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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
192/324

百五十五駅目 ノノンの推察

 中央広場を出てから約一時間。

 誠斗とノノンは真っすぐと続く大きな通りをひたすらまっすぐと歩いていた。


「終わらないわね……この通路」

「だね。途中でいくつか脇道はあるみたいだけど……地下迷宮っていうのはやっぱり伊達じゃないみたいだね……」


 この地下迷宮が地下迷宮たる最大の理由は当初の製作者の意図を無視して、拡張、増設が繰り返されたことにより作られた無秩序な横道が数多く存在していることに起因する。

 製作者の意図というのは、使いやすい地下駅(のはず)なのだが、そんなものはすっかりと忘れられ、今はこうして地下迷宮としてシャラブールの町の下に広がっているのみである……というか、これだけ地下街を張り巡らせて、地上の街が陥没したりはしないのだろうか?


 そんな疑問を胸に誠斗はなんとなく天井を見上げる。


「……天井見たってなにもないと思うけど?」


 その行動を見て、天井に何かないのかと探していると思われたのか、横を歩いているノノンから声がかかる。


「えっあぁうん……そうだね」


 別段、今の考えを放してもよかったのだが、この状況とはあまり関係ないのでやめておくことにする。


「そういえばさ、前々から気になっていたんだけど、ノノンって羽を魔法で消してるんだよね? 疲れたりしないの?」


 いったん、天井のことから思考を放すという意味も込めて、誠斗はノノンに疑問をぶつける。

 実をいうと、もっと前から気になっていたのだが、そのころにはココットやオリーブが近くにいたため、あまりそういった話題を出せないでいたため、聞けていなかった質問だ。

 質問を投げられた側のノノンは一瞬、きょとんとした表情を浮かべた後、くすくすと笑い声をあげる。


「大丈夫大丈夫。何の心配よ。私は妖精よ? そもそも、魔法を使うことに関して何かを消費するという概念はないわ。まぁ正直なところ、魔法を使うより歩く方が疲れるわね……せっかくだから、久しぶりに飛ぼうかしら」


 そういうと同時にノノンの背中に羽がゆっくりと生えてくる。


 それが終わると、彼女はゆっくりと上昇した。


「うーん。飛ぶのってカルロフォレスト以来ね……久しぶりに羽が伸ばせたわ」

「なんというか、飛んでいるのはともかく、羽があるノノンを見るのは結構久しぶりな気がするね」

「そういえば、森を出てからほとんど隠していたわね。(これ)。まぁしょうがないといえば、しょうがないのだけど……」


 ノノンは久しぶりの飛行を楽しむようにぐるぐると誠斗の周りを旋回する。

 正直、こうされると歩きづらいのだが、久しぶりの飛行だからと誠斗はそれを許容し、前へ前へと歩を進める。


 しばらく、飛行を楽しんでいたノノンはゆっくりと誠斗の背中へと近づいて、首の後ろから手を回す。


「ねぇマコト」

「何?」

「……これでさ、マーガレットを助けたら、一応このたびは終わりなんだよね……」


 まるでこの旅が終わってほしくない。そうもとれるノノンの言葉に誠斗は足を止めた。


「……確かにそうだね。もっとも、カレン・シャララッテの元部下と一緒に逃げているアイリスを連れ戻すかどうかっていうところもかかわってくると思うけれど」

「たぶん、アイリスを連れ戻すことはないんじゃないかしら? サフラン・シャルロッテ個人としてはアイリスには生きていてほしいでしょうけれど、領主代理や十六翼評議会議長代理という肩書を持っている彼女からすれば、シャルロッテ家の闇から遠い彼女の存在は邪魔でしかないでしょうから」

「シャルロッテ家の闇?」


 ノノンの言葉の中にあった“シャルロッテ家の闇”という言葉に誠斗は少なからず引っ掛かりを覚える。

 確かに当主が暗殺されることが多かったり、十六翼評議会とのかかわりがあったりと何かと闇といえる面があるように思えるが、ここまでの話とアイリスがどう関連してくるのだろうか?


「……まぁ噂程度の話なんだけどね。シャルロッテ家っていい言い方をすれば、フロンティア精神にあふれた当主が多いのよ。乗り物としてのドラゴンの普及に努めたり、鉄道を引こうとしたマミがその代表だし、その鉄道の復活を狙うアイリスもそうね。でも、それはあくまでも光の面。十六翼評議会のことはもちろん、裏ではいろいろと怪しい実験を繰り返していた当主もいたっていう話を聞いたことがあるの。いつしか、光と闇は本家と分家という形で分裂したみたいなんだけど、今回の騒動で分家の当主たるサフラン・シャルロッテが表に出てきた……となれば、彼女も何かしら“闇”の面にかかわる何かをしていると考えるのが自然でしょ? そうなると、光の当主であるアイリスが戻ってくるのは不都合ということになってしまう……だったら……」

「生きてそのまま逃げ続けてくれる方が都合がいいっていう話になるわけか……でも、噂程度の話なんでしょ? それって」

「そうだけどさ、今ごろアイリスの救出を依頼されて、かつ当のアイリスは暗殺者に追われている状況なのよ。それが偶然だと思える?」

「でも、そうなると今回の騒動は全部サフランが仕掛けたことになるよね? そんなことして意味があるの?」


 確かに今回は偶然が重なりすぎている。しかし、これが仕組まれたものだとすれば、いったいどこからどこまでがそうなのだろうか?


「言っておくけれど、私があなた達をだましてマーガレットを連れ去ったのは関係ないわよ。サフラン・シャルロッテが何かを仕組んだとすればそのあと……いや、思いついたというのが正しいかもしれないわね。おそらく、私たちに表向きの理由を与えて行程を遅らせつつ、途中にいくつかの妨害工作を仕組んでおいて足止めをさせる。その間に何かしらの方法でカレン・シャララッテの側近に接近し、もしもの時にアイリスを連れて逃げるように促したうえでカレン・シャララッテがアイリスを暗殺するよう命令するような状況を作り出す……多少のリスクはあっても、確実にアイリス・シャルロッテという人物を表舞台から消せる完璧な作戦だと思わない? しかも、運が良ければアイリスは生きているっていうおまけつき……マーガレットの救出を報告した時点でアイリスを連れ戻さなくてもいいと言われたらこれはほぼ確実といえるかもしれないわね」

「どうもにわかに信じられない話だけど……確かに不自然な点は多かったよね。カルロフォレストを発とうとした時のメイドとか……」


 考えてみれば、ノノンが指摘するような不自然な点はいくつか思い当たる。

 カルロフォレストでもシャルロッテ家のメイドの行動は明らかに工程を遅らせるものであったし、下手をすれば議会関係者であるカレン・シャララッテやバード・カルロッテに何かしら息がかかっていてもおかしくはない。


「……ねぇノノン。仮にそうだとしてもなんで今この話を?」

「……オリーブがいるところでできないじゃない。たぶん、あの調子だとマーガレットを救出した後もついてくるでしょうし……はっきり言って、私はまだ彼女のこと信頼してないもの。ただ、もしかしたら彼女が今回の騒動のカギになる可能性も否定しきれないけれど……」


 そこまで言ったあと、ノノンは深くため息をついて天井近くまで上昇する。


「さて、小難しい話はおしまい。早くマーガレットを探しましょう」


 どうして、オリーブがカギになるのか。誠斗としてはそう聞きたいところであったが、今はあまり時間を無駄にするわけにはいかない。

 誠斗は口から出かかっている質問をしっかりと飲み込んでから再び前へと足を進め始めた。

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