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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
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百五十七駅目 誠斗の考察

 地下迷宮の中央広場。

 オリーブと探索を行ったのち、休憩を取ることになった誠斗は看板に背中を預けて座っていた。


 ノノンとオリーブがそれぞれ話した考察……否、推察はそれぞれ全く別の方向を向いたものであった。

 この事件の裏にサフランの何かしらの意図や関わりを予想するノノンとこの事件に関して、全く状況を把握していないながらも、誠斗とノノンの関係について、サフランが背後にいて、なにかをたくらんでいるのではないかという予想を立てたオリーブ。誠斗としては、オリーブへの反論の内容が大丈夫だったのかという不安も残っているのだが、それは今は一旦置いておく。


 さて、ノノンの推察を事件の関係者視点のものだとすれば、オリーブの推察は部外者視点といったところだろうか?

 そんな二人の推察の共通点の中で、やはり興味を引くのはともにサフラン・シャルロッテが登場することだろう。


 ノノンはともかく、オリーブに現在の十六翼評議会の面々についての情報を与えた人物というのは気になるが、それは今考えることではないだろう。


 ともかく、今回の件についてサフラン・シャルロッテがなにかしらの形で関与しているのはほぼ間違いない。

 誠斗たちを送り出したのは彼女であるということを含め、いろいろと状況証拠が揃っているからだ。それに加え、仮にノノンが言っていたことが本当だとすれば、動機まではっきりとしている。


「でも、サフランは本当にそんなこと考えているのかな……」


 だが、誠斗はサフラン・シャルロッテという人間についてあまり悪い印象を抱いていなかった。


 確かに十六翼評議会議長代理などという肩書を持ち、裏では何か考えていそうだというように思える要素は十二分にあるのだが、彼女は本当にこの事件の裏で糸を引いているのだろうか?


 サフランがアイリスに対して、どのような感情を抱いているのかわからないが、姉と呼び慕う人間をそう簡単に戦略のパーツとして使うことができるのだろうか?


 現状、二日目に入ろうとしているが、地下迷宮の大きさすら把握しきれていない。

 そんな状況の中マーガレットを見つけるのは困難であるということは必至であり、アイリスに降りかかるリスクはとても大きい。仮にサフランが黒幕だとした場合、この状況を作り出すということはあまりにもリスクが大きい。


「あれ……そういえば……」


 そこまで考えたところで誠斗は小さな引っ掛かりを覚える。


 もしも、ノノンの推察が真実であり、なおかつサフランがアイリスのことを本当に大切に思っていたら、サフランはこの状況を切り抜けられる何かを用意しているのではないだろうか?

 例えば、メルラがオリーブに託した謎の鍵。あれがマーガレットの監禁場所につながるものである可能性も考えられる。


 だが、仮にそうだとしても、マーガレットがいる場所を特定できない限りはそれも意味をなさない。


 そうなると、マーガレットの居場所につながるヒントがどこかにあるのだろうか? それとも、見落としているだけで意外とわかりやすい場所にいるのか……


 そこまで考えて、迷宮での一連の風景を思い浮かべてみるが、思い出すのはどこまでも続く薄暗い廊下とそこで行われたノノンやオリーブとの会話のみだ。

 これといって目立った異変は記憶にない。


 分岐はいくつも存在しているが、それらをすべて調べていたらキリがない。それこそ、たったの三日では調べきることすら不可能だろう。


 よくわからない。


 どれだけ考えても、誠斗が至る結論はそこだ。


 ノノンの推察が正しいのかわからない。オリーブの推察がどうしてあのような結論に達したのかわからない。サフランがなにを思ってこのタイミングでアイリスの救出を依頼したのか、マーガレットがさらわれた理由は何なのか、そもそも、ノノンの背中に呪いを刻み込んだ人物は誰なのか、カレンの目的はどこにあるのか……


 誠斗の頭の中で様々な考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。


 中央広場の……頭端式のホームの端で寝そべり、天井を見つめ考えを永遠と巡らせる。


 今はそれを止める存在はいない。今、この場にいるのは誠斗一人だからだ。


 だからこそ、誠斗の思考は制御を失った潜水艦のようにどんどんと深く沈んでいく。


 思えばこの事件は最初から妙なことばかりなのだ。


 そもそも、ノノンがマミの幻想を見せてだましたところからここに至るまで不自然な点があまりにも多すぎる。

 今起きている事情をそのまま呑み込むと、フウラ・マーガレットがミル・マーガレットを誘拐し、それにはノノンがかかわっている。そのミル・マーガレットの救出のため選ばれたメンバーが誠斗と逃走防止用の奴隷の腕輪をつけられたノノンだ。さらに言えば、実質的にこの二人を指名したのはサフラン・シャルロッテであり、このときに今頃ながらアイリス・シャルロッテの救出も同時に依頼されている。


 続いて、シャルロ領内で様々な事情……おそらく、カレンからこの迷宮への誘導もしくは情報収集を指示されたココットが接近、仲間になった。


 この時点で少しずつ矛盾が生じ始める。


 そもそも、この状況下ではココットの背後にいるのはフウラ・マーガレットであるのが適当であり、カレン・シャララッテでは話がおかしくなってしまうのだ。仮にフウラ・マーガレットとカレン・シャララッテが繋がっているとしても、フウラ・マーガレットが全く出てこないというのは少々おかしくはないだろうか?


 もっとも、事件の背後にフウラ・マーガレットがいるという可能性を示唆したのはあくまでシルクであり、それが事実とは限らないのだが……


 だめだ。整理すればするほど訳が分からなくなっていく。この事件にはどのような真相が隠されているのか。そもそも、マーガレットはこの迷宮のどこにいるのか。ノノンの背後にいる黒幕は誰なのか……どれをとっても全く持って理解が追い付かない。


 今言えることと言えば、自分の知らないところで何かが起きていて、その一端が自分たちの降り注いでいるということだけだ。


 こうして、誠斗が長い時間をかけたところたどり着けるのはそんなある種月並みともいえるような結論までで、その先にある真実には手が届かない。

 今回のことがあまりに大きすぎるのか、はたまた真実に近づくためのヒントが不足しているのか、もしくはその両方なのか。それすらも今の誠斗には理解できない。


 誠斗は天井を仰いだままため息をつく。


 いったい何が起きているのか。


 巡り巡って思考は一番最初の地点へと戻っていく。


「あれ……これってもしかして……」


 そして、ここまでの時間をかけて誠斗はある一定の結論に到達する。


 フウラ・マーガレットとカレン・シャララッテそしてサフラン・シャルロッテ……この三人のうち誰かが黒幕なのではなく、三人がそれぞれ黒幕なのではないだろうか?


 自らの野望のためにアイリス・シャルロッテを傷つけずに表舞台から排除したいサフラン、どういう事情からは分からないが、ミル・マーガレットを手元に置いておきたいフウラ・マーガレット、そして“翼下準備委員会委員長”であるフウラの上司にあたるカレン・シャララッテ……この関係を考慮すると、フウラが勝手にミル・マーガレットを連れてきた場合でもこの場所に監禁するためにはカレンの許可が必要になってくるはずだ。そうなると、少なくともフウラとカレンは共謀していることになる。


 カレンからすれば、アイリス・シャルロッテとミル・マーガレットはサフランに対して人質として扱うことができる可能性がある人物であり、実際にそうなっている可能性がある。そうした中、サフランがマーガレットの救出という口実で誠斗たちをシャラに送り出し、その一方でアイリスを表舞台から消す工作をし、彼女の安全を確保。その上でカレンのことをつぶしにかかっている……このように見ることはできないだろうか?


 ミル・マーガレットをさらったのはフウラ・マーガレットであり、それには何かしらの理由からノノンが協力している。

 カレン・シャララッテがその身柄を引き取り、アイリス共々人質にする。

 それに対抗して、アイリスが誠斗たちを送り込み、その工程を遅らせることによって、時間を稼ぎ複数の工作を行い、今の状況……アイリスの生死をかけたゲームが誠斗たちとカレンの間で行われるように仕向ける……これならある種、筋が通るのではないだろうか?


 誠斗は小さく深呼吸をして、天井から視線を外す。


 仮にその通りだとすれば、この迷宮のどこかにマーガレットの救出につながる何かがあるはずだ。


 そんな確信を持ちながら、ゆっくりと眠りに入っていった。

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