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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
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百五十四駅目 地下迷宮の中心へ(後編)

「ここが地下迷宮の中心……大きいわね」


 広大な地下迷宮に存在している中央広場。

 誠斗達が出てきたのはちょうどそこが見渡せるような場所だ。


 他に誰もいないにも関わらず、魔法灯で煌々と照らされたその空間は広い床に髪をとかす櫛のようにいくつもの溝が入っているという不思議な作りになっていた。

 見渡す限り、その空間につながる通路はいくつか存在しているうえに溝の先はこれまで通ってきた通路よりも一回りも二回りも大きい口を開けており、それら全体がどこか異様な雰囲気を醸し出している。


「なんだこれ……これってまさか」


 その異様な風景をしばらく見ていると、誠斗はある可能性に行き当たった。

 その地下空間の構造は、誠斗の記憶の海の中、まだ日本にいた頃、かつて真美とともに訪れたある場所にそっくりだった。


「……頭端式ホーム」


 ポツリ。とかつて日本にいたころ、真美が語っていた単語が口から漏れる。


「トウタンシキホーム? なにそれ?」

「この場所だよ。日本で見たことがある。鉄道施設の一つで旅客が列車に乗り降りするための駅の一種だよ。なんでこんなところに……」

「なんでもなにも、マミ・シャルロッテがーそのトータンシキホームという形になるようにー作ったっていうことなのでしょうねーまーあー私はーテツドーとやらのー正体を知らないので、なんとも言えませんけれどねー」


 オリーブがジト目で誠斗の姿を見る。


「えっと……それについてはまた説明するとして……とりあえず、食料とかを置く場所を決めようか」

「……説明はなしですかーまぁこの事態ですしねー」


 鉄道のことをどう伝えるべきか。

 誠斗はそれを迷った結果、ひとまずこの場はごまかすという結論に至った。


 正直な話、この場で一から説明したところで理解してもらえるとは思えないし、そもそもオリーブが完全に味方であるとわかっていない以上、安易に日本の知識をさらけ出さない方がいいだろという判断があってのことだ。


「やっぱり真ん中がいいんじゃない?」

「たしかに分かりやすい方が良いかもね。でも、他の人が来る可能性もゼロじゃないだろうから、ちょっとは隠した方がいいかも……」


 とりあえず、オリーブが納得したのを良いことに、誠斗とノノンは具体的にどう捜索を進めていくかという話に入っていく。

 最初にノノンは広場の中央を提案するが、誠斗がそれを拒否する。


 確かにど真ん中に置いておくのはわかりやすいが、他者が絶対に入らないという保証がない以上は窃盗の危険性がぬぐえないからだ。

 そう考えたとき、誠斗が目を付けたのはホームに置いてある看板の影だ。


 おそらく、駅構内の案内看板だと思われるそれはすっかりと風化し、その役割をまったく果たせていないが、その看板と壁の間は何かを隠すにはうってつけの空間といえるだろう。


「そこの看板の裏とかはどう?」


 そこまで考えて、誠斗はノノンに提案をする。


「あぁなるほど。それはいいかもしれないわね……休憩する人はその前で待機といったところかしら?」

「そうですねーそれがーいいと思いますよー」


 看板の裏というのは思いのほか、あっさりと受け入れられ、ノノンとオリーブは次の段階へと話を持っていく。

 具体的には休憩をどこでするかだとか、捜索する順番をどうするかといったあたりだ。


 誠斗はその会話を横耳で聞きながらせっせと荷物をリュックから取り出して、看板の裏に並べていく。そして、そこまでしてからあることに気が付いた。


「……あれ? もしかして、リュックに入れて持ち歩けば何の問題もなかったんじゃ……」


 よくよく考えれば、この三人の中で食料や水の補給を必須とするのは誠斗のみである。


 ノノンは自然の権化である大妖精だし、オリーブに至ってはこの世の理を逆行するような形で召喚された死者だ。

 とすれば、この中で唯一食事を必須とする誠斗がずっと食料を持ち歩いていても何ら問題はないと言えるだろう。


 しかし、それを言い出してしまえばそれなりに時間をかけた作戦が無駄になってしまうためそれ以上は口には出さず、作業を再開する。


「マコトさーん。荷物は置けましたかー?」

「うん。置けたよ」

「わかりましたーそーれーでーはー探索の順番を決めるくじ引きをーすーるーのーでーこっち来てくださーい」


 オリーブがいる方を見れば、いつの間に用意したのか、三本の細い紙をもって、手招きをしている。

 誠斗がそちらへといくと、オリーブはその紙を握って誠斗の方へと差し出した。


「これでー紙の先がー赤くなっているのをー引いた人がー待機なのですよー」

「くじ引きってそういうことか……わかった」


 誠斗は差し出されている紙のうち一枚をつかむ。それに続いて、ノノンがその横の紙をつかんだ。


「そーれーでーはー私はー残り物に従うのですよーと、いーうーわーけーでー引いちゃってくださーい」


 その声を合図に誠斗とノノンは互いに手に取った紙を引っ張る。


「色がついてないのを引いたわ」


 真っ先にノノンが結果を伝える。


「ボクもだ。ということは、最初はボクとノノンが捜索っていうことだね」

「そういうことになるわね……」


 答えながらノノンはオリーブへいぶかし気な視線を向ける。

 おそらく、オリーブが意図的にこの状況を作り出して何かをしようとしているのではないかと疑っているのだろう。しかし、この作戦wの提案したのはノノンであり、この状況は十二分に想定で来ていたはずなので文句を口に出す気配はない。


「私のことは気にせずに行ってきてくださーい」


 しかし、当のオリーブはノノンのそんな態度など全く気にする様子はなく、のんびりと手を振って見送りをしようとしている。


「……まぁいいわ。結果に文句を言っても時間の無駄だし……行きましょうか」

「えっと……うん」


 不満そうな態度を見せながらもノノンは中央広場の外に向かう扉へ向けて歩き始める。

 誠斗もそれに続くような形で歩き始めた。


「……さてと……どこから探す?」

「まずは現状把握ね。無駄なく探索できるように地図を作りながら移動しましょう」


 そういいながらノノンはどこからともなく3枚の羊皮紙を取り出す。

 それぞれ1枚目には最初にいた地点から中央広場までの地図、2枚目には中央広場の地図が描かれていた。


 誠斗はその中から中央広場の地図を受け取る。


 そこにはいつの間に書いたのかわからないが、非情に精巧な地図が描かれており、誠斗は食い入るようにそれを見つめる。


「ねぇこれってどうやって書いたの?」

「魔法よ。魔法。こういう地図を作れる魔法もあるのよ。この世界には」

「魔法って割と何でもありなの?」

「今更それが来るのね……いやまぁ万能に見えていろいろと制約とかあるし、できることも限りがあるから……それに私たち妖精に比べてあなた達人間は魔法の能力は大きく劣るから、人間に妖精の真似事はできないわよ」


 さりげなく妖精が優位であるとアピールしながら軽い説明が終わる。


「なるほどね……まったく魔法が使えないボクからしたらうらやましい限りだけどね」

「そう? まぁ私たちにとって当たり前のことでもそう思えるというのはある意味うらやましいわ」


 そのあともノノンの魔法で地図を作りながら二人は地下空間の探索を進めていく。


 当初、もっと焦って走り回るぐらいのつもりでいたのだが、それでは見つかるモノも見つからない。


 あくまで冷静にあくまで着実に


 出来れば、三日間という時間の中ですべての場所を踏破するぐらいの勢いで行きたいが、一日目は地図を作りながら怪しい場所を探すという点に終始徹底する。


 誠斗とノノンはお互いを落ち着かせるという意味も込めて、他愛のない会話を交わしながら奥へ奥へと進んでいった。

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