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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
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幕間 サフランの推察

 シャルロ領にあるシャルロッテ家の屋敷。

 その屋根裏にある秘密の書斎の中央にぽつんと置かれている書斎机にサフランは腰かけていた。


 天井をぐるぐる回っている書棚や書斎机の上に置かれた書籍にはそれぞれ魔法陣が仕込まれており、この空間を常に維持している。


 そんなある種、異様な空間の中でサフランは書斎机の上の書籍を手に取り、ぱらぱらとめくる。


 そして、適当なところまでめくったところで手のひらを返し、本を開くと、今度は目でそこの書かれている文字を追いかけ始める。


「…………………………やはり、さっぱりわかりませんね」


 本を読みはじめてから約20分。サフランは大きくため息をついて本を閉じる。

 「サクラ魔法について」という題名が書かれているその本は、初代領主マミ・シャルロッテが残した書物の一つで彼女が独自に編み出した「サクラ魔法」なる魔法について書かれたメモ書きだ。


 曰くその魔法は魔力の消費量のわりにかなり強力な効果を発揮する上にやり方次第では効果が永続的に続くと言われている。現にこの部屋の仕掛けが八百年も動き続けていることがそれの裏付けとも言えるだろう。

 しかし、その仕組みは単純な見た目の割には複雑で花びらの組み合わせ次第では現代魔法では不可能だといわれている魔法すら実現可能だといわれている。


 なぜ、このようなタイミングでサフランがサクラ魔法の習得をしようとしているのだろうか?


 その理由はいたって単純だ。


 偶然、自分が欲している魔法が見つかったから。ただそれだけである。


 その魔法に類似した魔法はいくつかあるものの、どれも準備が面倒な上、魔力消費が激しくまた、たくさんの魔力痕を残してしまうため、あまり実用には向かないものだ。しかし、マミが編み出したこの魔法を使えば、魔力消費を減らすだけでなく、魔力痕をほとんど残さないという特徴があり、既存の魔法に比べて圧倒的に実用性に富んでいるのだ。


 そのため、サフランは毎日この書斎に通いつめ、魔法についての研究を続けていた。しかし、一行にこの魔法について理解できる気がしてこない。

 そもそも、この魔法は通常の魔法でいうところの五芒星を「サクラ」という花に置き換えたものと書かれているが、サフランはその「サクラ」という花を見たことがない。


 そのため、魔法に大切なイメージがなかなか上手くにできないのだ。


 せめて、マミが残した書籍の中にサクラの花についての解説やら、サクラの花が咲いている場所についての説明があればよかったのだが、いくら探してもそのようなものは見つからない。

 おそらく、この魔法の手軽さとその効果の大きさゆえに簡単には使えないようにしているといったところなのだろう。


「………………………………………………ここに書いてあるサクラという花……マコトに聞けば教えてもらえるのですかね……」


 サクラという花について考える中でサフランの頭の中に浮かんだのは今、シャラにいるはずの誠斗の姿だ。

 残念ながら徒歩での移動なので帰ってくるまでには時間がかかる上に今はカレン・シャララッテの“ゲーム”に挑んでいるという報告が入っている。となれば彼が帰ってくるのはしばらく先になるだろう。


「………………それにしても、人の命を賭けてゲームとは、相変わらず品がない人ですね……もっとも、それだからこその今回の騒動なのですが……」


 サフランは深くため息をついて机に突っ伏せる。


「………………しかし、少々あの女を見くびりすぎましたね……そろそろ次の手を打つべきでしょうか……」


 本来なら翼下準備委員会に暗殺を中止するように言うだけでいいのだが、状況が状況だ。

 なぜ、それを止めるのかと問われるだろうし、そもそも翼下準備委員会は半ばカレン・シャララッテの私設部隊に成り下がっている。


 もっとも、十六翼評議会議長代理の権限でしか動かせない部隊というのも存在しているので、それが重大な危機というわけではないのだが……


「………………………………とはいうものの、この状況を打破するアイディアというのは中々浮かびませんね……」


 サクラ魔法の本をそばに置き、その下に隠れていた羊皮紙に視線を落とす。

 そこには自分の部下たちからの報告がまとめられており、マコトたち一行の現状からアイリスの現在地、カレンの指示に至るまで事細かに書かれている。


 その報告書を作成したのは十六翼評議会の下部組織の一つである翼下調査院の人間だ。


 その報告書を読みながらサフランは再び深いため息をつく。


「……………………全く、動きがよくないですね……現状だと、姉さまに命の危機が訪れてしまうではないですか……はてさて、どうしたものでしょうか」


 報告書を読みながらサフランは深く思案する。


 そもそも、今回の出来事について一つ溶けてない謎がある。

 それはマーガレットの誘拐を指示した人物。それが誰なのかという点だ。


 一応、調査結果としてはフウラ・マーガレットが最有力であるのだが、相手が複数犯の可能性もあるし、マーガレットをよく思っていない人間などいくらでもいるだろう。彼女の場合、有用に利用できるという意味でも恨みを買うという意味でもかなりの特殊性を兼ね備えているとサフランは思っている。


 そもそも、彼女は不老不死である。


 彼女はかつて、安住の地を求めてあちらこちら渡り歩いていたという話も聞いたことがあるため、その人脈はかなりのものだろう。その上、彼女の魔法は普通の人間には到底扱えないものも多く、そのあたりに利用価値を見出す人間も少なくない。


 今回の場合、シャラブールに監禁されていることは明らかとなっているのでカレン・シャララッテがかかわっていることは間違いないのだが、問題はそこに至る過程。マーガレットの誘拐を指示したのがカレン・シャララッテで実行したのがフウラ・マーガレット、利用されていたのがノノンという構造を想定しているのだが、それを確かめるすべがない。


 いくら、優秀な探偵集団である翼下調査院の人間とも言えど、調べられることには限界がある。


 ほかにも翼下準備委員会が独断で動いて、カレン・シャララッテがその事実を隠蔽しようとしている可能性も十分あり得るし、もっと言えば、そもそも十六翼評議会の関係ない組織が誘拐したものをカレンが手に入れた可能性も否定できない。


 しかし、一番の問題となるのはその動機。


 なぜ、カレンがマーガレットを欲したのか。

 その理由がいまいち理解できない。


 別に特殊な魔法を使いたいのなら、普通に依頼をすればやってくれそうな雰囲気もあるし、そもそも調査員が調べてきた情報を精査する限り、監禁しているだけで何かをさせているという様子は見受けられない。もっとも、監禁場所から魂だけ逃げ出されたせいで何もできないという見方もできなくはないのだが……


 そうなると、フウラ・マーガレットが勝手に動いたという可能性も出てくる。


 例えば、フウラ・マーガレットが肉親を身近に置きたいという理由からミル・マーガレットをさらい、その火消しをカレン・シャララッテが行っていると仮定すると、今回の件はかなりクリアになって来る。


 そうなってくると、気になるのはフウラ・マーガレットの動向だが、残念ながらそのあたりの情報はあまり入ってきていない。

 勝手な行動を理由に消されたか、もしくはことが大きくなりすぎたため逃げ出してしまったのか……そのあたりのことはよくわからない。


 ただ、一つ言えることとすれば、今回サフランがマーガレットとアイリスの救出という形で依頼した故にカレンはマーガレットは自分に対して十分に人質たり得ると判断しているということなのだろう。現にゲームの内容はマーガレットを期限内に見つけられればアイリスの暗殺をやめるといったものだ。仮にマコトが失敗するようなことがあれば、アイリスはほぼ間違いなく死ぬことになるだろう。


「…………………………本当に困ったことになりましたね……」


 サフランは三度深いため息をつくと、そばによけていた書籍を元の位置に戻して立ち上がる。


「……………………さて、いい加減時間もありませんし、次の一手を考えないといけませんね」


 サフランはにやりとした笑みを浮かべながら秘密書斎を後にする。


 彼女が出ていった後の部屋には再び静寂が訪れるのだった。

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