱音を吐いてしまう誠斗に対して、オリーブはあくまで前向きな姿勢を崩さない。
そんな彼女の姿勢がうらやましいと思うと同時にどうすれば、そこまで前向きに笑顔で過ごせるのだろうと考えてしまう。
以前、彼女は当時の議長……マミに“笑顔でいなさい”と言われたから笑顔でいるといっていたが、本当にそれだけだろうか? いや、こればかりは彼女のもともとの性格の可能性もあるから何とも言い切れない。
「どうかしましたかー?」
「いや、なんでも……それよりも、休憩とかしなくても大丈夫?」
「私は大丈夫ですよーすでにこの世のものではーありませんのでねーマコトがー休憩したかったらしてもいいのですよー」
「いや、ボクは大丈夫だよ」
「そうですかー」
たしかに死霊である彼女に休息などいらないだろう。
とっさに出た言葉だったとはいえ、このような言葉が出るということは、誠斗の中で少なからず彼女のことが普通に生きている人間として写っているということなのかもしれない。
だからこそ、あえて誠斗は前々から興味があることについて切り出してみる。
「ねぇオリーブ」
「どうかしましたかー? マコトさーん」
「こういうこと聞くのはあれかもしれないけれど……オリーブが生きていたころの話、聞いてもいい?」
誠斗からの問いかけにオリーブは目を丸くする。
しかし、すぐに元の表情に戻り返答する。
「いいですよーどこから話しましょうかー」
誠斗としては少し聞くことに躊躇のある話題だったのだが、オリーブは思いのほか軽く話題に乗り、行き来とした表情で話を始める。
その話に対し、誠斗はかつてマミが生きていたころの世界について少なからず情報を集めようと必死に耳を傾ける。
結果的にオリーブの話は時間になって、誠斗とノノンが交代するまで続くのであった。