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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十三章
189/324

百五十二駅目 ようこそ地下迷宮へ!

「……ここは……」


 誠斗が目を覚ますと、真っ先に視界に入ってきたのは薄暗い灯りの中にある石造りの天井だった。少なくとも、先程までいた部屋とは違う場所だという認識を持ちつつゆっくりと起き上がる。

 暗がりの中、起き上がって周囲を見回すと、ノノンやオリーブが倒れているのが視界に入る。


「ノノン、オリーブ!」


 二人の前を呼びながら誠斗は二人の元へと駆け寄る。


「……あと、五分ー」

「……えっ? ここどこ?」


 そんな誠斗の声で意識を覚醒させたらしい二人の反応はバラバラで、誠斗の目の前には状況を飲み込めず動揺するノノンと睡眠など必要ないはずなのにあと五分寝ていたいというのんきな要求をするオリーブの姿があった。


「いや、どこかと聞かれても……」

「あぁーここはーシャラブールの地下ですねーどうやらーバラバラで行動したのにーココット以外はーここに押し込められちゃったみたいですねー」


 わからない。そう言い切る前にオリーブが状況を簡潔に述べる。


「なるほどね……ついでに脱出方法が分かったりは?」

「……うーん。わからないわけじゃないんですけーれーどーそのあたりをー教えることがー術者からー禁止されちゃってますねー」


 ある種の懸念通り、オリーブからのアシストは期待できないらしい。そうなると、自力でここから脱出する必要が出てくる。とはいえ、現在地すらわかっていない現状では行動のしようがない。


「……あらあらぁ随分と困っているような表情を浮かべていますねー」


 誠斗たちの背後から声が響いたのはちょうどそんな時だ。

 オリーブと似たような声でありながら、微妙にトーンが違うその声の主は振り向いた誠斗たちの視界の先からゆっくりとその姿を現した。


「……カレン・シャララッテ」


 その姿を視界に収めた瞬間、ノノンがぽつりとその名前を漏らす。


 誠斗はその姿に見覚えがあった。いつかドラゴンの薬を買い求めてきた客だ。


 彼女は服に大きく描かれた黄金の片翼の羽を見せつけるようにしながらこちらへと歩いてくる。


「久しぶりですねーノノン。それと、マコトさんもー」

「カレン様。もう少しゆっくり歩いてくださいよー」

「ココット……なんで……」


 そんな彼女に続いて、次に姿を現したのはココットだ。

 そのことに対して、誠斗は少なからず驚きを隠せなかった。それはノノンやオリーブも同様らしく、彼女たちも目を見開いて丸くしている。


「なんでってそら、私はもともとこっちサイドですもの。改めまして、翼下準備委員会カノン様付代理のココットです。どうぞお見知りおきを」


 翼下準備委員会……その肩書が意味することとは明白だ。


「最初からこうするつもりだったっていうこと?」

「まぁ私は命令に従って動いていただけですから、そこは何とも……メルラ様に会ったときは正直ひやひやしましたけれどね」

「……ココット。余計なことはしゃべらなくてもいいのですよーそれよりもーちゃっちゃと仕事をしましょうかー」

「失礼しました」


 ココットの発言に誠斗は少なくない違和感を覚える。


 なぜ、このタイミングでそんな発言をするのか? まるで、十六翼評議会の中で対立があることをアピールしているようではないか。


「まったくーあなたの前任といいーあなた自身といいーほんとーにー余計なーことをーしてくれますねー」

「そうですか? 暗殺対象連れて逃げるよりはましかと思いますけど」

「前任のことは言わないでくださいねーそれとー名前だしたらこの場で始末するですよー」

「あー怖い怖い」


 そんな会話を交わしたのち、カレンは再び誠斗たちの方へと向き直る。


「さて、そんなわけでしてーアイリス・シャルロッテは私たちが始末しますのですよーまぁ逃げられちゃったんですけれどねーあーとーミル・マーガレットさんはーこの地下迷宮のどこかにいるのですよーあなたたたちにはーそれを探してもらいますのですよー見事ー三日間の間にー見つけだしたらーアイリス・シャルロッテを追っている部隊を帰還させると約束しますですよーまぁできればの話ですけれどねーあぁそうそう。この話はーちゃんとサフラン議長代理にも通告しているのですよー」


 誠斗は目の前に立つ相手の目的が全く分からなかった。

 サフランに通告しているということは、自らの上司である人物にその親族を暗殺するかもしれませんといっているわけだ。そんなことをすれば、カレンの立場が危うくなるとしか思えない。なぜ、そんなことをわざわざしたのだろうか?


「……訳がわからないわね……私たちをあなたたちの政争の駒にでもしているつもりなのかしら? そんなものに簡単に乗るとでも?」

「まぁどうせそんなところでしょうねーそうなるとー私たちは深く考えない方がいいかもしれないですねー」


 どうやら、ノノンとオリーブも似たようなことを考えているらしく、二人の意見は似たものだった、最も、前者と後者では今後の行動的なところでまったく違うものではあるのだが……


「おやおやぁ素直じゃないですねーあなたたちはーアイリス・シャルロッテとーミル・マーガレットの救出に来たのですよねーそーれーにーもう少し言えばーあなたたちはーサフラン・シャルロッテと共謀してー何かを企んでいますよねー? わーたーしーはーそれとー二人が何か関連があるとみているのですよーつーまーりーあなたたちに拒否をするという選択肢はない。ということなのですよー」


 彼女がいう共謀して企んでいることというのはおそらく、鉄道計画のことだろう。

 確かにこの計画に二人の力は少なからず必要だ。なので関連しているというのはある意味で間違っていないのだが、どうやら彼女は二人の力が必須だからこうして、やって来たのだと思っているようだ。ほぼ間違いなく、背景にサフランの依頼があるなどとは思っていないだろう。


 だが、どうにしてもこの状況は見過ごせない。


「……ノノン」

「わかってるわよ。探すっていうんでしょう?」

「うん」

「まぁあなたならそういうでしょうね……と、言うわけだから」


 言いながらノノンはカレンの方を見る。


「受けるわ。その挑戦。ただし、きっちりと見つけさせてもらうけれど」

「そうですかーせいぜい頑張ってくださいねー」


 ノノンの返答に対して、カレンは笑顔でひらひらと手を振る。おそらく、余裕綽々だとアピールしているのだろう。

 確かにこちらには土地勘がないし、そもそも地下空間がどれだけ広がっているのかも把握していない。しかし、だからといって絶対に見つけられないということはない。


「こちらの好意でー食料は三日分用意していますのでー安心して捜索してくださいねー今から一時間後にーベルがなりますのでそれからスタートですよーそれまでせいぜいこの部屋の中で作戦会議でもしていてくださーい。あーとー三日間の捜索期間中はアイリス・シャルロッテの殺害はしないと約束してあげるのですよー」


 いかにも余裕だから大丈夫です。というような振る舞いだ。

 その振る舞いに対して、誠斗やノノンは少なくとも不満を抱く。


「おやおやぁそれは面白そうですねー」


 ただ一人、オリーブだけは不満は抱いていない様子ではあるが……もともと、彼女は術者の命令でついてきているだけであり、本来はアイリスやマーガレットの救出とかかわりのない人間だからこそといえるだろう。


「そーれーでーはー皆さまごきげんよう」


 その言葉の直後、ボンという小さな爆発音とともに白い煙が出てオリーブとココットの姿を隠す。


「……消えた」


 しばらくしてその煙が晴れると、すでに二人の姿はそこにはなく、薄暗い地下迷宮の壁があるのみであった。

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