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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二十一章
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百四十四駅目 カルロからシャラへ(前編)

 カルロフォレストを発ってから約三日。

 誠斗たち一行は特に大きなトラブルに見舞われるということもなく、順調にシャラへと向かっていた。


「それにしても、急に何も起きなくなると途端に単調になるわね」


 そんなさなか、ノノンがぽつりとそんな一言を漏らす。


「いやいや、何もない方がいいでしょ。せめて、二人を救出するまでは」

「いやまぁそれはわかるけれど……なんというか、ここまで何もないと逆に張り合いがないというかなんというか……」

「なにもない方がいいのですよーほーらーこの前の出発前のゴタゴタでもーいろいろあったじゃないですかー」

「まぁそうだけど……結局あれは何だったのかしら?」

「まぁ気にしなくてもいいんじゃないですかー?」


 ノノンとオリーブの会話を聞きながら、誠斗は視線を少し上に向ける。


「ちょっと止まってくださーい!」


 そんな声が聞こえてきたのはちょうどそんな時だった。


 声がした方を振り向くと、一人の少女が髪を乱しながらこちらに走ってきているのが見えた。


「はぁ。どうやら何か起きたみたいだよ。ノノン」

「えっあぁうん。なにか起きたみたいね」


 あまりに必死なその様子に誠斗たちはその場で立ち止まって少女が自分たちのところまで到着するのを待つ。

 こちらへ走ってくる少女は薄緑色の髪を肩ぐらいまで延ばし、肌は少し日焼けしているように見える茶褐色、瞳は紙と同様に薄緑だ。服装は白いリボンのついた麦わら帽子に真っ白なワンピースという明らかに森林には似合わない服装の上、どういうわけか走りづらいらしく、必死な割にはなかなか自分たちのところまで到達する気配がない。


 ただ、ちゃんと立ち止まったのに遅いからと言っていってしまうのはどうかという話になってしまいかねないため、誠斗たちはおとなしく彼女の到着を待ち続ける。


「はぁはぁお待たせしました……」


 結果的に彼女の姿が見えてから約五分が経過したころになって、ようやく少女は誠斗の目の前に到着した。


「えっと……疲れているところ悪いけれど、ボクたちをとどめた理由って聞いてもいい?」

「えっあぁはいすいません……あの、これ旅人の皆さまに伝えていることなんですけれど……この先にある橋が昨日崩落しまして……えっと、要は通行止めですので迂回してくださいといったところなんですけれど……その、案内をしようと思いまして……」

「えっあぁそういうこと……」


 周りを見渡す限り、森しかないのだが、だからといって川がないなどということはないだろう。原因こそ、彼女は語っていないが、丁寧に橋の崩落を知らせてくれたのなら細かいことまで気にする必要はない。


「橋の崩落ね……それなら迂回するしかないわね」


 そのことに関してはノノンも同意見らしく、リュックから顔を出して地図を少女の方へ差し出す。


「……えっと、あなたも他の人の誘導があるだろうから、この地図に書き込んでもらってもいい?」

「あぁはい。ご丁寧にありがとうございます……それにしても、リュックの中に入って旅とはなかなか興味深いですね」

「えっあぁもしかして、この良さがわかる人なの? これね。結構楽だし、後ろからの危険を察知することもできるから何かと便利なのよ」

「へーそうなんですか。いいかもしれませんね」


 ノノンから地図を受け取った少女は興味津々といった様子でノノンと会話をしながら、地図に線を書き込んでいく。


「はい。それでは快適で安全な旅を心がけてくださいね。それでは失礼します」


 慣れた手つきで地図への書き込みを終えた少女はそのまま背を向けて走り去っていく。ただし、その速度は誠斗たちが歩いて追いつける程度ではあるのだが……


「さてと……この先のう回路は……」


 そんな背中を見送りながらも、誠斗たちは手元の地図に視線を落とす。

 地図に記された線と添え書きによれば、ここから少し先に進んだところにある分かれ道に入れば、崩落している橋の上流にかけられている橋を渡ることができるといったようだ。


 この場所なら先にある分岐点で声をかければ良いのにと思ってしまうのだが、彼女には彼女なりの理由があるのだろう。


「……なるほど。シャラ・カルロ橋ですかーたしかにこの街道が通れないのなら、う回路としては最適でしょうねーう回路としてはーですけれど」

「……なんか引っかかるような言い方ね。何かあるの?」

「そうですねー単純に言えばー整備具合とその他周辺の状況を考えるとですねーあまり大きな通りとして使うのはー向いていない場所なのですよーまぁ橋だけならー大丈夫だと思いますけれどねー」


 地図を見たオリーブがどこか意味ありげなことをつぶやくが、地図を見る限りはそこに記されている橋以外に通れそうな場所はない。


「……ねぇこの橋の周辺の街道の整備状況とその他周辺の状況って具体的にどんな風になっているの?」

「具体的にですかーまぁ情報が多少古いですけれどねーあのあたりはーもともと道が狭くてーがけ崩れ等々が発生しやすい危険個所が多いのですよーなのでー北大街道ができてからはほとんど使われていないはずですよーまぁそれがどこまで正確かと聞かれるとーちょっと、保証はしきれないですけれどねー」

「保証できないって……まぁそういう状況なら気を付けた方がよさそうだね……とまぁいつまでもここにいても仕方ないし、先に進もうか」


 改めて地図を確認した後、誠斗はリュックを背負いなおして歩き始める。


 そこからは再び他愛のない話をしながら、一行は街道を北へ北へと進んで行く。


 そうして、十分ほど進んでいくと、地図に記されていた分岐路が見えてきた。


「……これはなんというかすぐに見落としそうなう回路ね」


 再びリュックから顔を出したノノンがつぶやく。

 確かに道のわきにあるけもの道のようなところに「う回路」と書かれた小さな立て札が置いてあるだけの道は普通に歩いていたら確実に見落とすといっても過言ではないだろう。

 そうなると、なおさら彼女はここに立って居るべきだと思うのだが、そのあたりはどう考えていたのだろうか?


「あーらーやっぱり、シャラカルロ旧街道ですねーある意味でー予想通りなのですよー」

「シャラカルロ旧街道ね……いかにも古そうな……」

「そうですよーもともとはこちらがメインだったんですけれどねーもう少し西に行ったところに一応新シャラカルロ新街道っていうもあったりするのですよーまぁ北大街道と比較すると小さな街道ですけれどねーさーてーそれじゃあ行きましょうかー」


 素直にう回路を発見できたことを喜びつつ誠斗たちは北大街道から外れてう回路に入っていく。


 結構、長い間人が通っていないのか、茂みの中にある細い道をたどるのは大変だが、とりあえず迷子になるということはなさそうだ。


「……それにしても何か妙ね」


 ここにきて、背中のノノンがそんなことをつぶやく。


「……妙って何が?」

「いや、なんて言うか……北大街道のう回路っていう割には人が通った形跡が少なすぎるというかなんというか……本当にこの道しかないなら、馬車の跡とかもありそうなものなのに……」

「確かにこんな風に獣道にみたいになっているっていうのはなんか不自然かもね。わざわざ案内や立て札が出ているぐらいだから、端の崩落がついさっきっていうわけではないだろうし」

「でしょ? いくらあんなにわかりにくい入口でも全員が全員見落とすなんて考えづらいし……」

「まぁでもここから戻って、本当に橋が崩落していたら時間の無駄だし、もしもの時のために立て札は立ててあったとも考えられるから完全に怪しいっていうことはないんじゃないかな?」

「……そういうことだった別に問題なんだけど……」


 ノノンは一応納得したような態度をとりつつも、何かが引っかかるのか背中で小さく唸り声をあげる。


 そんな彼女の声を聴きながら、誠斗はう回路を進んでいった。

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