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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十二章
186/324

百五十駅目 シャラブールへの道中

 オリーブから翼下十六国の話を聞いた次の日。

 誠斗たち一行はシャラ領中心街シャラブールへ向けて出発。数日をかけて穏やかな丘陵地帯を順調に進んでいた。


「ねぇシャラブールまであとどのくらいなの?」

「……そうですねーあと、三日間といったところでしょうかー?」

「三日間か……まだかかるな……」


 比較的道が一直線だったシャルロ領やカルロ領とは違い、シャラ領内の街道は丘陵地帯の谷間を縫うように作られているため、直線距離に比べて街道の長さが全体的に長く、坂も少なくないためどうしても時間がかかってしまう。

 だからこそ、地図上で見た距離は大したことがなかったのに実際に移動してみるとかなり時間がかかるというのは当然といえば当然の結果であると言える。


「まぁこの地形だから、休憩が多くなっていることを考えるともう少しかかるかも知れないわね」


 そこへさらにノノンが追い打ちをかける。

 確かに丘陵地帯に入ってから休息をとる回数は着実に増えている。それを考えれば、三日間(距離から見た所要時間)が当てにならないことぐらい目に見えてわかる。


「まぁこのあたりは宿場町も少ないですからねー少し頑張らないと、夜までに到着できませんよー」

「あれ? もうそんな時間?」

「そうですねーちょっと、ペースが遅すぎるかなっていう感じですねー」

「確かに太陽が南の空を過ぎているわね。急がないと」


 オリーブの指摘とほぼ同時に太陽を確認したらしいノノンが背中から声をかける。


「それじゃ少しペースを上げるか」


 できるだけ野宿は避けたい。そんな思いから誠斗はそんな提案をする。


「そうですねーそれがいいと思いますよー」


 時間がないと言ったオリーブが真っ先に賛成の意を示し、続いて、ノノンとココットも賛成の声をあげる。

 それを確認した誠斗は少しペースをあげて、坂を上り始めた。




 *




 陽がすっかりと傾き、夜の闇がすぐ後ろまで迫っている中、誠斗たち一行はようやく宿場町にたどり着いた。

 町に到着すると、すぐに宿をとりそれぞれいつも通りの組み合わせで分かれて部屋に入る。


「……思ったよりも遠いわね……シャラブールって……」


 ベッドに寝転がるのとほぼ同時にノノンがつぶやく。


「……思ったよりって……もう少し近いと思っていたの?」

「ほら、シャルロの森にゲートがいくつかあったでしょう? 昔はあぁ言ったのが妖精国中にあったの。今は管理されてないから八割がた使い物にはならないけど……妖精国が健在だったころはいくつものゲートを経由して移動していたから現在のシャラブールの位置まで移動するにもそんなに時間がかからなくて便利だったんだけどね……」

「そうなんだ……」


 シャルロの森にあるゲートといえば、アイリスやマーガレットが不可能だと言っていた瞬間移動をある意味でできるようにする代物だ。ただ、それが人間にできるかといわれればまた別の問題になってくるのだろうが……

 そんな便利なものを使って移動していた人間(というよりも妖精)に一番時間がかかる徒歩での移動を提案し、実行しているわけだからある意味で当然の感想かも知れない。


「それはまぁでも、移動手段の違いというかなんというか……」


 誠斗が声をかける一方でノノンは寝返りを打って、仰向けになり、天井へと視線を送る。


「まぁそうよね。今まで妖精国内の移動なんて大して時間かからなかったもの……実際はこんなに広かったのね。私たちが治めていた場所って……」

「……というと?」

「これまでちゃんと知らなかったってこと。このあたりの丘陵地帯も眼鏡橋がかかっているあの大きな川のことも……いつもいつもゲートで移動していたから全く知らなかった……悔しいけれど、オリーブ(あいつ)の方がきっと、私たち妖精よりもずっと旧妖精国(このあたり)について詳しいわね……」


 言いながらノノンは小さくため息をつく。

 数日前、誠斗はオリーブから旧妖精国についていろいろと話を聞いていたのだが、それが少なからずノノンの心の中でしこりのようなものを残しているのかもしれない。


「ノノン。ノノンはオリーブの知らない旧妖精国のことだっていっぱい知っているはずだよ」

「……慰めているつもりなの?」

「そうじゃなくてさ。それぞれの人が持っている知識はそれぞれ違うってことが言いたいんだよ。それに、知らないなら学べばいい。ノノンにはボクたちと違って無限の時間があるんだから、なんだってできると思うよ」


 慰めという言葉を否定しつつも、実質的に慰めになってしまっている感は否めない。

 しかし、ノノンに対して伝えたい言葉は何とか伝えられたように感じた。


「……クスッあははっ」


 誠斗の言葉を仰向けのまま聞いていたノノンは笑い声を上げ始める。


「あはははっ! 伝わらないっていった瞬間にそうやって言い方を変えてくるなんて素直ね。本当に……それぐらいでいいのよ。いつもそれぐらいちゃんと言ってくれたらありがたいのに」

「言葉足らずで悪かったね」


 どうやら、ノノンを元気づけることには成功したらしい。

 ベッドの上で腹を抱えて笑っているノノンを見て、誠斗は内心ほっとする。


「まったく……そうね。せっかくだから、一通りことが片付いたら旅にでも出ようかしら。そして、オリーブ(あいつ)よりも知識を増やしてから帰る。まさしく完璧なプランね」


 ノノンはそういいながらベッドから起き上がり、窓際に移動する。


「だからまずは……」


 窓に手をついて、夜空を見上げながら言葉を紡ぐ。


「マーガレットとアイリスの救出ね。そうしないと、片付くことも片付かないわ」

「うん。そうだね」


 ノノンの言葉に返事をしながら誠斗もノノンの横に並んで空を見上げる。


 空にはきれいな円形をした満月とそれを加工用に光を放つ星々が自然のプラネタリウムを上演している。


「ノノン。マコト。夕食の時間だそうですよ」


 そのまま夜空を眺めていたいところだったが、ココットから声がかかったことでそれは中断される。


「だそうよ。星空の鑑賞もいいけれど、ちゃんと腹ごしらえもしないとね」

「そうだね」


 二人はその会話のあと、再び笑い声をあげ、ひとしきり笑い終わるとどちらともなく、立ち上がり食堂へと向かった。

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