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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十四章
197/324

百五十八駅目 オリーブと笑顔

 城塞都市シャラブールの地下に広がる地下迷宮。

 捜索開始から一日半という時間をかけて、誠斗たち一行はようやく全体像を把握しつつあった。


 いくら町の下に張り巡らせてあるとは言っても、シャラブール自体が城壁に囲まれたコンパクトな街のため、何とか三日以内に全体像の把握に至ることができたのだ。


 さらに言えば、カギがかかった扉というのもいくつか見つかっており、現在はノノンと誠斗が交代でオリーブとともにその扉一つ一つにオリーブが持つカギが合うかどうか試している最中であり、このペースで行けばマーガレットの発見に至るのではないかという希望が見え始めていた。


 しかし、だからといって油断はできない。この作業にあまり時間をかけていたらすべての鍵のかかっている扉を調べきれない可能性があるし、そもそも、オリーブが持っているカギがどこにも合わない。もしくは全く関係のない場所のカギである可能性も否定しきれない。


 だからこそ、それを見極めるといった意味でも、ある程度急ぐ必要がある。仮にダメだった場合に次の方策を考える必要があるからだ。


「……それにしてもーとんでもない数の扉ですねー」


 三つ並んだ扉にそれぞれカギを差しながらオリーブがつぶやく。


 たしかにこの地下迷宮に存在している扉の数は規模に対してかなり多いとように思える。


 その状態こそ、この地下空間の拡張の証であり、どのような使われ方をしてきたかという証明になるのかもしれないが、今はそういったところまで思考を回している余裕がない。冷静さを保ちながらも、この扉でもない。あの扉でもないとつぶやきながら一つ一つカギをカギ穴に差し込んで確かめていく。


「どれも当てはまりませんねーマコトさーん。人の話聞いてますー? それとも無視ですかー?」

「聞いてるよ。どちらかというと、うんざりするほどある扉の数にちょっと絶望を覚えているだけだよ」

「絶望ですかーまぁわからなくもないですねー」


 オリーブはニコニコと笑みを浮かべながら応対する。

 その笑顔に少なからず含みを感じるが、気にしたところで真意はわからないので放っておくことにする。


「それにしても、オリーブっていつも笑ってるよね」

「そうでしょうねーそれがー私でーすーかーらーねー昔からーそうするようにしてるのですよー」

「昔からか……」


 彼女が指す昔というのはほぼ間違いなく生前……おおよそ八百年前のことだろう。


「昔ーマミ議長に言われたのですよー“あなたは笑顔が似合うんだから、ずっと笑顔でいなさい”って。だからー私はー辛いときもー悲しいときもー笑顔でいるのですよーそうすればー辛いこともー悲しいこともー乗り越えられるのですよーマコトもー笑顔を浮かべてみたらどうですかー? 顔が怖いですよー」

「そう?」

「そうなのですよー今の誠斗にはー笑顔が足りないのですよー」


 そういえば、その地下迷宮に入ってから誠斗は前ほど笑顔を浮かべることがなくなったかもしれない。

 もっとも、今はアイリスの命を懸けてマーガレットを探している最中なのだから、仕方ないとは思うのだが、彼女が言うことにも一理あるように感じる。


 実際問題、今の誠斗はかなり気が張り詰めている。


 主な主因はアイリスの命がかかっているという緊張感と人の命を軽く考えていると思われるカレンへの怒りだ。


「マコトはー今回のことをーどう思ってますかー? 悲しいですかー? 辛いですかー? それともー怒りや恐怖ですかー?」

「怒りや恐怖。悲しみ、辛さね……確かに当てはまるものはあるかも知れないね」

「マコトさーん。ごまかしましたねー」

「……わかった?」

「わかりますよーむしろ、わかりやすすぎるぐらいですねー」


 オリーブの意見はもっともだろう。

 誠斗自身もどうしてこのように雑なごまかし方をしたくなったのかよくわからないが、すこしだけ頬を膨らませたオリーブを見て、思わず笑いそうになる。


「常に笑顔じゃなかったの?」

「常に笑顔でもー不機嫌にぐらいはなるのですよー」

「まぁそうだろうね」


 ある意味貴重なオリーブの不機嫌顔を引き出したところで、誠斗とオリーブは次の扉へと向かう。


「それにしても、これだけやって半分も言っていないのか……」

「そうですねーまーあー時間もまだありますしー笑顔で気長にいきましょうよー焦ったらーできることもできなくなりますですよー」


 オリーブはあくまで誠斗を笑顔にしたらしい。

 先ほどの言葉を考えれば、ある意味で当然の行動だし、笑顔を浮かべられるような余裕があればどれだけいいことだろうか。しかし、今は急がなければならない時だ。焦りすぎはいけないが、ゆっくりとしているわけにもいかない。


「ねぇマコトさーん。ちょっと焦りすぎですよー」

「焦ってる? ボクが?」

「焦ってますよーでーすーかーらー笑顔を浮かべてー少し落ち着きましょう?」


 オリーブは誠斗の正面に立って肩をつかみ、じっと目を見つめる。

 その目にはいつもの笑顔はなく、真剣そのものだ。


「……わかったよ。ボクの負けだ」


 言いながら誠斗は笑い始める。


「勝ちも負けもないと思いますですよー」


 それにつられるようにして、オリーブもくすくすと笑い始める。


 ドシン。そんな音が響き渡ったのはちょうどそんな時だった。


「今の音って……」

「何か怪しいですねーカギの開けた場所の記録はー?」

「とってあるよ」

「ならーちょっと見に行ってみましょうかー」


 オリーブの言葉にうなづいてから誠斗は音がした方へ向けて歩みだす。

 そのすぐ後ろにくっつくような形でオリーブも移動を開始し、二人は迷宮の奥へ奥へと歩みを進める。


「……それにしてもー音の正体は何でしょうかねー不都合なものじゃなければーいいですけれどねー」7

「さぁどうだろうね……状況からして、いいこととも言い切れないけれど」


 今のところ音の正体について思い当る節は何もない。

 そもそも、これに関して様子を見に行くのが正解かどうかもわからない。


 だが、これを確かめずにあとから不都合が起きても困るという判断のもと、誠斗たちは音がした方へと歩み続ける。


「さーてぇ何があるんでしょうかねー」


 どこか楽し気なオリーブの声を聴きながら、誠斗は手元の灯りだけを頼りに暗がりの中を進んでいった。

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