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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十二章
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百四十七駅目 翼下十六国の話(前編)

 現在自分たちがいる大陸の中でも最も北に位置しているシャラ領はその立地の割には比較的温暖な気候だとされている。

 本来であれば、夏場に短い草が生える程度の気候でもおかしくないこの地域での現象については長年、学者の中で活発的に議論がなされている。ただ、どの学者も最終的には“妖精が自分たちの都合がいいように気候を改変するような魔法を使った”というところに落ち着くのだという。


 一見、突拍子もないような意見だが、そもそもこの現象が旧妖精国領内のみでの現象であることと、妖精の魔法というのはいまだに謎が多すぎるため、もしかするとその程度のことならできるかもしれない。という意見がまかり通ってしまうところに主因があるそうだ。


 さて、そんな大陸最北端の地へ足を踏み入れた誠斗たち一行はシャラカルロ旧街道と北大街道の連絡路を通り、シャラ領最初の宿場町へ向けて順調に歩みを進めていた。


「……なんというか、シャラ領に入ったとたんこれまでの道とは整備状況が全く違うわね……」


 リュックから顔を出して地面を見ていたらしいノノンがぽつりとつぶやいた。


 確かにここまでの北大街道はシャルロ領内もカルロ領内も基本的には土のままの道で石畳が敷かれしっかりと整備されているのはシャルロ領内各所の宿場町の周辺ぐらいだった。

 しかし、今のところシャルロ領内の道にはすべて石畳が敷かれていて、道の左右には魔法灯が等間隔で置かれている。


「まぁシャラ領はこういった整備に積極的でしたからねーそれが今も続いているっていうことなのですよー」

「なるほどね。シャラ領だとこういった街道の整備ってどのくらいしているの?」

「……そうですねー私がいたころと現在では違うでしょうけれどー計画上はーシャラ領全土の街道にー魔法灯の設置及び石畳のー整備が予定されていたのですよーそれこそー村と村を結ぶ小街道も対象のはずなのですよー」


 誠斗の質問にオリーブは得意げに答える。それだけ、この整備された街道が自慢なのだろう。


「整備された道というのは大切ですよね。道がデコボコしてたりしているところを馬車なんかで通ったら大変ですし」

「まぁそうですよねー」


 ココットの意見にもオリーブは笑顔で同調する。もしかしたら、彼女のねらいはそういったところにあったのかもしれない。

 実際問題、ただ歩くだけでも土の道に比べて安定しているし、雨が降ったときなんかは水と土が混じって泥だらけになる土の道よりも石畳の方が断然歩きやすい。欠点を上げるとすれば、柔らかい土に比べて硬い石畳では足を痛める可能性があるという点だろうか?


「……ねぇマコト。そろそろ日が暮れそうだけど宿場町はまだなの?」

「うーん。地図を見る限りそれほど遠くないんだけどね……」


 午後一番であの橋を渡り、北大街道に戻ってから数時間。

 地図を見る限りでは、陽が落ちきるまでには宿場町につくはずなのだが、今のところ宿場町が近づいているような様子は見られない。

 しかし、周囲にいる行商団や旅人が野宿の準備をしていないあたり、夜になってもたどり着かないということはないはずだ。


「でも、もうすぐ宿場町が近くにあるっていう看板ぐらいあってもおかしくないんじゃないの?」

「まぁそうかもしれないけれど、地図自体は新しいもののはずだし……看板が立てられていないだけじゃないの?」

「それだといいんだけどね……」


 背中からノノンのため息が聞こえる。


「……このまま歩き続けて夜になってしまったたらどうしましょうか……」


 いくら魔法灯で周りが明るいとはいえ、夜の移動は危険だし、夜になってから野宿の準備をするのも大変だ。もし、ここのあたりで野宿をするならそろそろ決断をして野宿に最適な場所を探し始めるぐらいのことはしなければならない。

 おそらく、ノノンが心配しているのはそのあたりだろう。


「でも、建物とかならともかく宿場町が突然なくなるなんてことあるわけないし……」


 大丈夫じゃない? そう言いかけた瞬間、ようやく誠斗の視線に宿場町の灯りらしきものが入ってきた。


「ようやく見えてきたね」


 これまで影も形もなかった宿場町を見つけたことから、思わず安堵の一言が漏れる。

 主に今夜もちゃんとベッドで寝れるという安堵だ。


 この旅を始めてから片手で数えられる程度の数とはいえ、野宿を経験しているのだが、どうにも屋外……それも平原やら森の中というのは寝づらくてしょうがない。それこそ、その数回だけでふかふかとまではいかなくても、相応に快適な睡眠を提供してくれるベッドは人間にとって必要不可欠なのだと最近感じるぐらいには寝づらかった。

 最も、もともと森の中の木の上を寝床にしているノノンやすでに死んでいるため睡眠の必要がないオリーブ、当人曰くこういった生活には慣れているというココットからすれば、別に野宿でも宿で宿泊しても睡眠の質は大して変わらないとのことだが……

 こういったのは生まれた世界の差というのは少なからずあるのかもしれない……


「それにしても、道はこんなに整備されているのに案内板はないのね」

「意外と見落としただけかもよ。それか、何かしらの理由で壊れて修理中だったとか」


 これまで通ったシャルロ領内、カルロ領内共に中心街はもちろん、小さな村に至るまで必ずといって良いほど、そこに至る手前に案内看板が立っていた。

 しかし、この町だけそれが見当たらないというのは少々考えづらい。


「あーそういえばーシャラ領では案内看板の設置は義務ではないのですよー」

「えっ?」

「いやいやぁあんまり知られていないのでーすーけーどー街道のー整備と同様でーこういった宿場町関連の設備に関しても、各領主の責任のもと管理されているのですよーなのでー領主が変わればー常識も変わるぐらいのイメージを持っておいた方がいいのですよー」


 言われてみれば、そうかもしれない。街道の状況がこれだけ違うのだから、こういったことに関する整備は各領の領主の手腕にゆだねられていると言われれても不思議ではないが、こういったことは国がある程度統一の基準を持つべきではないのだろうか?


「あーもしかして、こういったことは国がやるべきとか思っているでしょうけれど、それは無駄なのですよー」


 そういった疑問はよくあるのか、誠斗の思考を読んでいるのではないかと疑りたくなるぐらいのタイミングでオリーブが口を挟む。


「というと?」


 そのあたりの洞察力というか、観察眼についていろいろと聞いてみたいという感情はあるものの、どちらかといえばオリーブの言葉の真意の方が重要だと考え、いったんその言葉を飲み込む。


「統一国というもともとの名称は伊達ではないということなのですよー確かに街道の整備をはじめとした公共関連の設備に関しては国が管理するというのがかつては一般的でしたしー統一国から独立した小さな国々もーそうやっているところが多いのですよーでーもーあまりに広大な領土を持つ帝国はーそれが不可能ですのでー各領主がーそーれーぞーれーかーなーりーのー権限を持っているのですよーもちろんー国が一元管理してるものもありますしーその権力はー地域ごとにある程度の差はありますけれどねー例えばー翼下十六国(よくかじゅうろくこく)と呼ばれているーこのあたり一帯はー独立国に近い権力を与えられているのですよー」

「翼下十六国って?」

「翼下十六国というのはですねー旧妖精国地域を示すー地域名ですねー統一国は旧妖精国を16の領と州に分割してーそこにー翼下十六国という名称を与えたのですよー最もー今はメロ州が独立してー新メロ王国となっているのでー十五の領ですけれどねー。まぁそういうわけなーのーでー“シャルロ領”“カルロ領”“シャラ領”“トリル領”“ラト領”“ララ領”“メラク領”“リゲル領”“ミザール領”“べリル領”“アリゼ領”“アトリア領”“ピケ領”“プレスト領”“トゥア領”をひとくくりにした地域を指す言葉なのですよー」

「なるほどねー」


 十六の領土に分割できるということは旧妖精国は相当広大な面積を誇っていたのだろう。


「ねぇその翼下十六国に属している領って何かほかに特徴があったりするの?」


 それだけの面積を誇るのなら、鉄道網の構築は翼下十六国の中の主要都市を目指すようなものを目指してもいいかもしれない。

 そんな思いから誠斗はオリーブに質問をぶつけた。


「おやおやぁ興味が出てきたのですかー? そーれーでしたらー宿についてからゆっくりと話しましょうかー」


 オリーブはとても嬉しそうに笑みを浮かべなら、少し駆け足気味に宿場町の方へ向けて進んでいく。


「あっちょっと待ってよ」


 その行動を予測しきれなかった誠斗とココットはそんな彼女の背中を追いかけるような形で走り始めた。

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