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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
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幕間 オリーブとノノンの攻防

 シャラブールの地下に広がる地下迷宮。

 その迷宮を構成する長い廊下に二つの影があった。


「ちょっと、歩くの早いからもう少し遅くしてくれない?」


 二人のうちの一人であるノノンが口を開く。


「あらあらぁお子様にはー少し配慮が足りなかったようですねー」

「誰がお子様よ。私はこう見えても……」

「何百年と生きている妖精だからーですかー? クスクス。ようやくー尻尾を出しましたねー」

「尻尾? 何のことかしら」


 オリーブはノノンが妖精であることを見抜いている。そう感じさせるような発言であるのだが、ノノンとしては簡単にその事実を認めるわけにはいかない。下手に認めれば、亜人追放令に基づいて通報される恐れがあるからだ。もっとも、オリーブ自身が通報できる可能性はあまり高くないので、警戒するべきなのはその向こうにいる術者なのだが……


「でーはーこう見えてもー何なのですかー?」


 オリーブはニコニコと笑みを浮かべながらノノンの発言について追及する。


 確かにノノンは妖精で長生きをしているが、見た目は人間の子供そのものだ。だからこそ、年上だなどと言い張った暁には不自然極まりない事態になってしまう。しかし、だからといってそう簡単に人間ではないと認めるわけにはいかない。


「こう見えても子供じゃないわよ。身長が低いだけで」


 結局、考えついた言い訳はとても苦しいものだった。


「ほうほう。かなり苦しい言い訳ですねー」


 当然のことながら、オリーブはそんなごまかしなど簡単に見破り、ニタニタとした表情を浮かべている。


「ウソは言ってないわよ」

「そうですねーウソはついてなさそうですねーウソはー」


 あくまでオリーブは引き下がるつもりはないらしい。彼女はここぞとばかりに追及を強めていく。


「クスクスクス。見苦しいですよー素直に認めてー楽になったらどうなのですかー?」

「認めるも何も私は……」


 人間だとは言えない。それを言うとウソになってしまう。別にうそをついたところで問題はないのかもしれないが、下手な嘘をつけば後々面倒なことになる可能性も考えられる。


「認めたらどうですかー私はー妖精に対してー大した偏見は持っていませんしー今はー外部との接続も切れているのでー私を操っていた術者にばれることもありませんよー」


 続いて飛び出すのは嘘なのか本当なのかいまいち見分けが付かない誘い文句だ。


「……それ、本当?」


 だが、思わずノノンは聞き返してしまった。その発言はまさしくオリーブの主張を肯定していると取られてもおかしくないモノだったが、ノノンはそれに気が付かない。


「本当ですよー信じるかどうかはあなた次第ですけれどねー」

「……そう」


 ノノンは小さな声で返事を出したうえで自分が妖精であることを認めるべきかと考え始める。


 正直な話、ここで強く否定したところで誠斗が妖精だと答えてしまう可能性もあるし、そもそもすでに誠斗とそのような会話が交わされている可能性もある。というよりも、一番怖いのはそこの可能性が低くないというところだ。


 仮に誠斗とノノンの正体について話をすでにしていて、その上でこういった話題を振っている場合、今のノノンは彼女が作り上げた舞台上で踊らされているだけということになる。


「……あなた、どこまで知っているの? 何が目的でそんなことを聞くわけ?」


 そこまで踏まえて、ノノンが出した答えはオリーブがどの程度把握しているのかという確認とその意図を探るというものだった。


 結局のところ一番重要なのは彼女が何をどれだけ知っているかであり、同時に何をしたいかである。


 わざわざ、二人きりの時にこの話題を振ってきたのだ。何もないなんて言うことはないだろう。


「どこまで知っているのといえばー私は何も知らないですよーそしてー何が目的かと聞かれればー私の知的好奇心からなのですよーこれで十分ですかー?」


 しかし、オリーブから帰ってきた答えはノノンが想定していたものとは違い、単純に知的好奇心からの行動であることと、すべて推論で話しているということが分かっただけだ。だとすれば、もうすこしごまかしていてもよかったのではないだろうか?


 そんな、ちょっとした後悔にさいなまれながら、ノノンは小さくため息をつく。


「知的好奇心ねぇ……私はあなたの知識欲を満たさせるためにこんな風に付き合わされているっていうこと?」

「そうなりますねー」


 真剣に考えていた自分が馬鹿らしくなってきた。


 そう考えて、ノノンは再びため息をつく。


「ということは、マコトから何か聞いたとかいうのは?」

「ないですねー」

「あーそう……はぁ考えすぎたわね……」


 自分はあまりにもオリーブのことを疑いすぎていたのかもしれない。


 確かに彼女は嫌悪すべき死霊であり、彼女の背後には誰かしら術者が存在しているが、それはオリーブ・シャララッテという人格を完全に否定しているものではない。

 よくよく考えれば、術者が彼女の行動を制御しているような様子はあまり見受けられないし、そもそもこんな地下迷宮にいて、術者が直接オリーブの様子を観測できるわけがない。


 こんな状況だからこそ、オリーブは自らの知的好奇心を満たすような行動に打って出たのだろう。


「それでーあなたはー妖精さんですかー? そーれーとーもー人間さんですかー?」

「……あなたの言う通り、私は妖精よ。それでいい?」

「はいはーい。満足なのですよー」


 結局、ノノンは自らが妖精であるということを認め、二人の攻防が終了する。


「そうですかーやっぱりそうなんですねーだったらー次はー妖精の生態について聞いてもいいですかー食文化とかー住居とかー」


 ノノンが自らを要請であると認めたことで話は次の段階へと移行する。

 

 その内容は主に妖精の文化についてであり、これもまたオリーブの知的好奇心を満たしていくのだろう。


 少しぐらいうそを混ぜてうやむやにしてしまおうかとも考えたが、それをした結果妖精に妙な印象を持たれても困るのでノノンはある程度素直に質問に答えていく。


 そのあと、二人は互いの文化について話をしながら地下迷宮の奥へと進んでいった。

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