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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十一章
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百四十五駅目 カルロからシャラへ(後編)

 カルロ領中心街カルロフォレストとシャラ領中心街シャラブールを結ぶ街道というのはいくつか整備されているそうだ。

 中でも今通っているシャラカルロ旧街道はかつての北大街道であり、現在は人があまり通らない旧道であると手元の資料には記されているが、それ以上に何かが書かれているということはない。おそらく、この旅の中で通ることはないだろうと判断されて省かれたのだろう。


「それにしても、旧街道っていうぐらいだからそれなりに古い道だっていう気はしてたけど……これは予想以上ね」

「予想以上も何も誰も使わなくなったから旧街道なんでしょ? これぐらいはあってもおかしくはないと思うけれど」

「いやいやマコト。いくらなんでもひどすぎると思わない? 旧道っていうレベルじゃない気がするけれど」


 確かにこの獣道のような場所を“街道”と呼ぶには少々心もとない。しかし、誰も使わない様な道を誰も整備しないだろうし、人が通らなければ道が草木で覆われてしまうというのも不自然ではない。そう考えると、旧街道という言葉がしっくりくるとその程度で考えているのだが、どうもノノンは納得できないようだ。


「いやだってほら、いくら古くても街道ってそれぞれの領主の命令の元整備されるものだし……」

「そうはいっても、全部が全部手が届くっていうこともないでしょ? 整備する人間の数も限られているだろうし。それに街道だったら、よほどのことがない限りは通る人の自己責任なんじゃないの?」

「……言われればそんな気もしなくはないけど……」


 しかし、口ではそうは言いながらも、仮にも街道とつくのだったら少しぐらいは整備していてほしかったという本音があるのもまた事実だ。

 そう考えている間にも徐々に周りの草木がより街道に迫ってきており、進めば進むほど街道を見失いそうになるというある意味最悪な状況になりつつある。


「それにしてもー他に商人やら旅人は見当たりませんねー皆さん、意外と事前に情報をキャッチしててー別ルートを通っているのかもしれませんねー」

「あぁなるほど。確かにその可能性はあるかも」

「まぁ普通はーそうしますもんねー」


 グサリとオリーブの言葉が刺さる。

 彼女のいう通り、目的地があって街道を進んでいる以上、その先に何か起こっているかどうか調べるというのは普通のことであり、事前に対策を練るというのは特段おかしな話ではない。実際問題、これまでに通った宿場町でそうったい情報を集めいようと行動すれば、もっと手前でこの情報を聞けていた可能性がある。


 小さな村と村をつなぐ小さな道ならともかく、それぞれの領土の要である中心街同士を結ぶ道ならば、大きな道が一本だけというのはさすがにないだろうから、もっと手前にいい道があった可能性は十二分に考えられる。

 そうなると、この道に人が通った形跡がほとんどないのも納得できる。納得は出来るのだが……


「いや、それを勘案したとしてもやっぱりひどい気がしてきた」

「まぁこれ以上文句を言い続けたところで状況はかわらないんだから、考えても仕方ないんじゃない?」


 ノノンが言うようにおかしいかもしれないと主張してみたら、ばっさりとそのノノンに否定されてしまった。一体全体彼女の真意はどこにあるのだろうか?


「……さーてー文句をいうのもいいですがーそろそろ問題の川を渡る橋に到達するのですよー」

「川を渡るって……結構早くつくもんなんだね」

「まーもともとのメインルートですからねー今の道とーそんなに場所は変わらないのですよー」


 そんな会話をしているうちに急激に視界が開ける。

 どうやら、けもの道のような部分を抜け、普通に人が行き来をするような道と合流できたらしい。


 その証拠に周りにはシャラもしくはシャルロ方面へと向かっている途中だと思われる人々が行き来している様子がうかがえる。


「……やっぱり、先に迂回している人たちがちゃんといたみたいね」

「まぁそうだろうね」


 ある種の予想通りでも言うべきだろうか。

 誠斗は目の前の風景を見て、いくら急いでいたとはいえ、ちゃんと情報収集をせずに進んでいた自分を呪いたくなった。とはいえ、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


 誠斗は大通りの方へと一歩踏み出し、そのまま橋の方へと向かう。


「それにしても驚きましたねーこんなに迂回する人がいるほどー橋の崩壊の情報が出ていたのですねー」


 しかし、ここにきてあえて口にしていなかったことをオリーブが言い出したものだから誠斗の歩みは再び止まってしまった。


「あの……マコト。私は気にしてないからね? 大丈夫。こんな時だってあるからさ。ね?」


 そんな誠斗を見て、すかさずリュックの中からフォローが入るが、誠斗はその場で膝をつく。


「ちょっと、オリーブ。この調子だと進まないじゃないですか」


 ここにきて、長い間空気と化していたココットが口を開いた。


「……まぁそれもそうなんですけれどねー」

「だったら先を急ぎましょう。これ以上、立ち止まっている場合じゃないのでしょう?」

「うん。まぁそうだね……」


 ココットの言葉で再び誠斗は立ち上がる。

 確かに落ち込んで立ち止まっている場合ではないというのは正しい意見だ。


 とりあえず、橋を渡らないことにはシャラ領へは入れない。失敗は失敗として今後に生かすべきだろう。


「それにしても、よりにもよって北大街道の橋が落ちるとは……どんな管理をしているのかしら」

「……まぁこれからわたる川はー流れが荒くて、氾濫が多いことで有名ですからねー」

「そうなの?」

「はいはいーまぁーそのせいでこのあたりは人口が少なかったりするのですよー」


 オリーブがいうことが本当なら、この場所のことはしっかりと考慮しておかないといけないだろう。

 マーガレットたちを救出した帰りのルートという喫緊の課題はもちろんのこと、鉄道を通すうえでも地形やその土地独特の事情というのはルート選定の上で重要になってくる。

 その点、シャラ領に関しては間違いなく詳しいであろうオリーブの意見というのはある意味で貴重なものだ。難点を上げるとすれば、彼女の素性を考慮したときに情報が古い可能性を考えいないといけない点だろうか? ただ、地形的なことに関しては大規模な災害があっただとか、何かしらの改良工事を行っただとかという点が主だったところだろうから、最悪の事態を想定するという意味では貴重な情報だ。


「そういう話になると、やっぱり治水対策とかはしてるの?」

「あーそうですねー少なくともー私はいくつか計画しましたよーそのうちいくつが出来上がっているのか把握はできてませんけれどねー」


 オリーブから帰ってきたのはある種の期待通りともいえる答えだ。

 水があふれるなら治水対策をする。やり方はいろいろあるのかもしれないが、それはどの世界でも同じなのかもしれない。当然だ。ひとたび災害が起これば、そこにある人々の生活に壊滅的なダメージを与える。そのリスクはできる限り避けるべきだし、被害はなるべく軽減しなければならない。


 そんな会話をしていると、川沿いを少し進んだところに石造りの橋が見えてくる。

 レンガを積み上げて作られたと思われるその橋は対岸に向けてきれいにアーチ状になるよう作られている。いわゆる“眼鏡橋”と言う奴だろう。

 そんな橋の形状はともかく、誠斗が驚いたのはその大きさだ。その独特のアーチは見たところ川幅10キロはあろうかという川を一気にまたいでいるのだ。吊り橋ならともかく、眼鏡橋でこれほどのものを作れるとは驚きだ。


 ただ、問題点を上げるとすれば橋自体の幅が非常に狭いという点だろうか? ここまで通ってきた北大街道の橋は馬車が余裕ですれ違えるだけの幅があったのに対し、この橋は馬車一台がぎりぎり通れるぐらいの幅しかない。おそらく、この形で川を越えることで精一杯なのだろう。


「これはまたすごい橋ね……途中に柱を立てて幅を広く使用っていう発想はなかったのかしら……」

「……いえいえ、別に何の考えもなしにこうなったわけではないのですよーただ単純にー途中に柱を立てたら流されちゃいますしーそもそも流れが速いので作業自体が危険を伴うのですよーだからーこういう形にしたのですよー」


 かつての主要路といいながらも幅があまりに狭い橋を見て眉をひそめるノノンにオリーブが至極もっともな理由をつけて解説をする。


「なるほどね……まぁいいわ。早くわたりましょう」


 その説明で納得したのかは知らないが、ノノンはそれ以上何も言うことなく橋の方へ向かうように促す。


 それにこたえるような形で誠斗たちは橋のたもとへ向けて歩き出した。

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